さよならアルネ   2002-2009 and beyond... Arne
Arne30-表紙
第4回 無限のおままごと。
糸井 どっかからやっぱり勉強家になったり、
仕事をもっとうまくやろうと思って、
上に立とうとか思うと、
なんか勉強しちゃうんですよ、やっぱりね。
大橋 そうですか。私は勉強家じゃなかったです。
糸井 ぼくもなんですよ。
勉強になりそうな時、気をつけるんですね。
大橋 そうですか、わかるんですか、自分で。
糸井 ぼくはぼくで、やっぱり男って、
やっぱりその‥‥離陸したがるんですよ。
地上でずーっと同じとこに停まってるよりは、
飛んでっちゃいたいところがあって、
人がどう思おうが、
もっとおもしろいところに
突っ込んでっちゃった、
みたいなことが好きだったりするんですね。
大橋 えー、そうなんだ。
糸井 そうすると、
先に飛んでる人が見えるんですよ。
離陸してるけど、
ちっとも楽しそうじゃないっていう人とか、
あるいは、そんなところで
競い合ってても誰もうらやましくないぞ、
っていう世界があるんですね。
よく例でぼく話すんですけど、
オーディオマニアの人のところを
訪ねていったことがあって。
部屋中に、自分が音楽を聴くための
オーディオ装置があって、
いろいろ説明してくれるんですよ。
よくわかんないんですけど、
押入れの中にはこういう布団を入れてとか、
いろんなことをして、
部屋中を音楽を聴くための
いちばんいい環境にしてるんです。
でもよく聞いてみると、
音楽はどうでもいいんですね。
装置がいいんですよ。
つまり、この部屋で聴く音が
いちばんいいんだっていうことが、
もう離陸しちゃった人たちの発想なんですよ。
だからレコードもあんまり持ってないんですよ。
その人が
「音を吸収するようなものを
 置きたくないんでこうしてます」
みたいなことをおっしゃったんで、
「ていうことは、聴いてる自分も
 いないほうがいいんですか」
って訊いたんですよ。
本気で訊いたんですよ。
そうしたら、「もちろんです」って!
大橋 えーっ、そうなんですか!
糸井 見事でしたね、
男の幸せってちょっとそういうところがあって、
「もともとなんだっけ?」がなくなっちゃう。
で、自分でもそれはね。
大橋 あります? 少しは。
糸井 いちばん少ない人間だと思うんですが、
夜、ひとりで何かやってる時は
そういう世界に入ることがあります。
ジャムおじさんになっちゃったらもう。
もともとは、あんなに頑張る必要は
なかったと思うんです。
食べる程度に作ればいいんですから。
今ショウガおじさんですけど。
大橋 ええ、ショウガおじさん‥‥ふふふ。
糸井 2キロ近くのショウガを、
刻む必要、ないじゃないですか。
だけど、あげるあてもないのに
2キロ刻んでる自分って、
もうすでに「喜ぶ人」じゃないんですよね。
そういうふうに
「あっ、もう違うところに行っちゃったな」
っていうのを自分で気をつけるんです。
で、「ショウガの効用」みたいな本も
手に入れるんですけど、
そういうの読んでると、要らないって思うんです。
「あ、引き返さなきゃな」って思うことで、
ぼくは大勢の人と一緒に遊ぶっていう広場から
離れないようにしてるんですね。
大橋さんが、ずっと受け手の側で、
前衛にも行かなかったし、
「あの人の絵って最近わかんない」
って言われなかった理由は、
やっぱり「私、好きだったから」っていう。
大橋 そうですね。
おままごと。
すごく本当にそう思いますね。
糸井 一生、おままごと。
大橋 そうですよね。
糸井 ちっちゃい時もそうだったんですか。
大橋 ちいさいとき、けっこう好きだったんです。
糸井 ひとり遊びで? 
大橋 うん、そうですね。
今でもやっぱり、
みんなとどこかにっていうのは
苦手なタイプですね。遊ぶときも。
絵も、白いこの紙の中で
ひとりでやる作業ですから。
糸井 そうですね。
大橋 あの大きなモニュモニュを考える時も、
誰かに相談もしないし、
勉強もしないんです。
きっとここからピンクのものが出てくると
いいだろうというところで、
じゃあ、いっぱい要るねと。
で、作っても作っても
いっぱいにならないので、
こちらの学芸員さんからボランティアの方に
お願いしてもらって作ったんですけれども。
糸井 ひとりじゃできないタイプのことを、
最初にひとりで考えたんですね。
そこへ、いわば、部屋に入った時に
驚いている自分っていうか、
喜んでる自分が主人公ですよね。
大橋 そうです。これでいいかな、みたいな、
これで満足みたいなところは
ずっとひとりですから。
糸井 できあがった場所に原点があるんですよね。
作り始めた場所にあなたがいるんじゃなくて、
できあがった場所にあなたがいるんですね。
大橋 そうかぁ。そうですよね。
糸井 そうなんです。そこが、
そのおままごとたる所以というか、
受け手たる所以というか。
とても助かるのは、
できあがりを想像できて始まってるんですよ。
大橋 そうかしらね。
糸井 「うわぁ、こんなのあったらいいだろうな」
から始まってる。
大橋 そうです、そうです。
糸井 それは強いですよね。
大橋 いや、よくわかんないんですけど。
糸井 きっとやってるうちに、
どうなっちゃうかわかんない、
っていう面がまた出てきて。
大橋 そうです。その時に、
「あ、同じだぞ」みたいなので
修正をするんですけど。
糸井 でしょうね、で、最初に想像してた
できあがりのイメージの自分と
会話が始まるわけですよね。
大橋 そうですね。
糸井 で、それはイヤだとか、
私はもっとこうしたいんだって、
それはどうだろうって、
そういう自問自答があって、
「これでどうだ」になるわけですよ。
うわぁ、もうその創作の現場に
いるような気がする。
大橋 そうですか。でも、おままごとですから。
糸井 そうですね。ひとりできっと
「お父さん、ごはんができましたよ」ですよね。
大橋 そうです、ひとりでぜんぶ。
「はい、こっちに行って、お父さん、こうして」
みたいな。
糸井 最後にジャッジするのは受け手の自分なんですね。
大橋 そうですね。
糸井 いやぁ、おままごとっていうキーワードで、
今日のぼくの仕事の7割が終ったような。
大橋 いや、ホント、私すごくすっきりしました。
糸井 千代紙って思ったんですよ。
千代紙、お手玉、おはじき。
それがぜんぶキャンバスになって、
画材があって、
これは無限のおままごとの道具だよっていう。

(つづきます)

2009-12-18-FRI


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