木と真鍮の、静かな美しさ。

工場を訪ねました。

しぐさミラー(後編)

群馬県高崎市。

高崎駅から車で20分ほど走ったところにある
鳴沢湖畔に、ブナ材の加工を手がける工房があります。



シンクーのデビューコレクションのひとつ、
SHIGUSA MIRROR(しぐさミラー)の
パーツを作ってくださる、
職人の吉澤さんの工房です。

吉澤さんは、現在では珍しい手轆轤(ろくろ)で
木材を加工できる、数少ない職人さん。

しぐさミラーの台座は、
お気に入りの小物を置いてもらいたい場所。

国産のブナ材をまず正方形(左上)に切り出し、
次は八角形、そして右下の円形へ、
最終的な完成形が左下です。



毎日触れる場所ですから、深すぎても、浅すぎても、
大きすぎても、小さすぎても、しっくりこない。

カーブや、縁の立ち上がりの高さなど、
何度も試作を重ねました。

最終的には吉澤さんがご自分の手で触れ、
0コンマ数ミリの細かな調整を加えていきます。

大量生産ではなかなか叶わない、
なめらかで、味わいのあるカーブが特長です。



鏡と台座をつなぐ支柱にも、工夫があります。

この細さで、この長さ。

しかも、昇降機能をもたせるために、
中には真鍮の管が通してあります。



その工程は容易ではなくて、
木の両端から注意深く削りはじめ、
ちょうど真ん中で寸分の狂いなく、
穴がつながるようにしなくてはなりません。

その技術も、吉澤さんならではのものです。

空洞になったブナに、吉澤さんが手作業で、
丁寧にやすりをかけていきます。

やすりを選んで、かけて、触れて。

違う目のやすりに取り替えて、チェックして。

何度も繰り返します。

ブナの表情豊かな色合いには、
ワインピングと呼ばれる手法を使っているそう。



「塗料を塗ったら、いちど拭き取ってしまいます。

導管(木が水分を吸う管)のあるところは、
塗料をたくさん吸い込みますし、
それ以外のところは薄く着色するといったように、
木の個性によって異なる色合いが生まれるんです。」 と吉澤さん。



ですから、ウェブサイトで見た写真と、
少し表情が違うものが届くかもしれません。

それもふくめて、物との出合いとして、
親しんでいただけるとうれしいです。



むき出しの木材のままにしないのは、
見た目を美しく仕上げることはもちろん、
木材の強度を保つため。

工程のひとつひとつに、しぐさミラーを強く、
端正に仕上げるアイデアがあります。



続いて、各方面から集まったパーツを組み立て、
しぐさミラーを完成させる工場へ向かいました。



お父さまが立ち上げられた工場を、
お兄さまとふたりで切り盛りする桜井さんです。

お会いしてすぐに、こう聞いてみました。

「無理な注文をたくさんするなあと、
思われたでしょう(笑)?」



(桜井さん)

「いやぁ、それは…(笑)。

私たちは技術者でもありますから、
どうしても、機能や構造という面に着目して、
商品を開発していきます。

でも、この鏡は、機能的であることと、
美しいデザインの両方を大切にされていて。

そのぶん課題も多かったですが、
とてもおもしろい取り組みでした。」



たとえば、
昇降できる機能だけに注力すれば、
大きなねじやハンドルのようなものを
付ければ、解決してしまいます。

しかし、シンクーでは、
全体のデザインと調和したシックな留め金をと、
リクエストを重ねました。

少しの力で動かせますから、
その仕草をふくめ、エレガントだと思います。



そして、機能とデザインを兼ね備えた立ち姿を、
より一層際立たせているのが、
真鍮とブナ材の組み合わせです。



真鍮はデリケートな金属で、
無垢ゆえ、素材そのものの輝きが楽しめます。

だからこそ、輸送中や加工中に、
傷や汚れがつきやすいという弱点もあります。



その真鍮を保護するために、この工場では、
専用のベッドのような作業板を
特別に作ってくださいました。

真鍮をこのうえに寝かせて作業が進められます。

お客様のもとへ届くときはピカピカの姿で。

そのあとは、表情の経年変化を楽しんでいただく。

これも、あきらめたくなかったことの一つです。

いろいろな場所で撮影をし、
手前味噌ながら感じたことですが、
どこから撮っても絵になる鏡、です。



それは、支柱やフレームに使われている真鍮が、
周囲の光を取り込んで、
静かに輝いているからかもしれません。

できあがったしぐさミラーは、
シンクーのブランドステッカーを
ピシッと貼られて、いざ出荷を待ちます。

高崎といえば、高崎だるま。

こちらは新幹線の待ち時間に購入。

吉日を選んで、片目を入れてみました。

きれいでごきげんでいたいという願いをこめて、
にっこりスマイル。

だるまのまつげはフサフサです。

(続きます)

2021-02-18-THU

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