指を超える仕上がりの
ゆびブラシ、の理由。
ゆびブラシセット
シンクーのデビューコレクション、ふたつめは、
指を模した化粧筆、その名も「ゆびブラシ」です。
メーキャップアーティストとして、
第一線で仕事をしてきた岡田いずみさんの
アイデアから生まれたブラシを、
大(ダブル)、中(マルチ)、小(ピンキー)の
3本セットでご用意しました。
それぞれ、中指、薬指、小指のサイズ感を
再現しています。
まず目を引くのは、
指の腹の角度を模した斜めのライン。
そして、金具を絞ることで生まれた、
しずく型のフォルムです。
肌に触れる角度や面積を、
いちばん使い慣れた「道具」である指に近づけつつ、
感触、衛生面、そして仕上がりに関しては、
指を超えるクオリティになっています。
3本あれば、広い面も、細かい点も、
パウダーにもリキッドにも対応できます。
ゆびブラシはすべて、
広島・熊野の職人さんによる手作りです。
広島県安芸郡熊野町といえば、
国内シェアの約9割を占める、筆の一大生産地。
シンクーは、熊野にある老舗メーカーと一緒に、
約一年かけて話し合いを重ねてきました。
山本さんは自社の製品はもちろん、
さまざまな筆を日々使い分けてメイクをする、
エキスパートでもあります。
ご自宅には数百本の化粧筆があり、
そのうちスタメンで使うのは20本ほどだそう。
じつは、ゆびブラシの開発に着手した頃、
社内のメンバーが、
「素朴な疑問ですが…」と前置きしつつ、
おずおずとこう聞いてきました。
「そもそも指を模しているなら、
指でメイクをすれば済むのでは?」
たしかに一理あると思うとともに、
この問いのおかげで、
なぜブラシを作りたいのかが、より明確になりました。
山本さんの言葉をお借りして、答えてみます。
「筆以外のものでメイクをすることは、
私には考えられないですね。
まず、筆は仕上がりが違います。
薄く均一に伸ばすことができますし、
目のキワや小鼻などムラになもりやすい部分も、
短時間で、簡単にきれいにメイクができます。
私の場合は、フルメイクでも15分です。
手ほとんど汚れませんし、
使うコスメの量も少なくて済みますよ」
(山本さん)
使い慣れている人にとっては、
筆なしでメイクするなんて考えられない。
道具との出会いは、そういうものだと思います。
私(鈴木)も、幼い頃、母が三面鏡に向かって、
小指で口紅をのせる姿をよく見ていました。
ゆびブラシは、そういった仕草へのあこがれを、
現代らしい道具として体現したもの、
といえるかもしれません。
ゆびブラシの毛の部分は、
ナイロン毛とポリエステル毛を
ミックスして作られています。
合成素材は安かろう悪かろう、という、
イメージがあったのは昔の話。
技術革新が進み、頬ずりしたくなるような肌触りと、
耐久性の両方が叶うようになりました。
パウダーと油分のどちらとも相性がよく、
使えば使うほどなじんで「持ち」が良いという点でも、
私たちの生活にフィットします。
ゆびブラシは、金具部分をあえてつぶして、
しずくのような形にしています。
なかでも、ゆびブラシのダブルは、
この金具が、2種類の毛をホールドしています。
つぶした部分は、形が尖っています。
この鋭角な部分の毛が、指では届かない
細かな隙間に入り込んで、
なめらかに整えてくれます。
尖りすぎて毛先が逃げてしまわないように、
短い毛がしっかり土台を支えているんです。
尖っていないところは、
広い面をスムースに仕上げるのにもぴったりです。
2つの長さの毛を使ったことで、
薄く均一にコスメを伸ばせるようになりました。
たとえば、同じ長さの毛が密集していると、
スタンプを捺したように厚く付着してしまいますが、
ゆびブラシは、「点の集合体」として
コスメを肌にのせてくれます。
その結果、もとから肌理(きめ)が整っているような、
解像度の高い肌に近づけることができます。
山本さん、こんなエピソードもお持ちでした。
「地方の結婚式に参列した際に、
筆セット一式を忘れてしまったことがあるんです。
仕方なく指でメイクをしたのですが、
二次会の頃には、もう、ドロドロに崩れて‥‥
コンディション悪そうだけど、大丈夫?
って友人から心配されるくらい(笑)。」
ブラシがいかに「きれい」を支えているか、
教えてくれるエピソードです。
人が筆で化粧をはじめた起源については、
じつは、明らかになっていないことが多いそう。
ご存じのように、本来、筆は字や絵を描く道具です。
プロのメイクさんたちが、
撮影現場では絵筆が便利だということで、
画材店にまめに足を運んでいたらしい、
ということは分かっています。
それが一般のひとにも伝わって、
筆を使ってメイクをするという行為が
広がったのではないかと言われています。
じゃあ、もっとこんな筆をーー。
こんなブラシもあったらいいのにーー。
プロからのこうした要望に応える形で、
熊野でも化粧筆の開発が前進してきました。
今では、国内だけではなく、
海外高級ブランドの化粧筆の多くを、
山本さんの会社が担当しています。
筆といえば、気になるのがお手入れ方法です。
かくいう私も、洗うのが面倒だなと心配でした。
ですが、日々のお手入れは、
使ったあとにティッシュのうえを滑らせて
拭くだけでじゅうぶんだと分かってからは、
ブラシを使うことが本当に身近になりました。
筒型のボックスに入れてお届けしますので、
使ったあとは立てて保管することもできます。
ちなみに、
筆作りの技術に関わるお話のなかで、
山本さんの口からたびたび
気になる名前が出てきました。
メンソウフデ。
「面相筆」と書きます。
ひとくちに面相筆といっても
種類はさまざまで、日本画から蒔絵、染付まで、
いろんなシーンで使われているそうです。
面相筆なくしては、表現できないものがある。
日本の文化を支える道具なんですね。
面相筆の生産には、難しい技術を要します。
その技術を磨き上げていくなかで、
化粧筆の技術もともに洗練されていき、
筆産業全体の発展につながりました。
絵具、墨、コスメ。
のせるものは違うけれど、
美しく描きたいという根源的な願いを、
筆はずっと叶えてきたんですね。
このゆびブラシを手にしたかたが、
きれいでありたいという気持ちと、
新鮮に向き合えることを願って。
(続きます)
2021-02-19-FRI