詫間宝石彫刻さんをおとずれて ー石はものすごくおもしろいー 詫間宝石彫刻さんをおとずれて ー石はものすごくおもしろいー
詫間康二 (たくま・こうじ)
1973年生まれ、山梨県甲府市出身。
詫間宝石彫刻代表。甲州水晶貴石細工の伝統工芸士、
山梨県認定のジュエリマスターでもある。
高校を卒業後、金属加工を学び、
家業である貴石彫刻にたずさわるように。
彫刻作品からジュエリーまで、幅広い制作活動をおこなっている。
研磨、彫刻、貴金属加工もすべて担う。
宝石の町・山梨に工房をかまえる
詫間宝石彫刻さんがもつギャラリーへ。
ガラス張りのギャラリーには
多種多様な石とプロダクトがならび、
洗練されたものもあれば
石の個性をとらえたような
ユニークなプロダクトもならびます。
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それは、詫間宝石彫刻さんの
ものづくりの姿勢をあらわすようです。





「業界が衰退していくなかで、
自分たちがやりたいことや“らしさ”を踏まえて
ものづくりを考え直そうと思いました。
そのためには多種多様な石をあつかって、
技術を蓄積していくしかありません。
しかし、職人さんはどんどん減っているので、
研磨して彫刻、貴金属加工までできると、
原石さえあれば完成まで一貫してつくることができるので
ものづくりの幅が広がるだろうと思いました。
そこで、海外の技術なども積極的に導入して、
技術や知識を深めていったんです」。





ジュエリーの制作は大きく、
石加工と金属加工にわかれます。
そこからさらに研磨と彫刻、貴金属加工は
分業制であることがほとんどですが、
詫間宝石彫刻さんでは全工程を担っています。





「工程としては、まず石取りですね。
そこから切り込み、かき込みなどを経て、
研磨する。けずったり、磨いたり、
わずかな角度で雰囲気が変わるので
長年の経験が必要になってくるところです。
しかし、全工程できるようになったことで、
アイデアも豊富に湧くようになりました」。
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あたらしいことにも果敢に挑戦するのは、
石のおもしろさに惹かれているのはもちろん、
父親に二度も仕事を継ぐことを断られた経験が
土台にあるのかもしれません。





「儲からないからやめろって、まず断られました。
たしかに石加工は下火だったので、
バブル絶頂期で金属加工に行かされたんです。
それでも、父親のところで仕事をしたかったので
相談をしたら、また断られて。
母親が説得して会社に入れましたけど、
父親はあまり技術を教えてくれませんでした。
だからこそ、自分なりの方法を
どんどん模索できたかなと思います」。





詫間さんが強みとするのが、石取り。





「石のどの部分をどう切り取るか考えるのですが、
僕はこの工程がいちばんおもしろい。
石取りは買い付けからはじまっているので、
そういう意味では直接買い付けに行く僕らは
有利ですよね。目も養ってきましたし。
いちばん求められている部分だなと感じます。
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はじめのころは、
貴金属加工から石加工に仕事を変えると
「お前の工賃の1/20でやる奴がいるからやめろ」って
みんなから釘を差されました。
でも、水晶ほどモノによって
個性が違うものってなかなかなくて、
そういうところを僕は見出したかったですし、
知ってもらいたかった。
まだ、YouTubeもあまりない時代に、
どこの国で石が採れるのか、どんな石があるのか、
どういう技術でつくるのかっていうことを
どんどん動画で公開していきました。
そこで、石取りのおもしろさに注目してもらえたことは
すごくよかったですね」。
コンテンポラリーがひっくり返された。
石の好みや求めるものも、
次第に変わってきていると詫間さんは話します。





「昔はとにかくきれいで、傷のないものが
求められていましたけど、
水晶の個性を好んでくれるようになりました。
それは、”SIRI SIRI”さんをはじめ、
僕らがよくご一緒している”bororo”さんなど
個人のジュエリーブランドが
活躍されていることも大きいと思います」。





詫間さんはデザイナーやブランドと協業して、
プロダクトを積極的に開発しています。
一緒にやるようになり
「コンテンポラリーがひっくり返された」
と詫間さんは当時を振り返ります。





「ジュエリーといえばファインジュエリーではなくて、
個人が素敵なものを見つけてデザインする。
世の中が求めるものと僕たちの取り組みが、
ちょうど歯車があった感じがします。
ただ、やっぱり土台があってこその遊びだと思うので、
僕自身も師匠はファインジュエリー出身で
大手の高級ジュエリーをつくっていた人。
なので、いろいろな人のデザインを、
かたちにすることができたんだと思います」。
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HOBO SIRI SIRIの水晶コレクションで
あつかう素材は、白水晶。
透明な“水のかたまり”のような、
無色透明のクリスタルです。
石取りから研磨、加工にいたるまで、
すべてを詫間宝石彫刻さんにお願いしました。





「伝統技術は生かしてくれる場所がないと
けっきょく無駄になってしまうので、
つくれる場所があることはすごくありがたいです。
一貫して関わっているからこそ、
SIRI SIRI岡本さんからの『こういう表現がしたい』
というオーダーも表現しやすい。
『おもしろい石、ありますか?』と聞かれて、
大枠をまかされてつくることもおもしろいんですが、
方向性を示してもらってやるのも楽しいですね。
ただ、石取りとかそういう得意なところは、
岡本さんもどんと任せてくれました」。





多種多様な石をあつかいながら、
あらたな水晶の可能性を模索する
詫間宝石彫刻さん。
自分たちのやりたいことも大切に、
作家性も育んでいます。





「依頼があって一緒につくるものもあれば、
僕自身がデザインをして作品を発表することも。
最近では「水晶グラス」が人気ですね。
水晶グラスは、海外で買い付けてきた水晶を、
その土地の魅力など自然美がわかるように
カットして、ショットグラスにしたもの。
コレクションしていた水晶をグラスにしていたので、
自分の手元にずっと残していたんですが、
50歳になったタイミングで放出するか、と思って。
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「何歳になったらこういうことをしよう」、
というのを具体的に決めるタイプなんです。
たとえば技術を継承していくためには
30代は若手だけれど
40代になったら人を入れて、
人材育成に力を入れよう、だとか。
『石やるとめっちゃおもしろいから、やりなよ』
って声をかけてます。
だって、海外では職人が山ほどいるのに、
日本だと山梨がほとんどなんですよ。
めちゃくちゃ有利な状況だからこそ、
自分の好きなものを作りながら商売もやる。
そういう自分の作家性も育んでもらいたい
気持ちもあります」。





山梨の宝石彫刻の広がりを
感じさせる詫間さんたちの活躍。
プロフェッショナルな技を駆使して、
あらたなプロダクトをぞくぞくと生み出されています。
HOBO SIRI SIRI、そしてデザイナー岡本さんとも
はじめての取り組み。
「すごく楽しみにしていたんです」と、
あらたな出会いから生まれたプロダクトは
まさに山梨の地を感じさせるものになりました。
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