内容量:92g(4個)
原材料:杉田梅(国産)、塩、赤紫蘇
賞味期限:3年
価格:2160円(税込・配送手数料別)
2017年6月15日から6月18日まで、
TOBICHI②でひらかれる
「備え梅」の発売記念ワークショップに
来られない方のために、
ほぼ日ストアでも「備え梅」を販売します。
「ほんとうに美味しいから、これを備えたい」
そんなふうに思える最高級の「備災食」を、
どうぞこの機会に。
「備え梅」についてくわしくは、
BambooCutの公式サイトをご覧ください。
この商品を企画開発した、
BambooCutの竹内順平さんが
「備え梅」への熱い想いを
ひとつの読みものにまとめてくれました。
「備え梅」のクオリティを
感じていただけると思います。
どうぞお読みください。
こんにちは。
2014年春までの2年間、
「ほぼ日刊イトイ新聞」でアルバイトをしていた
BambooCutの竹内順平です。
ほぼ日を卒業後、梅干しの魅力に惹かれ、
梅干しをテーマにした様々な活動を続けています。
この度ぼくたちは、商品をつくりました。
防災品として、いざという時のために備える梅干し、
「備え梅」という名の商品です。
「備え梅」は、
乗松祥子さんというかたがつくった
梅干しを使用しています。
「乗松さんの梅干しでなければ」と思ったのです。
職人・乗松祥子さんのお話を、
伝えさせていただきます。
「備え梅」をつくろうと思った、
ぼくらの動機からはじまるお話です。
すこし長くなりますが、どうぞお付き合いください。
2016年4月。
ぼくたちBambooCutは、
梅茶漬けのイベントを開催していました。
その開催中に、熊本大地震が起きました。
大きな災害の情報を受け取ったぼくは、
BambooCutとしてなにかできないか、
すこしでも力になれないかを考えました。
「梅干しを被災地に物資として送ろうか。
‥‥いや、それは梅干し屋さんがされることだ」
「イベントを開催しに行くのはどうだろう?
‥‥いやいや、いまそれは求められていない」
結局、なにもすることができませんでした。
そんなとき、ある方からこんな事実を聞きました。
「被災地の子どもたちが、食べられず、歯も磨けずのため
よだれが出なくなり、その結果、免疫力が低下して
病気にかかりやすくなっている」
話を聞いて、梅干しの活動を続けていたぼくは、
当然のように思いつきました。
「きっと梅干しが役に立つ。
梅干しを日頃から持ち歩けたり、
仕事場に置いておくことができれば、
いざというときの備えになる」
こうしてぼくらは、
防災品としての梅干し「備え梅」を企画し、
制作に取りかかりました。
これが、ぼくらにできることなんだと思いました。
「備え梅」をつくるうえで最も大切なポイントは、
「どんな梅干しを選ぶのか」ということでした。
梅干しはもともと保存食です。
よく100年前の梅干しとか聞きますよね?
日本古来の製法でつくられた梅干しは、
基本的に賞味期限という概念がないため、
特別な加工を施さなくとも、
梅干し本来の味を損なうことなく食べることができます。
ならば、「備え梅」の梅干しは当然、
日本古来の製法でつくられたものでなければ。
日本古来の製法と言えば‥‥。
ここでさらに、時間をさかのぼります。
3年前のこと。
BambooCutをスタートさせたばかりのぼくは、
『にっぽんの梅干し展』を開催するために、
ありとあらゆる梅干しの本を読んでいました。
そのなかの一冊に、
『百年の梅仕事』という本がありました。
梅のこと、梅干しのことを熟知されている、
乗松祥子さんというかたの人生を綴る一冊でした。
本を読み終えたぼくはさっそく、
乗松さんのお店『延楽梅花堂』(東京にあります)から
梅干しを取り寄せました。
届いた梅干しは、まるで絵に描いたように真っ赤で、
見ているだけでよだれが止まりません。
たまらず勢いよく口のなかにほおり込んだときの、
あの感動をいまでも覚えています。
口もとにギュッと力が入り、
つづけて口のなかがじゅわっと潤う。
もう、想像通りのすっぱさで、
たまらず「ごはん!」と言いたくなってしまうような、
むかしながらの日本の味でした。
このかたのお話を聞きたい! と思いました。
インタビューを『にっぽんの梅干し展』で紹介したい!
さらにこの梅干しを、
イベントでみんなに食べてもらいたい!
乗松さんのお店『延楽梅花堂』にうかがって、
思いきってお願いしてみました。
‥‥が、ていねいにお断りをされました。
それはそうだと思います。
乗松さんにしてみれば、
変な若い男から、急にこんな企画のことを言われても‥‥。
たいせつな梅干しをひょいと分けてくれるはずはなく、
インタビューのお願いなども含め、
かれこれ2年間、ぼくらは断られ続けていました。
もう、お気づきと思います。
乗松さんがつくり続けている
むかしながらのすっぱくておいしい梅干しこそが、
「備え梅」に最もふさわしいと思った梅干しです。
しかし‥‥
すでにぼくたちは2年、断られ続けています。
あきらめなくてはならない状況でした。
乗松さんの梅干しは、無理。
じゃあ「備え梅」をどうやってつくればいいんだろう‥‥。
熊本の震災後、ずっと悩んでいました。
そんなある日。
遠方でお世話になった方から頼まれて、
乗松さんのお店に梅干しを買いに行ったときのことです。
たまたま、乗松さんがいらっしゃいました。
乗松さんは、
「ちょっと、上がりなさい」と誘ってくださり、
最近のぼくらの活動を聞いてくれました。
今回もダメでもともとと、
ぼくは「備え梅」の企画について話しました。
熊本大地震がきっかけだったこと。
これがたぶん、いまのじぶんにできることだということ。
頭のなかにある考えをそのまま話しました。
よくおぼえていませんが、
しどろもどろに、熱く、話したのだと思います。
ぼくの話を最後まで聞いて、乗松さんは‥‥
「私の梅を使いなさい」
なんと、そう言ってくださったんです。
まったく思いがけない言葉に、
もう、ぼくはじぶんの耳を疑いました。
乗松さんは基本的に、
ごじぶんのお店と三越伊勢丹の催事などでしか、
梅干しの販売を行いません。
つまり、梅干しそのものを誰かに、
「好きにしていいよ」と受け渡したことがないんです。
そんなたいせつな梅干しを、
「使っていいよ」とおっしゃってくださったのです。
BambooCutとの出会いはともかく、
ここからは乗松さんの「梅仕事」についてお伝えします。
まずは、「梅」そのもののお話から。
乗松さんは漬けはじめのころ、
南高梅や十郎梅などの品種を使用していました。
ある年のこと、仕入れた青梅のなかに
1粒だけ見たことのない品種が入っていました。
乗松さんはその梅から妙な力強さを感じ、
気になって購入先に問い合わせてみると、
「杉田梅」という品種だということがわかりました。
それ以降、乗松さんは「杉田梅」のみを使用しています。
杉田梅は500年前からある品種といわれ、
横浜の杉田地区が発祥です。
現在、日本に残っている杉田梅の木は少なくなっていて、
「幻の梅」とも呼ばれるようになり、
復活をさせるための活動も行われています。
みなさんがよく耳にしているはずの、
「南高梅」という品種は、実が大きく、
皮の薄さと、フルーティーな甘さが特徴です。
一方、杉田梅は同じように実が大きいのですが、
果肉がしっかりした上に、梅自体の味が濃厚です。
乗松さんはさらに、無農薬の杉田梅を選びます。
神奈川県小田原市の農家さんから。
その農家さんは、唯一と言ってもよい、
無農薬で杉田梅を育てている梅林をお持ちなのです。
じつは乗松さん、その農家さんから
梅を直接買わせてもらえるまでに
なんと、13年もかかったのだそうです。
‥‥13年。
たった2年間、断られただけで悩んでいた自分たちを
ちいさく思います。
乗松さんははじめ、農家さんに相手にされず、
農業協同組合を経由して
無農薬ではない杉田梅を購入していました。
「いつか、無農薬の杉田梅を手に入れたい」
乗松さんは必死な思いで農家さんへ通い、
交渉をし続け、毎年毎年断られ続けました。
13年目のある日。
台風が本島を直撃しました。
梅林が心配になった乗松さんは
すぐに車で様子を見に行ったのだそうです。
「わけてもらえない梅」なのに、心配で駆けつける‥‥。
すごい情熱です。
やがて農家さんが梅林に到着し、
先に到着している乗松さんを見て言ったそうです。
「負けたよ。好きなだけ譲るよ」
心底おどろいた乗松さんは、
農家さんの気分が変わらないうちにと、
雨の中まるで子供のようにずぶ濡れになりながら、
無我夢中で梅を収穫し、持って帰ったのだそうです。
梅干しは年に一度しかつくることができません。
冷凍した梅は梅ジュースなどにしか使用できず、
梅干しづくりに使えるのは6月に収穫された生梅だけです。
乗松さんは、その貴重な年に一度の梅干しづくりのたびに、
試行錯誤を繰り返し、今の製法へとたどり着きました。
もちろん、御年76歳の今でも挑戦の真っ最中です。
乗松さんの梅干しのポイントは、
「塩」「手」「目」
この3つ。
梅干しの原料は大きくふたつ。
「梅」と「塩」です。
(紫蘇漬けの場合は、それに赤紫蘇を加えます)
ですので、梅干しにとって「塩」は大切な大切な材料です。
乗松さんは約40年間、様々な塩で梅づくりを試し、
ひとつの答えを導き出しています。
梅干しづくりに関して、大抵のことは包み隠さず
教えてくださる乗松さんですが、
「塩」に関しての詳細は教えてくれません。
すこしだけ教えてもらえたのは、
・3種類の塩をブレンドして使用している。
・その3種類はすべて国産である。
・そのうちのひとつは塩を煎って作った「焼塩」である。
これだけです。
この秘伝の「塩」が、おいしさの秘密のひとつです。
乗松さんの梅干しは、
驚くほど生産性が悪い作り方でうまれています。
梅干しをつくる工程は大きく言うと、
「収穫」→「塩漬け」→「天日干し」の3つです。
梅干しを商売としている農家さんや
梅干し加工業者さんの一般的な作り方は、
収穫した青梅を大きな樽に入れ、
そこに適量の塩を入れ、梅酢があがってくるのを待ちます。
これが一般的な工程であり、
悪いと言っている訳ではもちろんありません。
むしろ大量に生産する場合には、利にかなっていますし、
そうやってつくられた梅干しに
おいしいものがたくさんあることをぼくは知っています。
乗松さんは、年間約10トン分(約3万粒分)の青梅を、
1粒ずつていねいに、塩で揉みます。
やさしく、じっくりと。
そうすることによって、
青梅の表面に塩でスジが入って呼吸ができるようになり、
塩の浸透と、梅酢の出方も良くなるのだそうです。
目の当たりにしたのですが、
これはほんとうにたいへんで、めんどうな作業です。
あまりていねいにやっていると
青梅が追熟していまいますから、
時間との戦いでもあるのです。
この一連の工程をBambooCutが動画にしました。
ぜひ、ご覧になってください。
『乗松祥子の梅しごと』です。
梅干しの最後の工程「天日干し」。
この作業でも乗松さんの「職人魂」が光ります。
小田原から東京へ青梅を仕入れ、
塩漬けを行ったあとに、
今度はその梅を鎌倉に送ります。
鎌倉のお寺の庭をお借りして「天日干し」をするために。
わざわざ鎌倉で干すのには、もちろん理由があります。
ひとつは空気が東京に比べてきれいだということ。
もうひとつは、
地面がコンクリートではなく「砂利」であること。
コンクリートでは照り返しが強いため、
干し加減がうまくいかないのだそうです。
ということは、鎌倉でならぼくでも上手に干せる‥‥?
いえいえ、そんなことはございません。
干し加減を見極める「目」が、ぼくにはありません。
撮影のとき、乗松さんから
「ちょっとこの梅干し並べておいて」と言われて、
梅干しを並べたことがあります。
あとから戻ってきた乗松さんは並んでいる梅干しを見て、
「あなたは真面目ね」と言いました。
そして、
「梅干しにも顔があるのよ」とつぶやきながら、
ぼくが並べた梅干しをコロコロと転がし、
ちょっとずつ向きを変えていきました。
すると、どうでしょう。
その場にいたみんなが唸りました。
梅干しが、急においしそうになったんです。
まるで梅干しが、両足で凛と立っているかのように。
梅干しの表情と、干し加減を見極める。
それは、じぶんがどうしたいかではなく、
「梅がどうしてほしいか」を見極める作業だと聞きました。
1粒1粒と誠実に向き合ってきた乗松さんだからこそ、
梅の気持ちがわかるのだと思います。
───:
乗松さんは「職人」として
梅干しをつくられていますが、
その上で心がけていることはありますか?
乗松さん:
わたしは誰にも教わらずに
梅干しをつくりはじめたので、
つくり方も知らない底辺からの
スタートだったんです。
1年目につくった梅干しなんて
ひどかったですよ(笑)。
だから、這い上がるしかなかったんです。
でも、毎年試行錯誤すると、
必ず発見があるんです。
ですから、そうですね、
その発見をきちんと感じるよう心がけています。
───:
いままでにどんな発見があったのでしょう。
乗松さん:
約40年つくり続けてわかったことは、
やっぱり主役は「梅」と「塩」ということです。
梅の熟度に合わせて、塩を調整しなくては
本当においしい梅干しはできません。
塩の種類を変えたり、ときには濃度を変えたり。
そもそも、すべての梅に
同じ塩が合うはずがないんです。
ぜんぶ同じ塩を使うことは、
大きな体の人にSサイズの洋服を
強引に着せるようなものだと思っています。
───:
それは窮屈ですね(笑)。
‥‥いまもそうなんですけど、
乗松さんはほんとうにうれしそうに、
梅を見つめますよね。
母親のようにといいますか。
乗松さん:
梅づくりを毎年して、梅と向き合い続けると
「人間も植物も生きている」
ということを心から感じます。
それは「自然と向き合う」ことです。
最近は、「使い切るだけ」ではだめだと、
そう思うようになりました。
───:
使い切るだけ‥‥?
乗松さん:
使ったら、使った分だけ
保全しないといけないと思います。
人間はやりたい放題できますからね。
梅の価値を、年々強く感じるようになりました。
梅のことを思うと、行き着く先は「地球」です。
地球の環境が悪くなってしまったら、
梅の質も悪くなってしまう。
だからほんとうに大事なのは自然であり、
地球だって思えたんです。
───:
梅と向き合うことは、地球と向き合うこと‥‥。
乗松さん:
それと大事なのは、
自然を受け入れる姿勢ですかね。
梅も良い、天候も良い、自分の体調も良い。
そんな条件が整うことなんて、
12年に1回くらいです。
たいていはどれかひとつが欠けます。
とくに梅干しづくりは、
天候に大きく左右されます。
天日干しも満足にいかないときだってあります。
だからといって、
人間の思い通りにいくように
クローンをつくったりせず、
自然を受け入れないといけない。
そうしないと、
梅干しの本質を見失ってしまうと思うんです。
私にとって梅と向き合うことは、
自然とのバランスを感じながら、
その大切さも感じることができる、
とても貴重な時間だと思っています。
───:
乗松さん、お話をありがとうございました。
今年もおいしい梅干しを期待しています。