STAMPSの紙上旅行 フィンランドの光 STAMPSの紙上旅行 フィンランドの光
ここはヘルシンキの中心部にある
「アカデミア書店」(Akateeminen Kirjakauppa)。
20世紀を代表するフィンランドの建築家、
アルヴァ・アアルトが1969年に設計した大型書店です。
天窓から吹き抜けの空間にひろがる
おだやかな光にあふれた店内、その2階には、
建築家の名を冠した喫茶店
「カフェ・アアルト」(Cafe Aalto)があります。

ヘルシンキに来たら必ずここでコーヒーをのむ、
という、STAMPSの吉川修一さんが、
1994年からフィンランドで暮らし、
通訳、翻訳、コーディネートをなさっている
森下圭子さんにインタビュー。
‥‥のつもりが、森下さんからもたくさんの質問が! 
ふたりの「取材を始める前のおしゃべり」、
どうぞおたのしみください。
[3]

室内で、森を感じる。
写真
吉川
カイ・フランクの食器の色って、
われわれ日本人が日常的に使う食器の色と、
ずいぶん違うんですよね。
カイ・フランクといえば、の食器である
「Teema」のグリーンやイエローは、
たとえば僕らが刺し身をのせたいと思う色とは
ちょっと違うように思えて。
森下
ああ、たしかに。
吉川
でもフィンランドの料理って、
色が、とてもシンプルですよね。
そうするとたしかに
カイ・フランクの色の食器が合う。
森下
たしかにそうです。料理の色がシンプル。
吉川
僕、ヘルシンキのデザインホテルの朝食で
食器がぜんぶ真っ黒だったのに驚きました。
ふだんのぼくらの食卓だと、
ぜんぶが黒というのはなかなか発想にない。
もちろん漆の黒い器とか、あるわけですけれど、
ぜんぶ真っ黒というのはあんまり‥‥。
でも黒い食器って、フィンランドの料理が、
よく映えるんですよね。
それで、カイ・フランクの色ガラスなんですけれど、
あの色をすばらしく美しいと感じるいっぽうで、
中の飲み物の色はあんまり気にしていないというか‥‥。
ひょっとして、カイ・フランクが
色ガラスのコップを提案した時代は、
そんなに飲み物のバリエーションが
なかったのかもしれないと思いました。
森下
たしかにそうかも。お水と牛乳、とか。
でもガラスが、そのものの色としてきれいなんですよね。
吉川
とってもフィンランド的だと思うのは、
雪で世界が真っ白になっている日に
赤いマリメッコの服を着ている人がいると、
咲いた花のように見えたりするじゃないですか。
そういう美しさがあるんですよね、
カイ・フランクの色ガラスの存在感って。
眺める美しさとして、
すごく意味があるという気がするんです。
写真
森下
なるほど。
光を楽しむものなのかもしれないですね。
吉川
僕にとっては、まさしくそう。
色ガラスに光が当たって
キラっとする瞬間に、癒されるんです。
森下
光が何かに反射して入ってきた時の美しさって、
とても有機的なゆらめきがありますよね。
普通の光とは違うものが。
ヘルシンキ郊外にある光の教会
「ミュールマキ教会」(Myyrmäen kirkko)で、
建築家のユハ・レイヴィスカ(Juha Ilmari Leiviskä)
本人が案内してくださるという取材に、
通訳で入ったことがあるんです。
教会に入ったら、ちょうどその時間に
窓から光が入ってきて、それが壁に反射したんです。
そうしたら、建築家本人が、
「あれを見て。なんだかシンフォニーを
聴いているみたいでしょう?」って。
光が差し込み、動く感じを、
「音楽を聴いているみたいじゃないか」と表現する。
その時思ったんです、
自然の力によって、自分のつくったものが
無限のものになるんだ、
この建築家は、そういうことをやっているんだなって。
そして、やっぱりそれは、
本人の中の自然体験が大きいような気がするんですよ。
吉川
絶対そうだと思います。
──
ということは、
文献には出てこないけれども、
カイ・フランクにも、
フィンランド的自然体験が原点にあるのかも
しれないですね。
森下
そんな気がしてきますね。
写真
吉川
あと、あらためて冬のヘルシンキで思ったのは、
冬は天候があんまりよろしくないじゃないですか。
でもこの滞在中はなぜか暖かい日が続き、
雪ではなくずっと雨が降っていて、
積もった雪が溶けて、それが凍って、
またぐしゃぐしゃになって、
でも、その雨と氷のおかげで、
ガラスが光るのに似た風景を
あちこちで、たくさん見ることができました。
陽が昇る前の空気の青さや、
沈んだ直後のなんともいえない色も、
もうほんとうに独特で‥‥。
森下
ほんとうに、そうですね。
吉川
それからもうひとつ、部屋の中の快適さにも、
あらためて感動しました。
公共の建物、たとえば美術館もそうでしたし、
レストラン、ショップ、ホテルの部屋、
どこもちゃんと「屋内で快適に過ごすこと」が
考えられてるなっていうふうに思いました。
建物って、沖縄だったら沖縄の、
北海道には北海道の、というふうに、
気候と建築って、絶対的にリンクしてるじゃないですか。
だから冬の外の暗さを解消するのに、
部屋の中を快適にすることは、
フィンランドの人にとって、とても大事なのかなと。
おかしな話かもしれませんが、
室内で、森を感じたんです。
森下
はい、感じますよ。
吉川
それは木の部材がたくさん使われているからかな、と。
森下
たしかに、フィンランドって、
家の中にいても、どこかで自然を感じさせますよね。
自然の要素と近い
家のつくりになっているんでしょうね。
吉川
照明の効果も大きいですよね。
全体照明じゃない、間接照明の考え方っていうのが、
やっぱり人間にやさしいんです。
ここは本屋(アカデミア書店)の中だから、
すみずみまで明るいけれど。
森下
でも、たしかに、ちゃんと強弱がある。
吉川
照明ってものすごくメンタルに影響するでしょう。
家の中がどんな時間でもまんべんなく明るいって、
ちょっとつらいなって僕は感じているんです。
だからせめて寝る前の時間は徐々に暗くしていこうとか、
結構、気をつけるようにしています。
写真
──
今回、服に色を使うというときに、
吉川さんの発想の原点が
フィンランドの色ガラスにあったということですが、
「光」ということも、大事な要素なんですね。
吉川
はい。洋服って、
布帛とニット、つまり織物と編み物に
大きく分かれるんですけど、
今回のような布帛、織物の場合、
糸の番手が細くなると、当然、透け感が出てくるんです。
今回は、そんな生地に、色を付けました。
透け感と色のバランスを、
フィンランドの色ガラスのイメージと重ねて。
森下
なるほど、ちょっと透明感があって、
光を感じさせる?
吉川
はい。そうなんです。
それが僕の中のフィンランドのイメージと
合致しているんです。
自分が想像するフィンランドですけれど。
森下
いえ、フィンランドの人たちが
大切にしていそうなことだと思いますよ。
吉川
すごく心地よくて快適で、
暗いときでも、この服を着ていると
明るい気分になれるようにと、
そんな気持ちをこめました。
発売が春っていうこともあって、
色は、春に適したさわやかなペールトーンで
つくっているんです。
森下
布帛に「透明感」って、新しいですね。
なんていうんだろう、
厚いものを薄くするのではなくて、
最初から光を宿しているような布、
っていう感じなんですね。
吉川
そうです! まさしくそういうイメージです。
透明感を楽しんでいただきたい、
そういうアイテムを展開します。
森下
とっても楽しみです。
──
森下さん、吉川さん、
どうもありがとうございました。
短い滞在ですけれど、
ヘルシンキでの取材、
どうぞよろしくお願いします。
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2023-04-07-FRI
大の旅好きであるSTAMPS代表の吉川修一さんが、
以前フィンランドを訪れた際に
魅かれて持って帰ってきたヴィンテージガラスを、
今回特別に販売できることになりました。
1点もののため、すべて抽選販売となります。
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[ヴィンテージ] カイ・フランク タンブラー6個セット箱付き
(トーベ パッカウス/TOIVE PAKKAUS)

88,000円(税込)
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[ヴィンテージ] SVシリーズ デカンタ/グラス

55,000円(税込)
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[ヴィンテージ] Fauna グラス(S)(M)

5,500円〜6,600円(税込)