STAMPSの紙上旅行 フィンランドの光 STAMPSの紙上旅行 フィンランドの光
マッティ・ピックヤムサさんのことを
よく知る人がいます。
外苑前のdoinel(ドワネル)のオーナーで、
biotope(ビオトープ)の代表でもある、築地雅人さん。
じつは築地さんって、いまおおぜいのひとが
「いいなぁ」って思っている北欧のいろんなプロダクトを、
かなり早い時期から、日本で紹介した人でもあるんです。

STAMPSの吉川さんとは古いおつきあいで、
ときには朝まで語ることもあるのだとか。
箱根につくった、築地さんの会社の保養所
(として使っている、古いマンションの一室)で
築地さんにお話をききました。
なんと、マッティさんとの出会いは、
ヘルシンキの蚤の市で、だったんですって!


<築地雅人さんのプロフィール>

つきじ・まさと

株式会社biotope(ビオトープ)代表。
1975年福岡県生まれ。2000年からバイヤーになり、
2004年に東京・世田谷に店舗を開く。

感性を豊かにする暮らしや、背景のある美しいもの、
作り手の意思が感じられるもの、というコンセプトで、
北欧を中心としたヨーロッパのブランドやメーカー、
アーティストとの関係を生かした製品を紹介している。
現在、自社取り扱いブランドをおく店舗として
外苑前のdoinel(ドワネル)を運営。

また、フィンランドのテキスタイルメーカー
LAPUAN KANKURIT(ラプアン カンクリ)の
海外初の路面店も展開している。

▶biotopeのwebsite

▶doinelのInstagram

▶LAPUAN KANKURITのInstagram
[3]

マッティとつくった
ウォールピースのこと。
築地
ぼくが自分の店としてつくった「doinel(ドワネル)」は、
最初、「between craft and product」
っていうコンセプトで、
少量生産、ウイスキーならスモールバッチですね、
そういう、多分大手じゃやらないようなアイテムを
扱ってきたんですけれど、
いまや、大手がそのコンセプトでの
ものづくりを始めているので、
あぁ、もうここは、役割としては終わったんだと思って、
もう、ちょっと逃げているくらいなんです(笑)。
今は、他でやっていないことで、
自分がもっとできることはなんだろうって、
ずっと探してる感じです。
ワイン屋さんもその後、外苑前にいっぱいできましたし。
吉川
ワイン好きの友達が言ってました、
ビオワインを探すなら外苑前から千駄ヶ谷のあたりに
いいお店がたくさんあるよって。
築地
そうなんです。
それでちょっと、役割は終わったのかなと思って。
写真
吉川
そうすると「さあ、次はどうしよう?」
っていうふうになりますよね。
そういう築地さんがたのしみなんです。
築地
常にずっとそうなんです。
フィンランドのヴィンテージも、
すっかりメジャーになってしまったし。
次はどうしよう? って、
隙間をずっと探してる感じです。
吉川
でもARABIAのアートピースは、あんまりまだ
みんなが注目していない気がします。
築地
実は、そのためのお店を1回つくったんです。
「t-b-d(ティービーディー)」っていうお店を。
アラビアのアートデパートメントとか、
そういうものを中心に、ギャラリーに近いかたちで
運営したいと思ったんですが、
やっぱり需要がなかったです。
吉川
もうすでに、なさっていたんですね。
ぼくの考えているずっと先に、常に築地さんがいる。
築地
いえいえ。
吉川
今回、「紙上旅行」のコンテンツで、
マッティさんの生地を使った服をつくったので、
一緒に、築地さんがかかわられている
LAPUAN KANKURIT(ラプアン カンクリ)の、
マッティさんデザインのキッチンクロスと、
doinel(ドワネル)の企画でつくられた
ウォールピースを販売させていただくことになりました。
そのことを、ぼくら、とても嬉しく思っているんです。
写真
築地
あぁ! ありがとうございます。
よろしくお願いします。
吉川
あらためてお聞きしたいんですが、
築地さんは、マッティさんのイラストを
初めて見たとき、どういう印象でしたか?
築地
ぼく、最初は
新聞の『ヘルシンギン・サノマット』
風刺画の印象が強かったんですよ。
日本にも風刺画家って、いっぱいいましたよね。
ちょっとシニカルというか、
そういう印象が強かった。
1コママンガみたいに、
すごく切り取り方が上手だなって。
吉川
確かにマッティさんって
1枚で表現しちゃいますよね。
築地
マッティはマリメッコも好きなので、その頃、
テキスタイルのパターンをずっと練習してたんです。
1個のモチーフを展開するようなことを、ずっと。
「テキスタイルもいつかやりたいな」って。
それでラプアンに紹介したんです。
吉川
変化するというか、いろんな画風があるというか。
築地
今もどんどん変わってますね。
ぼくは、その変わっていくところで、
みんなが興味ないだろうなってところを抽出して(笑)、
「かわいい、の次は、かわいい、じゃないことをやろうよ」
みたいな提案をするわけです。
吉川
(笑)
築地
さっき言ったように、友達だから、
ほんとはマッティとは仕事をしたくなかったんですけど、
表現する場所もないって悩んでいたので、
ちょっと難しい「マラスク」っていうテーマを投げて。
吉川
「マラスク」?
築地
「Marraskuu(マラスク)」って
フィンランド語で「11月」っていう意味なんです。
フィンランドでは「死の季節」。
‥‥「死」ですよ。
吉川
そうですね。
フィンランドの人、11月、嫌いだって言いますね。
どんどん太陽が出なくなり、
かといって雪が降る前で、暗いばかりだって。
築地
結構、鬱々とするんですよね。
ただそれって、
「冬の前の、きれいな光が来る瞬間」
っていう表現の仕方もできるわけです。
それでマッティに
「ちょっとメランコリックな、
冬の前のそういう世界観で展示会しない?」
って話をして。
ちょうどその時に習作していた
焼きごてのテクスチャーが世界観にマッチしたので、
その技法での作品を中心に据えることになりました。
それに「11月」っていうテーマだったら、
12月に延ばすわけにいかないから、
のんびり屋のマッティでも締め切りを守るでしょ(笑)。
一同
(笑)
写真
吉川
追い込みましたね!
築地
そうです(笑)。
マッティ、頼まれた仕事をぜんぶ、
「いいよ」って受けてたんで、
仕事がパンクしちゃってたんです。
吉川
なるほど。
風刺画は新聞だから締め切りがあるでしょうに。
築地
そこは新聞社サイドにマネージャーがいたんです。
掲載が日曜日っていうのも決まってるから、
ルーティンになっているんでしょう。
吉川
なるほど。それじゃ、11月の展覧会は、
間に合ったんですね。
築地
それが、どうも間に合いそうになかったんです。
それに日本に来たら遊びたくなるから、
「じゃあ遊びながら仕事しよう」って、
ここ(箱根)に連れて来て、描いてもらいました。
吉川
缶詰にして(笑)! 
昔の小説家みたいですね。
築地
そう(笑)。
それで、マッティが自分でつくっていた
かわいいタイプとは違う、
フィンランドの11月の、雪が降る前の、
ちょっとメランコリックな瞬間を表現するのに、
焼きごてという手法を使った
このウォールピースができたんです。
写真
吉川
「メランコリック」というようなキーワードで、
すぐに通じ合えるものなんですか。
築地
いえ、けっこう話をしましたよ。
ソビエト時代のアニメーションで
ユーリ・ノルシュテインの
「霧につつまれたハリネズミ」っていうのがあるんですが、
ああいうイメージだね、というようなこととか、
音楽でいうと、どういう感じだねとか。
Spotifyに「マラスク」っていうプレイリストをつくって、
お互いに1曲1曲入れていったり。
楽しんでいましたよ、マッティも。
自分だけで考えるのは、
ちょっとつまらない時もあるんでしょうね、
そういう方法でいつもと違う自分を出したいっていうのが
あったみたいです。
吉川
たしかにいつもの鮮やかなイラストレーションに比べると、
すごく淡くて、溶け込みそうな感じがします。
グラデーションもきれいですね。
それにしてもそんなふうに
コミュニケーションができるなんて、
築地さんは語学が達者なんですね。
築地
いえいえ、母国語が英語の人と
ビジネスの話をするときは通訳を依頼しますよ。
でも外国語として英語を話す人、
フィンランド人がそうですけれど、
マッティや、たとえばコレクターさんと話すときは、
もう英単語でじゅうぶんなんですよ。
それでコミュニケーションが進んでいく。
フィンランドの人は英語がとても上手ですが、
こちらが言いよどんでも、ちゃんと待ってくれますし、
ヴィンテージの買い付けのときは、
人名や作品名、年代や貴重さがわかるほうが重要ですしね。
吉川
そうでしたか。
最後に‥‥このウォールピースをお客様が買われたときの
飾りかたでお勧めがあれば教えてください。
築地
絵を飾るように、
1点だけをパッと見せてもいいでしょうし、
他のものと会話をさせるというか、
コーナーをつくるみたいな感じで、
「これと合うな」って思うお手持ちの絵やモノと
組み合わせるのもいいと思うんです。
吉川
それこそ北欧ヴィンテージのお皿やガラスとか、
そのそばに掛けておくのもよさそうですね。
築地さん、いろいろ話をきかせていただいて感謝です。
またぜひ、こんどは取材抜きでお話ししましょう。
築地
はい、また、ぜひ。
ありがとうございました。
写真
(おわります)
2023-04-23-SUN
フィンランドのイラストレーター / アーティスト、
Matti Pikkujämsä(マッティ・ピックヤムサ)が
インテリアブランド
Kauniste(カウニステ)のために描いた柄をつかって、
ワンピースとスカートをつくりました。
愛嬌たっぷりのイラストがたのしめるキッチンクロスと、
1点ものの壁掛け作品もどうぞ。
写真
STAMP AND DIARY + ほぼ日

日曜日のワンピース

28,600円(税込)
写真
STAMP AND DIARY + ほぼ日

日曜日のスカート

26,400円(税込)
写真
Lapuan Kankurit

マッティのキッチンクロス

2,970円~3,850円(税込)
写真
マッティのウォールピース

46,200円~48,400円(税込)