ほぼ日刊イトイ新聞

石川直樹さんに
うかがいました。

今回のティーテーブルに使わせていただいた
「K2」という山のことや、
先日まで行かれていたデナリ山への登山のことを
伺いました。
石川直樹さんプロフィール

────
まず、おかえりなさい。
先日まで、デナリ山という山に登られていて。
滞在期間は、どういう1ヶ月を過ごされたんですか?
石川さん
今回は、1人で行ったんですよ。
────
え! たった1人?
石川さん
たった1人だけど、登山のルート上には他の隊の人もいます。
でも、ぼく自身は1人で登りに行きました。
そうすると、食料とかそういうものも
全部自分で運ばなきゃならない。
だから、余分なものとか一切持って行けなくて、
で、食料がちょっと、だんだん乏しくなってきちゃって、
急いで登ったんですよ。
だから、予定より少し早く登れました。
────
向こうでのコンディションによって、
予定が変わることがあるんですね。
石川さん
そうです。
あと、当然ですけれど、燃料や食べ物も全部自分で
持って行かなきゃいけないわけです。
お湯を沸かすためのストーブやガソリン、食料、
衣類や登山道具、テントや寝袋など全て持って行きます。
だから、ちょっとでも余分なものを持っていくと、
それが苦しさになって跳ね返ってくるので、
少しでも減らしていかなきゃいけなくて。
で、食料とかもね、やっぱりギリギリのところで
持って行くから、余裕がなかった。
────
そ、そんな中、わたしたちのティーテーブルを
持って行ってくださったと。
石川さん
そうです(笑)。
一番最初に、2,000メートルの所に
セスナで降り立つんですけど、
そこまではセスナで荷物を運べるから、
余分なものも持って行けるんです。
────
あぁ、なるほど。
石川さん
で、生肉とか、魚とか、サーモンとか、
その先には食べれないような豪華な食べ物を
ここまでは持ってきて、その場所で食べて。
そこから先はストイックな登山が始まります。
このベースキャンプまでは、余分なものも
多少は持って行けるんですよ。
────
そんなところへ連れてってもらって、光栄です。
石川さん
現地で、「これはなんだ?」って
みんなに聞かれましたよ。
────
どう説明されたんですか?
石川さん
「テーブルだ」って言いましたよ(笑)。
「テーブルか。いいなぁ」みたいな、
普通の反応でしたけど。
────
意外とすんなり受け入れられたんですね。
今回「石川さんの作品をティーテーブルに」
と思ってご連絡をさせていただいた時に、
「これはいい」と
すぐに受け入れていただいて。
石川さん
三脚を使わない人もたくさんいると思うんですけど、
僕は特に三脚を使うタイプのカメラマンだから、
三脚にくっつくというのはいいなぁと思いました。
でもまぁ、本格的な登山には重いから
これを持って行くなら、
同じ重さの食料を持って行ったほうがいいんですけど。
────
それはそうだ(笑)。
石川さん
飛行機が降り立つキャンプ地まで
持って行ったわけですが、
とても素晴らしいなと思ったんですよ。
テーブルって、やっぱり「日常」じゃないですか。
遠征はやっぱり「非日常」なので、
こういう日常のものがあると、ホッとするんですよ。
テントの中は、テーブルなんてなくて、
床でずっと食べてるわけで。
────
なるほど。
石川さん
本当にそぎ落としていくと、
そぎ落とされちゃうものなんだけど、
日常には必ずある、
こういうテーブルみたいなものがあると、
生活を思い出せるんですよね。
────
三國さんのセーターもそうおっしゃってましたね。
実際はどんなふうに使っていただいたんでしょうか?
石川さん
テントの中とかテントの外で、
テーブルとして使ってましたよ。
「テーブルの上で、飯食ったり、
 テーブルに飲み物置いたりして、
 ちょっと俺、今、まだ余裕あるなぁ」
みたいな、穏やかな気持ち。
────
「ここから始まるぞ」みたいな?
ちょうど境目ですね。
石川さん
そうそう。
────
使われてるときの写真がとってもかっこよくて。
ありがとうございました。
今回はどうしてお1人で行かれたんですか?
石川さん
まぁ、卒業試験みたいな感じです。
4、5年、ヒマラヤにずっと通ってきたから、
どれだけ経験値が上がったかなと思って。
20歳の時に1回行ったんですけど、
すごく大変だったんですよ。
────
卒業試験。
石川さん
まわりのみんなに迷惑かけながら登頂したんですけど、
それから18年経って、
どれだけ登れるようになったか、
1人でちょっと試してみようと思って。
そうしたら、けっこう登れたので。
────
よかったです。
こういう斜面はどんな状態なんですか?
石川さん
氷河の上ですね。
氷河は1日に数センチずつ動いていますから、
クレバス(氷河の深い割れ目)も
あちこちにできるんです。
────
はぁ‥‥。危険‥‥。
石川さん
アラスカだから、こういう氷河が多いんですよね。
クレバスなんか極力避けていかないといけない。
────
おそろしくて、想像つかないです。
傾斜だし、氷河が動いてるし‥‥。
そのベースキャンプから戻って来るまでっていうのは、
だいたいどれくらいかかったんですか?
石川さん
ベースキャンプから、頂上行って、ベースキャンプは
うーん‥‥、2、3週間くらいです。
────
いやぁ、すごい。すごすぎる。
じゃあ、卒業検定は無事に?
石川さん
無事です。
────
おめでとうございます!
石川さん
いや、デナリに1人で登るっていうのは、
たぶんみなさんには
わかっていただけないと思うんですけど、
けっこうリスクの大きなことで。
検定的には、じゅうぶん、卒業ですよ。
────
全部がすごすぎて、すごさがわからなくてすみません。
石川さん
デナリへの遠征は「これこそが登山だ」って
言われるんです。
それは、全部自分でやらなきゃいけないから。
荷物を運んで、その荷物の選択から、
天候の読みから、何から何まで
自分でやらなきゃいけない。
登山のあらゆる要素が詰まってる。
────
まさに、卒業検定向けなんですね。
石川さん
ヒマラヤだったら、
シェルパ(ネバールの民族で登山者の荷物を持ったり、
ガイドをしてくれる)の人に手伝ってもらったり、
ヤクという牛に荷物運んでもらったり、
固定ロープを張って、カラビナをかけて、
道を確保しながら登ります。
デナリは、全部自分で決めないとならない。
足りなかったら、苦しむだけ。
でも、いっぱい持ちすぎても苦しむだけ。
いちいち判断が迫られる。
判断が正しくないと登れない山なんです。
植村直己さんとか、名前聞いたことありますよね。
────
はい。
石川さん
植村直己さんが行方不明になって、
いまだに見つかってない山でもあります。
真冬のデナリに登頂後、稜線上で滑落したか
吹き飛ばされてしまったんだと思うんですけれど。
────
そうだったのですか‥‥。
今回は気象的には、恵まれていたんでしょうか?
石川さん
いや、本当に吹き飛ばされるくらいの風も吹いてました。
その時にはもちろん動かない。
慎重に行けばだいじょうぶなんで。
────
木陰に隠れるとか、そういう話じゃないですもんね。
石川さん
さすがに木陰はないですね。
氷河ですから‥‥。
────
非日常の中だからこそ、
自分を保つために工夫されて持ち込む日常的なものって
他にもあるんでしょうか?
石川さん
本であったりとか、お菓子みたいなものでもいいけど、
かなり厳しい現実の中で、
穏やかな日常を思い出すような。
匂いとかもそうですけどね。
────
あぁ。
石川さん
石鹸の匂いとか嗅ぐとやわらぎますね。
いつも実家で使っていた洗剤の匂いとかを嗅ぐと、
なんか日常が、フッと一瞬入ってくるような感じがして、
それはすごくいいですよ。
────
そうか、そうか。スヌーピーに出てくる
ライナスの毛布みたいな。
石川さん
そういう感じです。
遠征中は、枕なんかなくて、
ダウンジャケットとか、
自分の衣類なんかを頭の下に入れて寝るけど、
枕っていうものを持っていくと、
すごく穏やかになりますね。
────
そういうものなんですね。
石川さん
空気で膨らます枕でもなんでもいいんだけれども、
「あ、俺は枕を使って今寝ている」って。
だから、最近枕導入したんですけど。
────
日常感が心のささえになると。
ティーテーブルは、日常に中に置いてあると、
ちょっとへんかもしれないですけど、
非日常的な所に置いたら、
それが意外と日常的なものになったと(笑)。
石川さん
すごく日常でした。
────
おもしろい。うれしいですね。
このプリントされている
「K2」についても教えていただけますでしょうか。
石川さん
たぶんみなさんからしたら
「なんか三角形の山だなぁ」って感じかもしれないけど、
「K2」って言ったら、
ぼくにとっては憧れの山なんですよ。
────
はい。
石川さん
エベレストよりもずっとずっと
かっこいい。
ぼくなんかは、カラコルム山脈のことを
考えると、なんかこう、
「ほわ~ん」ってなるんですよね。
でも、その辺、みなさんはわからないだろうなぁ。
────
形はもちろん、かっこいいと思います。
すっごいかっこいいと思ってます。
石川さん
かっこいいし、とてもむずかしい山なんですよ。
登山が好きな人が、憧れる山でもあって、
一般的には、世界中の山の中で最もむずかしい
などと言われます。
もちろん比べるられるものじゃないですけど。
とにかく、これに登れたら、本当にすごいなあ。と。
────
ゴールだ。
石川さん
で、この写真はK2の麓から撮ったんじゃなくて、
隣のブロードピークっていう山の
6,500メートルくらいの所から撮った、
珍しい写真なんです。
でも、たぶんこれ、
1,000人いたら、985人はわからないけど、
15人くらいはわかると思います。
────
麓から撮ったわけじゃないんですか。
貴重なシーンが、ティテーブルに。
じゃあこの写真は、K2に挑戦した後に
隣のブロードピークに行かれて撮ったんですか?
石川さん
K2には登頂できず、
7,000メートル強の所までいってあきらめました。
でも、戻ってからはもう登れなかったから、悔しくて、
せめて隣の山に登ろうと思って、
ブロードピークに行って。
「K2、やっぱりでけぇなぁ」って撮りました。
────
ここまで行ったら、すごく近そうだけど、
行けないものなんですか?
石川さん
行けなかったんですよね。もうちょっとなんだけど。
ここ。
俺の、すごい大事なものがまだここにあるんですよ。
────
あら。
石川さん
たぶん、まだあるんです、1年経っても。
で、来年もう1回行ったら、取って来ようと思ってて。
ダウンのワンピースを置いて来たんです。
ワンピースっていっても、
女子が着るワンピースじゃないですよ。
────
びっくりしました(笑)。
ツナギみたいなものですね。
それはわざと置いてきたんですか?
石川さん
「デポする」っていって、
そこに置いて、1回戻って、全部エネルギー充電してから
もう1回登ろうと思ってたんです。
で、ここでそれを着て登頂する予定だった。
そうしたら、ルートが雪崩で全部ぶっ壊されちゃって。
────
うわぁ。
石川さん
それで、もう登れなくなっちゃった。
────
その大事なものの場所から頂上は
どれくらいの距離ですか?
石川さん
これは、1日。
‥‥か、まぁ2日だな、1泊2日。
────
うわああああ。
じゃあ、写って?
石川さん
写ってないですよ、さすがに(笑)。
────
もう規模感がわからなくてごめんなさい。
でも、それは引き返して正解だった
ってことなんですよね。雪崩になっちゃったわけだから。
石川さん
そうなんですよ。
無理したら、死んじゃう山なんです。
普通、ちょっとがんばろうとか思うじゃないですか。
でも、ちょっと無理すると、すぐ死んじゃう山だから、
ギリギリの所で決断しないと、
がんばりすぎるとまずいんです。
だって、膝くらいの雪崩でもアウトですから。
その程度の雪崩だったら、
耐えられると思うじゃないですか。結構厳しいですよ。
────
雪崩も、すごいエネルギーなんでしょうね。
斜面の雪自体は
すごくサラッサラに見えるんですけど、
どうなんですか?
石川さん
カチッカチですよ。
────
え(笑)!
石川さん
もうヤスリか? っていうくらい。
思い切り鉄の爪を靴に付けてて、
まぁ普通の雪だったら、ズボッと入るじゃないですか。
────
はい。
石川さん
思い切り蹴りこんでも
あんまり刺さらないくらい硬い場所もあります。
────
ひやあああ。
ちなみにこれは何月くらいのK2ですか?
石川さん
これは7月ですね。去年(2015年)の。
────
もっと白くなるときもあるんですか?
石川さん
もう白くならないです。
雲の上だと、雪は降らないですから。
下から吹き上げてくる雪が付く。
────
そうか。雲の上なんですよね。
石川さん
そうです。
だから、真っ白になることは
ほとんどないんじゃないかな。
────
ということは、雨も降らない?
石川さん
雨はもちろん降らない。
降るとしたら、ベースキャンプで雪が降るけど、
上のほうはもう降らない。風はめちゃくちゃ吹くけど。
────
これくらい高いと、宇宙を感じたりもしますか?
石川さん
8,000メートルくらいまで行って、
空を見上げたら
ぎりぎり成層圏の端っこが見える感じですから、
空が黒っぽく見えるときもあります。濃紺というか。
夜、月がない時には、
星がテニスボールとか
ソフトボールくらいに見えるし。
────
えぇっ?
石川さん
こうやって、ボールが見えるみたいな。
────
ますます、ティーテーブルがよく見えてきました(笑)。
登山は、たのしいですか。つらいですか。
石川さん
つらいのも含めてたのしいんですよ。
とてもとてもぼくにとってはたのしいです。
気持ちが常に揺さぶられる。
────
その中で、ティーテーブルを
これからも活用していただけるとうれしいです。
ありがとうございました。

〈石川さんからお知らせです〉

この夏から秋、
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ぜひ足を運んでみてくださいね。

青森県立美術館10周年記念青森EARTH2016 根と路」
開催期間:~9月25日 (日)
開催場所:青森県立美術館

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開催期間:~10月10日 (月・祝)
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第1回 2016年8月26日(金)18:00ー20:00
会場:斜里町公民館 ゆめホール知床(北海道斜里郡)
第2回 2016年10月23日(日)14:30ー17:30(予定)
会場:ウトロ 知床自然センター(北海道斜里郡)
第3回 2016年12月開催予定
詳細はこちらをご覧ください。

TOBIU CAMP 2016
TOBIU CAMP / 2016年9月10日(土)、11日(日)
飛生芸術祭 / 2016年9月10日(土)~18日(日)
会場:飛生アートコミュニティー校舎と周囲の森 (北海道白老郡白老町)