ほぼ日 | きょうは福井から、わざわざお越しいただいて ありがとうございました。 |
八田 | みなさんが思うよりも、遠くはないんですよ。 3時間半くらいですから。 |
ほぼ日 | いやいや(じゅうぶん遠いのでは‥‥)、 ありがとうございます。 きょうはよろしくお願いします。 |
八田 | よろしくお願いします。 |
ほぼ日 | 八田さんの生地を使ってできた手帳カバー、 レースメッシュです。 |
八田 | いいですね。いやぁ、うれしいです。 |
ほぼ日 | この生地はダブルラッセルという機械で つくられたもので、 もともとは、スポーツシューズに使われる 素材とうかがっています。 |
八田 | そうです。 シューズのアッパー(甲を包む部分)に使われています。 |
ほぼ日 | じつは、スポーツ用のメッシュ素材で ほぼ日手帳のカバーをつくったのは 今回が初めてではなくて、 2010年版でスポーティなイメージの 「スポーツ(オレンジメッシュ)」というのを つくっているんです。 同じダブルラッセルメッシュだったんですが、 それはよそのメーカーさんの生地で、 いま思えば、シンプルなメッシュでした。 |
八田 | わかります。 |
ほぼ日 | そのあとに、2011年のカバーの企画段階で、 マキノコレクションの牧野さんが、 「ダブルラッセルなら、福井に すばらしい技術をもつメーカーさんがいらっしゃる」と、 八田経編さんをご紹介くださったんです。 それはぜひ、と思って、 サンプル帳を見せていただいたら‥‥ものすごかった。 なにがというと、柄のバリエーションが豊富で。 びっくりしました。 |
八田 | そうですか、ありがとうございます。 開発にはひとも時間もずいぶんかけていますが、 とくに意匠性にはこだわって、力を入れてます。 |
▲後日、サンプル帳のなかからいくつかを選び、 試作してもらった生地の一部。 |
|
ほぼ日 | スポーティなものから、 今回のようなフェミニンなタイプのものまで さまざまな柄のメッシュがありましたが、 あれは、すべてスポーツシューズのために 開発されたものなんですか? |
八田 | そうです。 スポーツシューズの分野は、 年間170万メーターの生地の発注をいただいている うちの主力商品のひとつなんです。 |
ほぼ日 | 170万メートル。 (想像がおよんでいない‥‥) |
八田 | 500万足以上のシューズになります。 |
ほぼ日 | 500万足以上! すごい量ですね! (ちょっと想像できた!) もう、ずっと長くスポーツシューズの素材を つくられているんですか? |
八田 | もともと、スポーツシューズのアッパーのメッシュって、 海外生産の生地を使うシューズメーカーさんが多いんです。 うちも、ずっとつくってはいたんですが、 以前はそこまで多くはなくて、 主力として力を入れているのは、2000年以降ですね。 |
ほぼ日 | なるほど。それはなにかきっかけが? |
八田 | 2000年のシドニーオリンピックで マラソンの高橋尚子選手が 金メダルを獲ったときに履いていたのが 大手シューズメーカーさんとうちが コラボしてつくったシューズだったんです。 |
ほぼ日 | それで一気に表舞台に。 |
八田 | 以降、アテネ、北京と、うちが提供した生地のシューズで 活躍されたアスリートのかたが多くいらっしゃいまして。 その後、オリンピック選手のシューズだけでなく、 ある程度ハイクラスのシューズに 多く採用されるようになって、量的にも拡大し、 いまではうちの主力商品のひとつになっています。 |
ほぼ日 | スポーツシューズに使う生地って、 どんな機能が求められるものなんですか? コンマ何秒を競うアスリートは、 シューズの軽さも記録につながる、と うかがったことがありますが。 |
八田 | そうですね。いまおっしゃったように、 とにかく軽いこと。 軽い素材が求められます。 それから通気性が高いこと。 これは、熱を逃がしてムレを防ぐためです。 そして、汗をかくので速乾性があること。 伸縮性がいいこともそうです。 |
ほぼ日 | それって、手帳カバーにとっても とてもうれしい機能です。 軽さなんかはとくに、うれしいですし、 さわり心地もさらりとしていて、 見た目だけじゃなく、涼しげです。 それから、手帳カバーになったときに、 ほかの素材にはない魅力だなと思ったんですが、 クッション性がありますよね。 こう、にぎるとはね返るぐらいの弾力が。 |
八田 | あぁ、そうですね。 これはなぜかというと、 生地が、立体構造になっているからなんです。 だから、単純な編地に比べると、 強度がずっと増していて、 クッション性があります。 |
ほぼ日 | そう! 強度があるというのも、 手帳の素材として大事なポイントなんです。 わたしたち、以前から 「レースの手帳カバーがほしい」という リクエストをユーザーの方々からいただいていて、 いつか実現したいと思っていたんですが、 強度という面で、レースはむずかしかったんです。 だから、このダブルラッセルのサンプルのなかに レース調の生地をみつけたときは、 とてもうれしかったです。 しかも、この生地はほつれにくいんですよね? 1本の糸が切れても、そこからほつれてくることがない。 |
八田 | そう、ほつれにくいです。 絶対にほつれないわけじゃないんですよ。 でも、ほかの生地に比べて、格段にほつれにくいんです。 ダブルラッセルで編んだ経編(タテアミ)は、 組織がひじょうにしっかりしているんです。 |
ほぼ日 | 八田さんの会社名にもなっている「経編」って、 失礼ながら、わたしたち、 ふだんあまり耳にする機会がないんですが、 どういうものなんでしょう。 |
八田 | そうですね。まず、 生地というのは、織物と編物に分類されるんですが、 経編は、編物の一種です。 |
ほぼ日 | なるほど。まず、経編というのは編物だ、と。 |
八田 | で、まず、織物というのは、 経糸(タテ糸)と緯糸(ヨコ糸)を 交差させてつくる生地ですね。 |
ほぼ日 | はい、わかります。 |
八田 | 編物のほうは、さらに 緯編(ヨコアミ)と経編に分類されまして、 緯編というのは、ループがヨコ方向につらなって 編地をつくっていくもので、 1本の糸で編んでいくことができる。 |
ほぼ日 | 手編みのニットがそれですね。 |
八田 | ええ、そうです。それに対して、 経編は、タテ方向に編み上げていくんです。 ヨコ糸がなくて、タテ糸だけで、 タテ方向にループを連続させて編み上げていく。 |
ほぼ日 | タテ糸だけで、編んである。 織物と、手編みみたいな緯編は想像しやすかったんですが、 経編をイメージするのはちょっとむずかしい‥‥。 |
八田 | そうですよね。 こう、タテ糸が3,000本とか4,000本とか並んでいて、 その隣同士の糸をループさせていくんですが、 言葉で説明するのも、なかなかむずかしいですね(笑)。 たとえば、整経(せいけい ※)という工程は、 こんな様子です。 ※整経 編機に均一なテンションで経糸を供給するための準備工程。 一番最初の、重要な工程です。 |
▲整経の工程 |
|
ほぼ日 | おおーっ! 手前にシャーッと出ているのが 糸なんですね。 これが編まれていく‥‥。 |
▲ダブルラッセル機 |
|
ほぼ日 | くわしい仕組みはむずかしそうですが、 ほんのすこし、イメージできてきました。 でも、いま、この生地を見ると、 ヨコ方向にも糸があるように見えて、 ヨコ糸がないというのが不思議で。 |
八田 | ああ、ヨコ糸のように見えているものも、 タテ糸なんですよ。 タテ糸でヨコ糸を補っているんです。 タテ糸だけでループしていっていて、 そのつらなり方がとても複雑なんです。 |
ほぼ日 | そうか、編地が複雑だから、 強度があるんですね。 だから、ほつれにくくもなる。 |
八田 | そうです。 そうすることで強度が増しますし、 寸法の安定性も保たれる。 すべてタテ方向にルーピングしていくことで、 伸縮性も増していきます。 経編は、組織の組み合わせを変えることで さまざまな用途に対応できるんです。 |
ほぼ日 | スポーツシューズの素材以外には、 どんな用途のものをつくられることが多いんですか? |
八田 | もともとは、自動車の内装材、カーシートを メインにつくっていた会社なんです。 80年代は、ほぼ100パーセント、 カーシートでした。 いまは、スポーツシューズの分野ともうひとつ、 衣料が主力になっていますが、どれもすべて、 カーシートで蓄積したノウハウが、 開発のベースになっています。 |
ほぼ日 | なるほど。 |
八田 | 衣料でいうと、きょう、 わたしが着ているジャケットがそうなんですが、 これは、ダブルラッセルで編んだ生地を 2枚にわける、センターカットという技術を用いて つくった生地なんです。 |
ほぼ日 | へええ、それもダブルラッセル。 |
ほぼ日 | ダブルラッセルで編んだ生地が立体構造をもつことは さきほどお話ししましたが、 生地の厚みをセンターでカットすることで、 起毛した、ベロア調の生地ができるんです。 薄い、2ミリほどの厚さの生地を2枚にわける 精度の高いセンターカット技術は、ほかにはない われわれの目玉のひとつでもあります。 |
ほぼ日 | 2ミリの厚さを2枚にわける、すごいですね。 それにしても、ダブルラッセルというのは そうとう幅が広いんですね。 |
八田 | ほかにも建築資材ですとか、いろいろありますが、 どちらかというと、隠れて見えない場所に 使われていることが多いですね。 |
ほぼ日 | 通気性とか、クッション性とか、 ほつれにくいとか、いろんなニーズが ありそうですもんね。 |
八田 | そうだ、「ほつれにくい」ことの見本として ひとつ、もってきたものがあるんです。 ちょっと分野はちがうんですが。 |
ほぼ日 | これは‥‥ |
八田 | 切って使う包帯です。 切って、かぶせて、先っぽをひねって‥‥ そうです、そうです。 |
ほぼ日 | へええ、便利! |
八田 | ワンタッチで使える包帯なんですよ。 |
ほぼ日 | 切りっぱなしでも、ほつれてこないってことですね。 これもダブルラッセル? |
八田 | そうです。 ダブルラッセルというのは、 シューズやいまお話した服地のように 立体構造にもできるし、このように筒状にもできる。 同じ機械で、さまざまな用途に応用できるんです。 |
ほぼ日 | ダブルラッセルって、可能性が幅広いんですね。 シューズ用の生地を見ていても、 いろんなアイテムに使えそうな気がしますが、 これまで、ほかの文房具に使われたことって、 ありますか? |
八田 | いえ、ないです。 |
ほぼ日 | 今回、これで手帳カバーをつくると 初めて聞いたとき、どう思われました? |
八田 | 「やった!」と思いましたね。 |
ほぼ日 | そうですか(笑)。 |
八田 | というのは、わたし、最初のほぼ日手帳を 買ってるんです。 |
ほぼ日 | えっ! 最初のというと、2002年版。 |
八田 | そうです、そうです。 |
ほぼ日 | そうだったんですかぁー、 いや、ありがたいことです。 じゃあ、その頃から「ほぼ日」を 見てくださっていて‥‥? |
八田 | はい。じつは昔から糸井重里さんの大ファンで、 ほぼ日も見てましたし、 さかのぼれば、萬流コピー塾も、 ずっと読んでました。 萬流コピー塾(※)のほうは、 (投稿ハガキを)出そう出そうと思って、 結局出さずじまいでしたが(笑)。 ※萬流コピー塾 糸井重里が1983年から『週刊文春』で連載していた 読者投稿型のコピー講評。 |
ほぼ日 | 10年後、ご自分の工場でつくった生地が ほぼ日手帳のカバーになろうとは、 きっと思いもしなかったですよね。 |
八田 | たしかに(笑)。 |
ほぼ日 | そんなご縁のあるかたとは知らずにいましたが、 あらためてうれしいです。 レースメッシュ、この手触りだとか弾力のある感じとか、 写真だけではお伝えし切れていない部分があると思うので、 これから実際にみなさんに使っていただいて、 どういう感想をいただけるか、たのしみです。 |
八田 | たのしみですね。ありがとうございました。 |
(おわり) |
|
||