ほぼ日手帳2011 spring 春の手帳インタビューまつり!
 


レースメッシュ、 技術の粋を集めたカバー。 〜タテアミひと筋60余年、八田経編の社長に訊く〜  「ほぼ日手帳 2011 spring」で 新たにカバーラインナップに加わったレースメッシュ。 アスリートのスポーツシューズ用に開発された、 「ダブルラッセルメッシュ」という素材を使っています。 軽く、さらりとした手ざわりで、クッション性があり、 涼しげなレースのようでいながら、とっても丈夫。 この生地をつくった八田経編の代表取締役社長、 八田嘉一郎さんにご登場いただいて、 ダブルラッセルメッシュについて、うかがいました。 金メダリストのシューズにも採用されているという 八田経編のダブルラッセルメッシュは、 手帳カバーとしてもうれしい機能が満載でした。
八田嘉一郎さんプロフィール

ほぼ日 きょうは福井から、わざわざお越しいただいて
ありがとうございました。
八田 みなさんが思うよりも、遠くはないんですよ。
3時間半くらいですから。
ほぼ日 いやいや(じゅうぶん遠いのでは‥‥)、
ありがとうございます。
きょうはよろしくお願いします。
八田 よろしくお願いします。
ほぼ日 八田さんの生地を使ってできた手帳カバー、
レースメッシュです。
八田 いいですね。いやぁ、うれしいです。
ほぼ日 この生地はダブルラッセルという機械で
つくられたもので、
もともとは、スポーツシューズに使われる
素材とうかがっています。
八田 そうです。
シューズのアッパー(甲を包む部分)に使われています。
ほぼ日 じつは、スポーツ用のメッシュ素材で
ほぼ日手帳のカバーをつくったのは
今回が初めてではなくて、
2010年版でスポーティなイメージの
「スポーツ(オレンジメッシュ)」というのを
つくっているんです。
同じダブルラッセルメッシュだったんですが、
それはよそのメーカーさんの生地で、
いま思えば、シンプルなメッシュでした。
八田 わかります。
ほぼ日 そのあとに、2011年のカバーの企画段階で、
マキノコレクションの牧野さんが、
「ダブルラッセルなら、福井に
すばらしい技術をもつメーカーさんがいらっしゃる」と、
八田経編さんをご紹介くださったんです。
それはぜひ、と思って、
サンプル帳を見せていただいたら‥‥ものすごかった。
なにがというと、柄のバリエーションが豊富で。
びっくりしました。
八田 そうですか、ありがとうございます。
開発にはひとも時間もずいぶんかけていますが、
とくに意匠性にはこだわって、力を入れてます。

▲後日、サンプル帳のなかからいくつかを選び、
 試作してもらった生地の一部。
ほぼ日 スポーティなものから、
今回のようなフェミニンなタイプのものまで
さまざまな柄のメッシュがありましたが、
あれは、すべてスポーツシューズのために
開発されたものなんですか?
八田 そうです。
スポーツシューズの分野は、
年間170万メーターの生地の発注をいただいている
うちの主力商品のひとつなんです。
ほぼ日 170万メートル。
(想像がおよんでいない‥‥)
八田 500万足以上のシューズになります。
ほぼ日 500万足以上! すごい量ですね!
(ちょっと想像できた!)
もう、ずっと長くスポーツシューズの素材を
つくられているんですか?
八田 もともと、スポーツシューズのアッパーのメッシュって、
海外生産の生地を使うシューズメーカーさんが多いんです。
うちも、ずっとつくってはいたんですが、
以前はそこまで多くはなくて、
主力として力を入れているのは、2000年以降ですね。
ほぼ日 なるほど。それはなにかきっかけが?
八田 2000年のシドニーオリンピックで
マラソンの高橋尚子選手が
金メダルを獲ったときに履いていたのが
大手シューズメーカーさんとうちが
コラボしてつくったシューズだったんです。
ほぼ日 それで一気に表舞台に。
八田 以降、アテネ、北京と、うちが提供した生地のシューズで
活躍されたアスリートのかたが多くいらっしゃいまして。
その後、オリンピック選手のシューズだけでなく、
ある程度ハイクラスのシューズに
多く採用されるようになって、量的にも拡大し、
いまではうちの主力商品のひとつになっています。
ほぼ日 スポーツシューズに使う生地って、
どんな機能が求められるものなんですか?
コンマ何秒を競うアスリートは、
シューズの軽さも記録につながる、と
うかがったことがありますが。
八田 そうですね。いまおっしゃったように、
とにかく軽いこと。
軽い素材が求められます。
それから通気性が高いこと。
これは、熱を逃がしてムレを防ぐためです。
そして、汗をかくので速乾性があること。
伸縮性がいいこともそうです。
ほぼ日 それって、手帳カバーにとっても
とてもうれしい機能です。
軽さなんかはとくに、うれしいですし、
さわり心地もさらりとしていて、
見た目だけじゃなく、涼しげです。
それから、手帳カバーになったときに、
ほかの素材にはない魅力だなと思ったんですが、
クッション性がありますよね。
こう、にぎるとはね返るぐらいの弾力が。
八田 あぁ、そうですね。
これはなぜかというと、
生地が、立体構造になっているからなんです。
だから、単純な編地に比べると、
強度がずっと増していて、
クッション性があります。
ほぼ日 そう! 強度があるというのも、
手帳の素材として大事なポイントなんです。
わたしたち、以前から
「レースの手帳カバーがほしい」という
リクエストをユーザーの方々からいただいていて、
いつか実現したいと思っていたんですが、
強度という面で、レースはむずかしかったんです。
だから、このダブルラッセルのサンプルのなかに
レース調の生地をみつけたときは、
とてもうれしかったです。
しかも、この生地はほつれにくいんですよね?
1本の糸が切れても、そこからほつれてくることがない。
八田 そう、ほつれにくいです。
絶対にほつれないわけじゃないんですよ。
でも、ほかの生地に比べて、格段にほつれにくいんです。
ダブルラッセルで編んだ経編(タテアミ)は、
組織がひじょうにしっかりしているんです。
   
ほぼ日 八田さんの会社名にもなっている「経編」って、
失礼ながら、わたしたち、
ふだんあまり耳にする機会がないんですが、
どういうものなんでしょう。
八田 そうですね。まず、
生地というのは、織物と編物に分類されるんですが、
経編は、編物の一種です。
ほぼ日 なるほど。まず、経編というのは編物だ、と。
八田 で、まず、織物というのは、
経糸(タテ糸)と緯糸(ヨコ糸)を
交差させてつくる生地ですね。
 
ほぼ日 はい、わかります。
八田 編物のほうは、さらに
緯編(ヨコアミ)と経編に分類されまして、
緯編というのは、ループがヨコ方向につらなって
編地をつくっていくもので、
1本の糸で編んでいくことができる。
 
ほぼ日 手編みのニットがそれですね。
八田 ええ、そうです。それに対して、
経編は、タテ方向に編み上げていくんです。
ヨコ糸がなくて、タテ糸だけで、
タテ方向にループを連続させて編み上げていく。
 
ほぼ日 タテ糸だけで、編んである。
織物と、手編みみたいな緯編は想像しやすかったんですが、
経編をイメージするのはちょっとむずかしい‥‥。
八田 そうですよね。
こう、タテ糸が3,000本とか4,000本とか並んでいて、
その隣同士の糸をループさせていくんですが、
言葉で説明するのも、なかなかむずかしいですね(笑)。
たとえば、整経(せいけい ※)という工程は、
こんな様子です。

※整経
編機に均一なテンションで経糸を供給するための準備工程。
一番最初の、重要な工程です。


▲整経の工程
ほぼ日 おおーっ! 手前にシャーッと出ているのが
糸なんですね。
これが編まれていく‥‥。

▲ダブルラッセル機
ほぼ日 くわしい仕組みはむずかしそうですが、
ほんのすこし、イメージできてきました。
でも、いま、この生地を見ると、
ヨコ方向にも糸があるように見えて、
ヨコ糸がないというのが不思議で。
八田 ああ、ヨコ糸のように見えているものも、
タテ糸なんですよ。
タテ糸でヨコ糸を補っているんです。
タテ糸だけでループしていっていて、
そのつらなり方がとても複雑なんです。
ほぼ日 そうか、編地が複雑だから、
強度があるんですね。
だから、ほつれにくくもなる。
八田 そうです。
そうすることで強度が増しますし、
寸法の安定性も保たれる。
すべてタテ方向にルーピングしていくことで、
伸縮性も増していきます。
経編は、組織の組み合わせを変えることで
さまざまな用途に対応できるんです。
ほぼ日 スポーツシューズの素材以外には、
どんな用途のものをつくられることが多いんですか?
八田 もともとは、自動車の内装材、カーシートを
メインにつくっていた会社なんです。
80年代は、ほぼ100パーセント、
カーシートでした。
いまは、スポーツシューズの分野ともうひとつ、
衣料が主力になっていますが、どれもすべて、
カーシートで蓄積したノウハウが、
開発のベースになっています。
ほぼ日 なるほど。
八田 衣料でいうと、きょう、
わたしが着ているジャケットがそうなんですが、
これは、ダブルラッセルで編んだ生地を
2枚にわける、センターカットという技術を用いて
つくった生地なんです。
ほぼ日 へええ、それもダブルラッセル。
ほぼ日 ダブルラッセルで編んだ生地が立体構造をもつことは
さきほどお話ししましたが、
生地の厚みをセンターでカットすることで、
起毛した、ベロア調の生地ができるんです。
薄い、2ミリほどの厚さの生地を2枚にわける
精度の高いセンターカット技術は、ほかにはない
われわれの目玉のひとつでもあります。
ほぼ日 2ミリの厚さを2枚にわける、すごいですね。
それにしても、ダブルラッセルというのは
そうとう幅が広いんですね。
八田 ほかにも建築資材ですとか、いろいろありますが、
どちらかというと、隠れて見えない場所に
使われていることが多いですね。
ほぼ日 通気性とか、クッション性とか、
ほつれにくいとか、いろんなニーズが
ありそうですもんね。
八田 そうだ、「ほつれにくい」ことの見本として
ひとつ、もってきたものがあるんです。
ちょっと分野はちがうんですが。
ほぼ日 これは‥‥
八田 切って使う包帯です。
切って、かぶせて、先っぽをひねって‥‥
そうです、そうです。
ほぼ日 へええ、便利!
八田 ワンタッチで使える包帯なんですよ。
ほぼ日 切りっぱなしでも、ほつれてこないってことですね。
これもダブルラッセル?
八田 そうです。
ダブルラッセルというのは、
シューズやいまお話した服地のように
立体構造にもできるし、このように筒状にもできる。
同じ機械で、さまざまな用途に応用できるんです。
ほぼ日 ダブルラッセルって、可能性が幅広いんですね。
シューズ用の生地を見ていても、
いろんなアイテムに使えそうな気がしますが、
これまで、ほかの文房具に使われたことって、
ありますか?
八田 いえ、ないです。
ほぼ日 今回、これで手帳カバーをつくると
初めて聞いたとき、どう思われました?
八田 「やった!」と思いましたね。
ほぼ日 そうですか(笑)。
八田 というのは、わたし、最初のほぼ日手帳を
買ってるんです。
ほぼ日 えっ! 最初のというと、2002年版。
八田 そうです、そうです。
ほぼ日 そうだったんですかぁー、
いや、ありがたいことです。
じゃあ、その頃から「ほぼ日」を
見てくださっていて‥‥?
八田 はい。じつは昔から糸井重里さんの大ファンで、
ほぼ日も見てましたし、
さかのぼれば、萬流コピー塾も、
ずっと読んでました。
萬流コピー塾(※)のほうは、
(投稿ハガキを)出そう出そうと思って、
結局出さずじまいでしたが(笑)。

※萬流コピー塾
糸井重里が1983年から『週刊文春』で連載していた
読者投稿型のコピー講評。

ほぼ日 10年後、ご自分の工場でつくった生地が
ほぼ日手帳のカバーになろうとは、
きっと思いもしなかったですよね。
八田 たしかに(笑)。
ほぼ日 そんなご縁のあるかたとは知らずにいましたが、
あらためてうれしいです。
レースメッシュ、この手触りだとか弾力のある感じとか、
写真だけではお伝えし切れていない部分があると思うので、
これから実際にみなさんに使っていただいて、
どういう感想をいただけるか、たのしみです。
八田 たのしみですね。ありがとうございました。
  (おわり)

「ほぼ日手帳 2010 spring」で初登場した
メッシュ素材を使った手帳カバーが
この春も登場。
2011年春は、レース柄のフェミニンなカバーに。
女の子らしいさわやかさが、春からの生活に
彩りを与えてくれそうです。
使われているのは「ダブルラッセル・メッシュ」。
通気性、クッション性が高く、肌触りや、
手にしたときのホールド性も抜群です。

2011-01-28-FRI


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