ほぼ日 | 2009年版のTSアロハ、 2010年版のcheater fiveに続いて 今回のドルフィンスルーも 卓さんに手がけていただきました。 |
佐藤卓 | このサーファーが隠れているビジュアルも もう3回目なんですね。 |
▲左から2009年版のTSアロハ、2010年版のTSアロハ(cheater five)、 そして2011年版のドルフィンスルー。 |
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ほぼ日 | はい、早いもので。 あっという間に3回目ですね。 |
佐藤卓 | 毎回、サーフボードの乗りかたを モチーフにしてきましたけど、 毎回、僕ができない乗りかたで(笑)。 |
ほぼ日 | 2009年版はボードの一番前に乗るHang Ten、 2010年版はボードの前に片足の指をかける cheater fiveでしたね。 ということは、このドルフィンスルーも? |
佐藤卓 | そう、いまだにうまくできない、 憧れのワザ(笑)。 |
ほぼ日 | そもそもドルフィンスルーというのは どういうワザなんですか? |
佐藤卓 | ドルフィンスルーは 「ショートボード」と呼ばれる 比較的短いサーフボードに乗るときに使うワザです。 |
ほぼ日 | はい。 |
佐藤卓 | 波に乗るために、サーフボードにうつ伏せで乗って 沖に向かってパドリング(腕で漕ぐこと) するんですけど、 向こうからくる波を越えながら 進まなくてはいけないわけです。 |
ほぼ日 | サーファーが両手で必死に漕いでいる姿、 想像できます。 |
佐藤卓 | それで、波には崩れていない形が整った状態と 崩れた状態があるんですね。 崩れていないときは、 ただパドリングしていれば越えられます。 しかし、崩れているとき、 もしくは崩れかけているときに パドリングのまま突っ込むと 波に巻き込まれてしまうんです。 |
ほぼ日 | へぇー。 |
佐藤卓 | その状態を回避するために ショートボードのサーファーは サーフボードごと、 一瞬波の下に潜って波をやり過ごします。 そのテクニックがドルフィンスルーなんです。 |
ほぼ日 | 一瞬潜って波をやり過ごし、 また浮上する、というわけですね。 |
佐藤卓 | ショートボードに乗る人は、 これを当たり前のように次々にキメて、 沖へ沖へと進んで行きます。 |
ほぼ日 | かっこいい! |
佐藤卓 | でしょ? 僕も最初、 「ドルフィンスルーをキメる姿」にも憧れて、 ショートボードでサーフィンを始めたんですね。 でも、実際にやってみると、 ショートボードはロングボードよりも 浮力が小さくて、乗るのが難しいんです。 あっという間に落とされちゃう。 だから、すぐにロングボードに換えました(笑)。 |
ほぼ日 | 短いからカンタンそうですけど、 そうじゃないんですね。 |
佐藤卓 | ちなみにロングボードで大きな波を回避するには ひっくり返ってやり過ごすという方法と、 ボードをいったん放り投げて波をくぐり、 あとで引き寄せるという方法があります。 |
ほぼ日 | どっちも豪快な方法だ(笑)。 |
佐藤卓 | そういった意味で、ドルフィンスルーは いまでも憧れのテクニックのひとつなんです。 ショートの人には、 あたりまえなんですけどね(笑)。 |
ほぼ日 | なるほど。 |
佐藤卓 | カバーのほうの話に戻ると、 今回は波の下にもぐるテクニックだから 植物も水中の海草があしらってあります。 このあたりは日下部(※)のアイデアですね。 ※日下部昌子さん。 佐藤卓事務所所属の卓さんの 右腕とも言える敏腕デザイナー。 「イーラーショシュ」も彼女の手によるもの。 |
ほぼ日 | やっぱり。 今回は海中のような感じがしてたんですよ。 |
佐藤卓 | サーフィンをやっている僕の熱い部分を サーフィンをまったく知らない日下部が いい感じに中和してくれましたね。 |
ほぼ日 | 卓さんとサーフィンの出会いって いつだったんですか? |
佐藤卓 | 27歳のときですね。 『ビッグ・ウェンズデー』(※)っていう映画で 学生のときにサーフィンにちょっと興味が湧いて、 まだ僕が会社員だったとき、 知り合ったカメラマンの人に 連れて行ってもらったんです。 ※ビッグ・ウェンズデー 1979年製作のアメリカ映画。 伝説の大波「ビッグ・ウェンズデー」に挑む サーファーたちの物語。 |
ほぼ日 | そのときの感覚って覚えてます? |
佐藤卓 | 最初だからボードに寝そべったまま 波を滑り降りるくらいのことしか できなかったんですが、その瞬間に 「なんだこれは!?」という衝撃を受けましたね。 で、「もう1回行きたい」の気持ちで 何度か続けていくうちに、 今度はほんの一瞬だけ立てるようになるんです。 それが「動いている水の上に立つ」という 初めての経験で、えらく興奮するわけですよ。 |
ほぼ日 | うんうん。 |
佐藤卓 | まさか27歳でこんなに感動するものに 出会えるとは思ってもいませんでした。 そのくらい衝撃的なものだったんです。 そしてサーフィンを始めて1年くらいのときに 勤めていた会社辞めました。 |
ほぼ日 | えぇっ?! |
佐藤卓 | 「あいつはサーフィンで会社を辞めた」って 言われました。 |
ほぼ日 | そりゃ、言われますよ‥‥。 |
佐藤卓 | もともと独立しようと思ってたころだったんです。 でも、あながち間違いじゃなくて 独立したいという気持ちを サーフィンが後押ししてくれたのは事実ですね。 |
ほぼ日 | わ、半分本当じゃないですか。 |
佐藤卓 | そう、半分本当。 当時、銀座に会社があったんです。 仕事をしている最中も 「なんで俺はいまここにいるんだろう。 みんないまごろ サーフィンやってるのに」なんて思ったり 銀座の交差点に波が立っているのが 見えたりもしました。 「こういう波が来たら、こう乗る」 みたいなことを 銀座の交差点でシミュレーションしてるんです。 |
▲このくらいの高さの波が来たら、こう乗って‥‥。 |
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▲ぎゅわぁーんってなって。 |
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▲こう! こんな感じなんです。 |
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ほぼ日 | ‥‥。 |
佐藤卓 | ちょうど同じくらいに始めた 資生堂のアートディレクターをやっている 澁谷克彦(※)や ほかのコピーライターたちと よくサーフィンに行ってたんです。 ※澁谷克彦 1957年東京生まれ。 1981年資生堂宣伝部入社。現在に至る。 |
ほぼ日 | はい。 |
佐藤卓 | 彼らといっしょに 銀座でランチしているときなんかに 僕が「ほら、向こうからさ、いい波きてるよ!」 なんて言うと 彼らも「お、ホントだホントだ!」 なんてことを言うわけですよ。 バカですよねぇ〜(笑)。 |
ほぼ日 | (笑)‥‥それはもう、 波が見えているわけですよね。 |
佐藤卓 | どんな景色を見ても 波をダブらせて見るようになっちゃったんです。 それこそ、そこの壁の高さくらいの 波が来たら、こうやってこう乗るな、 とかすぐに想像できるんです。 |
▲このくらいの高さの波が来たら‥‥。 |
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▲こう、乗って‥‥。 |
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▲こうやって‥‥。 |
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▲こう! こんな感じなんです。(日下部さんマジ顔) |
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ほぼ日 | もうそれはかなり‥‥。 |
佐藤卓 | そう、かなり重症だよね(笑)。 でも、ドロップアウトして サーフィンばっかりな人もたくさん見てきたので キチンと仕事をするときは仕事をしていましたよ。 |
ほぼ日 | (ホントかな‥‥。) |
佐藤卓 | 今話してきたとおり、僕にとってサーフィンは 「人生観を変えたもの」なんですが、 こういうことを言っていると、 「佐藤さん、デザインとサーフィン、 どっちが大切なんですか?」って訊かれるんです。 |
ほぼ日 | まさしく、今、それを訊こうと思ってました。 |
佐藤卓 | ハッキリ言って「比べられるものじゃない」です。 デザインというものは第三者のためにすることで そこには相手に伝えるために言語化したり、 意味を込めたりする作業が発生します。 それはすごく大事なことだし、それを仕事にしました。 |
ほぼ日 | はい。 |
佐藤卓 | でも、サーフィンは 言葉も意味も何にもいらないんです。 波とボードと身体があればいい。 無心に波に乗って、ただ楽しむ。 それだけでいいんです。 |
ほぼ日 | あえて言葉で表すとするとどうなります? |
佐藤卓 | そうだなぁ‥‥。 「生きててよかった」、ですかね。 |
ほぼ日 | あぁ、そこまで言い切れるものなんですね。 |
佐藤卓 | そうですね‥‥ うん、やっぱり「生きててよかった」ですね。 |
ほぼ日 | 卓さんにそこまで言わすサーフィンは 卓さんのデザインという仕事に どんな影響を与えていますか? |
佐藤卓 | うーん、よく訊かれるんですが、 サーフィンはサーフィン、デザインはデザイン。 直接には影響はないですね。 ただ、仕事や社会への接しかたは 教えてくれると思うんです。 |
ほぼ日 | と言いますと? |
佐藤卓 | サーフィンって自分が体力がないときに いい波が来たからといって 無理して乗ったりしたら、 死に至る場合もあるんです。 |
ほぼ日 | えぇ?! 恐ろしい‥‥。 |
佐藤卓 | それって仕事も同じじゃないですか。 まわりの状況や自分の調子を読み間違うと 失敗することがあるし、 それがいろいろな意味での 大事故に繋がることもあります。 無理してもしょうがないとか流れを読むとか。 そういうことをサーフィンは教えてくれるんです。 |
ほぼ日 | なるほど。 |
佐藤卓 | だから、そういった意味で 今回のドルフィンスルーも同じです。 人生にも「波をどうかわすか」 みたいな局面ありますよね。 まともに対峙してたらかなわない相手や事象と 向き合わなくちゃいけないとき。 向かわなくちゃいけない相手の状況を 瞬時に把握して、かわしかたを判断、実行する。 |
ほぼ日 | ドルフィンスルーなら、 「相手の影響を受けないところでかわす」ですね。 |
佐藤卓 | そうそう。 こういうふうにサーフィンっていうのは 人生に照らし合わせられるんですよ。 |
(おわり) |
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