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ほぼ日 |
非常に初歩的な質問かもしれないのですが、
万年筆って、どうやってインクを入れるのでしょうか。
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張替 |
大きく分けると、カートリッジを使うタイプと、
瓶のインクを使うタイプに分かれます。
ただ、万年筆って
「どっちかしか使えない」というものもありますけど、
現在販売されているものの多くが「どちらも使える」タイプです。
どちらも使えるものは、
基本的にはカートリッジ式になっているんですが、
ポンプのようにして瓶から吸い上げることもできる、
というスタイルですね。
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ほぼ日 |
瓶のインクとカートリッジと、
どちらがおすすめ、などはありますか?
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張替 |
手頃なのはカートリッジ式ですが、
たくさん量を書かれる方なら、瓶のほうがいいですね。
同じメーカーの同じインクでも、
瓶で買ったほうがずいぶん経済的なんです。
ただ、たっぷり入っているので
けっこう高いと思われるかもしれません。
瓶のインクって通常、日本のメーカーだと
だいたい400~500円とか1000円ぐらいします。
なかには3000円以上するものもあります。
とはいえ、うちにこられるお客さまを見ていると
瓶のインクは、お金をかけても
いいものを買われる方が多いですね。
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ほぼ日 |
インク瓶が並んでいるだけでも、
すごくきれいですしね。
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張替 |
そうなんです。
最近は、瓶そのものの形にも
各社のこだわりがあって、それもおもしろいです。
インテリアみたいですごく素敵ですし、
使い終わったあとで、
何かに使えそうな感じもありますね。
ただし、ちょっと難しいのは、
やっぱり万年筆自体とインクの「相性」ってあるんです。
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ほぼ日 |
ペンとインクの「相性」ですか。
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張替 |
基本的には、どのインクでも
万年筆が駄目になるほどではないんですが、
「合う」「合わない」があるんです。
おのおののメーカーごとに
「たくさんインクを出して書くのがいい」
って考えるところと、
「あまりインクが出過ぎず、乾きやすいのがいい」
と考えるところがあるんです。
それによって、インクがドロっとしているか、
さらっとしているか、違うんです。
そして、ペン芯のインクを取り込む大きさも
インクの粘り具合に合わせて作られているんです。
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ほぼ日 |
色だけで選ぶと書きにくい、みたいなことがあるんですか。
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張替 |
多々あると思いますね。
「書きにくい」まで行かなくても、
メーカーを変えると
書き味が変わる、というのは往々にしてありますね。
そしてこれは、
インクの色見本なんですが‥‥。
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ほぼ日 |
すごい数ありますね。
そして、意外とカラフルですね。
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張替 |
そうなんですよ。
最近、いろんな色で書くことをたのしんでいる方が、
すこしずつ増えてきています。
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ほぼ日 |
‥‥あ、ブルーブラック。
なんだか万年筆っぽいイメージがあります。
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張替 |
はい。ブルーブラックは
いちばん万年筆らしいインクの色と言っても
いいと思います。
ボールペンにはない色なので、
この色を使うと万年筆で書いたことが
わかりやすいんです。
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ほぼ日 |
「青」もずいぶん多いですね。
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張替 |
そうですね。「青」は各社で出されています。
青のインクって書き味が滑らかで、
文字に濃淡も出るので、
私どもでも試し書きは「青」にすることが多いです。
汚れが洗い落としやすいというのもありますね。
そういうことも含めて、青はとてもいい色なので、
けっこうおすすめです。
温かみが出るので、手紙などにもいいと思います。
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ほぼ日 |
万年筆って、持つ角度を気にしたりとか、
書いた後で乾かす時間が必要とか、
普通のペンに比べて、ややめんどうじゃないですか。
だけどみんな、やっぱり、
「万年筆を使ってみたいな」という
とくべつな「あこがれ」がある気がするんです。
その理由って‥‥張替さんはなぜだと思いますか?
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張替 |
うーん(笑)。
どうでしょう、それは、結局のところ
「好きだから」
ということのような気がしますね。
たとえば時計にこだわる人、いますよね。
1000円の時計を選ぶ人もあれば、
人によっては、100万円とか
もっと高いものをする方もいるじゃないですか。
ただ、時間を見るには関係ないですよね。
時間だけなら、電波時計のほうが狂わないだろうし。
だけどそれを「選ぶ」というのは、
やっぱり「好きだから」という気がします。
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ほぼ日 |
ああ、「好きだから」。
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張替 |
あと「自分らしいものを持つとうれしい」
というもあるかもしれません。
時計にしても、
みんながみんな同じものをつけていたら、
面白くないじゃないですか。
金額は別として、
「私はこのデザインが好きだからしてる」
人も多いですよね。
きっとそれと同じで、すこしかっこつけていうと、
「その人の個性を引き立てるアイテムのひとつ」
ということかもしれません。
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ほぼ日 |
万年筆で書くと、文字自体も、
それぞれの人の個性が出やすいものですか?
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張替 |
それはそうですね。
万年筆で書くと、ボールペンよりもずっと
文字に個性が出やすいと思います。
万年筆でほかの人が書いた文字の真似をして、
同じように書くのって、すごく難しいんです。
たとえば、力をどのくらいかけるかで、
同じ万年筆を使っても、線がまったく変わってきます。
書いてみますね。
‥‥こちら、力加減を変えているだけなんですが。
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(手前のうっすらとした線が力を入れずに書いたもの。
中央の濃い線が力を入れて書いたもの) |
ほぼ日 |
あ、ほんとだ。
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張替 |
こちら、ペン先は同じ「細字」なんですけど、
力を入れないと、すごく細い線、
力を入れると、すごく太い線になります。
またペン先がやわらかいものだと
より表情が出ます。
ペン先にインクが付いてきて、
最後に残るみたいな感覚があるんです。
ボールペンだとそういうことってないですから。
‥‥あと、書き味の話ではないんですが、
お客さんからわりとよく聞くのは、
万年筆を使っていると、
そのことで自分を覚えてもらえたり、
話のきっかけになったりするんだそうです。
ビジネスの商談なんかで役に立つ、というのは
ずいぶん言っていただくんですよ。
外国の方なんかだと、
意識的にそういうことをするって聞きますね。
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ほぼ日 |
張替さんが万年筆をおすすめするときに、
心がけていらっしゃることって、何かありますか?
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張替 |
心がけていること‥‥そうですね、
私のすごく個人的なイメージなんですが、
野球チームでも、もしユニフォームがダサくても、
そのチームがすごく強いと
カッコよく見えてくることってあるじゃないですか。
だから、それと一緒で万年筆でも、
最初はぜんぜんいいと思わなかった見た目でも、
すごく書きやすいと、
どんどんカッコよく見えてきたりするんですよ。
そういうこともあって、
売り場では、ほんとうにその人に合った機能のものを
ご紹介できたらな、と思っていますね。
そうしたら、そこから
すべてが好きになるじゃないですけど、
万年筆を好きになって、
とても大事に使ってもらえるんじゃないかなって
思うんです。
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ほぼ日 |
それは、いいですね。
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張替 |
まあ「好きな使い心地」って、
ほんとうに人それぞれなので、
しっくりくるものに1発目で当たらないことも
やっぱりあるとは思うんですけど。
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ほぼ日 |
さいごにおさらいのようですが、
今回の記事を見て、
いままでまったく万年筆のことを知らなかったけど、
使いたくなった人は、
まず、何からはじめたら良いんでしょうか。
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張替 |
はい。まずは、お店に行って、
いろんな万年筆を見て、
一本選んでいただけたら、それでいいと思います。
インクとか、付属品もいろいろありますけど、
それはペンを買ってから、
必要なときに追加で買うのでいいと思います。
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ほぼ日 |
どんなお店がおすすめですか?
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張替 |
なるべくたくさんの品数があって、
店員さんがある程度、
たくさんのお客さまに接してこられてるお店が
いいと思いますね。
これは運ですけど、
自分の好みと合う店員さんに合うと
すごくいいんですよ。
ぼくも「この人と自分は好きなものが近いな」
ということが、ときどきあるんです。
そういう人と会えると、いちばんいいですけどね。
次にお店を訪れたときにも
「きっとこういうのを探しているのでは」
というのが伝わりやすいですし。
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ほぼ日 |
なるほどです。
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張替 |
あと、お店に行ったときに
「試し書き」は必ずしてもらったほうがいいです。
ケースから出してもらって試したとしても、
必ず買わなきゃいけないということはないので、
気にせず試したほうがいいと思います。
ぴったりくるものに出会っていただいて、
そこから万年筆を好きになってもらえるほうが
売っているほうとしても嬉しいですから。
自分が欲しいものが見つかるまで、
じっくり探してみてもいいと思います。
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ほぼ日 |
定番ものやロングセラー商品というのは
やっぱりいいんでしょうか。
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張替 |
それは、すごくいいと思います。
たとえば一つのメーカーの中で
古くからずっと出てる商品ってあるんですね。
たとえばモンブランだと「マイスターシュテック」、
ペリカンだと「スーベレーン」。
こういった長く出ている商品というのは、
やっぱりすごく質の高いものなんですよ。
だから、それぞれのメーカーのそうしたものを
試し書きしてもらってもいいと思いますね。
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ほぼ日 |
長く残ってるということには、
きっと理由があるんでしょうね。
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張替 |
そうだと思います。
あと、今よりも昔のほうが確実に、
人々がたくさん字を書いていたと思うんです。
だから昔にできた製品というのは、
その「たくさん字を書く状況」に
対応したつくりになっているはずなんです。
ほんとうに「書くこと」に特化した
つくりになっているし、
売り上げも今の比ではないですから、
おそらく開発費をたくさん
つぎ込んでいたはずなんですよ。
だから正直なところ、ぼくはそういう時代のほうが、
いい万年筆を作ってたんじゃないかと思います。
ほんとうに万年筆のことを知り尽くした人が
作ってたって、ぼくは思ってるんですけど。
いま、いちから万年筆の新しい型を起こして
設計をして作るということは、
おそらく、かなり難しいんです。
だから、昔から出てる商品というのはすごくオススメです。
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ほぼ日 |
最後に、今日はぼくたちが作っている
「ほぼ日手帳」を持ってきたんですけど、
この手帳と万年筆との相性って、どうなんでしょう?
紙は「トモエリバー」というものなんですが。
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張替 |
あ、「トモエリバー」ですか。
それならば、すごく万年筆に合ってる感じはしました。
じつは、伊東屋オリジナルの手帳が
同じ紙を使ってるんですが、
万年筆を使っても書きやすいんです。
厚みがすごくある紙ではないですが、
裏写りがしにくくて、滑りがよくて、いいと思いました。
「向いている」と言ってもいいと思いますよ。
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ほぼ日 |
じつは、書いたときに表面にインクが残るので、
向いてないのかな、と思っていたんです。
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張替 |
ああ。それはそうかもしれないですね。
ただ万年筆だと、
それはどうしても他の紙でもあるにはあるので、
しょうがないかなとは思いますけど。
気になる方は、吸い取り紙を使っても
いいかもしれませんね。 |