「ほぼ日」乗組員の手帳・2014
ことしの手帳、決まりましたか? 今日は、迷っているかたや、 これから決めようとしている方の参考になればと、 「ほぼ日」の乗組員6名に聞いた 「ことし選んだ手帳」と「その理由」をご紹介します。 10年近く使っている乗組員も多いせいか、 ずいぶん変わった選び方も多いですが、 例のひとつとして、選ぶときの参考になればうれしいです。
ほぼ日 高山さん、こんにちは。
今日はよろしくお願いします。
高山 こちらこそ、よろしくお願いします。
ほぼ日 今日は「手書き」をテーマに
お話をお聞きできたらと思ってやってきました。
ぼくらは「ほぼ日手帳」という
1日1ページのオリジナルの手帳を作っているのですが、
今年は大事なテーマのひとつとして
「手で書くこと」に着目しています。
それで、チームで話をしているときに
「料理家の方は、どんなふうにメモをつけているのだろう」
という話になったんですね。
そのとき、高山さんのこちらの本のことを
思い出したんです。
高山 はい、『チクタク食卓』ですね。
ほぼ日 ええ。高山さんが1年間かけて
写真とメモで記録された家でのごはんを、
まとめられた本ですけど、
ほかの人の手帳をのぞかせてもらっているような
感覚があって、おもしろくて。
本にはところどころ、手書きのメモのまま
掲載されている部分もあるし、
きっと「手書き」じたいをけっこう
好きな方なのではないかと思ったんです。
高山 はい、「手書き」好きですよ。
この『チクタク食卓』という本も、
もともとは無地のノートに手書きで、
こんなふうにメモしておいたものなんです。
ほぼ日 わぁ、この段階ですでにおもしろいです。
高山 本では読みやすいように文字をフォントにしたり、
撮っておいた写真を組み合わせたりしていますが、
本のおおもとは、このノート。
家で食べたものや、おいしくできたときの作り方を、
毎日ここに、どんどん書きつけておいたんです。
ほぼ日 リアルな記録のせいか、すごく読みがいがありました。
ただ、こんなふうに1年間毎日、
食べたごはんの記録を徹底的にとり続けるというのは、
かなりたいへんだったのはないでしょうか。
高山 ときどき記録するのを忘れそうになったり、
たいへんだったりしたときも、もちろんあります。
ですが続けるうちに、
なんだか癖のようになっていました。
ほぼ日 本を読むと、高山さんの家でのごはんが
毎日ごちそうばかりではなく、
質素な日も混じっていたりするのが、
おもしろかったです。
高山 こういった記録って、嘘をついてしまうと
自分にとっても読む人にとっても
おもしろくなくなるから、
とにかくぜんぶ、正直に書くようにしたんです。
撮影の残り物やスーパーのお惣菜を食べている日も、
インスタントラーメンを食べている日もありますし。
ほぼ日 毎日ずっと記録をし続けたことで、
気づいたことや感じたことってありますか?
高山 一週間くらい前に食べたものって、
普通は忘れていたりしますよね。
だから「あ、先週こんなものを食べてたんだ」
といったことは、よくありました。

あと、家のごはんって、
そのときどきで、自分のなかの流行があるんですよね。
フランスに旅行したあとは
ヨーロッパふうの料理が多くなっているし、
ジャガイモがテーマの本を作っていた頃には、
毎日、食卓にジャガイモ料理が並んでいたりする。
そういった、自分では意識してなかった
大きな流れが見えるのも、おもしろかったです。
ほぼ日 高山さんは今も毎日、
ごはんの記録をつけられていますか?
高山 今は、毎日の記録はしていないんです。
自分のホームページの日記に、週に1度か2度、
その日食べたものを書いておくくらい。
ただ、2年ほど前、
ある本に影響を受けて、また違ったかたちで
家のごはんを記録していたことがあります。
‥‥こちらの本ですね。
ほぼ日 『沢村貞子の献立日記』
女優であり、文筆家でもあった沢村貞子さんの本。
高山 この本の著者のひとり、
高橋みどりさんからもお聞きしたのですが、
沢村さんは、長年にわたって日々の献立を、
大学ノートに記録しつづけていたそうなんです。
たしか27年間で、ノート36冊分とか。
ほぼ日 27年間の記録、ですか。
高山 そう、すごいですよね。
そして、この本には沢村さんのノートの中身が
写真で載っているのですが、
その感じがとても実感に訴えるというか。
これを見ているだけで、にやにやしてしまって。
ほぼ日 あぁ、いいですね。
高山 献立もなんというか、つつましく落ち着いていて、
とてもおいしそうだし、
老夫婦ふたりの豊かな食卓という感じが
伝わってくるようで、あこがれてしまいます。
手書きの料理名が並んでいるだけなのに、
季節の移り変わりも肌に伝わってくる。
それでわたしも一時期、
沢村さんのノートの形式を真似して
記録をつけていたんです。
ほぼ日 3列に分けられていて、左に日付と天気、
メインの真ん中は夕ごはんで、
一番右の列に、朝と昼の食事。
‥‥おもしろいです。
見ていると、ついついずっと読んでしまいますね。
高山 ごはんの記録って、おもしろいですよね。
それぞれの人の癖みたいなものも
ずいぶん出ますし。
ほぼ日 高山さんはふだんから、ちょっとしたメモなども
よくされていますか?
高山 けっこうしていますよ。
たとえばこの日は、冷蔵庫に塩サバがあったんです。
だけどその日はなんだか
「塩サバを焼いて大根おろし」という気分じゃなかった。
しかも、麦入りのバターライスがあったので、
「こりゃ洋風にしよう」と思ったんですね。
そしてちょうど、ヨーグルトの
水切り実験をしておいたものがあったので、
それをちょっと添えてみたら、
隠し味にしょうゆをかけたんですけど、
なんだか北欧風だかギリシャ風だか、
ヨーロッパ風の味になった‥‥という記録です。
ほぼ日 聞いているだけでイメージが浮かんできて、
おいしそうです。
高山 メモってちょっと書いておくと
そのときのシーンまで思い出せるんですよね。
ほぼ日 高山さんは、たくさん料理の本を出されていますが、
そうした料理本を作るときにも、
「手書き」を活用されていますか?
高山 はい、メモを使ってなにかを考えたり、
頭を整理したり、よくしていますよ。

たとえばこれは最近作った料理本の、
初期段階のアイデアメモです。
ほぼ日 すみずみまで、びっしり書いてあります。
高山 当時はいつもこのメモ帳を持ち歩いて、
何か思いついたら
すぐに書けるようにしていたんです。
書きなぐってありますけど、
はじめて出てきたものだから、ことばの勢いがあって、
けっこうそのまま本にいかしています。
ただ、真夜中に寝ているときにアイデアを思いついて、
何も見えないままメモして、
文字が重なっちゃってるページがあったりします(笑)。
ほぼ日 (笑)
高山 そして、同じ料理本のメモですが、
これは、わりと本ができあがってきた頃のもの。
本に掲載するメニューをずらっと描きだして、
頭を整理したものなんです。
ほぼ日 あ、もう、ずいぶん形になってますね。
イラストがあるのも、おいしそうです。
高山 わたしにとってはこういったイラストも
メモとして、大切な一要素なんです。
簡単なものだけど、書いておくと
いろんなことを整理しやすくなるんですよね。
考えのすじみちや、
なりたちが見えてくるというか。
ほぼ日 たしかにこれが文字だけだったらと思うと、
印象がまったく変わりますね。
高山 そして、これは別の本のときのメモですが、
料理の撮影用に、本に載せるメニューを
ずらっと書き出したものです。
撮影のときに、これを壁に貼って、
作り終えたものに印をしていたりしました。
ほぼ日 わ、これもおもしろいです。
‥‥もしかして、書いているこの紙は、
封筒をひらいたものですか?
高山 はい、そうなんです、
雑誌が送られてきたときの封筒です(笑)。
わたし、こういうものに書くのが好きなんですね。
耳の部分がひろびろとしていて、
なんだか自由な感じもあるし。
これは、わたしの脳みその中にある地図なので、
面積が広いほどいいんです。
ほぼ日 たしかにメモって、
こういった紙に書いてもいいんですよね。
高山 そう、ノートやメモ帳だけじゃなくてね。

そして最後に、これはいちばん最近作った本のもので、
一緒に料理本を作ってくれた
編集者さんの手書きのノートです。
ほぼ日 わぁ、すごい量のふせん(笑)。
高山 撮影のときに編集者さんがその場で、
わたしが話したことを
ぜんぶ書き取っておいてくれたノートです。
ふせんに料理の名前が書いてあって、
それぞれの料理のページをすぐ引けるようになっています。
もう本は完成しているけれど、
このノートはもったいなくて捨てられないです。
ほぼ日 そして、そうしたいろんなメモを経た上で、
本ができあがっているんですね。
高山 ええ。いまお見せしたメモは、
この『料理=高山なおみ』という本を
作ったときのものですが、
とちゅうの手書きのいろんなメモがなければ、
おそらく本ができていないと思います。

「手書き」って、おもしろいですよね。
いろんなことを考える基本でもあるし、
見返すことで、いろんなことを思い出したりもできる。
パソコンがいくら普及しても
「手書きの良さ」はまったくなくならない、
という気がします。

(つづきます。)
2014-04-15-TUE