ほぼ日 |
高山さん、こんにちは。
今日はよろしくお願いします。
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高山 |
こちらこそ、よろしくお願いします。
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ほぼ日 |
今日は「手書き」をテーマに
お話をお聞きできたらと思ってやってきました。
ぼくらは「ほぼ日手帳」という
1日1ページのオリジナルの手帳を作っているのですが、
今年は大事なテーマのひとつとして
「手で書くこと」に着目しています。
それで、チームで話をしているときに
「料理家の方は、どんなふうにメモをつけているのだろう」
という話になったんですね。
そのとき、高山さんのこちらの本のことを
思い出したんです。
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高山 |
はい、『チクタク食卓』ですね。
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ほぼ日 |
ええ。高山さんが1年間かけて
写真とメモで記録された家でのごはんを、
まとめられた本ですけど、
ほかの人の手帳をのぞかせてもらっているような
感覚があって、おもしろくて。
本にはところどころ、手書きのメモのまま
掲載されている部分もあるし、
きっと「手書き」じたいをけっこう
好きな方なのではないかと思ったんです。
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高山 |
はい、「手書き」好きですよ。
この『チクタク食卓』という本も、
もともとは無地のノートに手書きで、
こんなふうにメモしておいたものなんです。
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ほぼ日 |
わぁ、この段階ですでにおもしろいです。
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高山 |
本では読みやすいように文字をフォントにしたり、
撮っておいた写真を組み合わせたりしていますが、
本のおおもとは、このノート。
家で食べたものや、おいしくできたときの作り方を、
毎日ここに、どんどん書きつけておいたんです。 |
ほぼ日 |
リアルな記録のせいか、すごく読みがいがありました。
ただ、こんなふうに1年間毎日、
食べたごはんの記録を徹底的にとり続けるというのは、
かなりたいへんだったのはないでしょうか。
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高山 |
ときどき記録するのを忘れそうになったり、
たいへんだったりしたときも、もちろんあります。
ですが続けるうちに、
なんだか癖のようになっていました。
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ほぼ日 |
本を読むと、高山さんの家でのごはんが
毎日ごちそうばかりではなく、
質素な日も混じっていたりするのが、
おもしろかったです。
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高山 |
こういった記録って、嘘をついてしまうと
自分にとっても読む人にとっても
おもしろくなくなるから、
とにかくぜんぶ、正直に書くようにしたんです。
撮影の残り物やスーパーのお惣菜を食べている日も、
インスタントラーメンを食べている日もありますし。
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ほぼ日 |
毎日ずっと記録をし続けたことで、
気づいたことや感じたことってありますか?
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高山 |
一週間くらい前に食べたものって、
普通は忘れていたりしますよね。
だから「あ、先週こんなものを食べてたんだ」
といったことは、よくありました。
あと、家のごはんって、
そのときどきで、自分のなかの流行があるんですよね。
フランスに旅行したあとは
ヨーロッパふうの料理が多くなっているし、
ジャガイモがテーマの本を作っていた頃には、
毎日、食卓にジャガイモ料理が並んでいたりする。
そういった、自分では意識してなかった
大きな流れが見えるのも、おもしろかったです。
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ほぼ日 |
高山さんは今も毎日、
ごはんの記録をつけられていますか?
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高山 |
今は、毎日の記録はしていないんです。
自分のホームページの日記に、週に1度か2度、
その日食べたものを書いておくくらい。
ただ、2年ほど前、
ある本に影響を受けて、また違ったかたちで
家のごはんを記録していたことがあります。
‥‥こちらの本ですね。
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ほぼ日 |
『沢村貞子の献立日記』。
女優であり、文筆家でもあった沢村貞子さんの本。
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高山 |
この本の著者のひとり、
高橋みどりさんからもお聞きしたのですが、
沢村さんは、長年にわたって日々の献立を、
大学ノートに記録しつづけていたそうなんです。
たしか27年間で、ノート36冊分とか。
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ほぼ日 |
27年間の記録、ですか。
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高山 |
そう、すごいですよね。
そして、この本には沢村さんのノートの中身が
写真で載っているのですが、
その感じがとても実感に訴えるというか。
これを見ているだけで、にやにやしてしまって。
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ほぼ日 |
あぁ、いいですね。
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高山 |
献立もなんというか、つつましく落ち着いていて、
とてもおいしそうだし、
老夫婦ふたりの豊かな食卓という感じが
伝わってくるようで、あこがれてしまいます。
手書きの料理名が並んでいるだけなのに、
季節の移り変わりも肌に伝わってくる。
それでわたしも一時期、
沢村さんのノートの形式を真似して
記録をつけていたんです。
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ほぼ日 |
3列に分けられていて、左に日付と天気、
メインの真ん中は夕ごはんで、
一番右の列に、朝と昼の食事。
‥‥おもしろいです。
見ていると、ついついずっと読んでしまいますね。
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高山 |
ごはんの記録って、おもしろいですよね。
それぞれの人の癖みたいなものも
ずいぶん出ますし。
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ほぼ日 |
高山さんはふだんから、ちょっとしたメモなども
よくされていますか?
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高山 |
けっこうしていますよ。
たとえばこの日は、冷蔵庫に塩サバがあったんです。
だけどその日はなんだか
「塩サバを焼いて大根おろし」という気分じゃなかった。
しかも、麦入りのバターライスがあったので、
「こりゃ洋風にしよう」と思ったんですね。
そしてちょうど、ヨーグルトの
水切り実験をしておいたものがあったので、
それをちょっと添えてみたら、
隠し味にしょうゆをかけたんですけど、
なんだか北欧風だかギリシャ風だか、
ヨーロッパ風の味になった‥‥という記録です。
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ほぼ日 |
聞いているだけでイメージが浮かんできて、
おいしそうです。
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高山 |
メモってちょっと書いておくと
そのときのシーンまで思い出せるんですよね。
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ほぼ日 |
高山さんは、たくさん料理の本を出されていますが、
そうした料理本を作るときにも、
「手書き」を活用されていますか?
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高山 |
はい、メモを使ってなにかを考えたり、
頭を整理したり、よくしていますよ。
たとえばこれは最近作った料理本の、
初期段階のアイデアメモです。
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ほぼ日 |
すみずみまで、びっしり書いてあります。
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高山 |
当時はいつもこのメモ帳を持ち歩いて、
何か思いついたら
すぐに書けるようにしていたんです。
書きなぐってありますけど、
はじめて出てきたものだから、ことばの勢いがあって、
けっこうそのまま本にいかしています。
ただ、真夜中に寝ているときにアイデアを思いついて、
何も見えないままメモして、
文字が重なっちゃってるページがあったりします(笑)。
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ほぼ日 |
(笑)
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高山 |
そして、同じ料理本のメモですが、
これは、わりと本ができあがってきた頃のもの。
本に掲載するメニューをずらっと描きだして、
頭を整理したものなんです。
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ほぼ日 |
あ、もう、ずいぶん形になってますね。
イラストがあるのも、おいしそうです。
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高山 |
わたしにとってはこういったイラストも
メモとして、大切な一要素なんです。
簡単なものだけど、書いておくと
いろんなことを整理しやすくなるんですよね。
考えのすじみちや、
なりたちが見えてくるというか。
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ほぼ日 |
たしかにこれが文字だけだったらと思うと、
印象がまったく変わりますね。
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高山 |
そして、これは別の本のときのメモですが、
料理の撮影用に、本に載せるメニューを
ずらっと書き出したものです。
撮影のときに、これを壁に貼って、
作り終えたものに印をしていたりしました。
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ほぼ日 |
わ、これもおもしろいです。
‥‥もしかして、書いているこの紙は、
封筒をひらいたものですか?
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高山 |
はい、そうなんです、
雑誌が送られてきたときの封筒です(笑)。
わたし、こういうものに書くのが好きなんですね。
耳の部分がひろびろとしていて、
なんだか自由な感じもあるし。
これは、わたしの脳みその中にある地図なので、
面積が広いほどいいんです。
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ほぼ日 |
たしかにメモって、
こういった紙に書いてもいいんですよね。
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高山 |
そう、ノートやメモ帳だけじゃなくてね。
そして最後に、これはいちばん最近作った本のもので、
一緒に料理本を作ってくれた
編集者さんの手書きのノートです。
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ほぼ日 |
わぁ、すごい量のふせん(笑)。
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高山 |
撮影のときに編集者さんがその場で、
わたしが話したことを
ぜんぶ書き取っておいてくれたノートです。
ふせんに料理の名前が書いてあって、
それぞれの料理のページをすぐ引けるようになっています。
もう本は完成しているけれど、
このノートはもったいなくて捨てられないです。
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ほぼ日 |
そして、そうしたいろんなメモを経た上で、
本ができあがっているんですね。
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高山 |
ええ。いまお見せしたメモは、
この『料理=高山なおみ』という本を
作ったときのものですが、
とちゅうの手書きのいろんなメモがなければ、
おそらく本ができていないと思います。
「手書き」って、おもしろいですよね。
いろんなことを考える基本でもあるし、
見返すことで、いろんなことを思い出したりもできる。
パソコンがいくら普及しても
「手書きの良さ」はまったくなくならない、
という気がします。
(つづきます。) |