高山 |
「手書き」ということでいえば、
このメモもうれしかったんです。
友人が、韓国のおみやげの干しダラの袋に
一緒に入れておいてくれたメモ。
「こうやって食べるとおいしいよ」という、
おすすめのスープの作り方が書いてあります。
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ほぼ日 |
あ、こういうの、うれしいですね。
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高山 |
そうなんです。
もらった干しダラはもう使いきっちゃったけれど、
このメモは大切にとってあります。
料理本にあるようなレシピではないけれど、
「クツクツ煮て」とか、
これだけで火加減や鍋の中の様子がわかる。
このスープは実際に何回も作ったんだけど、
ほんとうにおいしくて。
わざわざ書いてくれたことも、うれしかったですし。
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ほぼ日 |
高山さんのおうちには
そういった、いろんな方からのちょっとしたメモが
たくさん壁に貼ってありますね。
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高山 |
そうですね。
友人が旅先からくれたポストカードもあるし、
友人の子どもたちが書いてくれた
ちょっとした落書きのようなものもあります。
もらってうれしかったから、
すぐ見られる場所に貼っておきたくなるんですよね。
そういえば、仕事場のパソコンの横の壁にも
たくさんメモを貼っていますよ。
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ほぼ日 |
そちらも見せていただくことはできますか?
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高山 |
雑然としていますが、よかったら。
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ほぼ日 |
わぁ‥‥この壁の感じも、かっこいいです。
さきほど見せていただいたものより、
高山さん自身の手書きのメモが多い気がします。
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高山 |
感覚的に貼っているだけなのですが、
おそらくここには、
「まだ自分の頭の中に入りきっていなくて、
もっと自分にしみこませたいこと」を
貼っている気がします。
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ほぼ日 |
たとえば、どんなものがあるのでしょうか。
‥‥そちらの貼っているメモとか。
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高山 |
これは、ブックデザイナーの祖父江(慎)さんが
うちに来てくださったときのメモです。
祖父江さんがそのとき
「『死んでる』のか『生きてる』のか
わからないような、
曖昧なところ、うまくいかないところを
大切にしている」
というようなことを話されていたんですね。
それを、祖父江さんが話しているシーンごと
覚えておきたくて、いそいで書いたんです。
お酒を飲んでいて文字がふらふらしていますけど、
忘れたくないから、いっしょうけんめい(笑)。
祖父江さんのことばを、声ごと残しておきたかったから。
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ほぼ日 |
たしかに酔っていても、こうやって書いておけば
あとで思い出すきっかけを作れますね。
‥‥料理のメモも、けっこうありますね。
「煎酒(いりざけ)」とか「しょうが焼き」とか。
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高山 |
そうですね、それぞれ作りたくなったら、
この壁まで見にくるんです。
「しょうが焼き」のメモは、
とくにおいしくできたときの分量を書いたもの。
しょうが焼きって日常的に作るから、
ここにあると、すぐ確認できて便利というか。
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ほぼ日 |
この壁のメモは、
よく貼りかえたりもされますか?
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高山 |
年に1度、年末の大掃除のときに、
「これは自分の中に入ったな」ということは外します。
だけど、そのくらいです。
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ほぼ日 |
いや、おもしろいです。
ついつい、ずっと見てしまいます。
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高山 |
(部屋に戻って)
わたしが使っている「手書きのメモ」には
こんなのもあります。
これは、ウズベキスタンに出かけたときに
一緒に持っていったノートです。
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ほぼ日 |
はい、「ウズベキ日記」。
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高山 |
わたし、旅行に出かけるときによく、
こうしたノートに日記をつけるんですね。
‥‥あ、中身も見て大丈夫ですよ。
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ほぼ日 |
ちょっとしたイラストのようなものがあったり、
チケットを貼っているページがあったり。
旅行の感じがすごく伝わってきて、たのしいです。
ぼくらが作っている「ほぼ日手帳」と
サイズがけっこう近いせいもあるのか、
なんだか似た雰囲気も感じます。
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高山 |
旅行のときの日記は、このサイズのノートに
書いていることが多いかもしれません。
なんだろう、持って歩くのにも
ちょうどいいサイズですよね。
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ほぼ日 |
ええ、そんなにかさばらないですし。
(書かれているメモを読む)
「牛の足とか、毛を剃って食べると
とてもおいしいです」
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高山 |
はい、そんなのもあったりします(笑)。
それは通訳さんが言ったことばなんですが、
わたしは「人が話した言葉をそのまま記録したい」
と、いつも思うんですよ。
こうやって書いておくだけで、状況がぱっと浮かぶし、
字を見ると、
イントネーションや声の感じまで思い出します。
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ほぼ日 |
たしかにメモって、そのときの空気まで
思い出しやすくなりますね。
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高山 |
実は、このときのウズベキスタン旅行は
いま『考える人』という雑誌で
連載させてもらっているものなんですね。
「武田百合子さんが書いた『犬が星見た』という本の
旅の行程を追いかける」
というのをテーマに文章を書いているのですが、
あとで文章にすることが決まっていたから、
ずいぶん細かなところまで、
とにかくなんでもメモしていました。
ウズベキスタンにはこの日記帳のほかに
こんなノートも作って持っていきました。
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ほぼ日 |
あ、これもかっこいいノートですね。
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高山 |
百合子さんの『犬が星見た』の中には
好きでたまらない表現がいくつも出てくるんです。
その部分をコピーしたものを
ちょきちょきハサミで切って、
無地のノートに貼っておいたものです。
旅の前に百合子さんの旅行の道すじを
あらかじめ追っておくのにも役立ちましたが、
現地で同じ場所に立って、
わたしも感じたかったからなんです。
百合子さんの目になりたかったというか。
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ほぼ日 |
あとでメモできるように、すこしスペースもあけて。
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高山 |
そう。あと、切って貼るという行為のおかげで、
文章があらためて、
自分の中に入ってくる感じもありました。
この作業、ほんとに大好きでした。
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ほぼ日 |
では旅行のときには、日記帳とこのノートの、
2冊を持っていかれたんですね。
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高山 |
はい。日記は日記でつけていたけれど、
メモはこちらのノートにも記録していました。
見えたこととか匂いとかを、
走り書きしたりして。
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ほぼ日 |
そして、そうやって記録しておいたメモが、
こんな連載になる。
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高山 |
ええ。毎回、文章を書くタイミングになると、
こうした旅先のメモやノートを
読み返して、注入して
自分を当時の頭というか、体というか‥‥に
してしまうんです。
こういったノートがあると、
時間が経っても、そのときに戻れるんですよね。
逆にこのノートがなかったら、
わたしは何も書けないかもしれません。
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ほぼ日 |
今は、旅行の記録をしようと思ったときに
携帯で写真を撮ったり、
動画を撮る人もいるかもしれないけど、
高山さんはこのかたちなんですね。
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高山 |
わたしにはこのやりかたが合っているんでしょうね。
いちおう写真も撮っているけど、
記録としていちばん大切なのは、メモやノートです。
だから、わたしにとってこのノートは、
なくしたら本当に困る、ものすごく大事なものです。
誰かから「1千万円あげるからちょうだい」
と言われても、あげられない(笑)。
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ほぼ日 |
今日はいろんなメモを見せていただいて、
本当にありがとうございました。
なにより、たのしかったです。
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高山 |
そう、メモって、たのしいんですよね。
書くのもたのしいし、見返すのもたのしいし。
こちらこそ、ありがとうございました。
(終わります。) |