「書く」って、なんだろう?
鉛筆と紙があればできる
とてもシンプルな行為でありながら、
誰かに思いを伝えたり、考えをまとめたり、
いま起きていることを未来へ残したり…
「書く」には、いろんな力がありそうです。
ほぼ日手帳2019では、
「書く」という行為にあらためて注目して、
書くことのたのしさや不思議さを
考えたり、おもしろがったりしてみようと思います。
この特集では、仕事やプライベートで
書く・描くことをしている十人のみなさんに
愛用の「書く道具」を見せてもらいながら
話を聞いたインタビューをお届けします。
十人十色の「書く」を、おたのしみください。

書くってなんだ?

vol.3
みうらじゅん

「あこがれの人の字は
うまいへたという尺度から解き放ってくれます」

以前、ほぼ日手帳の新たな使い方を指南してくださったみうらじゅんさんは
「手書きの人」です。いまも月十数本の連載の原稿はすべて手書き。
そんなみうらさんならではの「手書き文字」論をうかがいます。

プロフィールみうらじゅん

1958年、京都生まれ。
武蔵野美術大学在学中に漫画家デビュー。
以後、作家、ミュージシャンなど多方面で活躍。
1997年にはみうらさんの言葉「マイブーム」が
新語・流行語大賞のトップテンに選出。
「ゆるキャラ」の名付け親でもある。
盟友・いとうせいこうさんとの番組
『新TV見仏記』(関西テレビ)の新作ブルーレイ
「広島・尾道編」「広島・鞆の浦編」が発売中。

——
みうらさん、いまもすべて手書きで
原稿を書かれていらっしゃるんですね。
みうら
そうです。ぜんぶ手書きで、
コクヨの「ケ-10」という原稿用紙に書いてます。
——
パソコンに移行しようと思われることは
なかったですか?
みうら
パソコンのキーボードがあるでしょう。
あれがなぜあんな並びになってるのか、
いまだに理解できないわけでね。
あいうえお順に並んでればまだ、よかったんですけども。
あのね、それにぼくが麻雀ができないこと知ってるでしょ?
——
えっ? は、はい。
みうら
麻雀ってばらばらの牌をそろえて役を作るんですよね?
その並べ替えができないのでね、
だからパソコンに向かっても、
いつまでも上がれないまんま、
キーボードをただ眺めてるって具合です。
あれでしょ、キーボード界における
プロ雀士みたいな人がね、
実は使いやすいようにってことで
わざとあの配列にしてるんでしょうけどもね。

しかもキーボードってあれ、ローマ字で打つんでしょう?
ぼくはローマ字をちゃんと勉強していないんですよ。
——
ローマ字を? なぜですか?
みうら
京都だけだったのかよく分かりませんがね、
うちの小学校では一時期、
エスペラント語の授業があったんですよ。
——
あの、宮沢賢治が好んでつかっていた?
みうら
ミヤケンもやってたんですか?
これから世界共通言語にしたいね、っていう言語。
そのエスペラント語がね、アルファベットを使うんだけど、
ふつうのローマ字表記とちょこちょこ違うんです。
だからいまだに正しいローマ字表記がわからないままで、
こないだもいとうせいこうさんのグッズを作ってて、
ローマ字で「セイチャン」って書きたかったんですが、
「SEICHUNG」って書いちゃって、
そのまま発売したんですよね。
——
セイチュン(笑)。
なるほど、ローマ字で入力することが苦手。
みうら
ローマがどうもね。
だから手書き一筋なんです。
そうするとね、誰よりも締め切りが早いんですよ。
同じ雑誌に連載していても、
他の人より締め切りが1日早い。
なんでかな? と思ってたんですが、
編集者がパソコンで打ち直してくれてるからなんですよね。
——
そんな弊害が‥‥。
書く道具は、必ずシャープペンシルですか?
みうら
僕は小学校からずーっとシャーペンです。
決まったシャーペンがあるわけじゃないけど、
必ず0.7ミリのBで、
持つところにゴムがついているやつを選びます。

シャーペンって、だいたいの人は0.5ミリのを
疑問をもたずに使ってるでしょう。
——
たしかに、私もあまり深く考えずに
0.5ミリを使っています。
みうら
自分のミリってあるんですよね。
ぼくは筆圧が強いもんだから、
0.5ミリのシャーペンだと、
原稿用紙が破れちゃうんですよ。
だからいろいろ試して、1.0まで行ったけど、
1.0だと、小指の下の部位、
プロは掌外沿(しょうがいえん)って呼ぶんですがね、
そこが真っ黒になっちゃうんですよ。
芯の硬さもおんなじで、
2Bまで試したけど真っ黒になる。
だから、0.7のBが、
ほどほど黒くなることに気付きました。
誰しも、自分に合った芯の太さがあるんです。
0.5のシャーペンを使って
書きにくさをそのままにしているのは、
度が合ってないメガネをかけて
「見えにくいですね」と言ってるのと同じですから。
——
はい。
みうら
まあ、すべて数学ですよね。
マイ筆圧と、書く紙の厚さとで
きちんと合った芯の太さ、濃さを選ぶべきです。
——
わかりました。試してみます。
最近はパソコンやスマホなどを利用することで
一般的には手書きの文字を書く機会が減っていると
思うのですが。
みうら
字のうまいへたってあるでしょう。
字がへただと、書きたくなくなるというのは
あるかもしれませんね。
ぼくは中1のとき、ペン習字まで習っていたんですけどね。
——
字がうまくなりたくて、ですか?
みうら
いまから思えば、
完全にボーイズラブ、BLきっかけだっただけでね。
中学の時に仏教系の男子校に通っていたんですが、
寺の息子が同級生にいまして、
その人をとても好きになって、
早く友達になりたかったもんで、
彼の寺で週一で教えている
ペン習字を習いに行くことにしたんです。
でもペン習字ってね、きれいな字、うまい字を
書かなきゃいけないんです。
それが嫌でね。そんな時期、
拓郎さんのレコードに出会いまして、
拓郎さんの字に憧れたんです。
——
吉田拓郎さん。
みうら
そうです。
吉田拓郎さんが『元気です。』というアルバムを出して。
そこに拓郎さんの手書きの
セルフライナーノーツが入ってたんです。
そこに書かれた
「やっぱりぼくは元気なのです」
という文字にあこがれて、
まねするようになりました。
文字と、その文体はいまだに
当時の拓郎さんの影響を受け続けているんですよ。
——
たしか髪型も‥‥?
みうら
そうですね。
拓郎さんは短くされてるのにね、今。
その後、和田誠さんの字をマネるようになって、
ぼくの今の字が完成したんです。
——
吉田拓郎さんから和田誠さんを経由した文字が
みうらさんの字として
いまここに書かれているわけですね。
みうら
そのとおりです。
「あこがれている人の字になりたい」ということで
字のうまいへたというところから
逃れてきたんです。
みなさんもそういう字法があるということを
覚えておいてください。
——
それはとてもいいヒントになりそうです。
みうら
それから、
以前、ほぼ日手帳にペンネームを書く
というお話をしましたが、
どうしても字に自信のない人は、
手帳の持ち主の欄に
「字がヘタ男」とか「字がヘタ子」といった
名前を書いておくのもひとつかもしれません。
見た人が
「名前のわりにはまあまあうまいじゃないか」
と思ってくれますから。
——
ギャップを狙うわけですね。
あこがれの人の字をまねること、
シャープペンシルの芯の太さを試してみること、
とても勉強になりました!
みうら
とにかくね、まずは何より
自分に合ったミリを
探すところからはじめてみてください。
シャーペンもパンツと一緒です。
ぶかぶかで落ちそうなのや、
ピッチピチで食い込んでるようなのじゃなく、
きちんと自分に合ったパンツを
はいたほうが快適なんですから。

(次回は飯島奈美さんが登場します)

photos:eric

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