「書く」って、なんだろう?
鉛筆と紙があればできる
とてもシンプルな行為でありながら、
誰かに思いを伝えたり、考えをまとめたり、
いま起きていることを未来へ残したり…
「書く」には、いろんな力がありそうです。
ほぼ日手帳2019では、
「書く」という行為にあらためて注目して、
書くことのたのしさや不思議さを
考えたり、おもしろがったりしてみようと思います。
この特集では、仕事やプライベートで
書く・描くことをしている十人のみなさんに
愛用の「書く道具」を見せてもらいながら
話を聞いたインタビューをお届けします。
十人十色の「書く」を、おたのしみください。

書くってなんだ?

vol.8
西田善太

メモしておかないと忘れそうな
生っぽいキーワードのほうが、
企画にとって大事だったりするんです

思いついたアイディアを書き留めたり、
取材したことをわかりやすくまとめたり。
雑誌編集者は、どんな筆記具を使っているのでしょうか。
今回は、マガジンハウス『BRUTUS』編集長
西田善太さんのデスクにおじゃまします!

プロフィール西田善太(にしだぜんた)

1963年生まれ。早稲田大学卒業。
コピーライターを経て、1991年マガジンハウス入社。
『Casa BRUTUS』副編集長を経て、
2007年3月より『BRUTUS』副編集長、
同年12月より『BRUTUS』編集長に就任。
現在は第四編集局局長として『BRUTUS』
『Tarzan』の発行人も務める。

ーー
今日は『BRUTUS』編集部に
おじゃまさせていただき、ありがとうございます。
ここが西田編集長のデスクですね。
西田
せまいところでごめんなさいね。
どうぞ、座ってください。
ーー
西田さんはふだん、デスクや取材先で
どんなペンを使っているのでしょうか。
西田
万年筆やシャープペンも持っているけれど、
いちばんよく使うのは、これですね。
ええと、名前が長くて覚えられないんだけど‥‥(笑)
『クラフトデザインテクノロジー』の
「エナージェルトラディオ」黒と赤。
ーー
水性ペンですね。
深緑のボディが、かっこいいです。
西田
名前も長いし、あまり知名度もなかったのか、
一時期、生産中止になってしまって‥‥
ずっと使っていたからショックだったんですが、
最近になって復活したんですよ。
うれしくなって、思わずまとめ買いしました。
ーー
それはうれしいですね。
西田さんのように復活を望んでいた人が
多くいたのかもしれません。
西田
いまって、筆記具だけじゃなくあらゆるものが
いつでもどこでも安価で買える時代ですよね。
そんな中で、なかなか手に入らないペンというのは
なにか、魅力を感じるんですよ。
安定供給されない感じがね。
だから今は、家にも会社にも
いっぱいストックしているんですよ。
ーー
書き心地はどうですか。
西田
すごくいいですよ。
昔から文房具好きなもので、
良さそうなペンがあったら試してみたり、
気に入ればまとめ買いをしたりしていたんだけど、
どれも「帯に短し襷に長し」という感じだったんです。
その点、これは文句なしになめらかで、書きやすい。
こいつがないと、不安。
こいつがいると、安心できるんです。
ーー
それはいいですね!
西田
そもそもぼくは、ボールペンで書いた自分の字が
あんまり好きになれないんですよね。
字がうまい人なら
どんなペンで書いてもきれいだろうけど、
ぼくみたいに癖がある場合は
ペンを選ばないとだめなんじゃないか、と思って。
「弘法筆を選ばず」というけれど、
弘法じゃないからこそ、筆を選ぶんだよね。
ーー
ああー(笑)。
西田
ペンの書き味にこだわるのは、
字にコンプレックスを持っているからなのかも。
大人になったら字がうまくなるのかなと思っていたけど、
ぜんぜん変わらないもんね(笑)。
ーー
今回、さまざまなかたに
「『書く』ってなんだ?」というテーマで
お話をうかがっています。
西田さんにとって「手で書く」ことは
どんな意味をもっていますか。
西田
最近、打ち合わせや取材の場で
パソコンでメモを取る人も増えましたね。
この間も、ある会議で出席者の7割以上が
パソコンでメモを取っていました。
でも、打つことに意識がいっちゃうから
その間に発言はできないし、
なにか訊かれても返答できない。
それに、中にはメールを見たり、
会議と関係ないことをしちゃっている人も
いると思うんですよ。
それが許される時代はへんだなって、
ぼくはちょっと思うんです。
ーー
ええ。
西田
ある講演会でも、ぼくが話していたときに
参加者の半分ぐらいが
パソコンでメモをとっていましたね。
でも、パソコンを打ちながらだと
ぼくがある言葉を言ったときに
ちょっとこっちを向いたとか、
すこし顔を赤らめていたとか、
そういうことには気づけないわけでしょう。
ーー
壇上の西田さんよりも
画面を見ている時間のほうが
長くなってしまいますね。
西田
それなら、あとから他の人がまとめた
二次情報を読むほうがいいじゃない?
せっかく一次情報を聞きに来ているんだったら、
大事なキーワードだけをメモするぐらいのほうが、
ずっといいんじゃない? って思います。
ーー
たしかに‥‥。
ノートやメモをとるのが上手な人って
大事なところを抜き出して
しっかりおさえているイメージがあります。
西田
たとえばね‥‥
(と棚からノートを取り出して)
これは、ぼくのノートなんですが、
一度、内田樹さんの映画についての講演を聞きながら
徹底的にまとめてみようと思ったことがあって。
こういうのが、メモってものなんじゃないかなと
思うんですよね。
ーー
わあ、きれい!
西田
ぼくも毎回こんなに
ノートをとっているわけじゃないんだけど、
これぐらいやっておけば頭に入るし、
今でもこれを見ながら、
そのときの講演を思い出せるんですよ。
ものごととものごとの
関連性を書いていかなきゃならないから、
パソコンじゃ書けないんです。
ーー
丸で囲んだり、矢印をひっぱったりというのは
手で書くからこそ、できることですね。
雑誌の企画を考えるときも
こうしたノートを使っているんですか。
西田
ノートを使うこともあるけど、
いちばんよく使っているのは、これです。
ーー
この、名刺サイズのカードのような‥‥?
西田
そうそう。
これは松浦弥太郎さんがくれたものなんだけど、
雑誌の企画を考えるときは、
ここになんでも書き出して、寝かせておいたり
ときどき見返してみたりするんです。
特集を考えるときにも、
このメモ1枚にまとめてみたりしますよ。
ーー
BRUTUSの企画が、
このメモから生まれているんですね。
西田
人間、そんなにいいアイディアを
ポンポン思いつくものじゃないでしょ。
でも、ふとした瞬間に「いいな」と思ったことを
メモしておくことで、
あとから企画書作りに役立つことがある。
というか、そのときにメモした言葉が
企画のいちばんの柱になったりするんです。
ーー
いちばんの柱に!
西田
思いついたときに書かないと忘れてしまうような
生っぽいキーワードのほうが、
じつはすごく大事だったりするんです。
とくに企画書に書くような、
人を説得する力のある言葉って、
あれこれ考えはじめる前の
「最初」に生まれることが多いです。
パソコンに向かって企画書を作っているときには
それは出てこないんですよね。
だから、手でメモすることは大事だなと思います。

(次回は、ヒグチユウコさんが登場します)

photos:eric

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