資生堂パーラーのロゴ、パッケージ。
資生堂『花椿』誌のアートディレクション。
1950年代からずっと
あたらしく、そしてふるびないデザインを
生み出し続けている仲條正義さん。
85歳の今もなお、
現役のグラフィックデザイナーとして
活躍しています。
「ほぼ日手帳2020」では
仲條さんに
手帳カバーのデザインをお願いしました。
> 仲條正義さんプロフィール
- ――
- 「2020」の手帳カバーとweeks、
こんなふうにできあがりました。
すごくかわいくできて、
社内での評判も上々です。
- 仲條
- ほんと? よかった。
どうぞ、ざぶとん敷いて。
- ――
- はい。
- ――
- 今回、2020年の東京というテーマで
手帳カバーのデザインをお願いしましたが、
仲條さんはどんなふうに発想されたんでしょう?
- 仲條
- どこも2020年で大さわぎだからね。
ふつうに「2020」としたんじゃ、
あっちにもこっちにもあるようなものに
なる気がして。
ですから、それに逆らったっていうほどじゃあ
ないんだけども、
ちょっと付け足してみてね。
- ――
- 「2020」の「0」からにゅっと線が出ているものに。
- 仲條
- ええ。(数字を)描いているうちにね、
これじゃあそのまんまだなあ、
メガネにしてみたらどうかなあと思って。
- ――
- バックのシルバー部分は最初、
白で指定されていましたね。
途中で「シルバーもいいと思うんだよね」
とおっしゃって、シルバーになりました。
- 仲條
- うん、いいですね。
ぐっとよくなった。
- ――
- 仲條さんはいまに至るまでずっと、
手描きでデザインをされているんですよね。
今回であれば「2」と「0」を実際に紙に描いて、
それを切り抜いて、
こちらも手描きのボーダーやストライプに
載せるという形でデザインをされる。
- 仲條
- そうですねえ。
これはぜんぶ楕円定規を使って描いています。
- ――
- わあ、すごい!
- 仲條
- マジックペンを使って、楕円定規とかR定規で描いてね。
もうこんなの売ってないだろうねえ。
ぼくはもうほとんどこれですよ、楕円定規。
雲形定規もあるけど、どうも相性悪くてねえ。
これも古いね。
- 仲條
- こんなの、もう使っている人いないでしょうねえ。
どうもすみませんね(笑)。
曲線を描いてつなげて、
つなぎ目をちょっと直したやつを、
橋詰さん(デザイナー)に渡すの。
- 橋詰
- 仲條先生の描かれたものをなぞって、
僕がデジタルデータ化するんですが、
本当にそのまま版下になるくらい、
きれいな線なんです。
完成度がとても高いので、
僕はほとんどなにもしていないです。
- 仲條
- いやいや。
「ボーダーの幅、もうちょっと細くして」とか
お願いしたりしてね。
助かってますよ。
- 仲條
- これはねえ、
渡邉良重さんがやっている画廊
(OUR FAVORITE SHOP)
でやる展覧会のポスター。
知り合いが企画を手伝っているんです。
その人から
「仲條さん、何かポスター作品ありますかー?」
と聞かれたから
「なんかあるでしょう」と答えたら、
「ちょっとロゴつくってください」
「ポスターつくってください」って、
ぜんぶつくることになっちゃった。
これなんかも、ロゴは僕が描いたけど、
それ以外は活字。
「なるべく細いやつを探して」
って橋詰さんにお願いして。
だから合作みたいなもんだよね。
- 橋詰
- いやいや、そんなことないです。
参加される作家の方の名前を
縦書きと横書きとで出力して、
パーツとしてお渡ししたのを、
仲條さんが組み合わせて作られたものです。
- 仲條
- この参加者が
怖いヤツらばっかりだからさあ、
なんか言われるんじゃないかと
びくびくしてますよ。
これは表に貼るようなポスターじゃないから、
白黒でいいでしょうって言ったの。
裏面にみなさんの作品が載ったりしますから、
あまりごちゃごちゃしないほうが映えるしね。
その分ほかで遊んでますから。
- ――
- なるほど。
この手帳カバーのばあい、
色はどんなふうに決められたんですか?
- 仲條
- 手帳やら手帳カバーなんかは、
とくに物質感がほしいんでね。
いわゆるポスターとか、
印刷の世界とは違ったなんかこう、
材質感みたいなものが
あるほうがいいかなと思って
この色を選びましたね。
- ――
- ピンクにしても、青にしても、
混じりっけのない色を使われますよね。
- 仲條
- 色が混ざると、
どうしてもばらつきが出てきちゃうんでね。
なるべく単純な、「赤何%」みたいな色にする。
- ――
- 用途によって、選ぶ色や形が違うんですね。
- 仲條
- あんまり厳密にはなくて、
「こういうほうがいいや」って思っているだけ。
- ――
- 壁に貼ってある、このカレンダーも仲條さんが?
- 仲條
- これもぜんぶそう。
ぼくが元の字を描いて、
なるべくきれいにして、ラフに貼ったやつを
データにしてもらうの。
- ――
- 数字のかたちがかわいいですね。
以前、仲條さんが「好きな数字は?」という質問に
「2」と答えてらしたのを拝見したんですが。
- 仲條
- 「2」は、
かたちが好きなんですよね、
あひるみたいで。
「3」だとこう、まとまっちゃうし、
「4」だと直線ばっかりだしねえ。
この、宙ぶらりんなところが好きなのかなあ。
- ――
- この手帳カバーの「2」も
ひっかかってぶらさがってますね。
- 仲條
- だいたい、1番より2番のほうがいいからね。
- ――
- そうなんですか?
仲條さんはデザイン界いちの大巨匠ではないですか。
- 仲條
- そんなことないよ。
そんなこと言われたら逃げ出す(笑)。
- ――
- 50年以上、依頼を受けて、
デザインでこたえるということを
続けていらっしゃいますが、
デザインのアイディアは
依頼を受けてすぐに浮かぶものですか?
- 仲條
- いやいや、やっぱりね、
ちょっといくつか迷ったりしますねえ。
引っかかったものとか、
面白いものを思いつかないと、
なかなか進まないですね。
ちょっとしたアイディアというか、
思いつきがだいじ。
これも「2020」だけじゃあちょっとなあ、と思って
メガネにしちゃったから、どうにかね。
- ――
- 「未来をのぞく」というような意味もあって
メガネにされたのかな、
と思ったのですが。
- 仲條
- そんなものはないよ。
第一、古くさいメガネのかたちでしょう。
ただ、こういうかたちにしたっていうだけ。
- ――
- どうしたら「思いつき」が
やってくるんでしょうか?
- 仲條
- それぞれみなさんのお考えや
思いつくことがあるでしょうから、
そんなようなことと、あんまり変わらないですよ。
去年、手帳カバーをやった巨匠は誰だったっけ。
- ――
- 横尾忠則さんです。
- 仲條
- 横尾さんもいいよねえ。
あれはすごい人だよ。
よく引き受けてくれましたねえ。
- ――
- はい、うれしかったです。
仲條さんが引き受けてくださったのも、
とてもうれしかったです。
- 仲條
- かいかぶりですよ。
横尾さんは本当にすごい人だからねえ。
それはもう、スーパースター。
横尾さんは、絵から文学的なものになって、
また絵に回帰して、という人だろうから。
あの人は作品を作るときに、
言葉を一度通るだろうねえ。
僕はどうも、言葉とは無縁なところで
うろうろとしていますねえ。
僕の場合は、言葉じゃだめなんですよ。
- ――
- 言葉じゃだめ。
- 仲條
- そう。
かたちでしか、だめだねえ。
- ――
- かたち。
- 仲條
- そう。
かたちを描いているうちに、
いろいろ思いついたりする。
‥‥もう85歳ですからねえ。
昔だったら死んでましたよ。
- ――
- 85歳になってもなお、
デザイナーの仕事を
ずっと続けていらっしゃるのは
なぜですか?
- 仲條
- 生きてるからね。
生きるためには働かなきゃ(笑)。
仕事を全然しなくてもいい、なんてなったら、
僕はきっとだめだろうと思う。
まあ、もしデザインの仕事がなくなっても
なんか手を動かしているとかね。
絵みたいなものをちょこちょこと
描いていようかなって思いますよ。
(おわります。)
2019-08-21-WED