「ほぼ日手帳 WEEKS」のデザインをてがけた
グラフィックデザイナー佐藤卓さんに
お話をうかがいました。
WEEKSのデザインの完成秘話は
まさに奇跡としか言いようがありません。
そして2012年版、
9種類になったWEEKSを佐藤卓さんはどう考える?
(※本インタビューは、
ほぼ日手帳公式ガイドブック2012の再録です)
昨年、登場したスリムな手帳、「ほぼ日手帳WEEKS」。
黒い表紙に白いラインがスッと入ったデザインは
とても洗練されていて、
ほかのビジネス手帳とは明らかに一線を画するものでした。
キャッチコピーである
「ビジネスを、スポーティーに。」を体現したと言える
デザインを手がけたのは、
「ほぼ日手帳」のデザインを一手に引き受ける
グラフィックデザイナーの佐藤卓さん。
じつは、このデザイン、佐藤卓さんの意図とは異なる、
思いがけないところから生まれたものなんです。
「糸井さんから最初にお話を受けたときは、
新書本サイズのビジネス手帳を出そう、という話で、
そのときにいただいたテーマが
『スポーティー』だったんです。
この言葉が新しい手帳の使い勝手のイメージを
すんなりと湧かせてくれました。
『スポーティー』という言葉の中にスピード感や
洗練されたスマートさなんかが含まれていて、
ビジネスマンがジャケットのポケットから
サッと取り出してスラスラ書く。
そんな使っている情景がすぐに思い浮かびましたね」
しかし、イメージのしやすさとは裏腹に、
この手帳を出すうえでの難しさも
感じ取ったとおっしゃいます。
「ビジネス手帳を展開していくということは、
『ほぼ日手帳』が歩んできた、独自の路線とは
まったく異なる領域、
いわばライバルが大勢いるような領域に
足を踏み入れることになります。
しかも、ビジネス手帳は数が多いうえに、
大概、真っ黒。
そのうえ、中には、同じ手帳を
何年、何十年と使ってらっしゃる方が
大勢いるわけです。
その方たちに新商品をアピールするのは相当難しい」
考えに考え抜いて出した結論のデザイン。
糸井重里にそのデザインを見せる日が来ました。
(撮影:小川拓洋)
「やっぱり、すごく保守的とも言える
ビジネス手帳の世界に入っていくので、
真っ黒なデザイン案を用意してました。
オーソドックスなビジネス手帳と
言えるような真っ黒の手帳です。
真っ黒な表紙に年号をいろいろなパターンで
入れた10案くらいを、
糸井さんの前で並べていくときに
『そうきたか』
『全部いいと思う』っておっしゃったんです。
真っ黒のデザイン案を見せて、
その反応はあきらかにおかしい。
『糸井さんは何を見ているんだ?
何を勘違いしているんだ』とすぐに考え始めました」
予想外の展開に少し面食らってしまった佐藤卓さん。
糸井が発したある言葉に反応します。
「糸井さんが『白いライン』という言葉を発したんです。
真っ黒い手帳をお見せしているのに白とは(笑)。
でも、その瞬間におっしゃってる意味がわかりました。
用意しておいたカンプを見ると、
表紙と背のあいだに『間』が空いていて、
糸井さんには、それが
『白いライン』のように見えたんです」
(撮影:小川拓洋)
糸井はその「『間』という名の白いライン」に
大満足の様子。
しかし、佐藤卓さんはこう思ったそうです。
「いや、これ、どうしよう?」
「そりゃ、そうですよ。
まったく自分の意図していない、
誤解のデザインなわけですし。
『最初からそのラインのデザインを考えてました』
とウソを言うわけにもいかない。
でも、瞬間的に
『このライン、いいかも』って思えたんです。
それで『じつは、真っ黒い手帳を準備して、
糸井さんがおっしゃっているラインは、
ラインじゃなくて表紙と背の『間』なんです。
でも、糸井さんが誤解したラインのデザイン、
すごくいいと思いました』と正直にお話ししました。
『そういうデザインもあるな』ではなく
『すごくいい』と思えたんです。
普通だったら、誤解です違いますって
否定するんだろうけど、
『あぁ、すごくいいアイデアだ。それしかない』
と思えたことが、デザイナーとしてうれしかったですね」
その打ち合わせの席に「ほぼ日」の人間は、
糸井も合わせて4人いたのですが、全員の目に、
その「間」は白いラインに映ったそうです。
「じつはいちばん最初の打ち合わせで、
糸井さんはラインの話をされていたんです。
スポーツブランドにあるような
世界中どこでもひと目でブランドがわかるという
アイデンティティを手帳に活かせないか、
という会話はしていました。
でも、すごい保守的なビジネス手帳の世界において、
それは少し難しいと感じて、
あえて真っ黒なデザインをお見せしたんです。
まさか、ラインのデザインが
こういう形で世に出ることになるとは(笑)。
『ルビンの壺』という壺にも見えて、
互いに向き合っている人にも見えるという、
有名なトリックアートがありますが、
まさにあれに近いことが
意図していない状態で起きたということです。
モノっていうのは受け取る方の認識によって、
まったく違うものに受け取られる可能性があるんですね。
いやぁ、後にも先にも、
あんなプレゼンテーションは他にないと思います」
「初年度は、「ほぼ日手帳」のビジネス版というものが
本当に求められているのかどうかを
確認する年だったと思います。
その中で多くの支持と高い評価をいただき、
いわゆる『可能性』がすごく、
そしてハッキリと見えてきたと思うんです。
カラーバリエーションの展開なんかは、
まさにその可能性が見えたからこそでしょうね」
大幅に増えたカラーバリエーションの中で、
もっとも印象深かった色はイエローだったと、
佐藤卓さんは話します。
「ミーティングのとき、僕と日下部(昌子さん・
佐藤卓デザイン事務所所属。佐藤卓さんの右腕として
『ほぼ日手帳』のデザインを手がける)が
黄色い洋服を着てたんです。偶然。
で、そのとき糸井さんがこれまた偶然、
黄色いガーベラの花を持ってきてくださったんですね。
黄色が黄色を呼んだんです。
それで『黄色、いいですね』なんていうふうに
トントン拍子で決まりました。
そもそも、僕、黄色大好きなんですよ。
黄色って有彩色の中で
どんな色が隣にきても合うんです。
明るいし、前向きな印象があるし」
イエローを含めた全9種類のカラーバリエーションの
「ほぼ日手帳WEEKS」は、昨年以上に
ビジネス手帳の世界に一石を投じることになりそうです。
「中身におけるデザインはもちろん、紙の薄さ、
書きやすさなんかの使いやすさは
「ほぼ日手帳」でつちかったアイデンティティが
存分に入ってますからね。
その点は太鼓判を押せます。
そのうえこのバリエーションでしょ?
『ビジネス手帳は黒』という概念化された
ビジネス手帳の世界に確実に驚きを与えると思うんです。
ビジネス手帳であっても、
女性だって使っているわけだし。
意外とありそうでなかったものなんじゃないですか、
これって。
けっこうツボに入る可能性があると思いますよ」 |