HOBONIKKAN ITOI SHINBUN
味覚の魔術師と言われ、
世界の名だたる賞を受けてきた
「ミュゼ ドゥ ショコラ テオブロマ」の
オーナーシェフである土屋公二さんが
特別なクッキー缶をつくってくださいました。

テオブロマのチョコレートはすでに広く知られ、
おなじみのみなさんも多いと思います。
これまでテオブロマのチョコレートを食べて
「なぜこんなにおいしく感じるのだろう?」と
思ったことがあったとしたら――、そんな方には
このクッキーをいっそう食べていただきたいのです。
この缶の中にはテオブロマのお菓子が
おいしい理由が詰まっているから。

さぁ、土屋さんご本人にうかがってきました。
なぜ、テオブロマのお菓子はおいしいのですか、と。
> 土屋公二さんのプロフィール

いちばんは、素材

ほぼ日
土屋さんのつくるものがおいしいのは
どうしてなんですか。
やっぱり技術でしょうか?
土屋
べつにぼくは
なにもしてないんですよ。
ほぼ日
いや‥‥ほかのお店のものとは
どこかがちがうんです。
ハッとするおいしさです。
チョコレートのテンパリングがいい悪いとか、
そんなことではないんですか?
土屋
そんなことは関係ないです。
テンパリングは最後のお化粧ですから。
もちろん、テンパリングが崩れたら、
味も崩れちゃうけれども、
大きな問題はそこではありません。
ほぼ日
では、どういうところが。
土屋
前段階ですね。
まずカカオって、
枝とか、枯れた豆とかが、
たまに入っていたりするんですよ。
ほぼ日
そこからなんだ!
土屋
でも、ぼくらが買う豆は、
手で選別されたいい豆です。
値段も倍以上になるんだけどね。

まず、チョコレートは素材。
カカオを買う国を選んで、
地方を選んで、種類を選んで、
製造している人を選んで、
ほとんどのケースは生産国に飛んで見にいく。

農家がちゃんといい時期に収穫して、
ちゃんと発酵をさせていてるかどうか、
自分の目で見る。
発酵の段階が、
おそらくいちばん差がつきます。
ほぼ日
カカオの実を発酵をさせるのは
農家さんなんですね。
土屋
そう。だから現場に行って、
ちゃんと発酵してるかどうかを
見なくてはいけません。
カカオの味は、豆の品種と発酵で
7割くらい決まっちゃいます。
ほぼ日
へぇ、7割。
土屋
そのあとに乾燥の工程もあるけど、
乾燥ではそんなに差は出ないと思います。
ぼくらはそこから先をいじることしか、
できないんですよ。

機械はみんな一緒のようなものを使ってるから、
そこから先の「味の差」は、
作り手の考え方によるものが大きい。
でも、言ってみればそれだけです。

芸能事務所が、スカウトした子を
どうやって売れるようにするか、
考えることと同じだと思う。
ほぼ日
ああ。
土屋
素材は変えられないけど、
そこからどうやって
お客さまの手もとに届く
チョコレートにしていくか。
ぼくたちはその担当です。
ほぼ日
選びぬいた素材を活かす仕事、
ということですか。
土屋
ぼくの家にはね、
カカオが2トンあるんですよ。
ほぼ日
2トン(笑)。
土屋
だからぼくにラジオネームをつけるなら
「カカオが2トン家にある人」だよ。
一同
(笑)
土屋
でも、それらはすべて、
ぼくが選んで買った最高の豆です。
あ、そうだ。
ためしに食べてみてほしい板チョコがあるんです。
これ、カカオ100%です。
ほぼ日
100%ってことは、
砂糖もミルクも入っていない、
ぜんぜん甘くないチョコですよね。
‥‥‥あれ? おいしい。
思ってたのと違う!
土屋
カカオ100%だと、ふつうはもっと
苦味、エグ味がありますよね。
ほぼ日
はい。
100は「喉を通らない」というイメージがあります。
こんな100%、食べたことないです。おいしい。
フルーティーさがたまらない。
土屋
そう、おいしいんです。
しかもこれ、あまり有名じゃない
産地のものなんですよ。
カカオはどこの国がいいとか、
どの品種がいいとか言われてるけど、
そんなのは一般論。
自分たちでいい豆に直接当たらないと、
こういったおいしいカカオは見つからないんです。
しかも、今年の豆が良かったとしても、
来年、同じ農家で同じような豆が
来るかどうかはわかりません。
ほぼ日
お店でみなさんがたくさん
試作をされると思うんですが、
土屋さんがテオブロマのお店に並べる
決断をする際の、
GOサインの基準があったら教えてください。
土屋
まずは、ふつうにおいしいこと。
ほぼ日
もっとも難しそうな(笑)、
「ふつうにおいしい」こと。
土屋
そして、個性があるかどうかは
大事だと思う。
ほぼ日
個性。
土屋
べつに「テオブロマ」だけが
市場にあればいいという話ではありませんからね。
いろんなショコラティエがいて、
それぞれ特徴のあるチョコレートを
提供できればいいんです。
「これはうちがやらなくていいんじゃない?」
というものがある、ということです。

たとえば、アマゾンカカオって、知ってる?
太田哲雄さんのアマゾンカカオを使った料理。
彼のつくるもの、ほんと、うまいんだ。
うちのもうまいけど、よそのもうまい。
他人のつくったものを
ちゃんと評価できなきゃいけないと思う。
ほぼ日
よそのお店のものを「おいしい」と言うのは、
ちょっと、あまり聞いたことがないですね。
土屋
自分のところ以外はダメだと言う
職人もいるかもしれない。
でもそうじゃないほうがいいと思う。
だからこそ、ぼくは自分の個性のあるものを
この「テオブロマ」でつくれるわけです。
それはマネージャーの渋谷をはじめ、
店のスタッフにも伝えようと努力しています。
この職場にいる人たちは、
おいしいものが大好きだから。
みんな、服にお金はかけなくても、
食べものには惜しみなくかけて、
毎日おいしいものを食べてるよ(笑)。
ほぼ日
おいしさというハードルと、
土屋さんの個性を発揮したもの。
それがテオブロマのおかし‥‥。
土屋
いちばん大事なのは素材です。
ほぼ日
はい。
でもそれも、土屋さんが怠ることなく
見極めているわけで。
このクッキー缶に詰められているものが、
ぜんぶおいしかった理由がわかった気がします。
土屋
とにかく、めしあがって、
たのしんでいただきたいです。
ほぼ日
はい、みなさんにお届けするのがたのしみです。
今日はありがとうございました。
(おわりです。10月13日の
クッキー缶の販売をおたのしみに!)
2020-10-09-FRI
イラスト:丸山素直
取材・文:中川實穗

テオブロマといっしょにつくった
缶入りクッキーを販売いたします。

チョコジャムのクッキー缶

3,942円(税込・配送手数料別)

テオブロマの土屋シェフは
チョコレートの世界でその名を知られています。
しかし、チョコレートだけでなく焼き菓子も、
ひとつひとつに工夫が凝らされていて、
とてもおいしいのです。
そのおいしさをすこしずつ食べ比べて、
たのしみつくしたい! 
そんな願いを叶える9種類のクッキーがつまった
クッキー缶がやってきます。
しかも、特製のフルーティーなチョコジャムが
クッキーといっしょに缶に入っています。
これはほぼ日とのコラボレーションの特別仕様。
10月13日の販売開始をおたのしみに。