ばななさんと「虎へび珈琲」
ばななさんと「虎へび珈琲」
吉本ばななさん ✕ タナカサトルさん ✕ 
焙煎士・今井惇人さん
吉本ばななさんが、
「虎へび珈琲」とコラボレーション! 
バナナの香りのブレンドがうまれました。
その名も「Torahebi Banana Blend」。



吉本ばななさんと、
「虎へび珈琲」オーナー・タナカサトルさん、
焙煎士・今井惇人さんに、
今回のコラボのお話をうかがいました。



完成したばかりのブレンドを
ばななさんに飲んでいただくところから、
3人へのインタビューははじまります。





写真
───
ばななさん、
箱を開けていただけますか。 
ばなな
わたしが。
───
はい。開封の儀です(笑)。
ばなな
ええと‥‥これはどうすれば‥‥。
サトル
帯を、すぽっと‥‥。
写真
───
それにしても豪華なパッケージです。
今回のコラボの、
限定ブックボックスパッケージ。
サトル
ええ。
ばなな
じゃあ、開けます。
写真
───
わあ‥‥。
ばなな
黄色い(笑)。
ほんとうに実現するとは‥‥。
───
‥‥もう、こちらまで香りが。
ばなな
しますよね、バナナの匂い。
まだ封を切ってないのに。
今井
では、ドリップして、
ばななさんに飲んでいただきます。
ばなな
わ、それはたいへん(笑)、
今井さんが。
ありがたい感じがします。
今井
いえいえそんな。
(準備を進める)
写真
───
ああ‥‥いい香りです。
ばなな
ねぇ。
───
このドリップバッグに豆が12グラム。
一杯分としては、
たっぷりな量ですよね。
今井
そうですね、
しっかり味を出したいので。

‥‥お待たせしました。
写真
ばなな
ありがとうございます。
では、つつしんで。
───
つつしんで(笑)。
ばなな
もと茶道部なので。
───
あ、そうなんですね。
ばなな
はい。
いただきます。
写真
ばなな
これは‥‥‥バナナです(笑)。
一同
(笑)
ばなな
香りがすごいです。
───
ばななさんは試作のときに
召し上がっているはずですが、
いまあらためて、香りに感動が。
ばなな
そうですね、
ほんとうにすごいと思います。
香料を使わずに、
ここまでバナナの香りになるなんて。
今井
がんばりました(笑)。
写真
───
では、
こちらを召し上がっていただきながら、
お話をうかがわせてください。

まず、ばななさんが「虎へび珈琲」を
お知りになったきっかけは? 
ばなな
きっかけは、
ふたつのルートがありまして。
───
ふたつ。
それぞれを教えてください。
ばなな
ひとつは、ここの下、
渋谷PARCOでポップアップを
やってらして、
映画を観にきたときに
テイクアウトしたら
すごくおいしかったんです。
サトル
いまはここにお店がありますけど、
それまではポップアップだったんです。
写真
ばなな
あんまりおいしいから豆を買って、
一緒に売っているカレーとか
クッキーもすごくおいしいし、
友だちに頼まれたりして、
個人的に通うようになりました。
───
1年前にこのお店ができてからは、
こちらにお通いで。
ばなな
そうですね、渋谷で映画を観たあとに。
わたしはだいたい
ショックを受けるような
映画しか観ないんですが(笑)、
それを観て、
落ち込んだ状態でここに来て
なんとか取り戻しています。
───
どのブレンドがお好きですか? 
ばなな
わたしは意外に、「エイジド」?
写真
───
(ポンと手をたたき)
「Torahebi Aged Blend」! 
ばななさん、それはまったく
意外ではありません!
ばなな
そうなんですか? 
───
今回の「ほぼ日支店」では、
ばななさんのブレンドと、
「エイジド」だけを販売します。
それくらいぼくらは、
「エイジド」に惚れ込んでいます。
ばなな
あれも、香りがね。
───
もう、たまらないです。

なるほど、それがひとつのルート。
もうひとつのルートは? 
ばなな
もうひとつはまったく別の流れで、
うちの近所に「もと乙女」の聖地
みたいなお店があるんですね。
───
「もと」ですか(笑)。
ばなな
そこの2階で
知り合いが参加した展覧会をやっていて
お邪魔していたら、
ふらっと急に
今井さんがいらしたんです。
今井
え? 
ばなな
そうしたら、そこに居合わせた
もと乙女たちが、ザワザワって(笑)。
「コーヒー淹れてください!」
って。
───
おお。
ばなな
みんなが「わー!」ってなったから
どなただろう? と思って。
サトル
ぼくは知らない話です。
はじめて聞きました(笑)。
今井
それ、ほんとうにぼくでしたか? 
ばなな
まちがいないです。
「今井さんがいらした!」
「今井さんよ!」
ってみんなが言ってましたから。
今井
うーーん‥‥。
───
ご記憶にないようです(笑)。
写真
今井
もうひとりのぼくが?(笑)
サトル
もしくは二重人格(笑)。
ばなな
そのときは
「ここの器具でうまく淹れられるかな」
みたいな感じのことをおっしゃって、
結局コーヒーは飲めなかったんですが
まちがいなく今井さんでした。
今井
うーーん(笑)。
ばなな
とにかくそれが
もうひとつのルートです。
そのふたつがあとから結びついたのが、
わたしと「虎へび珈琲」の歴史。
───
なるほど、出会いはそういう感じで。

そのあと、
コラボレーションしましょう、
という話までには
どういった経緯があったのでしょう? 
サトル
それはたぶん、
ぼくからだと思います。
ぼくが単純にばななさんのファンで。
ばなな
「コラボしましょう」って、
おっしゃってくださって。
サトル
はい。
ぼくはその‥‥文学を語るほど
詳しくはないのですが、
10代から小説を読むのが好きで、
とくにこう、
いわゆるビートニック系の、
ジャック・ケルアックとか。
※ビートニック/
1950年代のアメリカ文学界で異彩を放ったグループ。
ヒッピー文化やロックミュージックなどのカルチャーに
影響を与えた。
ばなな
ああ。
写真
サトル
イギリスの作家ですけど
アラン・シリトーとかが好きで。
ばなな
そうなんですね。
サトル
これはぼくの勝手な解釈なので、
ばななさんは
違うとおっしゃるかもしれませんが、
ばななさんの作品に、
そういうイメージをちょっと、
ぼくは感じていたんです。
───
ビートニクのイメージを。
ばなな
きょうのわたしの服装も
グランジっぽいし(笑)。
※グランジ/
1989年頃からアメリカの
ロック・シーンに興ったファッション。
ダメージジーンズにネルシャツのような
ラフなスタイルが特徴。
サトル
風のうわさで、ばななさんは
ロックもお好きだと聞いていて、
なんというか‥‥
そういう方だという認識がありました。
───
通じるなにかがあると。
サトル
常日頃から「虎へび珈琲」は、
「あらゆることがファッション」
と考えているんですね。
───
はい。
サトル
小説はとくに、
ファッションの中に溶け込んでいる
感覚がぼくにはあるんです。
10代の頃にはアラン・シリトーの
『長距離走者の孤独』の文庫本を
リーバイス501のポケットに
つっこんでいるのがかっこいい
って思っていたくらいで(笑)。
───
いいですね(笑)。
サトル
それと同じ10代の頃に、
ばななさんの作品も読んでいました。
だから、ぼくらのブランドの中に
ばななさんの文学を溶け込ませたい、
というのが個人的な動機なんです。
ほんとうに、ぼくの勝手な想いですが。
写真
ばなな
そうですか。
わたしのイメージとか、
そういう動機に関しては
いまはじめてうかがいました。
サトル
「コラボさせてください」
としか言っていないので(笑)。
───
そうしてコラボが決まったわけですね。

最初に聞いたときには
びっくりしたしうれしかったです。
ぼくらが片思いしている
「虎へび珈琲」のことを、
ばななさんも好きなんだ!って。
ばなな
片思いなんですか?(笑)
───
ええ、ぼくらの「好き」のほうが
まだ強いと思います(笑)。
で、なんていうんでしょう、
恋する人の常というか、
こういう偶然があると、もう、
「運命だ」と思うじゃないですか。
病(やまい)のように(笑)。
ばなな
(笑)
───
「やっぱりつながってるんだ!」
って一方的に盛り上がって、
コラボブレンドの完成を
ものすごくたのしみにしてました。
ばなな
プレッシャーが(笑)。
写真
───
いやいや、もう、
パッケージからすばらしいです。
ここまで凝ったものになるなんて。
サトル
ほんとに1ミリ単位で修正して、
サンプルをつくって、
そこからまた1ミリ単位で修正して。
なので、そうですね、
パッケージには時間がかかりました。
───
限定スペシャルパッケージは、
「本」のイメージで。
サトル
ええ。
───
カバーの模様の中には、
バナナの柄が隠れるように‥‥。
これ、気づかないくらいですよね。
写真
ばなな
隠しすぎなくらい。
最初わたしも気づかなかった(笑)。
───
「本の帯」に、ばななさんの言葉が。
写真
ばなな
これ、ちょっと揉めたんです(笑)。
「本の帯なのに縦書きって、
おかしいんじゃない?」って。
───
たしかに、
帯の言葉は横書きが一般的です。
サトル
本のようで本ではないですし、
ばななさんにも
既成概念を壊していただければと。
ばなな
という説明を聞きまして、
そうか、ちょっと本から離れて、
「コーヒーと本の融合」みたいに
考えればいいんだ、と理解しました。
───
もちろん、書き下ろしで。
ばなな
はい。
ここの文章がダサいと
ぜんぶを台無しにしてしまうので、
すごい重圧がかかって(笑)。
サトル
そんな(笑)。
いただいた言葉を読んで、
ほんとうにすごいと思いました。
一緒にデザインをした
サスクワァッチファブリックスの
横山くんも、
この言葉に感動していましたし。
ばなな
自由にやらせてもらったのが、
よかったんだと思います。
───
サトルさんからの要望はとくになく? 
サトル
そうですね。
縦書きだということを
納得いただいたくらいで(笑)。
ばなな
こういうタイプの、
商品に言葉を添えるようなお仕事って
いろいろ要求されることが多いんです。
───
あぁ。
ばなな
「ふつうの人にわかりやすく」とか。
「もうちょっと、ほっこり」
「背中をおすような言葉を」とか。
たとえばコーヒーだったら、
「琥珀色という言葉を入れてください」
みたいな。
───
そういうことが、なかった。
ばなな
なかったです。
信用して受け止めてくれたので、
すごくやりやすかった。
写真
───
理想的なご関係を感じます。

そして、このかわいいドリップバッグ。
豆のままにしなかったのは、
サトルさん、
やはり手軽にということでしょうか。
サトル
そうですね。
マニアックにならないように
という意味では、
豆でしか販売しないのは
ちょっと違うかなと。
───
なるほど。
いろいろな人に手にとってほしいし。
サトル
はい。
───
この豪華な箱は、
飲み終わったらすてきな小物入れですよね。
ばなな
ねぇ。
───
ばななさんの本みたいに、
本棚にしまっておけます。
なにかたいせつな物を入れて。
写真
ばなな
へそくりとか。
───
へそくり(笑)。
ばなな
センスがいいのは
もう分かりきっているので、
デザインに関してはとくに、
たのしみにしているだけでした。
───
その信頼、わかります。

ところで今井さん。
今井
はい。
───
こちらのブレンド作りは、
いつもとくらべて
ご苦労はどうだったのでしょう? 
今井
苦労は‥‥正直、けっこう(笑)。
これまでで1番か、
2番めくらいの大作になったので。
───
そうでしたか‥‥。
バナナの香りに近づける、
というのはやはり最初から? 
今井
そうですね、
ばななさんとのコラボなので、
素直にバナナの香りを作りたくて。
写真
ばなな
たいへんだったと思います。
香料を使わないって、ほんとにすごい。
今井
虎へびの科学として、
香料などを一切使わないで
バナナの香りを作りたい
っていうのがありますので。
そこは、かなりがんばりました。
───
ばななさんも味見をしながら。
ばなな
試作品を一度、飲ませてもらいました。
あのときはそう、
「十分バナナだけど、
なにも聞かないで飲んだら、
ほかのフルーツを連想するかも。
もっとバナナを強化してほしい」
って、わたしからお願いして。
───
そういうやりとりがあったんですね。
今井
「バナナだ」と思っていただくために、
何度も作り直しました。
「もっとバナナにできる」
「いや、まだまだバナナに」と。
───
自分にダメ出しを。
今井
はい。
───
いま、ここに漂っている香りは、 
だれもが全員、
「バナナだ」と思うはずです。
今井
ほっとしています(笑)。
写真
ばなな
虎へびさんとご一緒できて
よかったですよ、ほんとうに。
サトル
うれしいです、ありがとうございます。
ばなな
ポップアップのお店に行ってた頃には、
サトルさんも今井さんも、
もうひとりの石田さんも
いなかったんですよ。
───
あ、そうだったんですか。
バリスタの石田礼(あや)さんも、
まだ店頭にいらっしゃらなかった。
ばなな
お店に立っているのは
アルバイトのお姉さんたちで。
しばらくは、どんな人たちがこのお店を
企画しているのか
ぜんぜんわからなかったんです。
でも、あとになって
虎へびを作った3人の姿を見たら、
すごい腑に落ちたというか、
納得しました。
「ああ、なるほど」、みたいな。
───
そういうムードがありますよね。
ばなな
あとやっぱり、
新しい時代の働き方ですよね。
そこがいいなと思って。
どこかにコーヒーの修業に行ってとか、
コーヒーを何百杯淹れてとか、
そういうのじゃなくて。
───
その雰囲気はまったくないです。
ばなな
働いている方々が、
それぞれに得意なことで
会社を作っちゃうっていう。
これからの時代は、
こうだなって思います。
サトル
ありがとうございます。
写真
───
‥‥それにしても、このパッケージ。
ばななさんが書かれた、
「魔力」という言葉が、
すごく印象的です。
サトル
すごい文章だと思います。
───
このブレンド自体に、
魔法がかかったような。
ばなな
いや、バナナの香料を使わないで
コーヒーをバナナの香りにするって、
そっちのほうが魔法ですよ。
今井
ああ‥‥。
ばなな
わたし、地震があったとき、
とっさに心配したんです。
今井さんの焙煎機が
壊れちゃったんじゃないかと。
───
わかります! 
同じような心配をしました。
今井さんになにかあったら、
あのコーヒーが飲めなくなるって。
だから、あの、今井さん‥‥
健康でいてくださいね。
今井
わかりました(笑)、気をつけます。
───
ブレンドの味もそうですが、
パッケージのデザインにも
魔法がかかっていて‥‥。
サトル
言葉、デザイン、ブレンド、
いくつものクリエイティブが
重なってますよね。
───
で、最後に飲む人に魔法がかかる‥‥。

「ほぼ日支店」で販売できることが
うれしいです。
サトル
ありがとうございます。
今井
よろしくお願いします。
ばなな
楽しみです。
よろしくお願いいたします。
───
こちらこそです! 
本日はありがとうございました。
写真
(吉本ばななさん、タナカサトルさん、
今井惇人さんへのインタビューを終わります)
虎へび珈琲 ほぼ日支店
「虎へび珈琲」という、ブランドの話。