- ───
- ばななさん、
箱を開けていただけますか。
- ばなな
- わたしが。
- ───
- はい。開封の儀です(笑)。
- ばなな
- ええと‥‥これはどうすれば‥‥。
- サトル
- 帯を、すぽっと‥‥。
- ───
- それにしても豪華なパッケージです。
今回のコラボの、
限定ブックボックスパッケージ。
- サトル
- ええ。
- ばなな
- じゃあ、開けます。
- ───
- わあ‥‥。
- ばなな
- 黄色い(笑)。
ほんとうに実現するとは‥‥。
- ───
- ‥‥もう、こちらまで香りが。
- ばなな
- しますよね、バナナの匂い。
まだ封を切ってないのに。
- 今井
- では、ドリップして、
ばななさんに飲んでいただきます。
- ばなな
- わ、それはたいへん(笑)、
今井さんが。
ありがたい感じがします。
- 今井
- いえいえそんな。
(準備を進める)
- ───
- ああ‥‥いい香りです。
- ばなな
- ねぇ。
- ───
- このドリップバッグに豆が12グラム。
一杯分としては、
たっぷりな量ですよね。
- 今井
- そうですね、
しっかり味を出したいので。
‥‥お待たせしました。
- ばなな
- ありがとうございます。
では、つつしんで。
- ───
- つつしんで(笑)。
- ばなな
- もと茶道部なので。
- ───
- あ、そうなんですね。
- ばなな
- はい。
いただきます。
- ばなな
- これは‥‥‥バナナです(笑)。
- 一同
- (笑)
- ばなな
- 香りがすごいです。
- ───
- ばななさんは試作のときに
召し上がっているはずですが、
いまあらためて、香りに感動が。
- ばなな
- そうですね、
ほんとうにすごいと思います。
香料を使わずに、
ここまでバナナの香りになるなんて。
- 今井
- がんばりました(笑)。
- ───
- では、
こちらを召し上がっていただきながら、
お話をうかがわせてください。
まず、ばななさんが「虎へび珈琲」を
お知りになったきっかけは?
- ばなな
- きっかけは、
ふたつのルートがありまして。
- ───
- ふたつ。
それぞれを教えてください。
- ばなな
- ひとつは、ここの下、
渋谷PARCOでポップアップを
やってらして、
映画を観にきたときに
テイクアウトしたら
すごくおいしかったんです。
- サトル
- いまはここにお店がありますけど、
それまではポップアップだったんです。
- ばなな
- あんまりおいしいから豆を買って、
一緒に売っているカレーとか
クッキーもすごくおいしいし、
友だちに頼まれたりして、
個人的に通うようになりました。
- ───
- 1年前にこのお店ができてからは、
こちらにお通いで。
- ばなな
- そうですね、渋谷で映画を観たあとに。
わたしはだいたい
ショックを受けるような
映画しか観ないんですが(笑)、
それを観て、
落ち込んだ状態でここに来て
なんとか取り戻しています。
- ───
- どのブレンドがお好きですか?
- ばなな
- わたしは意外に、「エイジド」?
- ───
- (ポンと手をたたき)
「Torahebi Aged Blend」!
ばななさん、それはまったく
意外ではありません!
- ばなな
- そうなんですか?
- ───
- 今回の「ほぼ日支店」では、
ばななさんのブレンドと、
「エイジド」だけを販売します。
それくらいぼくらは、
「エイジド」に惚れ込んでいます。
- ばなな
- あれも、香りがね。
- ───
- もう、たまらないです。
なるほど、それがひとつのルート。
もうひとつのルートは?
- ばなな
- もうひとつはまったく別の流れで、
うちの近所に「もと乙女」の聖地
みたいなお店があるんですね。
- ───
- 「もと」ですか(笑)。
- ばなな
- そこの2階で
知り合いが参加した展覧会をやっていて
お邪魔していたら、
ふらっと急に
今井さんがいらしたんです。
- 今井
- え?
- ばなな
- そうしたら、そこに居合わせた
もと乙女たちが、ザワザワって(笑)。
「コーヒー淹れてください!」
って。
- ───
- おお。
- ばなな
- みんなが「わー!」ってなったから
どなただろう? と思って。
- サトル
- ぼくは知らない話です。
はじめて聞きました(笑)。
- 今井
- それ、ほんとうにぼくでしたか?
- ばなな
- まちがいないです。
「今井さんがいらした!」
「今井さんよ!」
ってみんなが言ってましたから。
- 今井
- うーーん‥‥。
- ───
- ご記憶にないようです(笑)。
- 今井
- もうひとりのぼくが?(笑)
- サトル
- もしくは二重人格(笑)。
- ばなな
- そのときは
「ここの器具でうまく淹れられるかな」
みたいな感じのことをおっしゃって、
結局コーヒーは飲めなかったんですが
まちがいなく今井さんでした。
- 今井
- うーーん(笑)。
- ばなな
- とにかくそれが
もうひとつのルートです。
そのふたつがあとから結びついたのが、
わたしと「虎へび珈琲」の歴史。
- ───
- なるほど、出会いはそういう感じで。
そのあと、
コラボレーションしましょう、
という話までには
どういった経緯があったのでしょう?
- サトル
- それはたぶん、
ぼくからだと思います。
ぼくが単純にばななさんのファンで。
- ばなな
- 「コラボしましょう」って、
おっしゃってくださって。
- サトル
- はい。
ぼくはその‥‥文学を語るほど
詳しくはないのですが、
10代から小説を読むのが好きで、
とくにこう、
いわゆるビートニック系の、
ジャック・ケルアックとか。
※ビートニック/
1950年代のアメリカ文学界で異彩を放ったグループ。
ヒッピー文化やロックミュージックなどのカルチャーに
影響を与えた。
- ばなな
- ああ。
- サトル
- イギリスの作家ですけど
アラン・シリトーとかが好きで。
- ばなな
- そうなんですね。
- サトル
- これはぼくの勝手な解釈なので、
ばななさんは
違うとおっしゃるかもしれませんが、
ばななさんの作品に、
そういうイメージをちょっと、
ぼくは感じていたんです。
- ───
- ビートニクのイメージを。
- ばなな
- きょうのわたしの服装も
グランジっぽいし(笑)。
※グランジ/
1989年頃からアメリカの
ロック・シーンに興ったファッション。
ダメージジーンズにネルシャツのような
ラフなスタイルが特徴。
- サトル
- 風のうわさで、ばななさんは
ロックもお好きだと聞いていて、
なんというか‥‥
そういう方だという認識がありました。
- ───
- 通じるなにかがあると。
- サトル
- 常日頃から「虎へび珈琲」は、
「あらゆることがファッション」
と考えているんですね。
- ───
- はい。
- サトル
- 小説はとくに、
ファッションの中に溶け込んでいる
感覚がぼくにはあるんです。
10代の頃にはアラン・シリトーの
『長距離走者の孤独』の文庫本を
リーバイス501のポケットに
つっこんでいるのがかっこいい
って思っていたくらいで(笑)。
- ───
- いいですね(笑)。
- サトル
- それと同じ10代の頃に、
ばななさんの作品も読んでいました。
だから、ぼくらのブランドの中に
ばななさんの文学を溶け込ませたい、
というのが個人的な動機なんです。
ほんとうに、ぼくの勝手な想いですが。
- ばなな
- そうですか。
わたしのイメージとか、
そういう動機に関しては
いまはじめてうかがいました。
- サトル
- 「コラボさせてください」
としか言っていないので(笑)。
- ───
- そうしてコラボが決まったわけですね。
最初に聞いたときには
びっくりしたしうれしかったです。
ぼくらが片思いしている
「虎へび珈琲」のことを、
ばななさんも好きなんだ!って。
- ばなな
- 片思いなんですか?(笑)
- ───
- ええ、ぼくらの「好き」のほうが
まだ強いと思います(笑)。
で、なんていうんでしょう、
恋する人の常というか、
こういう偶然があると、もう、
「運命だ」と思うじゃないですか。
病(やまい)のように(笑)。
- ばなな
- (笑)
- ───
- 「やっぱりつながってるんだ!」
って一方的に盛り上がって、
コラボブレンドの完成を
ものすごくたのしみにしてました。
- ばなな
- プレッシャーが(笑)。
- ───
- いやいや、もう、
パッケージからすばらしいです。
ここまで凝ったものになるなんて。
- サトル
- ほんとに1ミリ単位で修正して、
サンプルをつくって、
そこからまた1ミリ単位で修正して。
なので、そうですね、
パッケージには時間がかかりました。
- ───
- 限定スペシャルパッケージは、
「本」のイメージで。
- サトル
- ええ。
- ───
- カバーの模様の中には、
バナナの柄が隠れるように‥‥。
これ、気づかないくらいですよね。
- ばなな
- 隠しすぎなくらい。
最初わたしも気づかなかった(笑)。
- ───
- 「本の帯」に、ばななさんの言葉が。
- ばなな
- これ、ちょっと揉めたんです(笑)。
「本の帯なのに縦書きって、
おかしいんじゃない?」って。
- ───
- たしかに、
帯の言葉は横書きが一般的です。
- サトル
- 本のようで本ではないですし、
ばななさんにも
既成概念を壊していただければと。
- ばなな
- という説明を聞きまして、
そうか、ちょっと本から離れて、
「コーヒーと本の融合」みたいに
考えればいいんだ、と理解しました。
- ───
- もちろん、書き下ろしで。
- ばなな
- はい。
ここの文章がダサいと
ぜんぶを台無しにしてしまうので、
すごい重圧がかかって(笑)。
- サトル
- そんな(笑)。
いただいた言葉を読んで、
ほんとうにすごいと思いました。
一緒にデザインをした
サスクワァッチファブリックスの
横山くんも、
この言葉に感動していましたし。
- ばなな
- 自由にやらせてもらったのが、
よかったんだと思います。
- ───
- サトルさんからの要望はとくになく?
- サトル
- そうですね。
縦書きだということを
納得いただいたくらいで(笑)。
- ばなな
- こういうタイプの、
商品に言葉を添えるようなお仕事って
いろいろ要求されることが多いんです。
- ───
- あぁ。
- ばなな
- 「ふつうの人にわかりやすく」とか。
「もうちょっと、ほっこり」
「背中をおすような言葉を」とか。
たとえばコーヒーだったら、
「琥珀色という言葉を入れてください」
みたいな。
- ───
- そういうことが、なかった。
- ばなな
- なかったです。
信用して受け止めてくれたので、
すごくやりやすかった。
- ───
- 理想的なご関係を感じます。
そして、このかわいいドリップバッグ。
豆のままにしなかったのは、
サトルさん、
やはり手軽にということでしょうか。
- サトル
- そうですね。
マニアックにならないように
という意味では、
豆でしか販売しないのは
ちょっと違うかなと。
- ───
- なるほど。
いろいろな人に手にとってほしいし。
- サトル
- はい。
- ───
- この豪華な箱は、
飲み終わったらすてきな小物入れですよね。
- ばなな
- ねぇ。
- ───
- ばななさんの本みたいに、
本棚にしまっておけます。
なにかたいせつな物を入れて。
- ばなな
- へそくりとか。
- ───
- へそくり(笑)。
- ばなな
- センスがいいのは
もう分かりきっているので、
デザインに関してはとくに、
たのしみにしているだけでした。
- ───
- その信頼、わかります。
ところで今井さん。
- 今井
- はい。
- ───
- こちらのブレンド作りは、
いつもとくらべて
ご苦労はどうだったのでしょう?
- 今井
- 苦労は‥‥正直、けっこう(笑)。
これまでで1番か、
2番めくらいの大作になったので。
- ───
- そうでしたか‥‥。
バナナの香りに近づける、
というのはやはり最初から?
- 今井
- そうですね、
ばななさんとのコラボなので、
素直にバナナの香りを作りたくて。
- ばなな
- たいへんだったと思います。
香料を使わないって、ほんとにすごい。
- 今井
- 虎へびの科学として、
香料などを一切使わないで
バナナの香りを作りたい
っていうのがありますので。
そこは、かなりがんばりました。
- ───
- ばななさんも味見をしながら。
- ばなな
- 試作品を一度、飲ませてもらいました。
あのときはそう、
「十分バナナだけど、
なにも聞かないで飲んだら、
ほかのフルーツを連想するかも。
もっとバナナを強化してほしい」
って、わたしからお願いして。
- ───
- そういうやりとりがあったんですね。
- 今井
- 「バナナだ」と思っていただくために、
何度も作り直しました。
「もっとバナナにできる」
「いや、まだまだバナナに」と。
- ───
- 自分にダメ出しを。
- 今井
- はい。
- ───
- いま、ここに漂っている香りは、
だれもが全員、
「バナナだ」と思うはずです。
- 今井
- ほっとしています(笑)。
- ばなな
- 虎へびさんとご一緒できて
よかったですよ、ほんとうに。
- サトル
- うれしいです、ありがとうございます。
- ばなな
- ポップアップのお店に行ってた頃には、
サトルさんも今井さんも、
もうひとりの石田さんも
いなかったんですよ。
- ───
- あ、そうだったんですか。
バリスタの石田礼(あや)さんも、
まだ店頭にいらっしゃらなかった。
- ばなな
- お店に立っているのは
アルバイトのお姉さんたちで。
しばらくは、どんな人たちがこのお店を
企画しているのか
ぜんぜんわからなかったんです。
でも、あとになって
虎へびを作った3人の姿を見たら、
すごい腑に落ちたというか、
納得しました。
「ああ、なるほど」、みたいな。
- ───
- そういうムードがありますよね。
- ばなな
- あとやっぱり、
新しい時代の働き方ですよね。
そこがいいなと思って。
どこかにコーヒーの修業に行ってとか、
コーヒーを何百杯淹れてとか、
そういうのじゃなくて。
- ───
- その雰囲気はまったくないです。
- ばなな
- 働いている方々が、
それぞれに得意なことで
会社を作っちゃうっていう。
これからの時代は、
こうだなって思います。
- サトル
- ありがとうございます。
- ───
- ‥‥それにしても、このパッケージ。
ばななさんが書かれた、
「魔力」という言葉が、
すごく印象的です。
- サトル
- すごい文章だと思います。
- ───
- このブレンド自体に、
魔法がかかったような。
- ばなな
- いや、バナナの香料を使わないで
コーヒーをバナナの香りにするって、
そっちのほうが魔法ですよ。
- 今井
- ああ‥‥。
- ばなな
- わたし、地震があったとき、
とっさに心配したんです。
今井さんの焙煎機が
壊れちゃったんじゃないかと。
- ───
- わかります!
同じような心配をしました。
今井さんになにかあったら、
あのコーヒーが飲めなくなるって。
だから、あの、今井さん‥‥
健康でいてくださいね。
- 今井
- わかりました(笑)、気をつけます。
- ───
- ブレンドの味もそうですが、
パッケージのデザインにも
魔法がかかっていて‥‥。
- サトル
- 言葉、デザイン、ブレンド、
いくつものクリエイティブが
重なってますよね。
- ───
- で、最後に飲む人に魔法がかかる‥‥。
「ほぼ日支店」で販売できることが
うれしいです。
- サトル
- ありがとうございます。
- 今井
- よろしくお願いします。
- ばなな
- 楽しみです。
よろしくお願いいたします。
- ───
- こちらこそです!
本日はありがとうございました。
(吉本ばななさん、タナカサトルさん、
今井惇人さんへのインタビューを終わります)