「虎へび珈琲」という、ブランドの話。
「虎へび珈琲」という、
ブランドの話。
「虎へび珈琲」オーナー・

タナカサトルさんインタビュー
「虎へび珈琲」をはじめて知る方々には、
このブランドの在り方について、
まずは知ってほしいと思いました。



「虎へび珈琲」のオーナーであり、
このブランドの
クリエイティブ・ディレクターでもある、
タナカサトルさんにお話をうかがうところから、
「虎へび珈琲 ほぼ日支店」はスタートします。



ファッションデザイナーとして活動してきた
サトルさんは、なぜコーヒーのブランドを
手掛けようと思ったのでしょう? 



渋谷PARCO3階にある、
「虎へび珈琲」店内でのインタビューです。





〈序文〉

ほぼ日・山下
インタビュー記事をお読みいただく前に、
1200文字ほどお邪魔します。
「虎へび珈琲 ほぼ日支店」の担当者、
下に続くインタビューでは聞き手もつとめています、
ほぼ日の山下です。



私事ですがコーヒーが好きで、
ほぼ日ではコーヒーをたのしむ
いくつかのコンテンツに取り組んできました。
取り組みながら、思いました。
「今の日本には、おいしいコーヒー店がたくさんある」



あの店も、この店も、それぞれにおいしい。
コンビニエンスストアやオフィスのコーヒーマシンも、
クオリティがどんどん高まっています。
ですから、とりたてて、
ひとつのお店のコーヒーだけをおすすめすることは、
今はもう、する必要がないのだと考えていました。
‥‥いたのですが。
その考えがひっくりかえる出会いがありました。



「虎へび珈琲」。



渋谷PARCO3階にあるこのお店をはじめて訪れ、
「Aged Blend(エイジドブレンド)」の香りに
触れたときの感動を忘れません。
一瞬、頭が混乱しました。
「いちごチョコレート」の香りがしたのです。
そういうイメージの香り‥‥
というレベルではなく、
非常にはっきりと「いちごチョコレート」。
「どんな香料をつけてるんですか?」
と私は第一声で尋ねていました。
すると、
「いえ香料はつかわず、焙煎やブレンドの工夫で
この香りをつくりました」
という答えが笑顔と一緒に返ってきました。



たちまちにして、とりこです。
ああ‥‥いま、この文章を書きながらも、
「あの甘い香りに包まれたい」という想いが、
むくむくとたちあがってきます。



おおげさに聞こえるかもしれませんが、
唯一無二です。
明確に、個性的。
「この独自なブレンドをもっと知ってほしい!」
そんな思いが高じて、
「ほぼ日Liveコマァ~ス」という
生配信・販売のコンテンツで
「Aged Blend」をご紹介しました。
興奮気味に山下がおすすめするそのときの様子は
アーカイブに残っています。
よろしければご視聴を。



かくして、「甘い香り」から夢中になったのが
「虎へび珈琲」への私の入口でしたが、
ふと気がついて、
すこし冷静になって、
「虎へび珈琲の世界」を見渡してみたら‥‥。
そこはただのコーヒー屋さんではなく、
すてきで、たのしくて、おもしろいものが
あふれている「ブランド」であることに気づきました。



それらを配しているのは、
「虎へび珈琲」オーナーのタナカサトルさんです。
サトルさんとは何度かお会いして、
たくさんお話を重ねました。



ファッションの世界からスタートして
珈琲豆ブランドをディレクションするようになった
サトルさんと、ぼくたちほぼ日は、
ずいぶん異なる場所に居るように感じていたのですが、
おしゃべりを続けるほどに
その印象が変化してきました。



お互い、たいせつにしていることが似ているのです。



長い「序章」を失礼しました。
「虎へび珈琲」オーナー・
タナカサトルさんへのインタビューをどうぞ。
写真
───
「虎へび珈琲」という名前を
はじめて目にする読者も
いらっしゃると思いますので、
やはりまずは、
最初のところからうかがえるとうれしいです。
サトル
最初のところ。
───
サトルさんは長い期間、
ファッションのお仕事ですとか
フォトグラファーを
されているとうかがいました。
サトル
そうですね。
───
なぜ珈琲豆のブランドを
はじめようと思われたのでしょう。
サトル
きっかけとしては、
うちの今井惇人(じゅんと)なんです。
───
はい、「虎へび珈琲」焙煎士の今井さん。
写真
サトル
彼はもともとマラリアウィルスの
ワクチン研究をしていた科学者なんですが、
その今井がある日、
珈琲豆の焙煎士をやりたい、と。
───
「焙煎士になりたい」と想う人が、
まず最初にあった。
サトル
きっかけとしてはそうなんですけど、
いわゆる「すてきなカフェ」をオープンする
というイメージではありませんでした。
珈琲を主軸にしながら、
なにか新しい切り口で展開できないかと。
───
ただのコーヒー屋さんではなく。
サトル
ええ。
いまでも「コーヒー屋さん」と言われると、
ちょっと違和感があるんです。
たしかに珈琲は中心にあるけれど、
自分たちとしては
ブランドビジネスを作っているという意識が強いです。
───
珈琲を主軸にした
ブランドのディレクションを。
サトル
ぼく自身、東京でずっと、20数年、
ファッションという文脈で活動してきました。
そのつながりで
様々なアパレルのディレクションや
飲食のディレクション、
ホテルのデザインなども手掛けてきて‥‥
───
ホテル? 
サトル
ええ、京都のホテルのデザインをやりました。
そうやって
いろいろなことをやってきたんですけど、
ブランディングという考え方は
なにをやるときも同じなんです。
ブランドのディレクションが
いかに大切かを常に考えています。
───
コーヒーのブランドも同じ考え方で。
サトル
同じです。
───
‥‥たしかに、このお店を見ても、
ふつうの「コーヒー屋さん」ではないです。
入ってすぐのところで、
いまは手拭いが販売されていますけど‥‥。
写真
───
Tシャツが販売されていたことも
ありましたよね? 
サトル
ええ。
───
作家さんの器があったり‥‥。
写真
───
壁にはドンと、虎とへびの絵が。
写真
───
別な壁には、直接描かれた作品もあります。
写真
───
テーブルも、オブジェのようで。
写真
───
こんなカフェは見たことがないです(笑)。
サトル
そうですよね(笑)。
これもまたファッションと同じ考えなんですが、
誰もやらないことをやるというか、
いわゆるクリエイティブの根源となる
「ゼロイチ」をつくるのが
やっぱりおもしろいんですね。
あとは、速度も重要です。
「その時代その時代で、
誰がいちばん早くそれをやるか」
というところに、大げさかもしれませんが
美学があるのが正直なところです。
───
それはやっぱり、おもしろい部分ですよね。
サトル
クリエイティブの根源というか。
───
はい。

様々な表現を混ぜ合わせるって、
まさしく「ブレンド」だと思うのですが、
「虎へび珈琲」のコーヒーは
すべてブレンドで提供されますよね。
なぜ、ブレンドだけなんでしょう? 
サトル
いま、人気のコーヒー店は
シングルオリジンの豆が多いですよね。
※シングルオリジン/
特定の地域・原産地だけで栽培されたコーヒー豆。
───
そうですね。
ぼくもそういうお店が好きで、
よく利用はしています。
サトル
質の良いシングルオリジンはおいしいです。
でもそれをつきつめていくと、
やはり他との味の差別化が難しと思うんです。
「オリジナルな珈琲を」と思うと、
ぼくらは自然と最初から、
「ブレンド」を選んでいました。
写真
───
ああー。
混ぜ合わせてオリジナルをつくるという、
その考え方は、
ぼくらほぼ日にもそういうところがあります。
いろいろな作家さんと組むのが大好きですし、
作家さん同士に出会ってもらうのも
わくわくするんです。
サトル
たのしいですよね。
───
はい。
ですから「虎へび珈琲」が積極的に
コラボレーションされているのを見て、
これはすごいし、おもしろいぞ、と。
最初は、どちらとのコラボでしたっけ? 
サトル
サスクワァッチファブリックスです。
写真
▲Sasquatchfabrix.(サスクワァッチファブリックス)
コラボレーションスウェット
───
ファッションブランドですね。
サトル
ぼくがやってきた
ファッション的解釈で作り上げた
虎へび珈琲の流れとして
自然なスタートでした。
───
他にもロールス・ロイスとか、
写真
▲Rolls-Royceコラボレーションビーンズ
───
スノーピークとのコラボも印象的でした。
写真
▲Snow Peakコラボレーション珈琲染チェア
───
驚いたのが、
サカナクションの山口一郎さんとのコラボです。
サトル
一郎くんがインスタグラムで
「虎へび珈琲」の
ドリップバッグを紹介してくれたんです。
───
そこからご縁がつながって。
サトル
そうですね。
一郎くんのブランド「YI(yamaichi)」
ブレンドを一緒に開発したり、
珈琲だけじゃなくバッグなども。
写真
▲YI × 虎へび珈琲 × Sasquatchfabrix.
トリプルコラボレーション巾着バッグ
───
山口一郎さん、
もうずいぶん前なのですが
糸井と対談をしているんです。
サトル
そうなんですね。
───
テレビの企画でした。
なので勝手に「虎へび珈琲」さんを
近しく思っていたところに、
次は吉本ばななさんとのコラボだそうで。
サトル
ええ。
───
がぜん「虎へび珈琲」さんへの
親近感が高まっています。
サトル
ばななさんは、
ほぼ日さんとご縁が深いですよね。
───
はい。
ばななさんと「虎へび珈琲」の
コラボのお話は、
あらためてしっかりうかがいます。

ちなみにそうして、
いろいろなブランドや作家さんたちと
コラボレーションを進めるとき、
どんな打ち合わせをするのでしょう? 
サトル
‥‥どういう話をするのかな? 
どうなんだろう‥‥。
結局、珈琲の話はほとんどしないですね。
───
おおー、おもしろい!
そうですか、コーヒーの話をしない。
写真
サトル
いつもこんな感じです。
───
こんな感じというのは‥‥
いまの、この取材のことですか? 
サトル
そうです、この感じ。
互いにどういうことを考えているのか、
日常にどういうものがあるかっていう、
そのあたりの話がほとんどです。
なにかを創る人たちのマインドって
たぶん一緒だと思っていて、
そのマインドが重なるか、
フィーリングが合うか合わないかっていうのが
たいせつだと考えています。
───
いや、そうですか、
ほんとにコーヒーの話をしないんですね。
サトル
まあ、多少はするんですけど(笑)、
マニアックな話にはほとんどなりません。
ゲイシャがどうこうみたいな話をしてても、
「バッグをつくろう」みたいな
展開にはならないですから。
※ゲイシャ/エチオピア原産コーヒーの希少品種。
───
「マニアック」で思い出しました。
サトルさんが他の媒体でのインタビューで
おっしゃっていた言葉に、
すごく感銘を受けたんです。
サトル
ぼく、なにか言ってましたか(笑)。
───
メモしてきました。
ええと‥‥。
「マニアックなアプローチで
深掘りばかりしてしまうと、
どんどん“無知な楽しさ”が失われていく」
と。
サトル
あぁー。
───
「こうじゃなきゃいけない
という固定概念が生まれた瞬間に、
新しいものが生まれる余白がなくなって、
新しい人が気軽に入ってこられない、
堅苦しいものになってしまう」
と。
サトル
言いました(笑)。
───
ほぼ日も心がけているんです、
「にわか」に興味を持つことに
肯定的でいようと。
サトル
なるほど。
写真
───
あの‥‥
語弊がある言い方かもしれませんが、
コーヒーの世界って
けっこう敷居が高い面があると思うんです。
サトル
ええ。
───
「こだわり」の世界というか、
こう淹れなければならない、というような。
サトル
はい。
───
もちろん、一貫した信念でやられている
お店への尊敬はありますし、
ぼく自身もそれをたのしむことはあります。
でも、そればかりだとちょっと苦しい。
サトル
わかります。
───
「虎へび珈琲」のお店も、
もしかしたらある人にとっては
おしゃれすぎて入りにくいかもしれません。
お値段も正直お高めですし。
サトル
ええ、そうですね。
───
でも実は、一歩入っていけば、
広い間口が用意されていますし、
堅苦しさがまったくないことに気づくんです。
他の要素をばんばん入れてるじゃないですか。
すごく「開いている」印象を受けました。
サトル
ありがとうございます。
───
コーヒーのクオリティについても、
「虎へび珈琲」さんは
あまり強くおっしゃいませんよね。
サトル
テーマとして
「coffee & science」を掲げてはいますが、
そればっかりを話すことはないですね。
───
カビ毒を99.9%除去しているとか、
胸やけや胃もたれの原因になる
タンニンを60%軽減しているとか、
元科学者の焙煎士、
今井さんの技術はすごいじゃないですか。
サトル
商品の説明では
もちろんそういう部分に触れますが、
なんていうんでしょう‥‥
たとえばオーガニックとか健康志向とか、
それが売りになっている時点で
そのブランドは弱いんじゃじゃないか
っていう持論があるんです。
───
あぁー。
サトル
語らずしもブランドの力になっているというか。
好きになってくれた人が
探してみたらその情報が出てくる、
くらいが美しいと思っています。
写真
───
それは‥‥とても同感です。
似ていることとして、ほぼ日では、
「いいことをしています」を
大きな声で言わないようにしています。
サトル
そういう控えた表現はたいせつですよね。
つまり、おいしくなかったら、
カビ毒を抜いてようが
タンニンを減らしてようが、
「まずいね」で終わりじゃないですか。
───
そうですね。
コーヒーは嗜好品ですし、
アートも不要不急のものではない。
でも、だからこそ、
それがなくなるのは嫌だし、
おいしくて、うれしくあってほしいです。
サトル
そう。
感情を揺さぶる方に振りたいです。
ぼくはよく感動っていう言葉を、
「感」と「動」って分けるんです。
感じて動くみたいな。
そういった部分に語りかけないと
多分ブランドは長続きしません。
エモーショナルなことを起こさないと。
───
エモーショナルに‥‥。
非常に同感です。

そうやってエモーショナルに
「虎へび珈琲」というブランドを伝えるときに、
おいしくて個性的なブレンドがあることが、
ものすごく強い足腰になっていると思います。
さらに加えると、
お店のホスピタリティもすばらしいです。
ここでの気さくなおしゃべりが
どれだけたのしいか。
サトル
そう言っていただけるとうれしいです。
写真
───
きょうはすっかり、
ファン目線のインタビューでしたが(笑)、
ブランドのお話を
しっかりうかがえてよかったです。

やはりサトルさんは、
ファッションのお仕事で
発信していた感覚を、
たいせつに残していらっしゃいますよね。
サトル
そうですね。
ぼくの中での自己解釈としては、
ファッションは「洋服」だけを
捉えるものではありません。
食事でも、遊びでも、生き方でも、
なにからなにまで、すべてが、
ファッションという
カテゴリーに入ると考えているので。
───
たぶん、サトルさんがおっしゃっている
「ファッション」は、
ぼくらほぼ日にとっての「ライフ」ですね。
サトル
ああ‥‥。
───
「生活」ということなんだと思うんです。
サトル
そうですね。
───
そこのところを、たのしくというか、
手を抜かないというか、
どうせ一回の人生だから、みたいな。
サトル
いや、まさしくそうです。
───
よかったです。
「虎へび珈琲」さんという
エッジが効いたブランドの支店が
ほぼ日の中にできたら
どんな化学反応が起きるんだろう? 
ってドキドキしてたのですが、
どうやらちょっと、重なるところを感じました。
サトル
そうですね、ありますね。
───
これからもたくさん
お話をしていくと思いますが、
どうぞよろしくお願いします。
サトル
こちらこそ。
「虎へび珈琲 ほぼ日支店」。
ストレートな名前がいいですね。
───
はい、そのまま素直に。
サトル
広がりがたのしみです。
写真
(タナカサトルさんへのインタビューを終わります)
虎へび珈琲 ほぼ日支店
ばななさんと「虎へび珈琲」