HOBONICHI

つきのみせ。2022 私たちのほしい、心地いいもの。

「心地よさ」について話していると、
それぞれ感覚や好みが
違っていることに気がつきました。
しっかり包まれているほうが安心する人、
風を通すように爽快なほうが気持ちいい人。
それぞれの「心地よさ」に寄りそえるように、
つきのみせは少しずつバリエーションを
ふやしてきました。
今季のテーマは「深呼吸」。
深呼吸したくなるような気持ちよさ、着心地、
ニュートラルになれる色。
定番のショーツは4種類から、
好きな形を選んでいただけるように。
つきのみせチームが惚れこんだ、
あたらしい心地よさを感じるお洋服も。
すこしずつ外に出られるようになってきて、
アクティブに過ごす日にぴったりです。
ラインナップについてのくわしいお話を、
おとどけします。
こんなに、ストレスフリーな洋服があるなんて!
上下合わせても500mlペットボトルよりも軽くて、
綿がふわふわで気持ちいい、
「watanomama」というブランドに出会い、
つきのみせチームは惚れこんでしまいました。
綿(わた)を撚らずに「綿のまま」生地にするという、
特別な製法でつくられた、日本唯一の技術。
創業100年以上の近藤紡績所さんによる、
あらたなチャレンジです。

製作の現場・長野県の工場におとずれ、
たっぷりお話をうかがってきました。
そこには、その場にいた全員が
思わず涙を浮かべるほどあつい思いがありました。
川上正敏さんプロフィール
株式会社近藤紡績所の常務取締役。繊維ひとすじ42年。
スペイン、アメリカ、中国など世界の現場を数多く経験し、
現在は「若い世代にバトンをつなぎたい」と
『watanomama』を含む新規素材開発の事業を積極的にサポート。

創業104年、新しいことに挑戦しないとダメ

これまでに感じたことのない軽さとラクさというか。
まったく新しい着心地を
「watanomama」に感じました。
ある乗組員はwatanomamaを着たときに
「洋服を着ることに、
実はストレスがあったと気づきました」
と驚いていて。

ああ、そんな風に思ってもらえましたか。

その生みの親、近藤紡績所さんが
創業104年とうかがって、さらにおどろきました。
失礼ながら、最新技術を駆使した、
新鋭ブランドかと想像していたので‥‥

チームは若い人を中心に立ち上げたんですよ。
だけど、近藤紡績所は大正6年から糸を
作ってきた会社です。

歴史が長いんですね。

1993年頃までは、長らくいろんな会社と、
糸の品質とコストを競いあっていました。
今の10倍、20倍の規模で
糸づくりをしてたこともあったんです。
それが、中国の市場開放で価格競争が激しくなり、
「これじゃあ敵わない」となったわけです。
それで「製品づくりをしましょう」となりました。

どんな製品から作りはじめたんですか?

当時、いい人を引っ張ってきて
大阪にアパレル事業部というのを作りました。
その最初のクライアント が「子供服」メーカー。
昔は、コットン=子供服だったので、
ものづくりを大事にされている
会社さんとやらせてもらいました。

だけど近年は、「紡績」だけじゃ
面白いものができないというのもありますから。
社長とも「 新しいことに挑戦しないとダメですよね」
という話をして、
国内で一貫生産をやれる仕組み作りもしました。
それで、完全国内生産の「watanomama」のような
開発もできるようになったわけです。

おもしろいと感じたのは、
「watanomama」は信州大学の感性工学科との
共同研究でもありますよね。
日本唯一の、気持ちよさを科学的に
研究されている学部と。

ええ、そうです。
この業界は、ある意味で行きづまってたわけですよね。
どれだけ本物の繊細で美しいものづくりをしても、
特に我々みたいに黒子をやってきた企業は、
発信したりアピールしたりする力が、
圧倒的に足りないんですよ。
だから、これまでとは違う手法で
やっていかないといけない。
それで「感性工学」に興味を抱いたわけです。

大学のHPで「論理×感性」という
キャッチコピーを拝見して、
すごく気になりました。
私たちも“心地よさ”をひたすら考えてきましたけど、
科学的に考える、というのはしたことがなかったので。

私たちもしたことなかったですよ。
勤続42年ですが、一度も。
それに、四六時中いろんな生地を
触っている僕らと違って、
お客さんは生地の良し悪しが簡単にはわからないです。
特に昔のように、店舗に行って実際に触れて
選んでもらう、ということが
だんだん減ってきましたから。
魅力をちゃんと伝えないといけないわけですね。

ことばや写真で。

そうなんです。だけどそこで、
たとえばやわらかさや圧迫感みたいな、
「感じる具合」を数値で表現すれば、
少しはわかってもらえるんじゃないかと。
それで「感性工学」を取り入れることにしたんです。

やれるかわかりませんでしたけど、
やってみないと発展も未来もありませんから。

コットンに対して失礼なのはいけない。

先を見据えて、
柔軟に「今やるべきこと」を選ばれているんですね。

わたしの場合は、
最初にスペインで、その次がアメリカ、
それから中国でも仕事をさせてもらってきました。
まあいろんな見聞を広げられたわけですね。
織物も染色、縫製もやらせていただきました。

場所も、技術も、
あますことなく経験されたんですね。

社内でもちょっと異色で、そんなに幅広くやった人は
いないですから、これは自分の宝ですね。
だから、状況が変わるのには慣れていますし、
得てきたものを、若い人たちに引き継ぐことを
今いちばんに考えてやっています。

中でも、「これは絶対に」という、
引き継いでいきたいものはなんですか。

やっぱり「本物のものづくり」
かなあと思います。

本物のものづくり。

この2、30年の日本の繊維業界を振り返ると、
海外にものづくりが移ってしまいました。
それで「あのブランドに採用されている生地を
もっと安く作れませんか?」という
仕事のやり方が繊維業の中で定着してきてるんですね。
だから、新しいものを切り開こうだとか、
新しい素材を開発してみようだとか、
ものづくりを追求する機会が
本当に少なくなってしまったんです。
作ったとして、
目利きをする人もいなくなってしまった。
これは非常に残念な業界の有り様です。

業界を自分たちで小さくしているような。

そうなんです。
いわゆる「廉価版」とよばれるものですけれど、
価格を抑えていかに同じようなものを作るかっていう、
知恵とものづくりに変化してしまったんですね。

いろんなものづくりをされているから
ご存知だと思いますけど、
やっぱり1,000円でできるものと、
450円でできるものは、似通ってたとしても
実は洗濯するとボロボロになったり、
あるいは科学的に表面をお化粧して
見栄えだけ同じにしてても、
輝きがなかったりするんです。

長く使ってみたら、あれ‥‥というのは
よくあります。
だから、私たちもチームのメンバーで何度も着てみたり、
洗濯を何度もかけてみたり、
実験みたいなことをするようにしています。

それは大事ですよね。
本物を見極めるって意味でも。

だけども、若い人にとっては
自分たちの買える範囲となると、
そういうものしか流通していないですもんね。
そうすると「本当にいいもの」を見る機会が
ないじゃないですか、チャンスが。

そうですね。

日本の繊維って技術はあるんだけれど、
いいものづくりに人が集まるという流れが
途切れてしまっているんです。
売る側も、安いほうが売れるという考えで、
ものの本質を見る人が少なくなりましたしね。

ですから、特に若い人たちには本物を見てもらって、
実感して、日本のものづくりに
誇りを持ってもらわないと、
この先続かないなと思うんです。

そういった意味では、
「watanomama」に関わられている若い方々は、
たしかな自信のようなものをお持ちだな、と
やりとりさせてもらいながら感じました。

うれしいですね。
それがね、いちばんだと思います。
昔の良き時代の生地作り、
生地のクオリティっていうのを
再現しながら、そこに満足せず、
もっといいものを作るにはどうしたらいいか、
ってことを考えながらみんなでやれていますから。
そうしないと失礼ですもんね。

お客さんにですか?

お客さんはもちろんですが、
やっぱりコットンって植物じゃないですか。
農作物なんです。

ああ、「コットン」に失礼ということですか。

そうです。
このところのやり方は、
お百姓さんに対しても失礼な話で。
一生懸命汗水たらして、クワを担いで、
やってくれてるわけですから。
だけど、安くするってことは、
どこかで誰かが我慢するわけです。

ものづくりの中で「我慢」があったら、
どんな心地いい素材も
サステナブルじゃないわけですよね。
みんながそれぞれ取り分を取って、
ちゃんとした価値で消費者に届けられる。
そういう形にしないと続かないですよ。

生産者も受け取る側も、
みんながしあわせな形が理想ですよね。

だから、みんながいいものづくりできる
環境をもう一回取り戻すためには、
マーケットのこともよく知って、
生地ってどんなもの? 本物ってどんなもの?
っていうことを常に考えながらやる。
やっぱりそういう、
輝かしいものを作らないといけません。

この会社でも、綿花の畑を持たれていますが、
そういった「背景を知る」という意味で
育てられているんですか?

小さいものですが、
おっしゃる通り、コットンを「知るため」と
「知ってもらうため」のものです。

知るためと、知ってもらうため。

工場で働いているスタッフは、
毎日のように原料が入ってくるのを見てますけれど、
実は綿花がどうやって栽培されているか、
どんな苦労してるかっていうのは、
なかなかわからないわけですね。

お百姓さんがどれだけ汗水垂らして‥‥という部分は、
経験しないとわからないかもしれないですね。

あの、いちばん厄介なのは虫です。
害虫がダーと寄ってきて新芽を食べてしまう。
新芽を食べてしまうと綿花が育たず死んでしまうんです。
綿花畑を育てることで、それを毎日気にかける。
気候のことも心配するようになる。
そうやって、生産者の苦労が
わかるようになるじゃないですか。
だからぜひこれはやってみようと。
大町工場の人たちから「やりたい」と
言ってくれて始まったプロジェクトでもあるんです。

なるほど。
自分たちが生産者の気持ちを「知るため」ですね。

そうです。
繊維は分業でやる仕事ばっかりなんで、
どうしても知らないこと、見えないことが
多いから学びになるといいな、と。

それから、ここの大町市の工場も
40年前からあるけれど、
何をやってる場所かってことを
知ってる地元の人は、
非常に少なかったわけです。

そこで、近所の保育園の子ども達に
一緒にコットンの種まきと収穫をしてもらいます。
そうすることで、我々のことも
知ってもらうことができますし、
なかなか農作物に触れることのない
小さなお子さんにとってもいい体験になれば、と。

お子さんたちも、土いじりができるのは
すごくいい機会でしょうね。

綿花って、きれいな花が咲くんです。
しかもコットンの種類によって色が違うんですよ。
花が咲いたあとは、つぼみのような
「グリーンボール」というのになります。
それが乾燥して弾けたら、
綿をぎゅっと丸めたような「コットンボール」に
なるわけです。夏になると背丈も高くなって。
そういうのも直近で育ててみないと
わかりませんからね。

いい若い人にめぐり会えた。

次世代への想いがお強いぶん、
「watanomama」ブランドの中心で活躍されている
平田さんの存在などは、うれしいんじゃないですか。

はい。
どんどん自分から提案して動いてくれるのが、
本当にうれしいです。

平田はもともと信州大学の「感性工学科」の学生で、
共同研究を経て、スカウトしたんです。
平田の優れてるところは、
なんにでも興味と好奇心が人一倍強いところ。
そういう人ならどこへ行っても、
いろんな人といろんな話ができますし、
相手も彼女に興味を持って、
普段しゃべらないこともしゃべってくれる。
そういう能力を持ってるんじゃないかと思います。

いい人に巡り合えたんですね。

そうです。いやあ、いい人に巡り合えました。

わたしの若いころは全国に「繊維工学科」っていうのが
たくさんあったんですけどね。
それも減ってしまった今、
こういう若い人の活躍が
リクルート雑誌だとかに載っていることは重要で、
事実「私はあの先輩のようになりたい」
っていう人たちが集まってきてくれてるのは、
実績として、もう確かなんです。
やっぱりそういう循環はうれしいですね。

近藤紡績所さんのものづくりや、
繊維業界の盛り上がりにつながりますもんね。

若い人たちがどんどん活躍してくれれば、
われわれがリタイアしても、
もっと発展的に会社も業界も進んでいくんだろうなと
自信が持てます。
そこは、強く思いますね。
そういう意味でも「watanomama」は、
大きな意味のあるチャレンジです。

この土地もね、おもしろいですよ。
工場を操業開始した40年前から、
電気の代わりに「水」で部屋を冷やしているんですよ。

水で冷えるんですか?

地下に流れる「冷たい水」を利用しています。
近藤紡績所は北アルプスのゆたかな伏流水が流れる
この土地を選び、紡績工場を作りました。

環境に配慮する意味で、冷たい水が必要だったんですね。

13度の地下水をくみ上げて、霧状にするんですよ。
そこに空気を通すんです。そうすると、
暖かい空気と冷たい水が熱交換をして、
空気が冷やされるという仕組みなんです。
滝の近くにいくと涼しいのと一緒ですね。

ああ、なるほど。

今も現役で活躍してもらっていて、
フィルターを通して、空気と綿埃と分けてるので、
ここはいつもきれいなんですよ。
綿埃は畑の養分にしてみたり、
大きなものは再利用してみたり。
なんでも循環ですね。

はああ。なんともお見事ですね……。

機械は休まずに、
ずっとずっと 循環しています。
ですけど、われわれはそうはいきませんね。

以前は、とにかく黙々と年間340日ほど、
ずーっと同じ商品を作り続けていたわけです。
そういう時代もあり、それはそれで良き時代でした。
でもそれだけでは今後永く続けてやっていけません。
新たな商品価値を生み出すための
挑戦をやり続けるべきです。

「伝える」ということを勉強していなきゃいけませんし、
とにかく若い人にいろんなものを引き継いで、
どんどん主役になっていってもらいたいですね。
弱体化してしまった日本の繊維の回復の鍵は、
絶対にそこにあると思うんですよ。

(つづきます。)

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