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精神に働きかける作用。
富松さんのジュエリーって、
これまでは男性向けのアパレルショップで
売っている印象が強かったんです。
きっと、ご自身がイメージするのとは違う感じで
売られていることもありそうですよね。
直接ひとりひとりに対して話せる場所じゃないところで、
作品が売れていくことに対しては、
どう思われてますか。
ぼくは、ジュエリーって、
外から見える部分においては、
時代の価値観を象徴していると思いつつ、
その中身は、器みたいなものだと思っているんです。
結婚指輪もそうですけど、
つけた人が自分のストーリーを
込めていけるものであり、
人の思いを宿す器のようなものだなって。
こんなふうに思うようになったのは、
最初にプロダクトデザイナーだったからかもしれません。
時計をデザインしても、家電をデザインしても、
スマホをデザインしても、
買ったときが一番ピカピカで、性能も高い。
でも数年後にはどんどん傷がついて、
価値が目減りしていくものだな、というのが、
ぼくが最初に属していた世界だったんです。
たしかに、家電などはそうですね。
だけどジュエリーって、
使えば使うほど自分だけのものになっていきます。
ぼくが最初に、こういうストーリーがあります、
といってしまうのは、
場合によって邪魔になる可能性があるかなって。
なので、何も知らずに買ってくれる人もいていいし、
知ったから買ってくれる人がいても、
両方いいと思っています。
作品には思いが込められているけど、
つける人がどんなふうに感じてもらってもいい。
その軽やかさが魅力かもしれません。
一緒に仕事をさせていただいている
スタイリストの髙品さんとも話していたんですけど、
本当に、他にはないものだなと。
つけていてうれしいし、人にも教えたくなるし。
この人、実はつけてるよね、
みたいなことがよくあります。
ああ、うれしいですね。
ぼくも、道とか電車とかで
「あ、つけてくれてるのかな?」
って思ったことがあります。
でも、
「もしかしたら自分のじゃないのかもしれない」
とも思って(笑)。
判断がつかない(笑)。
よく見て、ディテールをチェックしたら、
絶対わかるんですけど。
あと、ちょっと不思議に思うのは、
イタリアで勉強されて、
枠にとらわれずいろいろなものを作って、
賞も獲って‥‥という世界って、
競争など激しい部分もあると思うんですけど、
富松さんは何かこう、
たたずまいがすごく穏やかな感じがして。
ここに至るまでに、辞めようとか思ったこととか、
もうだめだ、みたいに思うこととか、
そういうことってなかったですか?
それ、似たようなことを
聞かれたこともあるんですけど、
ほんとに何もないんですよね。
あの、自分でもほんとに何も考えてない人間だなって
思っているんですけど。
だいたい成り行きで、その場で必要だと思ったこととか、
やりたいと思ったことを続けているだけで。
絶対こうしたいとか、そういう感じって、
ほとんどないんです。
ああ‥‥うまく言えないんですけど、
いろんなものを、よく見ているんですね。
おばあちゃんが手につけていた輪ゴムを見て、
それをもとにジュエリーを作るというお話も、
何というか、1秒間にシャッターを切る回数が多いというか、
見てる景色の記録の枚数が
すごく多いのかなって思いました。
そうかもしれませんね。
一回一回のシャッターの重さがないので、
何か失敗したとしても、
失敗と思ってないのかもしれないです(笑)。
(笑)
落ち込んだりするとか、そういうブレが
あまりないんですね。
はい。辞めようと思った事もないですし。
後悔‥‥は、たとえば誰かが病気になって、
早く病院に連れて行けばよかった、とか、
そういうことは当然あるんですけど、
自分の仕事のことでは全然ないですね。
怒ったりは?
あんまりないですね。
はぁぁ、すごい。
この瞬間を見ておこうとか、
身近な輪ゴムがかわいいなとか、
そういう感性って、どうやって培われたんですか。
子どもの頃からわりとそういうタイプだったんですか。
きれいなものが好きだったとか。
そうですね。父が彫刻家で、
母がテキスタイルデザイナーだったので、
多少は美術的なものに囲まれていた、
というのもあるんですけど、
吉野で育ったということが大きいですね。
都会だと身の回りに囲まれているものには
大体、値段がついているじゃないですか。
買ってもらうためのもの、というか。
吉野だとあんまりお店もないし、
日常では、道に落ちてる石、みたいなものを
目にすることのほうが多かったんです。
小学校から家に帰る途中にゴミを拾い集めて、
それを組み合わせて作品や彫刻を
作ったりするような子どもだったんです。
できたものを父に見てもらって、褒めてもらいたいとか、
そういう動機だったと思うんですけど。
ひとりっ子だったので、誰かと遊ぶというよりは、
そういうことばかりしていましたね。
それは、ひとりの時間がたくさんあったんですね。
そうですね。
自然の何気ないものを使って何か作りたいというのは、
そういったところが影響してる気がします。
実は富松さんのインスタグラムも
すごくいいなと思って。
あの数々の写真を見ていると、富松さんの目で
風景を見ているような感覚になるんです。
ありがとうございます。
ほぼ吉野町のいつもの散歩コースで
撮っているものなんです。
季節が変わったから、これがきれいに見えたとか、
いつもは見過ごしていたけど、
今日のこの光の当たり方はきれいだったとか。
毎日繰り返し見ているものが
美しく見えることに気づくと自分がうれしいし、
そういうところを共有したいなって思っています。
毎日違うという意味でいうと、
子どもも毎日違いますよね。
はい。ほんとにもう1週間とか経ったら、
やっぱり考え方も見た目も違うし。
その瞬間を逃したら、
もう会えないですよね。そのときの、その子には。
「もう5歳の夏がこれで終わりなんだな」とか(笑)。
はい。成長はうれしいけど、
悲しさもあるみたいな話をよく聞いていたけど、
ほんとにそうだなと思います。
こんなおだやかなお父さんだったら、
お子さんものびのび育ちそう。
どうなることか。
まあ、いろんなことをやってますね(笑)。
知育教室とかも、お子さんがのびのびと
楽しめそうですよね。
東京から吉野に来てからは、
そういう、地域で子どもが学べる場所が、
大阪か京都に行かなければない、という感じなので、
まずは自分の子どもに、
そういう場を提供したいなと思ってはじめました。
そこに他の子たちも来てもらえたらいいなと。
実行できるのがすごいです。
やるしかないという感じなので(笑)。
自分もそのなかにいる大多数の人のひとりで、
知育教室も、自分が欲しいし、
自分がそういうことを望んでいるなら、
他にも望んでいる人がいるかもという気持ちで
やるのがいいかなと思ってます。
最初から誰かのためにやろうとすると、
長続きしないかもしれないですし。
たしかに。
ジュエリーも、最初に、
「何かジュエリーを展示してください」
と言われたときに、ぼく自身はジュエリーって
何もつけてなかったんですけど、
それは自分が欲しいと思うものが
あんまりなかったからなので、
「自分だったら、どういうジュエリーが欲しいかな」
と思って作ったのが最初だったんです。
直接、展示会などに立って、
お客さんと話すこともありますか?
あります。話してますよ。
話がうまく伝わっているのかどうか、
いつも不安になりながら、その場に立ってるんですけど。
どういうお客さんが多いんですか?
「DAN TOMIMATSU」は、
やっぱり今のところ男性客が多いですね。
男性は、細かい部分がどう作られているとか、
工芸技術に興味を持ってくれる方が多いので、
そういうお話をしてますね。
この輪ゴムの角がなぜ出ているのか、とか。
出ている?
角がしっかり四角になっているのが、
DAN TOMIMATSUの特徴なんです。
通常だとこの角って、かなり出すのが難しいんですよ。
たとえばジュエリーで多いのは、
型に入れて流し込んで作るものなんですが、
金属自体があんまり硬くないので、
それをさらに磨こうとすると、
どうしても角が丸くなってしまうんです。
輪ゴムっぽさが出なくなるんですね。
やっぱりぼくは、あの輪ゴムの、
有機的な形をしているのに、
工業製品的な角張りがあるという、
そのバランスがすごくおもしろいと思ったんです。
とにかく角が出てないと、
輪ゴムっぽくならないので、
四角の小さい穴から金属を引っ張りだして、鍛金して、
金属を圧縮して硬くして、
それを職人さんが手作業で歪ませながら
輪にしてくっつけて‥‥
というやり方をしてるんです。
シンプルなのに腕につけると
キラッと存在感がありますよね。
ちょっと捻れているから、
光の当たり方によって印象が変わるのもいいなと。
さきほど、男性客が多いというお話でしたけど、
富松さんのジュエリーを販売されていた方が、
「女性のお客さんがけっこうちゃんと
足を止めて買ってくれたのが、
意外だったけど、うれしかった」
というふうに言ってたんです。
女の人は知らないというか、
目にする機会が男性よりも少ないみたいで。
だから、ほぼ日で紹介したときに、
女性からどういう反応がくるのかも、
ちょっと楽しみなんです。
ぼくもすごく楽しみですね。
社内での女性たちの反応はすごく良くて、
特にユヌパンセのために新しく作っていただいた
ピアスが人気でした。
「すごくいいものだよ」って、
自信を持って紹介できるなという気持ちが、
ますます強くなっています。
ああ、うれしいです。
ぼくも、最初からユニセックスの
ジュエリーとして作っているのに、
メンズの方にばかりつけてもらっているのは、
なんでかなってずっと思ってたんです(笑)。
なので、今回女性の方に見てもらえる
チャンスがあるのは、本当に、ついに!
っていう感じです。
(つづきます)