富松暖さんインタビュー03 | ひとさじのジュエリー une pincée | イメージ1 富松暖さんインタビュー03 | ひとさじのジュエリー une pincée | イメージ2

DAN TOMIMATSU デザイナー
富松暖さん インタビュー

歩んできた道の先に、 ジュエリーがあった。

ユヌパンセの第2弾としてご紹介する
DAN TOMIMATSUのジュエリーは、
日常にあるものをモチーフにしながらも、
上質で軽やかで、洗練されていて、
これまでにありそうでなかったジュエリーです。
スタイリストの髙品逸実さんも、
「なんだかつけているとうれしくなる」と、
以前から気に入って使っていました。
ただ、デザイナーの富松暖さんご本人については、
よくわかっていなかったんです。
ジュエリーのデザインだけでなく、
映像作品やプロダクトデザインでも
世界的に有名な賞を受賞されていたり、
奈良県の吉野町を拠点に、
さまざまな地域プロジェクトに携わっていたり。
幅広い活動をされている理由を
ご本人に訊いてみようと思います。
8月中旬、富松さんを訪ねて
ほぼ日のユヌパンセチームが吉野に伺いました。

富松暖さん

富松暖さん
プロフィール

03

職人さんに支えられている。

今日は、こういうものも持ってきたんです。
吉野杢藝という知育教室でも
教具として使っている積み木なんですけど。

へええ、おもしろいです。
これ、触り心地もいいですね。

子ども向けの積み木って、
表面がつるつるしていて、
全然ナチュラルな木じゃないよな、と思っていたんです。
いったん工業的な形にして、
ナチュラルな木の質感を
浮造り(うづくり)工法で浮かび上がらせました。
子どもにこれを渡すと、
ずっとカリカリ触ってるんです。
積み木以外にもあって、これがカマンベール、
これがカプセルで、これがエッグです。

富松さんの積み木

かわいい。
置いておくだけでもオブジェになりそう。

あとは、吉野杉のチョップブリックという、
自分でポキポキ折って遊べるおもちゃもあります。
箸のチョップスティックから名付けたんですけど、
やってみてください。

え、折っていいんですか。
ほんとに折りますよ?
(ポキッと折る)

吉野杉のチョップブリック

あ、何これ、たのしい!
本当にポキッと簡単に折れるんですね。

木目の細かさが吉野杉の特徴なんです。
通常、箸を作るときには木目を縦に入れて、
強度を出すんですけど、
これはあえて木目を逆にすることで、
折れやすくしているんです。
吉野町って、家具とかを作っている場所じゃなくて、
材を作ってきたエリアなんですね。
なので、こういう遊ぶための材を
おもちゃとして作ったらどうだろうと思って。
子どものストレス解消にもなるし。
大人も、渡しとくと、ぼーっとしながら
ずっとポキポキやってくれます。

わかります。会社にこれ置いたら
みんなのストレス発散のツールになりそう。
こういうもの一つとっても、
すごく、この場所、吉野のことを
真剣に考えていらっしゃるのが伝わってきます。

やっぱり、住めば都じゃないけど、
住んだ場所で目の前にやるべきことがあったら、
それをやりたいなって感じです。
そういう活動の全てが、
ジュエリーに象徴されていくと思っています。

今日、こうやって直接お話を伺うまで、
何を本業としている方なんだろうって、
ずっと思っていました。
共通の知り合いに聞いても、
みんなはっきりしないんです。

ははは。ぼくが何をやってるか?

そう。
「なんかいろいろやっているよね」みたいな感じで。
でも、やっぱり、富松さんは、
本当にジュエリーを一生懸命作っている、
ジュエリーデザイナーなんですね。

作っていますね。
というか、デザインしています。
なんか、誰かに「君は何々だ」って言ってもらえるのは
すごく安心しますね。
自分でも何をやってるか、
ちょっとわからなくなっている状態なので(笑)。

あれもこれもやっていて、
でも、その中で一番大事なところを
ジュエリーは担っているんですね。
ほぼ日で今回販売するジュエリーは、
DAN TOMIMATSUのジュエリーから
UNBOUND(アンバウンド)のコレクションを中心に
セレクトしていますが、
それ以外にも、さまざまなコレクションを
展開されていますよね。
それらはどんなふうに増えていったんですか?

それぞれに考え方があって、
輪ゴムやロープ、テープをモチーフにした
UNBOUND(アンバウンド)は、
日常的にあるものの価値を提案したかったんです。
あと、ジュエリーって腕輪とか首輪とか、
誰かをつなぎとめるためのものから派生した
デザインがわりと多いんです。
南京錠もそうですし。

ああ、たしかに。

でも、このUNBOUND(アンバウンド)という名前は、
何かを解き放つとか、解くという意味があります。
輪ゴムとかロープとかテープとか、
何かを留めるものがモチーフになっていつつも、
それをつけることで、自分の心が
華やかに解き放たれるような部分もあるのが、
人間特有の矛盾というか、おもしろいかなって。

へええ。
すみません、何か、
そんなふうに考えて生きてこなかったです。
この輪ゴムの形がかわいい!っていう
そういう気持ちだけで選んでしまって(笑)。

全然いいんです(笑)。
で、そのあとに発表したDISSOLVE(ディゾルブ)という
岩みたいなごつごつしたジュエリーは、
その真逆で、日常的なものじゃなくて、
革新的なことに価値があるよねということで、
日本の伝統工芸技術を進化させて、
それをジュエリーにしているんです。

ああ、あのごつごつしたジュエリーも、
すっごくかっこよかったです。

DISSOLVE

▲DISSOLVE

その後に作ったENLINK(エンリンク)という
コレクションは、
金糸を巻いているジュエリーなんですが、
これは、過去にも目を向けてみようということで、
自分のルーツの奈良に着目しました。
正倉院に日本最古の金糸というものが
納められているんですけど、それは中国がルーツなので、
中国に行って作り方を教えてもらった上で、
金糸を取り入れたジュエリーを作ったんです。

拝見したんですけど、すごく素敵でした。

その後に発表したMATERIA(マテリア)という
コレクションは、それまでの3部作とは違って、
原点回帰で、ジュエリー自体を見つめ直す
コレクションです。
職人さんがジュエリーを作っている中で、
仕上げてしまったら消えてしまう美というのが、
プロセスの中にあるなと思ったんです。
たとえば、ジュエリーを切ったときの断面が
美しいとか。それを最後まで残す
ジュエリーにしようという試みです。

ENLINK MATERIA

▲ENLINK

▲MATERIA

富松さんが直接作るのではなくて、
誰かにお願いするというか、
職人さんと一緒に作るというのは、
最初からずっと
そういうふうにしてこられたんですか?

そうですね。ぼくが作家ではなく、
デザイナーと名乗っているのは、
そこかもしれないですね。

自分で作っている方のジュエリーは、
手作業の感じが残って、
すてきな場合もあるんですけど、
今回、髙品さんと一緒にはじめたユヌパンセでは、
その方向ではないところで考えていて。
最初にゴールドのコレクションを作ったときも、
金をちょっと叩くとニュアンスは出るんですが、
そうではなく、よりプレーンな感じで出したいな、
という発想で選んだんです。
だから富松さんのジュエリーは、
私たちのやりたいコンセプトにすごく合っていて。
その上、新しいアイテムまで
作ってもらえてすごくうれしいです。

ありがとうございます。

最後に、パッケージについても伺いますが、
富松さんのジュエリーって、
茶筒のような容れものに入って届くのも、
すごくいいなあと思っているんです。
あの素材は何ですか?

あれはブリキですね。
茶筒に入れているのは理由があって、
自分が消費者として何かを買うときに、
最後に家でゴミになるのって、
だいたいパッケージじゃないですか。
できるだけゴミを人に渡したくないな、という思いから、
何回も使える器にしたかったんです。
あと、中身もハンカチで包んでいます。

ああ、その考えっていいですね。
しかも、ジュエリーケースって、
意外とみんな持ってないですよね。
これにずっと入れられるとすごくいいと思います。

その茶筒も、東京の職人さんに
作ってもらってるんですよ。

あ、もしかして浅草の、茶筒といえばその人、
という職人さんですか?

あ、そうです。
あのタイプの茶筒を生み出したのが、
あの方なんですよね。

そうだったんですね。
日本の昔ながらの職人さんの技術って、
素晴らしいものがありますよね。

そうですね。
DISSOLVE(ディゾルブ)のコレクションも、
京都貴金属工芸という、
京都の職人さんたちの集団と
一緒に作っているんです。
マーブルという、地金が金色のものと
シルバーのものが混ざり合っているジュエリーで、
そこの人たちだけができる技術ということで、
お願いしてずーっと作ってもらっているんです。
ぼくのジュエリーは、
本当に日本の職人さんに支えられています。

ほぼ日でも、本当にさまざまな
職人さんにお会いしてきましたが、
ただ、後継者がいない問題もあって、
それを作れるのは数名だけ、
その機械を扱えるのはもう一人だけ、
みたいな状況を何度も見てきました。

そうですね。そこを何とかしたいな、という
思いがすごくあります。
ぼく、そもそも服をやりたかった気持ちもあったんです。
でも、服をやろうと思うと、
布作りをする人、縫製する人、パターンを引く人、
というふうに多くの人材が必要で。
服の世界で、欧州の人たちと肩を並べる
最高峰のものを作ろうと思ったら、
日本ではすごく難しいことだと思ったんです。
でも、ジュエリーって、地金は世界共通だし、
職人さんがひとりいて、デザイナーがいて、
両方がその世界レベルにあったら、
いきなり世界と肩を並べることが可能な
ジャンルだと思うんですね。
なので日本でジュエリーを作ることの
可能性の高さを感じて、
ジュエリーのデザインをはじめた、
という背景もあるんです。

ああ、すごい。夢が広がりますね。

日本には、有り難くも、
世界でも有数のジュエリー職人という方が
いっぱいいて、世界からも
日本に依頼がくるような状況なんです。
世界のジュエリーの展示会に持って行くと、
「どうやって作ったんだ?」
と話題になるぐらい、やっぱり、
日本の職人さんの技術って唯一無二なんですよ。

そうですね。
富松さんの現代的なデザインと、
職人さんの伝統の技術が合わさって、
ジュエリーにも、パッケージにも
生かされている、ということを知ると、
ますます、すてきなものに思えて、
ほぼ日でご紹介できるのがうれしいです。
今日はどうもありがとうございました。

こちらこそ、ありがとうございます。
このあと、吉野杉の貯木も見てもらいたいので、
周辺を案内しますね。
吉野杉の樽で作った地酒もありますので、
よかったら、ぜひ後で試してみてください(笑)。

(終わります)

取材後、吉野町を歩いて案内してもらいました。

町のあちこちから、木材のいい香りが漂ってきます。
富松さんはここで育ったそう。

節が少なく、木目が細かく、まっすぐな材である、吉野杉。
酒樽の材料としても古くから重宝されてきました。

「桜の季節だけでなく、夏にも秋にも冬にも来てもらいたい。
そのためにどうすればいいか、吉野町役場と一緒に、
ずっと考えています」と富松さん。