yamahon hobonichi branch
信楽の職人が、轆轤(ろくろ)でひいた「工芸品」です。やまほん 山本忠臣さんインタビュー
ほぼ日「五組碗」は、古くからある入れ子のお椀をヒントに、
山本さんが考えられたものだそうですね。
山本はい、昔ながらの入れ子の器ですね。
多くは漆器で見られますが、
三つ椀は煮物椀,飯椀,汁椀の組み合わせ、
四つ椀になるとそこに小吸い物椀が足されて、
懐石料理に使われたりします。
箱膳に入れ、盛って、そのまま膳にして、
食べて、洗って、拭いて、またそのまま仕舞う、
みたいな使い方もありますね。
ほぼ日五組になると、
禅宗の修行僧が托鉢のときに持ち、
食事の時に使う「応量器」(おうりょうき)があります。
それも多くが漆塗りの器ですね。
山本そうですね。やまほんの「五組碗」は、
そういった入れ子の器にヒントを得たものです。
酒器にもなる小さな碗から、
どんぶりのような大きな碗まで、
5つの磁器を入れ子にしています。
これだと仕舞うときに一つにまとまって、
収納場所をとらないところがいいな、と。
ほぼ日重ねたときの見た目が、とてもきれいです。
そして、並べたときにも。
山本何人か集まったときに
みんな同じ真っ白な器で和食を食べるっていうのは、
とてもきれいかなって思います。
最近、洋食器の影響で、
食卓につく全員が同じ器を使う、
という家も多いと思うんです。
ほぼ日一人暮らしの方とか、
二人で住んでいる方にもいいですよね。
そんなに食器は多くないし、
そもそも食器棚にもそんなに容量がない、
あるいは食器棚そのものを持っていない、
という家もあると思うんですが、
この五組碗を、ひとりずつ持っていれば、
基本の食事がほぼ賄えると思いました。
山本そうですね。
そんなふうにミニマムに考えていただいてもいいですし、
いろいろな器をお持ちの家だったら、
ふだんの食事で器えらびを楽しまれる中で、
うどんのときにはこれを使う、というように、
候補のひとつにしていただいても嬉しいです。
セットで使わなくちゃ、と考えず、
大きさの違う器が5つある、と。
ほぼ日チームの武井は、和食だけじゃなくて、
洋食のメニューにも使ってみて、
和洋中、全部いけるね、と。
ナイフを使わない料理だったら大丈夫だって言ってました。
一番大きいのにバケットを入れて。
山本次のに、スープを入れたり。
ほぼ日中華のときは一番大きいのに
たっぷり麺を入れて、
取り碗として2番目、3番目のものを使って
シェアするとか。
山本小さいのに薬味を入れたりとか、いいですね。
ほんとに使い方は自由です。
いろいろ考えられると思うので、
ワンセットあったら楽しんでいただけると思いますよ。
こういったシンプルな器って、
意外と何にでも使えるんです。
ほぼ日シンプルで美しいどんぶりって、
探そうと思うと、なかなかないんです。
ひとつひとつの形も、とてもいいですよね。
山本このシリーズの特徴は、持ったときに安定感があるよう、
高台の部分を低く、細くしていることです。
すべりどめになっているんですよ。
ほぼ日なるほど、手に持つと、
しっかりホールドできますね。
そんなデザインの工夫があったんですね。
山本洗うときにも、
安心して使っていただけると思います。
ほぼ日同時に、美しさが。
ぽってりしたカーブがきれいです。
山本そうですね。高台にいたるカーブですね。
ほぼ日5つの器のサイズについては
どんなふうに考えられましたか。
山本決まりがあるわけではないので、
自分が使いやすいと思ったサイズを考えました。
人によっては「ごはんはこれ」という基準が
違うと思いますので、そこも自由に考えていただけたら。
ほぼ日「やまほん」ではふだん、
作家ものを扱いになってらっしゃるのに、
こうやってみずからプロダクトをつくられているのは、
どういう経緯なんでしょうか。
山本「ある程度の数量で量産される器が、
それぞれの産地にあるべきだ」と思ったことが
最初のスタートです。
焼き物っていうのは産地ありきで、
その産地では何百トンという土をとって、器をつくる。
ある程度のボリュームがないと陶土屋は
やっていけないんです。
そのためには粘土が消費されないといけません。
作家はほんとに個人でつくるので、
自分で掘りにいってもいけるぐらいの量かもしれませんが、
産地での陶土屋がなくなれば、
日常に使える器が、
値段的にもとても高額なものになってしまう。
産地は疲弊してきていますし、
そのため土を掘り出し粘土を作る陶土屋さんも
どんどん廃業しています。
そんななか、信楽で、知り合いの方が量産品を
「つくりたい」ということで、
量産とは呼べない数量ですが
プロダクトラインを始めることになりました。
ほぼ日それでプロデュースを引き受けた、ということなんですね。
山本そうですね。なので、
やまほんのプロダクトラインといっても、
つくる職人の個性を重視しています。
これは男性の手で轆轤(ろくろ)でつくっていますが、
シリーズの中にある急須は、
また別の人で、女性の方なんです。
そうすると、繊細さが出るんですよ。
前に紹介していただいた宝瓶(ほうひん)はまた別の方。
そんなふうにアイテムが増えてきました。
ほぼ日五組碗、轆轤なんですね。
型なのかと思っていました。
山本そうです。だから、一個一個微妙に違います。
写真ではわからないくらいの微妙な差ですけれど。
ほぼ日そうなんですね。もとのデザインそのものは、
山本さんが決めて‥‥。
山本はい、僕が図面を描きました。
職人さんの仕事は、その人の癖も出るんですが、
僕はそれを許容しています。
無理して図面通りにつくるより、
長年積み重ねた作り手の形がつくりやすく、
職人にとっても無理がなく、
気持ちよく仕事ができると思っています。
ほぼ日伊賀の職人さんなんですか。
山本これは信楽なんですよ。
ほぼ日山ひとつ超えた、隣町ですね。
山本そうそう、ご近所です。
ほぼ日じゃあ、もうほんとに
地元の活性化に貢献するお仕事ですね。
さきほどの「この人には急須」
「この人にはお碗」みたいな、
プロダクトによる適性みたいなことも、
山本さんは考えていらっしゃるんですか。
山本そうですね。
たいへんおこがましい言い方になりますが、
つくり手にも、職人向きか作家向きかが
あると思っています。
ほぼ日「ほぼ日」が長くお付き合いいただいている
伊賀の土楽の福森さんたちのように、
「陶工」であるという立場のままで、
作家としての活動をなさっているかたも
いらっしゃいますし。
山本逆に、作家性が高いあまりに、
社会との関わりが苦手なかたもいらして、
そういうサポートをすることも
ギャラリストとしての自分の仕事だと思っています。
大きく言えば「工芸の幅を広げたい」。
同じ飯碗でも100均のものから100万円クラスのものまで、
いろいろあるわけですが、
自分の生き方や暮らしにマッチするものを
自由に選べるっていう選択肢があることが、
現在の日本のように多様で豊かな食卓があると思うんです。
日常にある工芸品から、小さな楽しみや喜びを得て、
気持ちの良い暮らしになれば一番いいかなって。
僕のやりたいことは、そこなんだと思います。
だからギャラリーをつくったんだろうな、って。
ほぼ日ありがとうございます。
この「五組碗」が、なぜ手になじむのか、
わかったように思います。
機械で作った完璧さじゃなくて、
少し揺らぎがあるから馴染んでいくんですね。
山本日本の工芸ってすごく繊細ですよね。
だから使う側に感性がないと、というか、
見ようと思って見ないと、見えない部分が多くあります。
なんでもそうですけどね。
ぼくは建築もやっていますが、
ペンキひとつでも、ローラーで塗るか刷毛で塗るかで
印象って変わるんですよ。
その違いに気が付けるかどうか‥‥
わかろうとしない人が多いというか。
ほぼ日わかろうと思って見たら、わかると思いますよ。
山本これは気にとめることもないところではありますが、
ローラーで塗るより刷毛で塗ったあとの方が
繊細で美しいです。
もっとわかりやすく違いで言うと、
漆喰か白いクロスの違いです。
それはもう誰でも気づくレベルかと思いますが、
そのアンテナがないと気づかない人もいる。
ほぼ日「気にしない」のかもしれませんね。
その部屋はそういうものだと最初から思っているというか。
比べてみると漆喰の方があったかくて、
光に応じて変化する加減がきれいですよね。
山本そうです。光の角度で見たら絶対わかります。
「この空間の質はどこから、
何から出来てきているのかな」と、
よく思考すると、「あっ、壁からきてる」と
理解できるんですけれどね。
ほぼ日最初は気にしていなくても、
長く見ているうちに気になることもありますね。
恥ずかしい話ですけど、うちのマンションの部屋は、
引っ越したときは木の扉だと思っていたんですよ。
ところがしばらく住むうちに違和感。
木目のクロスが貼ってあったんですね。
「つくりものだったんだ」と、
それが違和感の正体だったんです。
山本そういう感覚は持っていたいですよね。
失ったらダメだなっていうか、
その動物的な感覚が
豊かさを感知することにもつながっているようにも
思えます。
どこまでわかって察知できるかという点では、
人と人とのコミュニケーションも同じですよね。
人間がモノから感じとる感覚と、
人から感じとる感覚は、
同じように退化していると感じています。
「暮らしが感性を育む」と言われるのは、
こうした無意識レベルのことだと思います。
とくに子どものころの体験は大事と言うのは
こういうところだと思います。
ほぼ日そうかもしれないです。
人のおうちに遊びに行ったときに、
自然素材が多いことに感激しつつ、
プラスチック製品がほとんど目に入らないことを
とても気持ちいいと感じたことがありました。
そしてそこで育つ子どもを見て、いいことだなって。
山本何となく違和感を感じたら、
次は「何が原因だろう」と感覚を研ぎ澄ましたいですね。
生活の価値ってなんだろう? って。
値段の違いや、使いやすさだけではない
価値があると思います。
ほぼ日このコンテンツを通じて、
そういうことがすこしでも
伝えられたらいいなって思います。
山本さん、今回も、ありがとうございました。
山本こちらこそありがとうございました。
五組碗は、
2024年6月18日販売開始です。
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