糸井 | 途中で配役の変更があったわけですが、 草刈さんはさんざん我慢していましたよ。 自分に言い聞かせるように、 頷きながらやってるシーンがつづきました。 あのへん、ちょっと興奮したな。 「何度でもやる」という顔してる草刈さんと どうなるんだろう、これ以上うまくできるのかな、 というダンサー。 そして、周防さんがそれを見てるわけでしょう? めっちゃくちゃおもしろかったですよ。 |
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周防 | あのシーンはみなさん、 そうとう厳しいと思われるんですけれども、 ダンサーが舞台から降ろされたり 急に採用されたりということは、 すごく普通のことです。 |
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糸井 | たぶんそうだと思う。 | ||
周防 | さっきも言いましたが、 ダンサーというのは 体を作ることを子どもの頃からやっていて、 すごく大変なのは当たり前。 そしてぼくが思うには、 絶えず比較されながら生きてきているんですよ。 |
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糸井 | あぁ、そうか。 | ||
周防 | 配役ひとつとってもそうです。 いっしょに稽古をしていても 「なんであいつがソリストなんだ」 なんてことはしょっちゅうだろう。 それを子どもの頃から延々と 作品ごとにくり返してきているわけです。 その鍛えられ方はすごいですよ、 恐ろしいなと思います。 それだけじゃない。 たとえば、あるバレエ団の中で主役になる。 『白鳥の湖』の主役を踊るとする。 |
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糸井 | そうか‥‥そうだ、そうだ。 | ||
周防 | そうなんです。 そのバレエ団の中では、 一応「主役を踊る人」ですが、 『白鳥の湖』は、世界中のバレエ団が 上演しています。 つまり、その数だけ主役がいる。 その主役とも比べられているわけでしょう。 これは、果てしないことです。 |
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糸井 | 果てしないよ。 みんなが同じ歌を歌ってるのと同じですからね。 その厳しさは想像できない。 |
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周防 | ですから、あのシーンで 役から落とされることなんて、 その力がないんだから当たり前 ということなんでしょう。 これはダンサーの中では 基本的な了解事項として あるんだろうと思います。 |
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糸井 | どのくらい「この人で耐えるか」というのも その都度の判断ですね。 |
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草刈 | そうです。 あれは、あの日に言わないと ギリギリだめ、ぐらいのタイミングでした。 それまで、チャップリン役のルイジさんには 「大丈夫なのかしら?」って 何度も言ってたんですが、 ルイジさんは、 予算のことも気にしていましたので 「ちょっとこのまま練習してみたほうがいい」 と言われまして。 でもこれは、映画として残る作品だから 替えたいと進言しました。 |
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糸井 | あれで旦那は元取りましたよ。 | ||
草刈 | (笑) | ||
糸井 | 「だめ」っていうところまで 撮っちゃったんだから。 |
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周防 | ははは。 でもぼくも よくあそこにカメラが入ってたな、と 驚きました。 |
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草刈 | いや、私はカメラが入ってたので、 言い方をすごく柔らかくしてたんですけど。 |
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一同 | (笑) | ||
草刈 | カメラがなかったら 「あれじゃできない」というひと言で 片づけちゃってましたよ。 カメラがあったので、 「ちょっとあれだと‥‥」という 言い方をしただけです(笑)。 |
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糸井 | 鏡があったのね。 鏡とカメラは違いますか? |
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草刈 | 違います、全然。 鏡は自分しか見ないし、その一瞬です。 だけど、カメラは みんなが見る可能性のあるもので ずっと残ります。 |
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糸井 | そうですね、いやぁ、全体が とてもおもしろいです。 この映画の監督が周防さんじゃなかった場合、 どうなってたんだろうということも、 観ているあいだにチラチラ考えました。 この映画は1部と2部に分かれていますが、 2部はいいです、2部は。 1部に関しては、なんていうんだろう、 家族の甘えがあるはずがない関係で なおかつ「入ってていいですよ」という、 ものすごく不思議なことになってて。 ぼくらがすごくおもしろかったのは、 一緒の家に帰る人たちが あそこで別の表現者として格闘していたことです。 ドキュメンタリーの部分は、けっこう長いこと カメラを回していたはずです。 ときどき周防さんが映るシーンもあるわけです。 そのへんがおかしいし、複雑です。 おそらく、周防さんだって 見られてるということが怖いはずです。 つまり、バレリーナたちから現場で 監督が見られてるんですよね。 もしかしたら邪魔だと思ってる人が いたかもしれないし。 |
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草刈 | うん、うん。 | ||
糸井 | 映っちゃった状態で 「いますから」というのを、 突っ張っているわけでもなく やっている周防さんって、 ものすごく男らしかった。 すごいよ。 |
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草刈 | いや、そういう図々しいところがあってね、 太さがね? |
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一同 | (笑) | ||
草刈 | そういうのがこの人の特徴なので。 | ||
糸井 | ぼくが薄々 「周防さんってもしかして‥‥」と思ったのは 伊丹十三さんの『マルサの女』の メイキングを撮ったあたりからじゃないかな? |
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周防 | あぁ、メイキング。 | ||
糸井 | あのときも、 「いるような、いないような」ことをしてた。 |
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周防 | はい。あのメイキングを撮ったときは、 「困ったら伊丹さん撮っとけ」 と思って撮影していました。 現場にいる監督の姿は 何の抑えにでもなるだろうと 思っていたからです。 しかし、今回に関しては ぼくを撮ることはぜんぜん考えてなくて。 ただ、 「この日はこういうことがあるから、 入ってほしい」 と声をかけて、 あとはカメラマンにまかせていただけです。 だから、逆にいえば ぼくがカメラを意識した瞬間というのがあって。 |
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糸井 | あ‥‥、わかった! | ||
周防 | はい。 ローラン・プティに、 踊りを外で撮りたいと言ったシーンです。 「そんなんだったら、映画はダメだ」 と目の前で言われたあのときの。 |
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糸井 | あそこは緊張したなぁ! | ||
周防 | 一瞬「えっ?」っと思ったんだけど、 「えっ?」と思った瞬間、カメラが 俺の顔を狙って回り込んでるのがわかって、 それがいやで顔を隠したんです。 |
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草刈 | そんな。 | ||
一同 | (笑) | ||
周防 | 顔を隠したら、どんどん回りこんでくる。 まったくまいったなと思いながらも、 カメラに撮られていることより、 いまローラン・プティが言ったことを どうぼくは解釈したらいいんだ、となって、 もう、大混乱ですよ。 |
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糸井 | プティさんはいったん フランス語で言うわけですよね? |
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周防 | そうです。 | ||
糸井 | 周防さんは、フランス語で言われてるときには、 内容については推し量るしかないわけだから、 曖昧な顔をしてたんです。 |
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周防 | はい、はい(笑)。 | ||
糸井 | やがて通訳されたときに、 「やばいな」と思う(笑)。 それ、全部映させちゃってるんだから、 かっこいいですよ、あの覚悟。 |
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草刈 | (笑) | ||
周防 | まぁ、あのぅ‥‥。 | ||
糸井 | 草刈さんに匹敵するぐらい、 かっこいい。 |
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一同 | (爆笑) | ||
(つづきます) | |||
2011-06-30-THU |