周防 | ぼくが伊丹さんに近いことがあるとしたら、 それは「おもしろきゃいいや」 というところです。 |
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糸井 | うわぁ、そうか。 | ||
周防 | プティさんにきついことを言われているあのときに 「これがおもしろくなる」とは 全然思ってないですよ。 編集するときにおもしろかったから 使ったわけです。 |
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糸井 | あの表情は、劇映画では演出できない。 | ||
草刈 | うーん、そうですね。 | ||
周防 | まいったな、と思いました。 | ||
糸井 | 思った。 で、映されてることを、 監督は知ってたわけですよ。 そこが複雑。 |
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周防 | でも、最後に編集するのは自分だから、 という気持ちはありますよ。 自分で切れるわけだから。 |
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糸井 | そこが周防さんの「図々しさ」なんだね。 | ||
周防 | (笑) | ||
草刈 | 私も結局、編集するのは旦那さんなので、 ものすごくオープンにしてしまいました。 |
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糸井 | おもしろい(笑)。油断だらけ。 | ||
周防 | 他のダンサーにも草刈が 「ドキュメントカメラが入ることは、 この映画を作るための条件のひとつだから」 と説明してくれました。 「ただ、稽古の邪魔になったり、 精神的にいやだったら、出て行きます」 という約束もした。 |
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糸井 | うん、わかる。 断る権利を演じ手に渡す方法は、 ぼくもよくやります。 そこは、映画を観ててわかりましたし、 「いいぞ!」と思っていました。 そうしてしばらくすると、 「あ、周防さん、自分が映るんだ」 という展開になってきて、 自分が映るところは 覚悟してるんだなぁと思えたんです。 結局、切らなかったですよね。 |
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周防 | 切らなかったですね。 あとになって 「おもしろいけど見せたくなくて 切ってしまったシーンはありますか?」 と訊かれたんですが、 思い出そうとしても そんなシーンはありませんでした。 |
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糸井 | 草刈さんは、 旦那さんが困っているシーンを観て どう思いました? |
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草刈 | 「あ、やられてるな」と思いました。 | ||
一同 | (笑) | ||
草刈 | 私は、プティ先生のああいう場面は しょっちゅう見てるので、慣れてるんです。 もっと激しいところも見ているし。 プティ先生がそういう状態にいるときに、 目の前で踊らなきゃいけなかったことも 経験していますし。 |
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糸井 | そうかぁ。 | ||
草刈 | まぁ、なんだかすごくつらいかもしれないけど、 その前で踊らなきゃいけないよりは ましでしょう、という感じで観てました(笑)。 |
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糸井 | もしかして「踊りの草刈さん」じゃなくて、 あれを奥さんとして観てたら、 「旦那をかばってあげたい」くらい思ったかもね。 |
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草刈 | かもしれませんね。 だけど、私はまぁ、 「こんなもんだろう、こういう場面は」 と思っていました。 |
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周防 | だから、ルイジも草刈も一貫して 「好きなように撮ったほうがいいよ」って 言ってくれていました。 「先生がああなるのはいつものことで平気だから、 自分のやりたいようにやって いいものを作れば、そのほうが全然いい」 |
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糸井 | そうか‥‥。 | ||
周防 | はい。 | ||
糸井 | その「答えが決めるよ」という覚悟は、 やりこんでいる人はみんな、言えますよね。 でも、バレエに関しては、 プティさんから見れば 周防さんは新参者なわけです。 その距離感や遠慮は 人にはわからないですよね。 |
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周防 | うん。そうなんですけどね‥‥ ぼくはあのとき 「この人は説得できない」って思ったんですよ。 |
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糸井 | あ、なるほど、そうなんだ。 | ||
周防 | どんなに言葉を尽くしたって無理だ、 この人から「イエス」なんてもらえない。 だったら黙って撮っちゃえ。 |
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糸井 | それもぼくと同じです。 | ||
草刈 | (笑) | ||
糸井 | つまり、説得して勝ったからって、 意味はない。 |
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周防 | ないですよ、全然。 説得して「いいよ」と言ってもらって、 撮ったものがつまらなかったら、 何の意味もないわけだから。 |
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糸井 | 「観たら絶対にいいって言うはずだ」 というところを 撮るしかないですよね。 |
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周防 | そうです。 だけど、だけど編集しながら反省したのは 「外で撮影するのを禁止されたこのシーンを、 なぜ抑えでスタジオでも撮らなかったんだろう」 |
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糸井 | (笑) | ||
周防 | ぼくね、外であまりにもいい画が撮れたんで しかも、外のシーンが入っていることで |
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糸井 | 外で撮った作品は2本くらいありましたよね? | ||
周防 | はい。あと、ラストシーンも外です。 | ||
糸井 | ‥‥‥‥そうだ! | ||
周防 | あっちは口に出せませんでした。 | ||
一同 | (笑) | ||
周防 | 最初に説明しようとしたらプティさんが 「このバレエのラストは 舞台装置がすばらしいんだ」 「この舞台装置を映画で撮らなくて なんの意味がある」 と言い出しちゃったんで、やめました。 |
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糸井 | ええ。舞台のラストを絶賛して 強く言ってましたよね。 |
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周防 | ですから 「いやぁ、映画のラストは外なんです」 なんて言えない。 |
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糸井 | あのプティさんの頑固さはね、 ぼくも説得できないと思う。 それにね、説得ってつまんないですよ。 |
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周防 | そうなんです。 そこで説得して契約書にサインして おしまいだったらいいんですけど、 そういうことじゃないんですから。 |
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糸井 | うん。ほんとうに、しみじみ思います。 説得ってつまんない。 いままで何回も言いたかったけど 今日はじめて言えたような気がします。 「思うとおりになったよ」とか、 「説得できたよ」って、そんなもん、 だめですよね。 |
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周防 | だめです(笑)。 | ||
(つづきます) | |||
2011-07-01-FRI |