糸井 | 『地獄の黙示録』の映画のメイキングを、 ぼくは映画館で観て、 とてもおもしろかった。 今回の周防さんの映画は 内容としては全く違いますけど、 あのすごみを思い出しました。 あのメイキングは、意識してましたよね? |
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周防 | いや、全然ないですよ(笑)。 あのね、今回、 この映画を作る前には、 バックステージをどう使うかって、 まったく考えてなかったんです。 |
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糸井 | あ、そうなんですか。 | ||
周防 | しかしあれだけハプニングが起きちゃったので、 バレエの前に見せるという方法に たどり着きました。 準備が順調に進んでいたら、 見せ方がもっと違っていたと思います。 |
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糸井 | 1部と2部を 混ぜちゃうパターンもあったんですか? |
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周防 | ええ、混ぜちゃうのもありましたし、 DVDの映像特典みたいに、 ほんとうにメイキングとして 後で見せる方法も考えていました。 なぜなら、ぼくは バレエの作品で勝負したかったからです。 このチャップリンのバレエはもともと 全幕が2時間あります。 「それを全部映画にしたい」と プティさんに言ったら、 「いや、映画で2時間は飽きるからやめろ」 と言われました。 「じゃあ、先生、作品選んで短くしてください」 「おまえがやれ、任せる」 ということになって。 |
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糸井 | 厳しいなぁ。 | ||
周防 | 「おまえに任せる」と言われちゃったので、 ぼくなりにどうしようと考えました。 舞台って、 着替えの時間や肉体的疲労といったことから、 ほんとうはつなげたい演目でもしかたなく 間に何か入れるということが起こります。 ですから、まずそういうものをはずして、 次にチャップリンの世界にダイレクトに つながるものだけを残そうとしました。 そうしたら1時間になっちゃった。 バレエだけで1時間ということになると、 プロデューサーが 「まぁ、劇場用映画としてはつらいです」 と言う。 切った作品を戻そうかな、と思ったけど それはどうもよくない気がしました。 すると、プロデューサーのほうから、 「バックステージ撮っておいて、 周防正行なりの “バレエの観方”のようなものを作って 合わせて映画にするということでどうですか?」 と言われたんですよ。 周防正行なりのバレエの観方、といっても どう作っていいかわかんない。 だけどまぁ、舞台裏を撮っておけば 何かの材料にはなるかもしれない。 それでカメラを回したんですよ。 最初からこの形をイメージして 作っていたわけではありませんでした。 |
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糸井 | 考えてもみなかった、そんなこと。 そうだったんですか。 |
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周防 | なにしろ、自分で映画作りながら、 自分の映画のメイキングって‥‥ 伊丹さんだって作ってないですよね(笑)。 |
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糸井 | そういえばそうですね(笑)。 | ||
周防 | そんなこと、できないですよ。 勝手にカメラを回してもらうしかないです。 いくつかぼくなりの 「これは撮っておいてほしい」という ポイントはありましたが、 「何をどう撮って、こういうイメージで」 ということは伝えませんでした。 「とりあえず目の前で起きたことを撮っといて」 というくらいの指示だけで、 特別な意図はないです。 バックステージで回したテープは、 全部で85時間ありました。 ぼくはその85時間分を観て、 最終的にこういう形にしようと思いました。 |
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糸井 | いまの話を聞いたら、 もういちど映画を観たくなりましたよ。 カメラはただあったものだったんだな、 と思って観たら、 またおもしろいかもしれない。 |
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周防 | こんな映画は生まれてはじめてです。 ふつうは完成形のイメージがそれなりにあって、 そこにどう近づけていくか、 ということになります。 まぁ、作っている途中で それよりおもしろいことがあって、 ちょっと広がったな、 ということはあるんですけれども。 これは全く違って、 構成自体に何のイメージもなく できちゃった映画です。 「あぁ、映画って こんなふうにしてもできちゃうんだ」 って、ちょっとおもしろかった。 |
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糸井 | 自分のことでいうと、去年の暮れから3月まで、 『BRUTUS』という雑誌が ぼくらの仕事に取材で入って ずっとつきあってくれたんです。 まぁ、誰かを追う「密着ルポ」というのは 雑誌に限らず、多かれ少なかれ「やらせ」です。 ぼくは、それがいやでしょうがなかった。 「もしやるんだったら、全部見せるから、 嘘をつかないでやりたい」 と言ってみました。 そうしたら彼らは ほんとうに「そうしましょう」と言ってくれて。 それこそ「原価率がこうなってます」みたいな 会議まで、彼らは入っていました。 |
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周防 | へぇえ。 | ||
糸井 | それはきっと雑誌には 載せないだろうなとは思ったけど、 載せられてもしょうがないというくらいに 覚悟していました。 とにかく全部見せるんだったら 嘘にならないと思ってたから。 特集された雑誌は4月に出たんですが、 それを見て、 ちょっとうれしかったんですよ。 素人がドキュメンタリーに出て、 カメラがいるのに気づかないふりをして マイク持って歩きながらしゃべったりするの、 あれ、どうしてもできないんです。 |
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周防 | できないですよね。 あれ、ぼくもいやです。 |
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糸井 | いやでしょう? あれを平気でいる社会に対して、 ちょっと文句を言いたいな、というような ところがありました。 これからは、意識的に そういうことをやってみたいというのが 頭にあったところに いまの話を聞いたんで、 「ほら、できるじゃないか」と、また言いたい。 |
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一同 | (笑) | ||
周防 | この前、あるインタビューで 「監督から仕掛けたところはありますか?」 という質問を受けました。 その人が言うには、ドキュメンタリーでは、 作品としてまとめるために、 山をひとつ作っておこうとすることが あるそうなんです。 例えば、あえて相手が嫌がることをやって 怒らせて、そこを撮ったりするらしい。 |
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糸井 | それは、ないでしょうね。 | ||
周防 | そんなこと、ぼくは考えたこともなかった。 どう作るかをまったくわかってなかったから、 仕掛けるどころか、 どんどん現実に仕掛けられて、 ぼく自身がうろたえてた。 |
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糸井 | さっきの、プティ先生のところ。 | ||
周防 | あそこも、たまたまああいうことがあったから こういうできあがりになっただけで、 なかったら また違うものになってたと思います。 |
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糸井 | そこがたぶん「品のよさ」なんだね。 | ||
周防 | あ、そうでしょうか。 | ||
糸井 | いや、あのね、 「品のよさ」というのは 自分を含めていま言いたい。 |
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一同 | (笑) | ||
糸井 | 思い切って言わせていただきます。 2部のバレエのシーンについても それは思うんです。 つまり、周防さんのやったことは 加工をしない段階でもすばらしい、 というものを映画で伝える仕事です。 「俺がいることなんか忘れてください」 という撮り方を、周防さんはしている。 あれを徹底するの、えらく大変だと思う。 伝えるための何かを、周防さんは 絶対に、してはいるんです。 でもそれは、かなり 気づかれないようにやっている。 |
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周防 | バレリーナと結婚して 15年間バレエを観てなかったら、 すぐに思えなかったと思うんですが、 ぼくは、バレエを壊さないように撮ることを とにかく考えていました。 バレエの持っている本質的な流れ、とでも 言えばいいのかな‥‥ぼくが劇場で観ていて、 いいなと思えるもの、その「何か」を 壊さないようにするのは どうしたらいいだろうか、と。 |
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糸井 | 「俺はできる」って思ってました? | ||
周防 | いや、そうしたいと思ってました。 | ||
(つづきます) | |||
2011-07-04-MON |