テレビファン ぼくら、テレビが大好きだから。   鈴木おさむ─────糸井重里
第3回 クイズ書いては雑用、の毎日。
糸井 一方で、鈴木さんが本を出して
奥さんのことを書いたりしてる。
あれは、ドキュメンタリードラマですよね。
鈴木 そうですね。
先月、4年ぶりにあの続きが出たんです。
あの話はずっと「ポパイ」で連載してたんですが、
糸井さんがごらんになって、
いろんなことを言ってくださったことで、
ドラマにもなりましたし、
すごいヒットになりました。
あれからずっと書き続けて、
気づいたことがあって‥‥、つまり、
こういうことやってる人は
あんまりいないということです(笑)。
糸井 いない、いない、うん。
鈴木 ぼくの中では
『シートン動物記』のような(笑)。
 
糸井 そうですね。それか、
『ファーブル昆虫記』(笑)。
鈴木 そう。そんなようなもんなんです。
それが意外と、日本や世界のどこを探しても
あんまりない、ということに気づきました。

糸井さんがあのとき最初に言ってくれた、
「タレント本じゃないよね」
という言葉が、当たってるし、
ずっと響いてると思っています。

自分の中で、
恋愛感情や愛情というものが
どうなっていくのか、
人はどうやって変わっていくのか、
というところが軸になってると思います。

いま、結婚して8年です。
どんどん変わってきてる。
たまたまこうしてたくさんの人が
見てくれたから、せっかくなんで、
このままやり続けていこうかなぁ、と思ってます。
糸井 うん。
あれはいわば
自分が演者であり、ソースであり‥‥
寺山修司の時代で言う、街頭演劇でしょ?
鈴木 そうですね(笑)、はい。
糸井 表現するとき、微妙に
変換も行われてるだろうし、
それによって何かが与えられるという自分も
当然いる。
そんなこと、やってる人はいないよねぇ。
鈴木 そうなんですよね。
糸井 危ないところまでやっちゃって、
ダメになる可能性も、
ゼロではないですよね?
鈴木 そのとおりです。
糸井 そのことを含めて、1冊目が出たときに、
とにかく驚きました。
なぜなら、まともに
純愛物語として、
男が愛を見つめる物語として、
書かれていたからです。
現代の恋愛って、
こう書けば見つめられるんだ、と、
ほんとに感心しましたもん。
 
鈴木 ありがたいなぁと思いました。
糸井 あれは、文体が
いわゆる小説書きのものじゃない。
放送作家として培ってきたものですよね。
鈴木 はい、そうです。
糸井 はじめからそうしたんですか。
鈴木 意図的に、というわけではないのですが、
そもそもぼくのデビューはラジオでした。
ニッポン放送です。
ニッポン放送出身の作家さんって
けっこういらっしゃって、
秋元康さんもそうなんですよ。
ニッポン放送ってね、
人使いがあらいんですよ。
糸井 うん(笑)。
鈴木 当時は、とにかく来る者拒まずで
受け入れていたようなところがありました。
そのかわり、ものすごい勢いで
何でも書かせるんですよ。

天気予報から何から、全部、
ディレクターが書かないで
作家が書く。すごい量です。
そうすると、文章力のようなものが
身についていきます。
糸井 うん、うん。
鈴木 ぼくがいちばん
勉強になったと思っているのは、
23歳のときに(笑福亭)鶴光さんの
ラジオ番組を書かせていただいたことです。
糸井 ああ、鶴光さん(笑)。
鈴木 「オールナイトニッポン」や、
若い人の番組も
たくさんやらせていただきました。
それらの番組もすごく勉強になったんですが、
鶴光さんのラジオって、
はがきのコーナー以外は
原則的にフル台本なんですよ。
今週こんな政治ネタがある、とわかっていたら、
必ずそこに
「ちょっとエッチなお父さん」
という感じのものを
からませていったりします。
それは、いわば落語です。
それを毎回、フル台本で作っていきます。
しかも全部口語で書かなきゃいけないし、
リスナーである主婦に向けた台本です。
気持ちとしては、まぁ、
若い人向けのラジオばっかり
やりたい時期ですよ(笑)。
 
糸井 そうだよね。
鈴木 でも、もしかしたら、
あれを23歳でやらせてもらったことは
すごいことだったんじゃないだろうか。
かたやそのころ、木村(拓哉)くんとも
ラジオ番組をやらせてもらってました。
いまにして思うと、そのバランス感覚が、
すごく勉強になったと思います。
糸井 鶴光さんのラジオって、
どのくらいの期間だったんですか?
鈴木 鶴光さんの番組では、まず
クイズだけを作る作家を1年やって、
そのあと3年ぐらい書きました。
糸井 クイズだけ作る作家!?
鈴木 はい。
「鶴光の噂のゴールデンアワー」に
「こがねちゃんクイズ」というのが
ありましてね、
新聞見て、毎日クイズを作ってました。
あとは、雑用もやってました。
糸井 うん、うん。
鈴木 クイズ書きながらADです。
そういうとき、
すごくかわいがってくれた人がいまして。
糸井 うん、うん。
鈴木 その人は、女性で、
ふくよかな方でした。
ぼく、昔から‥‥、
占い師にも言われたことがあるんですよ、
「あなたは女で運命が変わる」
って。
糸井 ほう。
鈴木 それはなにも、恋愛だけじゃなくて。
振り返ってみれば、確かにそうでした。
自分の人生のポイントには、
いつも女の人がいます。
  (続きます)
2010-07-29-THU