テレビファン ぼくら、テレビが大好きだから。   鈴木おさむ─────糸井重里
第5回 カメラを見るのが怖いだろ?
鈴木 去年1年、TBSの
「バラエティーニュース
 キミハ・ブレイク」

という生放送の番組で、
MCをやることになったんです。
糸井 はい、はい。
鈴木 その番組に出ることは
木村くんには言いませんでした。
糸井 うん。
鈴木 ぼくとテリー(伊藤)さんと
加藤シルビアアナウンサーがスタジオにいて、
1分半ぐらい軽くプレゼンしてから
VTRがはじまる、という構成になっていました。

木村くんに、その番組のことは
ほんとに何も言わなかったし、
お互いふれずにいました。

番組がはじまって3〜4か月経ったときに、
コンサートの打ち上げで、
その話になったんです。
糸井 おお、おお。
鈴木 そのとき、木村くんに
「カメラ見るの、怖いだろ」
と言われました。
つまり、テレビカメラをね。
 
糸井 へぇえ。
鈴木 「え、なんで?」
と返しました。
「ワンショットで
 しゃべろうとしてなくて、
 会話で成立させようとしてるじゃん?」
と言うんですよ。
テリーさんは絶対1回は
自分の意見をカメラに向かって言ってる、
だけど、ぼくはいつもほかの人に
話を振ってしまっている、
そう木村くんは言うんです。
「カメラを見るのが怖いから
 3人で話してるんだ。オレはわかる」
と。びっくりしました。
糸井 はぁぁぁ、なるほど。
鈴木 「そこで責任を持てないんだったら、
 出ないほうがいいよ」
って、言われたんですよ。
糸井 わぁ。
鈴木 木村くんは、きっと
コンサートとかで単純に客席をわかせる
アクションをするときにも、
「オレの中で覚悟がある」
ということなんでしょうね!
糸井 ‥‥なるほどなぁ。
鈴木 だから、テレビでも木村くんはそうなんです。
テレビに出るのは別にいいと思う、だけど、
出ようと思うんだったら
そこの責任を取るつもりでやれ、と。
それはめずらしく、
けっこう熱く言われたんですよ。
糸井 おお。
鈴木 ぼくはちょっと悔しくなって(笑)、
「そんなことねぇよ」
みたいな感じで返しました。

そういうことがあって、次の週から
なるべく自分の意見を、
10秒でもいいから言うようにしました。
「怖いな」と思ったんですけど、
そうしました。
2か月ぐらいしたら、
木村くんから
「だんだんよくなってきたぞ」
ってメールが入って(笑)。
糸井 うん、うん。
鈴木 やっぱり彼はすごいなぁと思いました。
糸井 そうだね、すごいな、その話。
鈴木 人がテレビに出ている姿を目にしたとき、
見てるところがぜんぜん違う。
すごい能力です。
糸井 うん。
木村くんはもう、そのあたりの力は
もともと持ってますよね。
鍛えてもいるだろうけど、
もともと持ってます。
鈴木 そうなんですよ。
それに、木村くんってわりと
そういうことを言わない人です。
それって彼なりの
ちょっとした種あかしでしょう。
それをオレに言ってくれたんだ、
ということにも、ちょっと驚きがありました。
糸井 あの人の種あかしって
何だろうな‥‥、つまり、
「全部わかってやっている」ということの
あらわれなんですよね。
鈴木 そうなんです。
テレビに映るときに、
かっこいいポーズを意識的じゃなくやるのが
まずは「木村拓哉」なわけですよ?
糸井 そうそう。
鈴木 芝居もそうですが、
どこまで意識してるのかわからない。
もしも計算でやってるとしたら、
とんでもないな、とも思う。
でも、計算じゃないから、
スターなんだとも思います。
 
糸井 きっと、どっちとも言えないんでしょうね。
「知っててやってる」という意味では
計算なんだけど、
表現を考えるという部分においては、
その人が出てしまいますから。
鈴木 はい、そうですね。
糸井 作家でもそうです。
「落ち葉が落ちた、ドスンッ」
と書いたら、
「ドスンッ」になっちゃいます。
それを「ひらひら」と書いたときには、
その作家が、どこかで見た「ひらひら」を
描写するんですよね。
鈴木 うん。
糸井 それと同じで、そのあたりは
才能なんだと思う。

彼がまだうんと若かったころ、
厚生年金会館かどこかで
コンサートがありました。
そのステージをぼくは見に行ったんです。
そしたら、木村くんがギター弾いて、
ピックを口にくわえて、
客席に飛ばしてました。
鈴木 おお。
糸井 お客さんは、
ものすごくうれしいですよね。
二十歳そこそこの若いやつが
どうしてそんなこと考えつくんだろうと
ぼくは思いました。
鈴木 うーん‥‥。
糸井 ピックをくわえてから投げるというのは、
ふつうに投げるのとは
ぜんぜん意味が違ってくるわけです。
もう、「おまえ、何?」と思うくらい
ショックでした。
ベテランのプロデューサーが
指示してやったならわかるけど、
あの頃はそうじゃないでしょう。
あれもちゃんと、覚悟して意識して、
やってたことなんですよ。
鈴木 そうでしょうね。
糸井 木村くんは、
「かっこいい」ということを
すべて、具体的にとらえているんです。
 
  (続きます)
2010-08-02-MON