テレビファン ぼくら、テレビが大好きだから。   鈴木おさむ─────糸井重里
第7回 人が無責任に求めるもの。
鈴木 糸井さんは桑田佳祐さんと
お仕事なさったこと、ありますか?
糸井 ないと思います。
鈴木 桑田さんって、ご存知のとおり、
この日本の音楽シーンで
30年間CDが売れ続けている人です。
ぼくは、桑田さんが昔からすごく好きで、
好きすぎて語るとイタくなるから、
控えてるくらいなんですけど‥‥。
糸井 うん、うん。
鈴木 去年、ラジオ局ですれ違ったので、
ごあいさつさせてもらおうと思って
「鈴木おさむと申します」とお伝えしたら
「書いてくれてありがとね」
って言われたんですよ。
そのときぼくが桑田さんのことを
書かせていただいたのって、
雑誌の小さな記事だったんです。
あれをごらんになったんだ! と思って
驚きました。

また別のとき、東京FMで、
桑田さんの曲をリクエストしてかける
番組がありました。
ぼくは、コメントがほしいと言われたんで、
コメントとリクエストを出しました。
桑田さんの「誰かの風の跡」という曲が
あるんですけど、
いまだったらそれを聴きたい、というふうに
リクエストしたんです。
桑田さん、そのラジオも
全部聴いてたらしいんですよ。
 
糸井 へえぇ。
鈴木 その日、桑田さんは
番組の収録があったらしいんですが、
ぼくのリクエストでかかった
「誰かの風の跡」を聴いて
番組で演奏する曲を「これにする」って、
その場で変えたらしいんです。
ほんとうだったらすごくうれしいんですけど!
糸井 うん、うん(笑)。
鈴木 そうやって、
ご自分の特集、番組、放送、記事、
すべてごらんになっている。
すごいと思います。
おそらくそれは‥‥危機感ですよね。
糸井 うん。そりゃ、
「ひとりチーム」だね。
鈴木 昔、「TSUNAMI」という歌が、
大ヒットしましたけど、
「TSUNAMI」の前にリリースされた
「イエローマン」という曲がありました。
ぼくはすごく好きな曲なんですけれども、
そんなに大ヒットではなかったようです。

その「イエローマン」のあと、
桑田さんがどうして
「TSUNAMI」を作ったのかを、
インタビューで
お答えになっていたことがありました。

ちょうどネットの
ホームページやBBSができた頃でしたから、
ファンの声が直接届く状況に
なっていたそうです。
桑田さんはそれを全部見てたんですって。

桑田さんはファンの反応を見て
「あれ?」と思ったらしいです。
もしかして、サザンに求めてる曲というのは
こういう曲なのかなぁ? と考えはじめて、
だったら、やさしくストライクを
投げてみようと思ったそうです。

「ファンが無責任に求めてること」
確かにそういうものはあります。
真ん中にいる人って、
意外とそこに気づかないんですよね。
糸井 うん。
気づかないような壁が
できるんだよね。
鈴木 それに気づかなくて
去っていくアーティストって
めちゃめちゃ多いのに、
あの人はそれをできるんだ、と思いました。
ラジオもちゃんと聴いてるし、
雑誌も全部見てる、そういう人だから。

トップに居続ける人って
やっぱりそのあたりが違うと思います。
糸井 自分で詞も曲も作って
ボーカルやってる人は、
自分の歌いやすい歌を
ずっと作っていくことになりがちです。
ふつうのボーカリストじゃないから、
ほかの人の歌を歌ったら
ヘタになっちゃったりするんですよ。
それは、誰だったか、
音楽の専門の人がぼくに教えてくれたことです。

だけど、桑田さんはあるときから
他人の歌をどんどん歌えるようになっていった。
「ああ、この人はどっかでそっちに行ったんだ」
と、すごく驚いたんです。
つまり、他人の歌の世界に、
自分がものすごい苦労をして
橋をかけたわけですよ。
鈴木 うん。
糸井 あの歳で
「ボーカリストでも持つ」という状態を
自分で作ったら、今度は
自分のために作る歌が
もっと幅広くなりますよね。

この桑田佳祐という人、
やっぱりおそろしいと思いました。
それは、「桑田佳祐」のプロデューサーが
桑田さん自身であることがよくわかった、
ということでもあるんですけどね。
鈴木 桑田さんとさんまさん、
たしか同い年なんですよね。
糸井 ははぁ、そうなんだ。
鈴木 明石家さんまさんと、桑田佳祐さん、
郷ひろみさんの3人は
おそらく同学年です。
糸井 それぞれにやり方ちがうけど、
3人とも、似てるね。
鈴木 そうなんですよ。
糸井 これは名セリフだと思うんだけど(笑)、
あるときさんまさんが
「トータルテンボスと
 おなじくらいのギャラでテレビ出たい」
って言ってた。
鈴木 ははははは。
糸井 「オレなぁ、みんな、もうほんまに
 よう声かけてくれへんねん」
って、嘘ばっかりって思うけど、
トータルテンボスぐらいのギャラでね、
深夜(番組)をやりたいって、
あれは半分本気ですよ。
鈴木 はははは。
 
  (続きます)
2010-08-04-WED