糸井 |
売れっ子というのは
モテちゃう状態であることと
ある程度はイコールだと思うんです。
売れっ子芸者になったとき、
「あんたのおかげでこの店は繁盛した」
「あんたのおかげ」「あんたのおかげ」
って、みんなが言ってくれます。
だけど主人公のほうは何だか
自分の人生じゃないものを
生きてるような虚しさが
つきまとうことになります。
「えっ、この状態を決定したのは誰?」
というようなことです。
本人は、わかってないんです。
結局、自分で判断したことなんてありません。
「オレに任せりゃなんでもやりますよ」
というようなときに
「おまえに任せる」と言った人は
一体誰だったんだろう? と考えます。
それは、スポンサーでも、
プロデューサーでもない。
いわば、
無闇な大衆というものです。 |
鈴木 |
なるほど、はい、はい。 |
糸井 |
その、形のない化けもののようなものに
あやつられてたのかな?
あやつってるつもりが、
あやつられてたのかな?
そういう感じを味わいます。
つまりはみんな、それの奴隷かよ、
というところに行き着きます。 |
鈴木 |
そうですね‥‥。 |
糸井 |
じゃあ反対側のことをしようと
がんばるのも、
なんだか負けてる気がする。
売れっ子やらモテることやらを突き詰めると、
いったいどうしたらいいのか
わからなくなっていくんです。
そこで、ちょっと自分のところに戻って、
「これはうれしい」「これはしあわせに感じた」
「これはおいしい」ということを
ちっちゃくても1個ずつ
とにかく憶えていく‥‥
もしかしたら、そういうところに
ひとつの答えがあるのかもしれません。 |
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鈴木 |
ははぁ、うーーーん。 |
糸井 |
鈴木さんが書いた、
『ブスの瞳に恋してる』には、
「うれしい」がいっぱい書いてあるわけです。
「おまえはかわいい」って、
書いてあるんですよ。 |
鈴木 |
はい。 |
糸井 |
そのことを見つけたのが、
鈴木さんにとって
ものすごいことだったんじゃないかなぁ、
と思います。
あるところにあるブスがいました。
「ひとりの女性をかわいいと思う自分
対
千万人にモテちゃいます自分」
どっちを取るかと問われたときに
かわいいを取れたんだというおもしろさ、
それがあそこで決まったんじゃないかな、
と思います。
あの本が、
放送作家の鈴木おさむという人には
ものすごくデカいものだったと、
ぼくはほんとうに思います。
テレビで話題をさらったり
舞台で成功をおさめたりしたとき、
観てくれた人や入場料払ったお客さんが
ありがたいとか、いろんな言い方があるでしょう。
だけど「おまえはかわいい」の、
ちっちゃい点をすべてだと言える、
あの瞬間が、なんか、すげぇなと思ってます。 |
鈴木 |
あの‥‥なんであのとき
結婚したんだろう、
って思うんですけど。 |
糸井 |
そうだね(笑)。 |
鈴木 |
30歳のとき、そんなふうに、
いろんなことをやらせてもらいました。
「これからは、そうとうなことがないと
ドキドキしないだろうなぁ」
と、思ったんですよ。 |
糸井 |
ははぁ、なるほど。 |
鈴木 |
それまでいろんな人とつきあって
なんとなくシミュレーションが
できるようにもなっていました。
こうなると絶対に別れるとか、浮気するとか、
そういうこともだいたい想像ついてしまうんです。 |
糸井 |
つまり「アンケート済み」の
決まったことをやっていくんですね。 |
鈴木 |
そうです。
だけど、30歳のときに彼女と結婚したら
どうなるかということについては
まったく想像つきませんでした。
もちろん芸人さんとしてすごく好き、
ということが前提としてありましたけれども、
そこ以外はまったく予測不能です。
きっとぼくが結婚したのは
自分がドキドキしたい、
ワクワクしたいと思ったからです。
最終的に自分が何のために
生きてるのかというと、やっぱり、
ドキドキしたり、ワクワクしたり、
そういうことがあるからじゃないかな、
と思います。
実際の結婚生活では
奥さんはぼくのこと、すごく叱るし、
「人としてそれはちがう」
ということもどんどん指摘します。 |
糸井 |
あの人はけっこう怒ってますよね(笑)。 |
鈴木 |
はい、けっこう怒ってるんですよ。 |
糸井 |
画面にもそれはときどきあらわれるよね。 |
鈴木 |
あの‥‥ぼく、プレゼントを人にあげるのが
すごくめんどくさくて、
プレゼントを渡す相手に、いつも
「いっしょに買いに行こう」と言って
選んでもらってました。
結婚して、最初のクリスマスに、
奥さんはぼくに手作りのズボンをくれたんです。
財布入れたら、ポケットが落ちるような
スボンだったんですけど(笑)。 |
糸井 |
うん。 |
鈴木 |
ぼくが「何欲しい?」って訊いても
「別に大丈夫」って言うんですよ。
「買いに行こう」って言ったら、
「いい」、「いらない」って。
ところが、一週間経って、
「悲しかった」
なんて言いだしたんです。 |
糸井 |
へえぇ。 |
鈴木 |
「もしも欲しいものがあれば、
自分で買うよ。
でも、プレゼントっていうのは、
選んでるときに、
あの人これあげたらどういう顔するかなぁ、
と、自分がたのしむためじゃないか」
と言うんですよ。 |
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糸井 |
うん。 |
鈴木 |
もちろん人が喜んでくれることが
いちばん大事なんだけど、
奥さんは、
「選んでるときがたのしい」
「友だちにプレゼントあげるときも、
たのしくてたまらない」
って言うんですよ。
それができないということは、
好きじゃないということだと思う、
というふうに言われました。 |
糸井 |
なるほど。 |
鈴木 |
ぼくはハッとして、
恥ずかしくなりました。
少なくとも、ぼくが番組を作るときは、
「みんなどういうのを喜ぶかな?」
と考えてるわけじゃないですか。 |
糸井 |
うん。 |
鈴木 |
それを生業としてるはずなのに!
と思いました。
ぼくはこれまでの人生で、
自分の好きな人たちに、そんなこと
一回もしてこなかったんだ!
そう思ったときに、とにかく恥ずかしくなって、
「ごめんなさい」と言いました。
そしたら、大島が、
「人間というのは、日ごろから絶対に
サイン出してる」
と言うんですよ。
そういえば、大島が誕生日にくれるものって、
いちいち「どストライク」です。
「あ、これ欲しかった!」
という物を必ずくれるんです。
「生活してる中でヒントを出してるから、
これからはわたしの一挙手一投足を
見逃すな、聞き逃すな!
それをたのしめ」
って言われました。 |
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糸井 |
なるほどなぁ。
師匠だねぇ。 |
鈴木 |
師匠です(笑)。 |
|
(続きます) |