糸井 |
以前、田口さんに出てもらったとき、
いろんな監督のスタイルについて、
教えてもらったのが
すごくおもしろかったんですよ。
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田口 |
おもしろがってもらえてよかったです。
ぼくにとっては
深刻な問題だったんですが‥‥。
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糸井 |
ははははは。
ああいう、監督についての見方って、
やっぱり、野球ファンが
どれだけテレビを観ててもわかるものじゃなくて。
ほんとに、やってる人じゃないと
わからないんだろうなぁ、と。
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田口 |
そうだと思いますね。
やってないとわかんないと思います。
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糸井 |
そういうのは、すごいなぁ。
野球ファンにはわかりようがないことがある
っていうのは、逆に、もっと野球好きになります。
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田口 |
ああ、なるほど(笑)。
やっぱり、実際に、そばで見てないと
わかんないことが多いです。
いままでぼくがプレーしたチームの
監督さんっていうのは、
もう、すべて違いますから。
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糸井 |
たとえば、前におっしゃっていた
フィリーズの赤鬼、マニエル監督。
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田口 |
はい(笑)。
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糸井 |
あのとき、田口さんは、
自分の野球観とはまったく相容れないけど、
勝っちゃったから、文句いえないと。
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田口 |
はい。「あり」です。
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糸井 |
何年か経験を経て、その感覚が変わったりは?
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田口 |
うーん、あんまり変わってないですね。
勝ってるから「あり」です。
しかも、いまも勝ち続けてる。
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糸井 |
つまり、やっぱり赤鬼は正しかったと。
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田口 |
うーん(笑)。
ま、だから、「あり」です。
ただ、大補強してるんですよね。
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糸井 |
ああ、そういうことも。
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田口 |
はい。えげつない補強してるんですよ。
それはたぶん、監督というより
GM(ゼネラルマネージャ)の力なんですけど。
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糸井 |
つまり、GMが的確な補強を。
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田口 |
的確というか、あのー、
‥‥的確ではないです。
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一同 |
(笑)
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糸井 |
はははははは。
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田口 |
あれは、的確というより、規格外です。
エースぜんぶ獲ってきますからね。
ですからいまフィラデルフィアの先発陣
ずらっと並べると、とんでもない。
誰が勝てるんやて思いますよ。
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糸井 |
なるほどねぇ。
でも、それはそれで、きっと‥‥。
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田口 |
「あり」ですね。
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糸井 |
そういう個性ですよね。
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田口 |
はい。
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糸井 |
で、お客さんも
「その補強は、どうかなぁ?」とか言いながら
勝つと、うれしいんですよね。
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田口 |
そうです。
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糸井 |
そのへんはねぇ、とくに巨人ファンは、
困ったことなんですけど、
すごくよくわかるんですよ。
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田口 |
ああ(笑)。
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糸井 |
今年なんかはとくに大きな補強でね、
それはどうなのかなぁとか
年末頃には本気で言ってたんだけどね、
勝ったらうれしいんだよ。
巨人っぽい感じがしないなとか言いつつ、
勝ったら、バンザーイなんですよ。
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田口 |
それはバンザイですよ。
バンザイしないといけないでしょ。
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糸井 |
ねぇ。野球好きなんだもんね。
楽しむってそれだもんね。
そこを、おおらかに
「よし」とするかどうかっていうのは、
若い人なんかのほうが悩むのかもしれない。
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田口 |
あー、そうですね。
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糸井 |
まぁ、しかし、そこは複雑ですよね。
理屈と、ほんとの気持ちが
ぜんぜん違ったりしますからねぇ。
田口さんがどのくらい
ご存じなのかわかりませんけど、
野球ファンって、すごく葛藤するんですよ。
だいたい、好きなチームが負けただけで
こんなにがっかりしなくても
いいんじゃないかって思ったりしますし。
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田口 |
(笑)
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糸井 |
で、自分のことだから、
理性でコントロールできるんじゃないかと
ちょっと思っちゃうんですよ。
端的な例を挙げると、
シーズンオフに人としゃべってるとき、
オレは気持ち的にはけっこう広島が好きなんだ、
っていうことを、何度も言ってるんですよ、ぼく。
で、実際、チームとして好きなんです、広島が。
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田口 |
はい。
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糸井 |
じゃあ、そんなに好きなんだったら
広島対巨人でやったときに
ときどきは広島の応援してもいいじゃない。
‥‥ひとつもしてないんですよ。
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一同 |
(笑)
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田口 |
そうなんですか(笑)。
まったくしてないんですか。
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糸井 |
まったくしない。
でも、広島が好きっていうのはウソじゃない。
あの大野(豊)のまっすぐは、
低いところから低いところにドンと来るのが
たまらないよね、とかね。
あの人はたしか軟式出身だよ、みたいなことをね、
うれしそうに語るわけです。
ところが巨人戦で大野が出てくると、
すっかり、大野を応援してない自分に戻るの。
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田口 |
はははははは。
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糸井 |
だから、さっき言った、
交流戦で田口選手が出てきたときにも‥‥。
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田口 |
応援してないじゃないですか!
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一同 |
(笑)
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糸井 |
そういうことになります。
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田口 |
さっきちょっとよろこんだのに、
いまの話で、ぜんぶ吹っ飛びました。
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糸井 |
もう、正直にいえば、
実もフタもないことだらけです。
だから、シーズンオフの補強なんかもね、
開幕するまえだったら、ぼろくそに言いますよ。
「ああいうことまでして勝ってもね
正直言ってうれしくないんだよ」とか。
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田口 |
うれしいんですね?
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糸井 |
うれしい。
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田口 |
はははははは!
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糸井 |
その自分に気付いてから、
やっぱり新しい人生がひらけますよね。
じぶんっていうのは、
まったく信用ならないな、とかね。
うれしさは理屈じゃないんだな、とかね。
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田口 |
話を聞いてると、糸井さんは、
個々の選手が好きなわけではなく
「ジャイアンツ」が好き。
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糸井 |
そうみたいです。
するとね、じゃあ、ジャイアンツってなに?
ってことになるんです。
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田口 |
なりますよね。
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糸井 |
そこは何度も何度も考えます。
つまり、選手のユニフォームを
ぜんぶ入れ替えちゃって、
たとえばフィリーズとまるごと取り替えっこして、
フィリーズがジャイアンツになったら
どうするんだろう、とかね。
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田口 |
極端にいえば、
ジャイアンツのユニフォームを着た人が
プレーをしていれば、それでいいわけですね。
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糸井 |
そういうことになるんですよ。
で、そうすると、
「オレはユニフォームが好きなのか?」
っていうことになる。
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一同 |
(笑)
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田口 |
ははははははは。
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糸井 |
そうすると、ユニフォームだって
もっといいデザインがあるよな、とかね。
考えましたよ、何度も。
もう、わかんないんですよ。
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田口 |
わかんないですねぇ(笑)。
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糸井 |
実際、ほかのチームを応援しようと
思ったことも、何度もあります。
で、いちばんその決心がひどいときは、
野球を嫌いになろうとして、
ほかのスポーツを観ようとしたんです。
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田口 |
なにを。
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糸井 |
サッカーを観ようとしました。
それも、最初の入口から観はじめたら
ほかのスポーツも好きになるかなと思って、
高校サッカーの予選を観に行ったんです。
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田口 |
(笑)
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糸井 |
もう、それこそ最初の予選から。
スタジアムとかじゃなくて、
高校の校庭でやってるようなやつです。
で、行ってみたら、客なんてひとりもいない。
ご父兄の方しかいない。
ご父兄の方とオレが、
鉄棒にもたれかかりながら観てるわけです。
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田口 |
なにをしてるんですか。
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糸井 |
つまり野球に、こう、
お別れをしようと思ってたんです。
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田口 |
野球じゃなくて、ジャイアンツにですよね。
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糸井 |
そう、そのとおりだ(笑)。
でもね、「野球が好きだ」っていうのは、
申し訳ないけど、間違いないんです。
「野球が好きなんじゃなくて
ジャイアンツが好きなんですね」
って言われたら、否定できないんですけど、
「野球が好きなわけじゃないですね」
って言われたら、「それは違う!」と。
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田口 |
なるほど(笑)。
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糸井 |
そこは、はっきり言えます。
だから、野球のおもしろさ、
みたいなことを語るときはね、
野球全体について語ります。
ジャイアンツについて語るときは、
あんまりないとすら、いえる。
これは‥‥‥‥なに?
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田口 |
なにって言われても(笑)。
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糸井 |
もうね、わかんない。
ラブとか、信仰とか、
そういうことに近いのかもしれない。
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田口 |
そうですねぇ。
(つづきます) |