野球の人。  〜田口壮、21年目の選択〜
 


糸井 以前、田口さんに出てもらったとき、
いろんな監督のスタイルについて、
教えてもらったのが
すごくおもしろかったんですよ。
田口 おもしろがってもらえてよかったです。
ぼくにとっては
深刻な問題だったんですが‥‥。
糸井 ははははは。
ああいう、監督についての見方って、
やっぱり、野球ファンが
どれだけテレビを観ててもわかるものじゃなくて。
ほんとに、やってる人じゃないと
わからないんだろうなぁ、と。
田口 そうだと思いますね。
やってないとわかんないと思います。
糸井 そういうのは、すごいなぁ。
野球ファンにはわかりようがないことがある
っていうのは、逆に、もっと野球好きになります。
田口 ああ、なるほど(笑)。
やっぱり、実際に、そばで見てないと
わかんないことが多いです。
いままでぼくがプレーしたチームの
監督さんっていうのは、
もう、すべて違いますから。
糸井 たとえば、前におっしゃっていた
フィリーズの赤鬼、マニエル監督。
田口 はい(笑)。
糸井 あのとき、田口さんは、
自分の野球観とはまったく相容れないけど、
勝っちゃったから、文句いえないと。
田口 はい。「あり」です。
糸井 何年か経験を経て、その感覚が変わったりは?
田口 うーん、あんまり変わってないですね。
勝ってるから「あり」です。
しかも、いまも勝ち続けてる。
糸井 つまり、やっぱり赤鬼は正しかったと。
田口 うーん(笑)。
ま、だから、「あり」です。
ただ、大補強してるんですよね。
糸井 ああ、そういうことも。
田口 はい。えげつない補強してるんですよ。
それはたぶん、監督というより
GM(ゼネラルマネージャ)の力なんですけど。
糸井 つまり、GMが的確な補強を。
田口 的確というか、あのー、
‥‥的確ではないです。
一同 (笑)
糸井 はははははは。
田口 あれは、的確というより、規格外です。
エースぜんぶ獲ってきますからね。
ですからいまフィラデルフィアの先発陣
ずらっと並べると、とんでもない。
誰が勝てるんやて思いますよ。
糸井 なるほどねぇ。
でも、それはそれで、きっと‥‥。
田口 「あり」ですね。
糸井 そういう個性ですよね。
田口 はい。
糸井 で、お客さんも
「その補強は、どうかなぁ?」とか言いながら
勝つと、うれしいんですよね。
田口 そうです。
糸井 そのへんはねぇ、とくに巨人ファンは、
困ったことなんですけど、
すごくよくわかるんですよ。
田口 ああ(笑)。
糸井 今年なんかはとくに大きな補強でね、
それはどうなのかなぁとか
年末頃には本気で言ってたんだけどね、
勝ったらうれしいんだよ。
巨人っぽい感じがしないなとか言いつつ、
勝ったら、バンザーイなんですよ。
田口 それはバンザイですよ。
バンザイしないといけないでしょ。
糸井 ねぇ。野球好きなんだもんね。
楽しむってそれだもんね。
そこを、おおらかに
「よし」とするかどうかっていうのは、
若い人なんかのほうが悩むのかもしれない。
田口 あー、そうですね。
糸井 まぁ、しかし、そこは複雑ですよね。
理屈と、ほんとの気持ちが
ぜんぜん違ったりしますからねぇ。
田口さんがどのくらい
ご存じなのかわかりませんけど、
野球ファンって、すごく葛藤するんですよ。
だいたい、好きなチームが負けただけで
こんなにがっかりしなくても
いいんじゃないかって思ったりしますし。
田口 (笑)
糸井 で、自分のことだから、
理性でコントロールできるんじゃないかと
ちょっと思っちゃうんですよ。
端的な例を挙げると、
シーズンオフに人としゃべってるとき、
オレは気持ち的にはけっこう広島が好きなんだ、
っていうことを、何度も言ってるんですよ、ぼく。
で、実際、チームとして好きなんです、広島が。
田口 はい。
糸井 じゃあ、そんなに好きなんだったら
広島対巨人でやったときに
ときどきは広島の応援してもいいじゃない。
‥‥ひとつもしてないんですよ。
一同 (笑)
田口 そうなんですか(笑)。
まったくしてないんですか。
糸井 まったくしない。
でも、広島が好きっていうのはウソじゃない。
あの大野(豊)のまっすぐは、
低いところから低いところにドンと来るのが
たまらないよね、とかね。
あの人はたしか軟式出身だよ、みたいなことをね、
うれしそうに語るわけです。
ところが巨人戦で大野が出てくると、
すっかり、大野を応援してない自分に戻るの。
田口 はははははは。
糸井 だから、さっき言った、
交流戦で田口選手が出てきたときにも‥‥。
田口 応援してないじゃないですか!
一同 (笑)
糸井 そういうことになります。
田口 さっきちょっとよろこんだのに、
いまの話で、ぜんぶ吹っ飛びました。
糸井 もう、正直にいえば、
実もフタもないことだらけです。
だから、シーズンオフの補強なんかもね、
開幕するまえだったら、ぼろくそに言いますよ。
「ああいうことまでして勝ってもね
 正直言ってうれしくないんだよ」とか。
田口 うれしいんですね?
糸井 うれしい。
田口 はははははは!
糸井 その自分に気付いてから、
やっぱり新しい人生がひらけますよね。
じぶんっていうのは、
まったく信用ならないな、とかね。
うれしさは理屈じゃないんだな、とかね。
田口 話を聞いてると、糸井さんは、
個々の選手が好きなわけではなく
「ジャイアンツ」が好き。
糸井 そうみたいです。
するとね、じゃあ、ジャイアンツってなに?
ってことになるんです。
田口 なりますよね。
糸井 そこは何度も何度も考えます。
つまり、選手のユニフォームを
ぜんぶ入れ替えちゃって、
たとえばフィリーズとまるごと取り替えっこして、
フィリーズがジャイアンツになったら
どうするんだろう、とかね。
田口 極端にいえば、
ジャイアンツのユニフォームを着た人が
プレーをしていれば、それでいいわけですね。
糸井 そういうことになるんですよ。
で、そうすると、
「オレはユニフォームが好きなのか?」
っていうことになる。
一同 (笑)
田口 ははははははは。
糸井 そうすると、ユニフォームだって
もっといいデザインがあるよな、とかね。
考えましたよ、何度も。
もう、わかんないんですよ。
田口 わかんないですねぇ(笑)。
糸井 実際、ほかのチームを応援しようと
思ったことも、何度もあります。
で、いちばんその決心がひどいときは、
野球を嫌いになろうとして、
ほかのスポーツを観ようとしたんです。
田口 なにを。
糸井 サッカーを観ようとしました。
それも、最初の入口から観はじめたら
ほかのスポーツも好きになるかなと思って、
高校サッカーの予選を観に行ったんです。
田口 (笑)
糸井 もう、それこそ最初の予選から。
スタジアムとかじゃなくて、
高校の校庭でやってるようなやつです。
で、行ってみたら、客なんてひとりもいない。
ご父兄の方しかいない。
ご父兄の方とオレが、
鉄棒にもたれかかりながら観てるわけです。
田口 なにをしてるんですか。
糸井 つまり野球に、こう、
お別れをしようと思ってたんです。
田口 野球じゃなくて、ジャイアンツにですよね。
糸井 そう、そのとおりだ(笑)。
でもね、「野球が好きだ」っていうのは、
申し訳ないけど、間違いないんです。
「野球が好きなんじゃなくて
 ジャイアンツが好きなんですね」
って言われたら、否定できないんですけど、
「野球が好きなわけじゃないですね」
って言われたら、「それは違う!」と。
田口 なるほど(笑)。
糸井 そこは、はっきり言えます。
だから、野球のおもしろさ、
みたいなことを語るときはね、
野球全体について語ります。
ジャイアンツについて語るときは、
あんまりないとすら、いえる。
これは‥‥‥‥なに?
田口 なにって言われても(笑)。
糸井 もうね、わかんない。
ラブとか、信仰とか、
そういうことに近いのかもしれない。
田口 そうですねぇ。


(つづきます)

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2012-04-18-WED

 
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