- 糸井
- じゃあ、今日の話の最後に
質問があればうかがいましょうか。
- 孫
- そうですね、せっかくですから。
- 糸井
- 普段聞きづらいことでも‥‥はい、どうぞ。
- ──
- 今日はありがとうございました。
おふたりにとって「これは読んでおけ」
「これはすごく影響受けた」という、
好きな本があれば教えてください。
- 孫
- 僕は内村鑑三さんの
『後世への最大遺物』という本が好きなんです。
100年くらい前の講演録で、
言葉遣いは文語調ですけど、
読んでみるとめっちゃおもしろいんですよ。
ときどき「(大笑)」とか入ったりして。
後世の僕らにとっての内村鑑三って、
「すごい」としか思えない人ですけど、
この講演録ではなんだかとても身近で、
知ってる人のような感じがするんです。
読みながらビンビン伝わって来るものがあって、
いっしょに深いことを
話し合ったような感覚がある。
そういうところがすごく好きですね。
- 糸井
- 言葉って、文章として書くときは
精緻な記号の羅列にしたりしますけど、
学生の前でしゃべるときとかは、
それだとお客さんがついて行けないから、
飽きさせないようにしながら
しゃべるんですよね。
ときどき道しるべを出したりしながら。
講演録にはそういう良さがあって。
古くからの名著と言われてるものも、
よく見ると多くがしゃべり言葉ですから。
ソクラテスもそうだし、
親鸞の「歎異抄」だってそう。
聞き手が刺激して、そこに伝えたい言葉を
しゃべっているんです。
- 孫
- ええ、ええ。
- 糸井
- そういったしゃべり言葉の本で言うと、
僕は、吉本隆明さんに話を聞かせてもらった
『悪人正機』という本があって、
これは自分でも何度も読みますね。
- 孫
- あの本はすばらしいですね。
- 糸井
- あれはやっぱり吉本さんがすごくて、
いま自分で読んでもおもしろいんです。
当時わからなかったことを、
いまになってわかったりするんですよ。
そういうおもしろさがありますね。
- 孫
- ああ、なるほど。
- 糸井
- あともうひとつ、最近友達が書いた小説で
『伴走者』という本があるんです。
それは目の見えないマラソン選手と
その伴走をする人、
そして目の見えない女子スラロームの選手と、
その伴走をする人について書かれた
2編の小説なんですけど、
これからの生き方を考えるときに
すごくおもしろい本だと思って、
最近僕はけっこうすすめているんです。
人って「俺はなんかやってやるぞ」みたいに
すごく目的がある人ばかりじゃなくて、
ほとんどの人はそうじゃないところで
生きてるわけです。
この本は
「そういった普通に生きてる人が
誰かの手助けをするって
どういうことなんだろう?」
ってことが、小説の形で克明に、
見事に書いてあるんです。
そして読みながら
「生きがいって、主人公が他者でも構わないんだ」
というのがひしひしと感じられてくる。
選手自体は目が見えなかったりするわけだから、
伴奏者はそれ以上に先回りしないとできないし、
そこの駆け引きやらも含めて、
おもしろいですよ。
- ──
- ありがとうございました。
- 孫
- さきほど言わなかったですけど
『後世への最大遺物』の中身について、
補足させてもらってもいいですか?
- 糸井
- ぜひおねがいします。
- 孫
- 僕が『後世への最大遺物』を
おもしろいと思うのは
「個人が後世に残せる
最大のすばらしいものは何か」
という講演タイトルなんですね。
えらいでかいタイトルなんですけど。
- 糸井
- いいですねぇ。
- 孫
- そして内村鑑三という人は、
日本のキリスト教指導の第一人者です。
ですが日本の宗教をまったく否定もせず、
日本ならではの独自のキリスト教を
作り上げた方として知られているんですね。
そういう人が、神父さんの卵とかを前に
「みなさん。諸君が後世に残せるものは
いろいろあります」
と語る話なわけです。
‥‥で、驚くのが、いきなり
「まずやっぱり一番大事なのは、金やね」
って言うんです。
そう書いてあるんですよ。
「一番すごいのは金」
「みなさん金残せますか」と。
- 糸井
- はぁー。
- 孫
- そこにいるのは神父たちの卵だから、
金なんてあるわけないんです。
だけど「金残せるやつはすごいぞ」
「アメリカにはロックフェラーさんという
人がいてね、そういう一財を成した人が
孤児院をたくさん作ったんだ」
「病院を作って女性が
医療に参画できるようにした。
すごいんだ。
いまそんなことがアメリカで起こっておるんだ」
っていう最新情報とかを話してるんですね。
明治の時代に。
- 糸井
- おもしろいですねぇ。
- 孫
- だから「金はすげぇんだ」と。
「だから君たち、金を残せるなら金を残しなさい」
っていう言い方なんですよ。
まったく予想だにしないところから入ってきて、
びっくりするじゃないですか。
- 糸井
- する(笑)。
- 孫
- で「残せないの?
ああ、残せないのか、君たちは。
しょうがない。2つ目行こうか」
と話を続けるんです。
そして
「君、お金残せないんやったら、次はこれだ」
って‥‥あんまり言うと
おもしろくないかもしれないですけど。
- 会場
- (笑)
- 孫
- そして次もこれまたね、
身もふたもないこと言うんですよ。
そして「え? 残せないの?」って。
そして「それも残せないんだったらしょうがない、
3番目はこれだ」
って言って、4番目、5番目まであるんですね。
ちょっとネタ晴らしすると
2つ目は
「事業を残せ。会社を。
そうしたら、みんな食えるで」っていう。
‥‥たぶん大阪弁ではないと思いますけど。
- 会場
- (笑)
- 孫
- とにかく
「事業を残してる人は偉いよ。
起業家は偉いんだ。
それでみんなの雇用が生まれて、
生活が安定するんだから」
っていうのを、
キリスト教の神父の集まりで言うという。
で、
「だけど、そうか。
君たちは事業も作れないのか。
センスないんか。しょうがないのぅ。
じゃあ、お前ら、努力せぇよ」
みたいなことを言って、
笑いが起きたりしたことも書いてあるんですよね。
- 糸井
- いや、おもしろい。
- 孫
- それで「じゃあ仕方ない。3番目だ」
って行くんですよ。
で、その1、2、3番目にだいぶ
「あれ?」って思うものが出て来て、
「本当に君たち、なんも残せんな」
って言って
「じゃあ4番め。これくらい、
誰でもできるだろう
‥‥これが残せんのか、お前ら」
って言うわけです。
で、「しゃあない。
それももう『できん』って言うならな‥‥」
ということで、
ここはもうしゃべってもいいと思うんですけど。
- 糸井
- はい。
- 孫
- 5番目は
「君たちが後世に残せる最大の遺物、
これこそ万人ができる最大の遺物だ。
それは
──自分の生き方である」
って言うわけですね。
- 糸井
- はぁー‥‥。なるほど。
- 孫
- 「他の人に
『あの人はすごい生き方をした。
自分はとてもいい影響を受けた』
と思ってもらえる生き方。
これだったら、どんなに君らが事業も金も、
何も残せんと言っても、
自分でできることである。
だからそれを残していこう」
というような話なんですよね。
- 糸井
- すごいおもしろい。
- 孫
- しかも講義録だからすごく短いんですよ。
20分くらいであっという間に読めます。
だけど、ものすごくキャッチーで、
全体の組み立てもすごくて。
読みながら、みんなが
キョトンとしただろうなぁって映像も
浮かんでくる。
でも本当に、何度でも読める
深さがあると思うんです。
こういう本なので、僕はこの言い方や話し方に
けっこう影響を受けてます。
青空文庫になっているので無料で読めますよ。
- 糸井
- いいですねぇ。おもしろいなぁ。
じゃあ、もう一人くらい‥‥うちの社員から。
どうぞ。
- ──
- 楽しいお話をありがとうございました。
ひとつ質問をさせてください。
(と、ほぼ日の乗組員から
Introductionでご紹介した、
「Mistletoeはどんな会社なのでしょうか?」
という質問がありました)
- ──
- ありがとうございました。
- 糸井
- こんなところでしょうかね。
まぁ、また孫さんも会ってくださると
いうことなので。
- 孫
- はい、ぜひ。今日はありがとうございました。
- 糸井
- こちらこそありがとうございました。
- 会場
- (大きな拍手)
(対談はこちらでおしまいです。
お読みくださって、ありがとうございました)