Mistletoe株式会社の孫泰蔵さんと、
糸井重里が対談をしました。
きっかけは孫さんがSNSで、糸井が尊敬する
岩井克人さんについて語っていたこと。
しかも孫さんの会社
「Mistletoe(ミスルトウ)」があるのは、
ほぼ日の事務所と同じビル。
そんな縁もあって、4月のある日、
ふたつの会社のメンバーが観客となった、
とくべつな公開対談がおこなわれました。
対談後、みんなが口々に
「おもしろかった!」と言い合った、
その日のトークをご紹介します。
- 糸井
- あの、じゃあまた話を、
いまに近づけますけど‥‥。
- 孫
- はい。
- 糸井
- こういうトーク、またやりませんか?
- 孫
- あ、そうですね(笑)。やりましょう。
- 会場
- (大きな拍手)
- 糸井
- 僕は以前から、経営を本当にやってる人と
今日のような話をできたら、
おもしろいだろうなと思っていたんです。
ただ、どの方と話せばいいのかは
わからなかったんです。
「本当に経営をしてる人」といっても、
MBA野郎だったときの孫さんみたいな
考え方については、
「ダレシア」?
──「それで誰が幸せになるの」
みたいなことをずっと感じていたので。
- 孫
- ああ、「ダレシア」。
本当にそうですよ。
- 糸井
- だけど最近、たまたま孫さんの会社の
チームの方と知り合ったりすると、
みなさんすごく楽しそうに、
のびのびと仕事について語られるんですね。
「こういうのが創造性の土壌になるんだよな」
と思って、そのときに
「もしかしたら孫さんの考えは
自分に近いところがあるかもしれないな」と
感じていたんですけど。
- 孫
- ありがとうございます。
- 糸井
- ‥‥じゃあ、この流れで、
いま、孫さんがこの会社をやってらっしゃる
土台の考え方について、
すこしお話しいただけますか。
- 孫
- そういう意味で言うと、
いまこの「Mistletoe」という会社について、
僕は「会社」というかたちを
やめようと思っているんですね。
「一緒に生きていく共同体」とか、
「さまざまなミッションを
共有してやっていくコミュニティ」に
できないかなと思っているんです。
- 糸井
- 会社から共同体にしたい。
- 孫
- はい。で、実際何をするかというと、
「いわゆる経営的なこと」って、
僕はもうひととおりやってきて、
もうおもしろくないと思うようになってきました。
- 糸井
- ええ。
- 孫
- そのとき「じゃあ何をしよう?」と外を見ると、
世界にはたくさん問題がある。
僕は「問題」と「課題」とを
はっきり分けて考えるんですが、
「問題」というのは
「問題だよね」って言って不平不満を言ったり、
指摘してるだけの状態。
それを「じゃあこうしよう」
「なら俺はこうする」と、
解決に向かってコミットしていったときに、
それは「課題」になるんだという。
- 糸井
- ああー。
- 孫
- そして世界にはいろいろな「問題」があるので、
自分たちはその「問題」を
「課題」へと変えていきたい、ということですね。
自分たちのやることによって、
ちょっとでも世界がよくなればと思っています。
とはいえ、やるからにはやっぱり
できるだけ大きいインパクトを出したいし、
より根本的なところにアプローチしたい。
で、世界にどんどん目が向いていますね。
- 糸井
- なるほど。そうですか。
- 孫
- そのとき自分たちのコミュニティは、
まだしっくりきてる言葉ではないんですけど、
「志(こころざし)」に
「華僑」の「僑」を組み合わせた造語で、
「志僑(しきょう)」
みたいなものをイメージしているんです。
- 糸井
- 志僑。
- 孫
- 「僑」というのは、辞書を調べたら
「国外に出てる人」っていう意味らしいんですよ。
国内じゃなくて「外に出てる人」。
だからその
「志を共有して、外に出ていく人」。
- 糸井
- はい、はい。
- 孫
- 「華僑」は「いろんな国に出ている中華系の人」
という民族での呼び方ですけど、
「志僑」は
「志とかミッションに共鳴している人たち」
という集まりですね。
「どんどん外に行って、
いろんな人たちと交わって、
根本的な課題にすこしでも取り組む」。
そういうコミュニティにできたらと思ってますね。
- 糸井
- 要するに、点在し、動いている
コミュニティですね。
- 孫
- はい。それで、会社との違いというのが、
会社はできるだけ機能的に
最大のミッションを達成するため、
最大の生産性を上げようとすると思うんですけど。
- 糸井
- いまはそうですね。
- 孫
- で、その「志をもとに行動する」
「みんなで問題を課題にして何か取り組もう」
っていうのは、ある意味モヤっとしてて、
いくらでもやりようがあるとも言えるわけで。
- 糸井
- つまり、人によって
さまざまな関わり方ができる。
- 孫
- そうです。
そして、そういった課題へのアプローチって、
いろんな人がいろいろつながって、
新しいケミストリーが生まれるほうが
解決に有効だと思うんですね。
となるとやっぱり、
会社の形態は向いてないと思うんです。
- 糸井
- なるほど。
- 孫
- 会社の形態じゃない最たるところは
「中心がない」っていうことですね。
私が中心でもまったくなく、
それぞれがそれぞれに良いと思うことをする。
だからいま「Mistletoe」の人たちはみんな、
出張とかも稟議とかも決裁がなくて、
みんな勝手に行ってるんです。
もちろん会社の経費として精算するんですけど、
勝手にみんな行く。
- 糸井
- じゃあそこには、ある種の
チーム全体を貫くモラルがあるわけですよね。
- 孫
- そうですね。
でも、なにより絶対的に信頼してるわけです。
というのも、
ただ単に「お金稼ぎたい」とか
「有名になりたい」、
もしくは
「個別の何かを作りたい」とかであれば、
わざわざこんなところに来る必要はないわけです。
それでもなんとなく来たいと思うのは、
やっぱりなにかその志の部分に共感して、
「何か課題を解決したい。私も、僕も」
って思う人が来るんですね。
- 糸井
- はぁー。
- 孫
- だから、それこそ「Mistletoe」では
去年から今年にかけて
「稟議とか決裁とか、もう一切やめようよ」
ってやったんです。
「すごい勝手に遊びに行って
使い込みとかされたらどうするんですか」
とか言う人もいたけど
「それはそれでいいんじゃない?」と。
「それはきっと、その人が一緒に何か
やりたいと思ってる限り、
何かで返ってくるんじゃないの?
その人が成長してれば」と返しました。
- 糸井
- ああ。
- 孫
- それで実際やってみたら、
ある意味本当に解放されて、みんな毎日どんどん
勉強しに行くようになったんですね。
前はみんなオフィスに毎日来てたのが、
それぞれがさまざまな現場や本場に
積極的に出かけて学んできて、
「こうだった!」ってみんなに
一所懸命シェアしてくれるようになりました。
「情報共有、情報共有」なんて
とりたてて言わなくても、
「言いたくてしょうがない」って形で
共有するようになったんです。
- 糸井
- そのポイントは、大元にあるのが
さっきの
「問題じゃなくて、課題なんだ」ってことを
みんなが志してるところなのかな。
- 孫
- そこです。
それがいちばんのベースかもしれません。
- 糸井
- はぁ、おもしろいですね。
そして互いが
「何をしてきた人か」ということで、
信頼があるということですよね。
- 孫
- そうですね。
- 糸井
- で、自分自身についても
「自分は信頼に足る人であるか?」
っていう問いかけがあるわけですよね。
- 孫
- ありますね。
- 糸井
- なるほど。
それ、どんどんやってみてほしいです。
- 孫
- はい、どうなるかわかりませんけれども、
いま本当に実験中です。
(続きます)
2018-05-27-SUN
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN