孫 泰蔵×糸井重里対談「ご近所の社長は、やっぱりすごい人だった。」 孫 泰蔵×糸井重里対談「ご近所の社長は、やっぱりすごい人だった。」
Mistletoe株式会社の孫泰蔵さんと、
糸井重里が対談をしました。
きっかけは孫さんがSNSで、糸井が尊敬する
岩井克人さんについて語っていたこと。
しかも孫さんの会社
「Mistletoe(ミスルトウ)」があるのは、
ほぼ日の事務所と同じビル。
そんな縁もあって、4月のある日、
ふたつの会社のメンバーが観客となった、
とくべつな公開対談がおこなわれました。
対談後、みんなが口々に
「おもしろかった!」と言い合った、
その日のトークをご紹介します。
(11)会社から共同体へ。
糸井
あの、じゃあまた話を、
いまに近づけますけど‥‥。
はい。
糸井
こういうトーク、またやりませんか?
あ、そうですね(笑)。やりましょう。
会場
(大きな拍手)
糸井
僕は以前から、経営を本当にやってる人と
今日のような話をできたら、
おもしろいだろうなと思っていたんです。
ただ、どの方と話せばいいのかは
わからなかったんです。
「本当に経営をしてる人」といっても、
MBA野郎だったときの孫さんみたいな
考え方については、
「ダレシア」?
──「それで誰が幸せになるの」
みたいなことをずっと感じていたので。
ああ、「ダレシア」。
本当にそうですよ。
糸井
だけど最近、たまたま孫さんの会社の
チームの方と知り合ったりすると、
みなさんすごく楽しそうに、
のびのびと仕事について語られるんですね。
「こういうのが創造性の土壌になるんだよな」
と思って、そのときに
「もしかしたら孫さんの考えは
自分に近いところがあるかもしれないな」と
感じていたんですけど。
ありがとうございます。
糸井
‥‥じゃあ、この流れで、
いま、孫さんがこの会社をやってらっしゃる
土台の考え方について、
すこしお話しいただけますか。
そういう意味で言うと、
いまこの「Mistletoe」という会社について、
僕は「会社」というかたちを
やめようと思っているんですね。
「一緒に生きていく共同体」とか、
「さまざまなミッションを
共有してやっていくコミュニティ」に
できないかなと思っているんです。
糸井
会社から共同体にしたい。
はい。で、実際何をするかというと、
「いわゆる経営的なこと」って、
僕はもうひととおりやってきて、
もうおもしろくないと思うようになってきました。
糸井
ええ。
そのとき「じゃあ何をしよう?」と外を見ると、
世界にはたくさん問題がある。
僕は「問題」と「課題」とを
はっきり分けて考えるんですが、
「問題」というのは
「問題だよね」って言って不平不満を言ったり、
指摘してるだけの状態。
それを「じゃあこうしよう」
「なら俺はこうする」と、
解決に向かってコミットしていったときに、
それは「課題」になるんだという。
糸井
ああー。
そして世界にはいろいろな「問題」があるので、
自分たちはその「問題」を
「課題」へと変えていきたい、ということですね。
自分たちのやることによって、
ちょっとでも世界がよくなればと思っています。
とはいえ、やるからにはやっぱり
できるだけ大きいインパクトを出したいし、
より根本的なところにアプローチしたい。
で、世界にどんどん目が向いていますね。
糸井
なるほど。そうですか。
そのとき自分たちのコミュニティは、
まだしっくりきてる言葉ではないんですけど、
「志(こころざし)」に
「華僑」の「僑」を組み合わせた造語で、
「志僑(しきょう)」
みたいなものをイメージしているんです。
糸井
志僑。
「僑」というのは、辞書を調べたら
「国外に出てる人」っていう意味らしいんですよ。
国内じゃなくて「外に出てる人」。
だからその
「志を共有して、外に出ていく人」。
糸井
はい、はい。
「華僑」は「いろんな国に出ている中華系の人」
という民族での呼び方ですけど、
「志僑」は
「志とかミッションに共鳴している人たち」
という集まりですね。
「どんどん外に行って、
いろんな人たちと交わって、
根本的な課題にすこしでも取り組む」。
そういうコミュニティにできたらと思ってますね。
糸井
要するに、点在し、動いている
コミュニティですね。
はい。それで、会社との違いというのが、
会社はできるだけ機能的に
最大のミッションを達成するため、
最大の生産性を上げようとすると思うんですけど。
糸井
いまはそうですね。
で、その「志をもとに行動する」
「みんなで問題を課題にして何か取り組もう」
っていうのは、ある意味モヤっとしてて、
いくらでもやりようがあるとも言えるわけで。
糸井
つまり、人によって
さまざまな関わり方ができる。
そうです。
そして、そういった課題へのアプローチって、
いろんな人がいろいろつながって、
新しいケミストリーが生まれるほうが
解決に有効だと思うんですね。
となるとやっぱり、
会社の形態は向いてないと思うんです。
糸井
なるほど。
会社の形態じゃない最たるところは
「中心がない」っていうことですね。
私が中心でもまったくなく、
それぞれがそれぞれに良いと思うことをする。
だからいま「Mistletoe」の人たちはみんな、
出張とかも稟議とかも決裁がなくて、
みんな勝手に行ってるんです。
もちろん会社の経費として精算するんですけど、
勝手にみんな行く。
糸井
じゃあそこには、ある種の
チーム全体を貫くモラルがあるわけですよね。
そうですね。
でも、なにより絶対的に信頼してるわけです。
というのも、
ただ単に「お金稼ぎたい」とか
「有名になりたい」、
もしくは
「個別の何かを作りたい」とかであれば、
わざわざこんなところに来る必要はないわけです。
それでもなんとなく来たいと思うのは、
やっぱりなにかその志の部分に共感して、
「何か課題を解決したい。私も、僕も」
って思う人が来るんですね。
糸井
はぁー。
だから、それこそ「Mistletoe」では
去年から今年にかけて
「稟議とか決裁とか、もう一切やめようよ」
ってやったんです。
「すごい勝手に遊びに行って
使い込みとかされたらどうするんですか」
とか言う人もいたけど
「それはそれでいいんじゃない?」と。
「それはきっと、その人が一緒に何か
やりたいと思ってる限り、
何かで返ってくるんじゃないの?
その人が成長してれば」と返しました。
糸井
ああ。
それで実際やってみたら、
ある意味本当に解放されて、みんな毎日どんどん
勉強しに行くようになったんですね。
前はみんなオフィスに毎日来てたのが、
それぞれがさまざまな現場や本場に
積極的に出かけて学んできて、
「こうだった!」ってみんなに
一所懸命シェアしてくれるようになりました。
「情報共有、情報共有」なんて
とりたてて言わなくても、
「言いたくてしょうがない」って形で
共有するようになったんです。
糸井
そのポイントは、大元にあるのが
さっきの
「問題じゃなくて、課題なんだ」ってことを
みんなが志してるところなのかな。
そこです。
それがいちばんのベースかもしれません。
糸井
はぁ、おもしろいですね。
そして互いが
「何をしてきた人か」ということで、
信頼があるということですよね。
そうですね。
糸井
で、自分自身についても
「自分は信頼に足る人であるか?」
っていう問いかけがあるわけですよね。
ありますね。
糸井
なるほど。
それ、どんどんやってみてほしいです。
はい、どうなるかわかりませんけれども、
いま本当に実験中です。
(続きます)
2018-05-27-SUN