Mistletoe株式会社の孫泰蔵さんと、
糸井重里が対談をしました。
きっかけは孫さんがSNSで、糸井が尊敬する
岩井克人さんについて語っていたこと。
しかも孫さんの会社
「Mistletoe(ミスルトウ)」があるのは、
ほぼ日の事務所と同じビル。
そんな縁もあって、4月のある日、
ふたつの会社のメンバーが観客となった、
とくべつな公開対談がおこなわれました。
対談後、みんなが口々に
「おもしろかった!」と言い合った、
その日のトークをご紹介します。
- 糸井
- この頃つくづく思うのは、
あらゆる仕事について
「やっといてよかった」っていうひと言です。
『MOTHER』もただ
「自分がおもしろいから」というのと、
「こういうのは嫌だな」というので
作っただけなんですけど。
- 孫
- そうなんですか。
- 糸井
- はい。で、やっぱり、
「無力な裸の誰かが大事にされるべきだ」
っていうのが、
たぶん僕の唯一のこう、思想といえば思想で。
- 孫
- そのあたりは『MOTHER』から
「ほぼ日刊イトイ新聞」まで
ずーっとつながっていますよね。
それは感じます。
- 糸井
- だけどその「MBA野郎」だったときには、
孫さんはほぼ日とのつながりなんて
絶対にないですよね。
- 孫
- ないですね。
その頃はあまり読んでないと思います。
- 糸井
- そういうのもおもしろいなと思うんです。
いま、いろいろな経営者の方と会うと
「妻が」という言い方がよく出てくるんですね。
「自分は詳しく知らないけど、
カミさんが読んでます」とか
「妻がいろいろ買ってますよ」とか。
「今日は糸井さんに会うって言ったら
『私もついて行く』と言うから断りましたよ」
みたいな。
- 会場
- (笑)
- 糸井
- そういうときの女の人のすごさってあって。
たとえば抜群に頭の切れるMBA野郎の
家族でありながらも、
そういう論理とは別のところで生活している。
そうやって生きている人たちが、
これまで自分やらほぼ日やらを
すごく支えてきてくれたと思うんです。
- 孫
- 僕はカミさんにすごく
「あんたは概念野郎だ」って言われるんです。
「概念で納得しないと前に行けない」って。
- 糸井
- 概念野郎(笑)。
- 孫
- だけど、たしかにそういった
「論理をいったん外して、
スッと共感から入ることができる」
というスタンスは、
本当にすばらしいなと思いますね。
- 糸井
- 男はそれを真似できないものだろうかと、
僕はよく思ってて。
- 孫
- いや、そんなことはないはずですよ。
- 糸井
- ですよね。
- 孫
- そこは社会が男性に
「まず概念が大事だ」「合理的であれ」
と強いてるんじゃないかと思うんです。
- 糸井
- 僕は公然と言ってるんですけど、
自分の中のどこか一部はゲイなんですよ。
そういうこととして発現しない程度では
あるけれども、
自分の中に、それなりに女性的な部分がある。
- 孫
- はい、はい。わかります。
- 糸井
- たとえば孫さんは、ビートルズを見るときに
誰が好きですか?
- 孫
- むずかしいですね
‥‥まぁ、ジョンがやっぱり好きです。
- 糸井
- 僕もジョンなんですよ。
だけどジョンの何がいいかって、
いくらロジックで理由を探そうとしても、
自分の中の好きさにたどり着かないんです。
- 孫
- わかります。たどり着かないですね。
- 糸井
- で、ある時わかったんです。
「あぁ、俺はジョンの顔と声が好きなんだ」。
- 孫
- あぁー、僕も絶対そうです。
あのガニ股のね。
あれで弾いてるギターもかっこいいと
思っちゃうんですよね。
- 糸井
- 態度とかね。
だから僕はビートルズの映画の演奏シーンとかで、
ジョンに真正面からやられると
「あ、ちょっとすいません‥‥」
みたいな感じになるんです。
カメラが横に回ると、視線が合わないから
安心して見てられるんですけど。
- 孫
- (笑)そこまでですか。すごいなぁ。
- 糸井
- あるいは、上からのカメラは大丈夫なんです。
あの有名な台詞わかりますか?
ロイヤル・アルバート・ホールという
古典的な演劇のホールで
ビートルズが初めて上演したときに、
女王陛下や貴族たちが来てて
「次の曲は‥‥」と言ったセリフがあって。
- 孫
- 「ツイスト・アンド・シャウト」ですね。
- 糸井
- そう。で、
「安い席の人は拍手を。
残りの人は宝石をジャラジャラ鳴らしてください」
と言うわけです。
それでパーっと音楽をはじめる。
あのセリフ、とんでもないですよね。
- 孫
- しかもあれ、ビートルズが勲章を貰う時ですから。
- 糸井
- ああいうのを言うジョンとかを見てると、
それこそしびれますよね。
- 孫
- しびれます。自分には絶対言えない。
- 糸井
- 本当に。‥‥で、話を戻すと、
そういう姿を見ながら
「そうか。俺はこの声と顔と態度とかが
好きだったんだ」とわかったんです。
真実がそれだとしたら、それまで考えてた
ロジックでの「好き」が、
全部おまけになっちゃうんですよ。
「リズムギターがすごいんだぞ」
とか言ってもしょうがなくて。
そのあたりの感覚が、
人々の共感の源なんじゃないかと思うんです。
- 孫
- なるほど。
- 糸井
- ‥‥で、観念野郎? 概念野郎ですか。
- 孫
- はい、観念とか概念とか。
うちの嫁に言われてるんですけど(笑)。
- 糸井
- その「概念で考えられる」のは
道具として当然すごく重要で。
つまり村に水道管を引かなきゃいけないとき、
共感では引いてこられない。
水道を引くのは、まさしくその
「男性(おとこせい)」がやるわけですよね。
だから両方必要なんだけれども。
- 孫
- そう、両方必要ですね。
- 糸井
- それで思い出すのが、宮沢賢治という人は、
詩人であり、科学者だったんですよね。
- 孫
- あぁ。
- 糸井
- 農業の指導をやっていた人だけど、
狂信的な法華経の信者でもあって、
時間があるとよく太鼓を叩いて
街を回ってたという。
さすがにその真似はできないけど
「科学と詩が自分の中に共存する状態」
というのは、
これからみんながそっちのほうにこう、
ゆるゆると戻っていくのかなぁ、と思うんです。
- 孫
- なるほど。「戻っていく」っていいですね。
- 糸井
- ビートルズにも
「Get Back」という曲がありますね。
- 孫
- ありますね。
だけど本当にそうです。
未来は「変わっていく」というより
「戻っていく」だと思うんです。
科学と詩は、もともとみんなのなかに
両方あったはずで。
- 糸井
- そうですね。
「進んでいく」じゃダメですよね。
「進む」という言葉はなんだか
細い路地に入り込んじゃうイメージだから。
「進む」だと
「一番エクセレントなものを選ぶ」
って思っちゃう。
だけど大事なのはそっちじゃなくて
「もう大動脈まで戻りましょう」みたいな。
- 孫
- ええ、ええ。そうですね。
ぐるっとね。
(続きます)
2018-05-26-SAT
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN