絵本『生きているのはなぜだろう。』
発売記念インタビューコンセプトアーティスト
田島光二さん
ほぼ日の絵本プロジェクト第二弾
『生きているのはなぜだろう。』の作画は、
カナダ在住の田島光二さんです。
ハリウッドの映画業界で活躍する
コンセプトアーティストの田島さんは、
『ブレードランナー2049』『ヴェノム』など、
VFX技術をつかった最新作品の多くに関わる
若手トップアーティストのひとり。
ポケモンやワンピースの絵を描き、
マンガ家に憧れていた日本の少年は、
いかにしてハリウッドで活躍する
コンセプトアーティストになっていったのか?
絵本の発売を記念して、
たっぷりとインタビューしました。
(取材・永田泰大 編集・稲崎吾郎)
第6回努力の総量
──CGの学校に入ってすぐの頃、
知識も経験もない状態で、
まず田島さんはなにからはじめたんですか。
田島最初はハリウッドにいる
好きなアーティストの作品をマネしました。
──それは模写みたいなこと?
田島模写です。
つくり方を解説しているサイトがあって、
それを見ながら同じようにつくってました。
──じゃあ、うまくなるステップとして、
まずは模写をした。
それはたっぷり時間をかけて?
田島時間はもう、めちゃめちゃかけました。
ずーっとパソコンに向かってて、
やってない時間がないぐらい。
昼食のときも休み時間も、
ずっとパソコンで参考資料を探したりしてました。
──その学校での成績は、常によかった?
田島その学校は課題ごとに
優秀作品が数点選ばれるんです。
学校のホールみたいなところで名前を呼ばれて、
ちょっとした景品をもらうんです。
それには選ばれて当然という感じでした。
──それは、最初の課題から?
田島はい。
──最初から優秀なのは、なんで?
だって、初心者なわけでしょう?
田島単純に最初の課題から、
まわりの何十倍も時間をかけてたんです。
──あー、最初から努力の成果が出てるのか。
田島下手でもケタちがいに時間をかければ、
先生に選ばれるくらいにはなります。
だから、当然といえば当然というか。
──でも、作品をつくろうとしたとき、
かけた時間の分がそのまま作品に反映される、
というものでもないと思うんだけど。
田島CGの世界って基本ロジカルなので、
ロジカルに分解して勉強すれば、
だいたいはうまくなっていくんです。
──ああ、なるほど。
時間に比例して積み立てられるというか。
田島そういう感じですね。
じぶんの作品を見て、
じぶんが到達したいクオリティと比べて、
足りてない部分があったらそこを分解して、
集中的に勉強して高めていく。
──それは文章やコンテンツも同じかもしれない。
できてないところにまず気づいて、
気づいたらそのギャップを埋めていく。
田島そういう感じです。
具体的にいうとまず作業工程を分解するんです。
そうするとはじめは造形力が必要で、
次にそれを3Dモデルにする技術がいる。
それができたら今度は、
それをリアルに見せるための
質感を追求する作業が必要で‥‥と、
それぞれの工程で求められるスキルがあるので、
それを分解して順番にやっつけていく。
学習というよりは、ゲームをやってる感覚なんです。
じぶんを成長させるゲームというか。
──じぶんを成長させるゲーム。
田島RPGみたいに
「このボスが倒せないから、
まずはここの能力を鍛えよう」みたいな。
じぶんの能力のパラメーターを客観的に見て、
欠けてるところを集中的に鍛える。
ゲームといっしょで時間をかければ、
その分だけレベルが上がっていくんです。
──じゃあ、やっぱり、泥臭い話だけど、
「時間をかけて徹底的にやる」。
田島はい。苦手なところほど、やる。
──そういえば田島さんは時々ツイッターで、
若い人の絵を見てアドバイスしてあげてるけど、
あれもそういう感覚なのかな。
「うまいけど、ここが足りないね」という、
そういうアドバイスをしてる気がする。
田島あ、そうです。まさにそういう感じです。
──田島さんのすごさって、
絵のうまさはもちろんなんだけど、
それとは別に、そういうパラメーターの欠けに
気づける「目」を持っているところですよね。
人の作品に対しても、自分の作品に対しても、
「ここが足りない」と見抜ける力。
で、その発見から理屈として
方針をたてているところが、
じぶんを効率よく成長させることに
つながっている気がします。
田島たしかに、それは大事なことだと思います。
ぼくが好きなアーティストが
「成長の方程式は
『(かけた時間+労力)×ロジック』だ」って
言ってたんですね。
──成長=(かけた時間+労力)×ロジック。
田島はい。それ、ぼくもほんとそうだと思っていて、
どんだけ時間をかけて努力しても、
やってることがロジックにマッチしてなかったら、
いくら努力しても成長しないと思う。
──なるほど、なるほど。
田島どうやってじぶんを成長させるか、
じぶんに必要なロジックはなにか、
そういうのを見極める力って、
けっこう大事なんだと思います。
それがないといくら努力しても、
けっきょくは無駄になってしまいます。
──そういうふうにロジックで組み立てる力を、
田島さんはどうやって身につけたんだろう。
田島うーん、どうなんだろう。
あんまりそういうこと、
考えたことがなかったから‥‥。
──すくなくとも、ここまで話を聞いた限りでは、
田島さんは絵がうまくなるためのロジックを、
だれからも授かってないですよね。
田島はい。まったく授かってない。
──つまり「絵はこう描くんだよ」という学習を、
田島さんは半端に受けてきてない。
絵画教室にも行ったことないし、
絵のうまいお母さんからも、
絵の描き方を教わってない。
田島なにも言われてないです、そういうのは。
──逆に、そういう環境だったからこそ、
田島さんはじぶんを成長させるロジックを、
自力でつかむようになったのかもしれない。
田島そうですね。もしお母さんから
「ここはもっとこう描いたほうがいい」
とかアドバイスされてたら、
逆のことをしてた気がする。
そう言われるのがすごく嫌いなので。
──「じぶんで見つける人」なんだね。
だから、絵に関しての教えを、
受けてなかったのがむしろよかった。
田島ある程度、自由があったからこそ、
じぶんにあった方法を
じぶんで模索できた気がします。
──うん。
田島でも、模索してるときはつらかったですけどね。
学校の最初の頃の課題なんて、
もう、毎回、うまくいかなかったですから。
こうなりたいという目標があっても、
だいたい最初はうまくいかない。
──でもそれを、最終的には克服する。
田島克服する、というか、
じぶんの納得するところまでは
絶対に持っていくようにしてました。
──「絶対に持っていく」(笑)。
それは、どうやると、
「絶対に持っていける」の?
田島うまくいかないときは、
目標は変えず何回もトライする。
──「何回もトライする」。
田島何回も何回もトライする。
その何回もトライするときに、
いまの実力でいける限界までいく、
というのは決めてました。
──だから、最後には絶対に納得できる。
田島そうです。
──‥‥すごいね、やっぱり。
田島だって、人の10倍時間をかければ、
トライするチャンスが10回増えるから。
──あああ、それね、
昔、ゲームがとてもうまい人たちに
どうやったらうまくなるかを
訊いたことがあるんだけど、
突き詰めると同じこと言ってた。
つまり、理論値があったら、
そこに向かって何度もチャレンジするんだと。
田島はい(笑)。
──そうするとね、
意外なところに話がたどり着くんだよ。
なにかというと、
「眠くなんないの?」っていうことでさ。
田島はい?
──眠くなるでしょ?
田島眠くなります。
ぼく、寝るの大好きなので。
──そことせめぎ合わない?
田島あー、眠いときは寝ますけど‥‥。
でも、なぜか、その頃は
あんまり眠くならなかったですね。
──ああ、そうなんだ。
田島さんって、CGの学校に通ってたとき、
身体こわしたりした? 病気とか入院とか。
田島いや、まったく。
ハイパー健康でしたね。
──その後、いままでも健康?
田島ずっと大きな病気ってないです。
──健康。丈夫。
田島体は丈夫ですね。
──それは大きいと思う?
絵をうまくなる意味で。
田島大きいと思いますね、やっぱり。うん。
──いま、バンクーバーの職場でいっしょに働いている
トップクリエイターの人たちの健康状態ってどう?
田島やっぱみんな強いですね、
ふつうの人たちよりは丈夫です。
みんなすごい気をつかってますし、健康に。
スーパーバイザー(監督者)の人とか、
身体ムキムキですから。
──それは、なんだか納得できる話だなぁ。
最後の追い込みの強さは、体力。
田島そうですね。