高橋 | まず、いわゆる「メタボ問題」の現状を 簡単にご説明しますと‥‥。 |
糸井 | お願いします。 |
高橋 | いまは「本場」アメリカだけじゃなくて 中国なんかでも 肥満が急速に問題化しているんです。 |
糸井 | あの‥‥むかしむかしの話ですが、 「中国や韓国に旅行しても 太ってる人、いないでしょう? だから、中華料理や韓国料理って すごく身体にいいんですよ」 みたいに 説明されたことがあったんですけど、 あれって‥‥。 |
高橋 | まぁ、今よりずっと貧しい時代だったから いわゆる「中華料理」なんか 食べてなかったってことなんでしょう、 ふつうの中国の人は。 |
糸井 | ぼく、1981年に中国旅行してるんです。 で、あっちの「給食」を見せてもらったんだけど、 思い返すと どう考えても、太れる料理じゃなかったなぁ。 |
高橋 | そうですか。 |
糸井 | つまり、当時の中国は「足りてなかった」んだ。 |
高橋 | でも、今はすごい勢いで‥‥。 |
糸井 | 太ってる。 |
高橋 | もう、アメリカに追いついちゃうくらい。 |
糸井 | ははー‥‥そうなんですか。 |
高橋 | でね、そういう「肥満」というのは、 さまざまな疾病リスクを、著しく上げます。 |
糸井 | ええ。 |
高橋 | ‥‥と、だれが「悩む」か。 |
糸井 | 悩む? |
高橋 | そりゃあ「本人」が悩むんでしょうけど、 同時に「国」も悩んじゃうの。 |
糸井 | 国、ですか。 |
高橋 | つまりね、病気にかかる人が増えると、 医療費の公共負担が増大して 国家の財政が非常に圧迫されるでしょう? |
糸井 | ああ、なるほど。 |
高橋 | ですから、美容のために、健康のために、 肥満を克服しようという 個人の意思とはまた別のところで、 社会全体として 「このままじゃまずいぞ」という圧力が かかってくるわけです。 これは主に、先進国の事情ですけれどね。 |
糸井 | 為政者の側の動機、ということですか。 |
高橋 | 逆にいえば、そのくらいの洞察力をもって 政治をやってもらいたいなぁと、思うわけですが。 |
糸井 | つまり、いわゆる「メタボ」の現状というのは、 為政者は為政者としての理由から、 大衆は大衆としての理由から、 「由々しき問題である」とされてるわけですね。 |
高橋 | 現状は、そのようなことだと思います。 ところで、日本人の食生活が豊かになったのって、 ごくごく最近のことですよね。 |
糸井 | ここ40年とか? |
高橋 | そう、ぼくらなんかの世代までは 「あんまり栄養がないものをたくさん食べて、 身体を使ってはたらく、 つまり、ものすごく運動する」 という枠組みで生きてきたとも言えるので、 「なかなか太らない」んですよ。 |
糸井 | へぇー‥‥。 |
高橋 | まぁ比較の問題なんですけど、 そういう体質が、でき上がっている。 |
糸井 | いまの60代、70代、80代の人は。 |
高橋 | でも、日本が飽食化してから、 つまり現在の10代、20代、30代なんかは 今はまだ アメリカや中国ほどではないですけど、 放っておけば メタボ化してしまうだろうというのが、 円満な予想だと思います。 |
糸井 | 放っておけば? それって‥‥。 |
高橋 | すごく乱暴な言いかたをすると 「現代の太ったお母さんからは、 結果的に 太った子どもが生まれがちである」ということ。 |
糸井 | はーーーー‥‥。 |
高橋 | 理由のひとつを、申し上げましょう。 たとえば、太っているお母さんが 妊娠期にダイエットして、 母体に十分な栄養が行き渡らなかったとする。 すると、その母親のお腹にいる赤ちゃんは、 自分も「栄養状態の悪い環境」に 生まれるんだと判断する。遺伝子のレベルで。 |
糸井 | へぇ! |
高橋 | ややこしい説明は省きますけれども、 そう考えたほうが 合理的だと思う理由が、あるんです。 |
糸井 | ははー‥‥。 |
高橋 | もちろん、 胎児期に遺伝子自体が変化するわけじゃなくて 環境しだいで 「遺伝子の発現のしかたが、調整される」 ということが、だんだん、わかってきたんです。 「エピジェネティックス」と呼ばれる 学問分野なんですけれどね。 |
糸井 | つまり「自分は飢えた環境に生まれるんだ」と 身構えて、生まれてくる? |
高橋 | 言ってみれば。 |
糸井 | うわー‥‥すごい。 |
高橋 | 人間で考えるとピンと来ないかも知れませんが、 エサの得られにくい環境に住む 野生動物の場合、 これって、なかなか合理的な仕組みなんですよ。 |
糸井 | ええ、ええ。 |
高橋 | つまり、適正なダイエットならいいけれど、 「母体の栄養十分でない状態」が あるレンジを超えてくると、 まちがいなく おなかの胎児に影響を与えてしまう‥‥。 |
糸井 | 「ボクはきっと飢餓的な環境に 産み落とされるんだ!」と。 |
高橋 | でも実際には、 「いくら食べてもいいよ」という環境に 生まれてくるわけだから、 どんどん食べて、どんどん太っちゃう。 そんなメカニズムのあることが、 最近、わかってきたんです。 |
糸井 | そうなんだぁ‥‥。 |
高橋 | そして、もうひとつわかってきているのは 現代の「太った世代」が、世代を重ねるにつれて、 肥満が「幼若化」してくる、ということ。 |
糸井 | つまり、大人だけでなく、小さな子どもたちも 一家そろって肥満してる状態、ですね。 |
高橋 | だから、今後10年、20年、30年と経つごとに、 日本でも、疾病の大きな原因のひとつとして、 「肥満」が どんどん大きなインパクトをもつようになるのは、 確実でしょうね。 |
糸井 | このままでは。 |
高橋 | このままでは。 |
<つづきます> | |
2010-10-08-FRI |