なるほど、ガラスを吹いたことのない人には
不思議ですよね。
もちろん、宙吹きを始めたばかりの人だって、
みな一度は「素材にさわれない」ことに
ジレンマを感じたことはあるはずです。
そもそも日本のクラフト系のものつくりは
「素材ありき」だから尚更なのかもしれません。
なにしろ、日本人の器用さが
直接手で触れて加工の出来る
素材の扱いに長けてるのは確か。
その中で、ガラスは触ることができない。
でもね、これがやっているうちに
不都合を感じなくなるんです。
たぶん道具を使いこなすことと
経験値によるものだと思うけれど、
直接は触ってなくても、
ちゃんと素材の感触は伝わっていて、
きちんとコントロールできるようになります。
それを勘という人もいるけど、実際にはちゃんと
素材の感触をわかって作業しているわけです。
だから直接触っているのと差異はないといっていい。
といっても、きっと武井さんは納得しないよね?
ここでちょっと高橋さんの話をすると、
彼は人為的なかたちをきっちりつくりあげる技術と
極力ガラスに触れないで、かたちをつくる技術の
両方をもっています。
(本人がこの二つをわけて考えているか
どうかはわからないのですけれど。)
前者は素材をとことん人為的にコントロールする。
ガラスの性質からは自然に生じないかたちを
人為的につくりだす。
欲しいかたちになるまで手を加える。
(にもかかわらずその痕跡は残さない)
後者は、逆にガラスの性質を利用して、
息で膨らむ力や遠心力によって得られるかたちを
損なわないようにするために極力素材にふれない。
ふれないけど「かたち」は
しっかりコントロールされている。
(決して偶発的なかたちではない。)
で、ここで留意しないといけないのは、
宙吹きにはこういった重力や遠心力というような力が
成形に大きくかかわっているということです。
高橋さんのように、
ここまで意図的に
かたちに反映させるかどうかはともかく、
宙吹きからは切り離せないものとしてある。
それはそもそも手で触ってどうの、
という話ではないですよね。
そのせいか、特に宙吹きではイメージトレーニング
(という言葉で呼ぶかどうかはともかく)が
大切になります。
出来上がりに対する(かたちの)イメージ、
それを作る工程(技術)のイメージ。
もちろんガラス以外のどんな素材でも同様なんだけど、
ひょっとしたら宙吹きの場合は
より具体的にイメージすることで、
素材に触って確認する代わりになるのかもしれません。
知識としての手順じゃなくて、
具体的にイメージするというのが
どういうことかというと、
ちょっと唐突だけど、
『LIFE』の飯島奈美さんを想像してもらったら
わかりやすいかもしれないです。
例えば飯島さんだったら、きっと、
フライパンの厚さ、火力、肉の部位・厚さ等、
あらゆる要素から
何分焼けばこうなるというイメージを持ってるはず。
更にはキッチンの広さやアシスタントの間合いまで
全て、はかれてるんじゃないかな。
ガラスもまったく同じです。
どこまでそれができるか、経験値に加えて理論も必要。
高橋さんはそれが完璧にできるひとなんです。
素材を直接手でさわれるかどうかより、
どこまで具体的にイメージできるかが
鍵なんだと思います。
だって、そうじゃなければ、直接手でさわれる素材なら
誰でもかたちがつくれることになっちゃうでしょ?
でもそんなことはないわけで‥‥
自分の例でいえば、私は磁器もつくる。
磁土は直接手で触ることができる。
でもね、悲しいかな、うまくいかない。
磁土の方が溶けたガラスより
扱いやすいなんてことは全くないんです。
実際自分で土を触ると、作業イメージが
体得できていないことが実によくわかります。
もちろん、直接手でさわれる素材の方が、
とっつきやすいというのはあるかもしれないですけれど。
これからその磁器のシンポジウムに行って来ます!
(shino) |