ジャパネットたかたの創業者である髙田明さんと、
糸井重里が対談することになりました。
生まれた年も日も近いふたりが、
「ものを売ること」「伝えること」について、
それぞれの考えを語り合います。
自分の売りになることは何か?
アイデアを出すにはどうすればいいのか?
失敗を乗り越えるには?
決して「うまいことを言わない」、
ベーシックでぶれないヒントに満ちた全10回です。
※この記事は日経MJ2017年8月7日号のために
収録された対談を、ほぼ日が編集し、掲載するものです。
- 糸井
- インターネットの時代って、
どんなに特殊なものであっても、
売り場を見つける人は見つけます。
その意味では恐れずに、
欲しい人がいるものを作るということが
まずは大事だと思います。
- 髙田
- 我が社の場合、ちょっと
時代に逆行してるところがあるんです。
たとえばアマゾンさんはサイトの中には商品が
数え切れないほどありますよね。
ジャパネットはそんなにはありません。
もちろん、商品をたくさんならべて売る、という
普通の売り方もやるのですが、
ときには逆行するようなことをします。
これは、ジャムの理論というんですけれどもね。
- 百貨店に2軒のジャム屋さんがあったとします。
一店舗には、たとえば5個のジャムが並んでいて、
試食して選べるようになっている。
もう一方の店には20個くらいのジャムがあって、
こちらも試食できる。
5の店で試食した人、20の店で試食した人が、
その百貨店を出るときに、
どちらの店のジャムを買ってたか調査したら、
少ない店のほうが圧倒的に売れてた、
というものなんですよ。
- インターネットサイトは商品を
いっぱい載せてなければいけないと、
みんな言うんだけど、
そうじゃない発想もあるんですよね。
これはお客さんの選ぶ手間を省くという
意味もあるかもしれないけど、
我々は本気で選んだものをそこに載せることによって、
自分たちならではの店を作る道をとります。
だけども、これだって
ひとつの方法にすぎないと思うんですよ。
- 糸井
- 一般論として、ビジネスは、
よその人がどううまく行ってるかを見て、
いちばんうまくいってる人のまねをしますよね。
- 髙田
- そうですね。
- 糸井
- けれどもそれは、
勝ちきっている人のやり方なんです。
おんなじことをやったら当然負けるんですよ。
- 髙田
- すべてのショッピングサイトが
アマゾンさんのように、
商品をとにかくたくさん載せるとなると、
それぞれの種類で在庫を抱えなきゃいけないし、
そうとうな無駄も覚悟しなければいけない。
- 自分たちはアマゾンにはなれないんだったら、
ちがうしくみを考えたほうがいいんです。
ですから、ジャパネットの場合は、
商品について、すべて動画で伝える方法をとりました。
- 糸井
- それも、スタジオがあるからですよね。
- 髙田
- はい。
そのことが企業のオリジナリティに
なってくることがあると思います。
- たとえば‥‥ほぼ日手帳ですね、
作った人が動画に出てきて語れば、
すごいだろうと思います。
スタジオがありますので、
制作は我々が請け負いますけど(笑)。
- 糸井
- すっごく‥‥具体的な話が出てきた!
- 髙田
- いやいや、ほんとですよ。
糸井さんが動画に出て、手帳の説明をしだしたら、
すごいアクセスになります。
いや、できますよ。
スマホひとつで撮るだけで簡単に、全部できます。
ねぇ、樋口くん、できるよね。
- 一同
- (笑)
- 糸井
- はぁぁ、ヒントになります。
- 髙田
- ほんとにそう思います。
結局商品というのは、どうしても話が
「価格」になっちゃうんですよ。
では、品質って何かというと、
単に丈夫なだけを伝えればいいのではありません。
コンセプト、作り手の思い、そこで働く人の思い、
それを商品に正直に乗せたほうがいいと、
ぼくは思っています。
作り手を見た瞬間、お客さんの持つ価値に、
それが入っていきます。
- 例えばおいしいリンゴを作るために、
農家の方は1本600個のリンゴを、
日が当たるように、
脚立に乗って、
きちんとひとつひとつに日があたるように、
リンゴのまわりの葉を取っていくんですよ。
たいへんなご苦労です。
寒い冬から仕込んで、むだな葉をとったりもする。
- 作る人たちの考えていることをそのまま出せば、
価値は数倍に上がるんじゃないかと思います。
ぼくはテレビでそれを伝えたいと思ってきました。
そういう特徴が、ジャパネットのショッピングには
あるのかなと思います。
- 糸井
- 惜しげなく‥‥そうですね。
ジャパネットは、ある意味無手勝流で、
まず「俺がいて、ものがある」という場所から
語られていきます。
つまりそれは、
「語り部がやってきた歴史」なんですよね。
CMのように
イメージや演出をつけたりするのではない。
- 髙田
- それが企業のブランディングだろうと思うんです。
ほぼ日さんの商品は、糸井さんだけじゃなくて、
社員さんがやっても同じことを
視聴者のみなさんは感じると思います。
- 伝え方というのは、
時代の変化の中で変わっていきます。
1年1年、日々、変わっていくんですね。
今日売れたものが明日売れる保障はありません。
そのあたりの感覚や流れは
つかんでいかなきゃいけないと思うんですけれどもね。
- ぼくがいま、ほぼ日手帳を売るんだったら、たぶんね、
さっきライフという言葉がありましたから、
人生を語るでしょうね。
手帳そのものよりも、人生語っちゃう。
- 糸井
- ‥‥ああ、聞いてていま、
なんだか泣けてきました(笑)。
- 髙田
- 人生って、出会いも別れも含めて、
ほんとにいろんなことがありますよね。
いろんなことを、最終的には残すもの、
それが手帳である、ということで
いいんじゃないでしょうか。
文字を残すというのは、人生残すことだから。
- ‥‥いま、とつぜん、
万年筆を売ったときのこと思い出しました。
ぼくは万年筆が大好きなんですが、
好きな万年筆を売ったとき、
スタジオに紙を置いて、カメラをクレーンで寄せて、
万年筆で字を書きました。
書いてる時間が長ければ長いほどいい。
文字というものが人生を残していくんだと話して、
自分の好きな万年筆で字をひたすら書いて、
値段を言っただけで、売れていきました。
書けば書くだけ、売れるんです。
あのときのことを、思い出しました。
(明日は最終回です)
2017-08-25-FRI