ジャパネットたかたの創業者である髙田明さんと、
糸井重里が対談することになりました。
生まれた年も日も近いふたりが、
「ものを売ること」「伝えること」について、
それぞれの考えを語り合います。
自分の売りになることは何か?
アイデアを出すにはどうすればいいのか?
失敗を乗り越えるには?
決して「うまいことを言わない」、
ベーシックでぶれないヒントに満ちた全10回です。
※この記事は日経MJ2017年8月7日号のために
収録された対談を、ほぼ日が編集し、掲載するものです。
- 糸井
- ぼくは自意識があんがい薄いんです。
特に年を取ってから、ひどくなりました。
たとえばウニ丼を食べて
「うまいね」と思ったとします。
食べてる瞬間の「うまいね」は確かなんです。
しかし昔は、何を食ってもうまかった。
いまじゃ、飛び上がるほどおいしいなんて思うことは、
どんどんなくなっています。
でも、誰かに食べさせて、
ほんとにおいしそうだなと思ったときは、
若いときの「うまい」よりうまいんです。
- 髙田
- わかるなぁ。
- 糸井
- 自分が食うよりも、
人が食ってるほうがうまくなるんですよね。
それを、じゃんじゃんやりたくなってしまう。
それがいまのところ、
ぼくの大きなわがままかもしれません。
「お前が食ってんのが、俺がうれしいんだよ」
という感覚が、いまぼくの仕事に
すごく役立っています。
- 髙田
- 人間は、年を重ねていったら、
もう自分じゃなくなるんですよね。
- 糸井
- そうそう。
- 髙田
- 人生が自分じゃなくなる。
ほんとです。
ぼくも食べてる人を見て、すごくうれしいです。
- 買い物して自分がおしゃれするよりも、
人におしゃれしてもらったのを
自分が楽しむことになります。
- 子どもさんができて、お孫さんができて、
80になったら、次はやっぱり
曾孫を見たいと思うでしょう。
曾孫を見たら、曾孫の結婚式を見たいと思うでしょう。
そうしたら99まで生きなきゃいかんし、
そんなふうに人間は生きていき、
自分のための人生ではなくなっていきます。
家族だけじゃない、いろんなことがそうです。
- 自分よりも、ほかの人が幸せになっていくほうが、
いい人生なんです。
周りの人の幸せが、楽しくなってしまうんです。
ぼくは、だから人間は
すばらしいんじゃないかと思っています。
- 糸井
- うん、そうですね。
もちろん、ちっちゃい範囲の、
限定の競争のおもしろさはあるし、
それはいつでも遊びのようにやりたいと思っています。
いいものを見たときに
「俺もやってみたいな」とか、
そういう動機もたくさんあります。
しかしそれはあくまで限定のものなので、
生命力がなくなると、さみしいですが、
だんだんそう遊びをしなくなります。
- 自分というものは何か、ということを問われれば、
限りなく薄くなってきています。
- 欲望も、かき立てないとありません。
いや‥‥、ぼくら年寄りだけじゃなく、
お客さんも、ほんとうは欲望を
かき立て合ってるのではないでしょうか。
友達同士で、ネット上で、
かき立て合ってるのかもしれないです。
- 髙田
- そうでしょうね。
- 糸井
- 欲望がなくても、人が欲望してくれるから、
見てると「いいなぁ」と思うし、楽しい。
- きっと、自分はできないことを
「いいなぁ」と思うことが大事ですね。
ぼくにとっては、踊りができることもうらやましいし、
かっこつけてる俳優が登場するシーンもいい。
それを「いい」と思うことが、
自分のジャンプなんです。
電車の中で見つめあっている高校生のカップルを
「あいつら、なんだ」と呆れるよりも、
うらやましいと思って応援する側でいたい。
逃げる俺より、逃げない俺でいたい。
そこはかなり、意識的にやっています。
- 髙田
- でも、結果的にそれは、
わくわくしてらっしゃるんですよ。
糸井さんは、ずっとわくわくしている。
わくわくのしかたと、
ご自分のアクションが違うだけで。
- 糸井
- はい、はい、そうですね。
- 髙田
- 若い人が見つめてるのをいいなぁと思うことは、
最高のわくわくを、
実際に自分がそうだったとき以上の何かを、
なぞってるんじゃないかと思います。
- ぼくも次から次に
わくわくを感じたいと思っていますし、
どういうかたちでわくわくを伝えるかは、
それぞれの人で違うと思います。
- まぁ最近ちょっと、
何を見ても感じることが多くなって、
自分でどうかな、と思うときもありますけどね。
- 糸井
- 涙もろくもなったり。
- 髙田
- 本読んでも、テレビ見ても、
目に入ってくるすべてに、敏感すぎです。
これは自分でも性分で、治らないと思います。
でも、わくわくしないと、
あと49年は、生きられないですから。
- 糸井
- いや、ほんとにそうですね。
生きるには。
- 髙田
- 何を見ても、人に伝えたくなる。
本を読んで「いいなぁ」と思ったら、
100人の人に伝えたくなる。
この気持ちがあるもんだから、だから、やっています。
- 糸井
- 天職ですね。
- 髙田
- ちょっと悩むときもあるんですが、
もう、それでいいのかなと思います。
(明日につづきます)
2017-08-24-THU