ジャパネットたかたの創業者である髙田明さんと、
糸井重里が対談することになりました。
生まれた年も日も近いふたりが、
「ものを売ること」「伝えること」について、
それぞれの考えを語り合います。
自分の売りになることは何か?
アイデアを出すにはどうすればいいのか?
失敗を乗り越えるには?
決して「うまいことを言わない」、
ベーシックでぶれないヒントに満ちた全10回です。
※この記事は日経MJ2017年8月7日号のために
収録された対談を、ほぼ日が編集し、掲載するものです。
- 糸井
- ぼくは毎日、ほぼ日に
何か書くという仕事をしています。
「毎日何か書いてる」という、いわばライブの中で、
人やものを見ていることになります。
この19年ずっとそうですから、
ひとりの時間にいろんなことを
整理する必要があります。
そのくり返しが、
自分を変形させてきたように思います。
- 髙田
- 糸井さんは、
そのように20年近く書いてらっしゃって、
一貫して通ってる筋、
ひとつの言葉といえば、なんでしょうか。
- 糸井
- 単純な言葉の数でいうと、
ぼくは「思う」という言葉で
おしまいを締めることが、ものすごく多いです。
- 髙田
- 「思う」‥‥。
- 糸井
- つまり、ぼくが思っただけのことだ、ということを
出しておきたいんでしょうね。
「この水はおいしい」じゃなくて
「この水はおいしいと思う」。
いつもすごくだらしのないところで、
ぼくの文章は、おしまいになってるんですよ。
- 「『思う』という言葉を使わずに書け」と言われたら、
ぼくは、毎日は書けないです。
俺しか思わなくてもいいこともあるし、
みんなの考えはわからないけど自分はこう思う、と
言いたいときもある。
そういった、ある種の遠慮がないと、
やっぱり毎日は書けないんです。
- 髙田
- 「思う」という言葉については、
糸井さんがここまでのお話で
おっしゃっていたことに
やっぱりつながりますね。
つまり、糸井さんの文章を読んだり
サイトを見ている人たちが、
そこに共鳴しているんです。
- ぼくは、そこをとても見習いたいです。
「思う」で文章を締めくくる、というのは、
重い言葉で、ありがたいです。
- 糸井
- すこし前のことですが、
あらためて「思う」について気づく
出来事があったんですよ。
- ぼくたちは手帳のキャンペーンで、
日本全国、あるいは世界へ、
いろんな人たちの使っているほぼ日手帳を
見せてもらいに行くことがあります。
- ある地方で、イベントにいらっしゃった方がいて──
それは若い、学校の先生だったんですが、
その方の手帳をたまたま開いたら、
このようなことが書いてあったんです。
それは、人が行動に至るまでの
「順番」についてのメモでした。
まず「感じる」からはじまる。
「感じる」は「思う」になって、
「思う」は「考える」になり、
そして最後に
「考える」から「行動にする」に至る。
- これを見たとき、ぼくはものすごく
うれしかった。
まず最初の「感じる」がないと、「思う」はない。
「思う」がたくさんないと、
「考える」の材料にはならない。
「思う」がないまま「考える」だけを
やり取りしてる人たちもいますが、
それは結局、行動には
つながらないのではないでしょうか。
- 生き馬の目を抜くように、
感情を捨てればうまくいくと思っている人は
あんがい多いんですけれども、
きっとそんなことはありません。
- 人の行動にはつねに、
前提にある、言葉にならない、
「感じる」や「思う」が、つかず離れずある。
そのことを、ぼくはその先生のメモに教わりました。
- 髙田
- 「感じる。思う。考える。行動する」
いいですね。
- 糸井
- いいでしょう?
会社の中がだめになっちゃうときも、
おそらくそうです。
会社全体で「感じる」「思う」が
足りなくなっているのです。
ルーティンワークになると、
感じなくても仕事を上手にできるように
なってしまいます。
- 髙田
- 「感じる」「思う」というところを
もっと出していけるといいですね。
会社でも「これだめだよ」というだけじゃなくて、
「だめだと自分は思う」と伝えるだけでも、
コミュニケーションがぜんぜん変わってきます。
- 糸井
- ただし、「思う」を乱発する文章では、
政治力は弱くなります。
政治は断言することで動くからです。
- 髙田
- しかし、これまた言い換えていけば、
「思う」ということの中に、
人間の大事にしなきゃいけないものがある気がします。
- ぼくがラジオ、テレビで学んだことは、
自分の思いを断言して
「これいいでしょう!」
ばかり言ってたら、ほんと、売れないんですね。
- 糸井
- そうなんですか。
- 髙田
- 「お客さんがこの商品どう思うか」を感じながら、
「いいでしょう」という言葉を出していかないと、
ものは売れないです。
MCという稼業をめざす若い人がいるとしたら、
ここをいちばん学んでほしいです。
- 一方的な発言が続けば、
観る人はどうしても反発的になって、
決して振り向かれないです。
企業のメッセージもそうです、
お医者さん、政治家の方、みんなそうです。
- でも、そこに、いま糸井さんからお聞きした
「思う」の考えを入れていくのはどうだろう?
自分はこれまでどうしてたかな、と思ったら、
やっぱりできていなかったところがあります。
- 感じる、思う、考える、行動する、
という順番は、正しいと思います。
そういう順番になっていないと、何もできません。
- 糸井
- 学校の、若い先生が教えてくれたことです。
しかし、それと同時に、断言が必要だということを
ぼくはこのところ痛感しています。
社長のジャッジはまさにそうで、
グズグズさせるよりは、
「これはこれでいきましょう」と
はっきり言うことが必要です。
そういう局面は山のようにあります。
ですから、逆にぼくは、
断言を新しく学び直しているところです。
そっちの筋肉を、がんばって練習して、
あとからつけているところです。
(明日につづきます)
2017-08-23-WED