ジャパネットたかたの創業者である髙田明さんと、
糸井重里が対談することになりました。

生まれた年も日も近いふたりが、
「ものを売ること」「伝えること」について、
それぞれの考えを語り合います。

自分の売りになることは何か? 

アイデアを出すにはどうすればいいのか?

失敗を乗り越えるには?

決して「うまいことを言わない」、
ベーシックでぶれないヒントに満ちた全10回です。

※この記事は日経MJ2017年8月7日号のために
収録された対談を、ほぼ日が編集し、掲載するものです。

糸井
髙田さんはジャパネットで、
「自前のスタジオを佐世保に作っちゃえ」と考えて、
実行なさいました。

それは、考えて実現したというよりは、
髙田さんに蓄積したものが
そっちに行かせたんだと思います。

発想の瞬間があったというより、
そっちにいかざるを得ないくらいまで
機が熟していたから、
できることだったのではないでしょうか。
髙田
ええ、そうですね。

スタジオのことは、みんな反対で、
当時、ひとりも賛成しませんでした。

でも、あそこでやらなかったら、
おそらくジャパネットはいま、
ないだろうなとも思います。
不思議に思うのが、
人間って、やろうと覚悟を決めたときに、
不可能が可能になるんですよね。

ナポレオンは
「私の辞書に不可能という文字はない」という
言葉を遺しましたが、
ナポレオンという人は、情熱や気が
人の100倍ぐらいあったんじゃないかな、と
勝手に思ったりしています。
できない理由を言いはじめたら、
全部、できないんですよ。

できない理由があるものを「できる」と思う瞬間に、
奇跡かもしれないけど、可能性が開けるんです。

そういうことが人生にはあるのかな、と思います。

糸井
作るプロセスよりも、できちゃった瞬間のことが、
先にうれしくてしょうがない、
みたいなことがありますよね。
髙田
はい、ありますねぇ。
糸井
たとえば、
ゴルフで難しいパットを打つときには、
ボールがカップに入るときの
「コトン」という音をイメージするしかないんだよ、
と人にはよく言います。

ゴルフはぼく、ぜんぜんしないんですけれどもね。
髙田
カップインしたときの音ですね。
糸井
そうです。

うまくいくことって、
先にコトッという音が聞こえるんです。

そこから逆算して落としてるわけで、
だからこそ入るんです。
髙田さんのスタジオの場合には、
その話を出した時点で
すでにご自分の中で
スタジオができちゃってるんですよね。
髙田
そうですね。

そして実際に、どうにかなるんです。

なんでも、どうにかなります。
糸井
野球の試合だと「9回」と決まってるけど、
事業は9回で負けてても、
社長なら「もう1回」と言えるんですよね。

それは、苦しいと思う人には苦しいけど、
楽なところでもあります。
髙田
ぼくは、失敗しても別に気にしないです。

できなかったらまた、
方向変えればいいじゃない、としか思いません。
糸井
それはやっぱり、社長だからですよね。

社長は勝つまでやるけど、
部下は勝つまでやらしてもらえません。

社長のアイデアがなぜ通るかというと、
延長戦ができるからです。

でも、それを活かしてない社長は、
だめだと思います。
髙田
そうですね。

社長はなんといっても、最終決定者です。

息子に会社を譲るとき、
「経験として何が彼に必要のなのか?」

と考えました。

それはやっぱり、最終的な判断をすることでした。

もしもぼくが会長になって残ったら、
そのあともジャパネットのことは、
ぼくが判断することになっただろうと思います。
糸井
そうですね。

髙田
そうすると、ジャパネットはおそらく
一流にはなれないでしょう。

息子は、間違いもいっぱいしていると思います。

でも、その中で、30代、40代、50代で、
その都度よみがえって
一流になってもらえれば、という考えがあります。
糸井
譲ったはずなのに、
こっちの顔を見ながら仕事されるのは困りますね。
髙田
困りますね。
糸井
「俺の顔じゃないよ、お客さんの顔を見るんだよ」
あるいは「自分自身の顔を見るんだよ」と‥‥。
髙田
確かにそうです。
糸井
基本は「自分に聞け」なんですよね。

ほぼ日はマーケットリサーチも特にやらないし、
ある商品を思いついても
「そんなもん、いらねえだろう」と
自分が思えばおしまいです。

会社は人がたくさんいるので、
そこを信じているところがあります。

大勢の人が自分に聞けば、
ダメなものを選び続けてくことはないだろう、
という信頼があります。
髙田
社長さんとしての糸井さんのお考えは、
ほぼ日に集まってる社員さんの想いでも
あるんでしょうね。

商品を売ってるだけではなく、
すごく消費者に近づいている。
企業は、そういう部分を持っていないと、
百年単位で続けることは不可能です。

ただものを売るだけ、ということでは、
いくら調査をやっていても無理です。

ジャパネットはまだ全然、できてないですよ。

でも、そこに向かってる姿を、
ぼくの時代よりも感じます。

よくやってるなという印象があります。
糸井
ジャパネットのCMは、
その要素が増えましたね。

あれは、社長変わってからの傾向ですよね?
髙田
そうですね。

CMはたしかに私のときとは違います。
糸井
ぼくは好きです。
髙田
ありがとうございます。

(明日につづきます)

2017-08-22-TUE