ジャパネットたかたの創業者である髙田明さんと、
糸井重里が対談することになりました。

生まれた年も日も近いふたりが、
「ものを売ること」「伝えること」について、
それぞれの考えを語り合います。

自分の売りになることは何か? 

アイデアを出すにはどうすればいいのか?

失敗を乗り越えるには?

決して「うまいことを言わない」、
ベーシックでぶれないヒントに満ちた全10回です。

※この記事は日経MJ2017年8月7日号のために
収録された対談を、ほぼ日が編集し、掲載するものです。

糸井
買い物は、そのもの自体より、
「なんで買ったの?」と人から訊かれる、
動機のところがじつはいちばん楽しいんですよね。
髙田
そうかもしれませんね。

ぼくはね‥‥あんまり言えないんですが、
ほとんどものを買わないんですよ。

糸井
‥‥言っちゃいましたね。
髙田
もともと財布を持って歩かない、時計をしない。

キャッシュカードの使い方も知らないし、
クレジットカードもよくわかりません。

ドイツに行ったとき、唯一買ったのが
ジーンズだったんですが、
はじめてクレジットカードを使いました。

そしたら即、日本から電話があって、
「社長のクレジットカードが盗まれて
使われたようです」

という報告でした。
糸井
ははは。
髙田
例えば髪にも、トニックやリキッドなど、
この20年間、一切使ってなくて、
シャンプーしたらそのままです。

ファッションも全くだめ。

縦縞、横縞に、何色が合うかもわからないです。

自分で服を買ったのは20年ほど前ですが、
そのときも「なんでこんなの買うの?」と、
娘や女房に笑われました。

ですから、
「人にものを売って、買わないとはどういうことだ」

と、よく言われます。
糸井
おもしろいですね(笑)。

髙田
というのも──、いまの時代というのはあまりにも、
進化しすぎなんじゃないかと思うところがあるんです。
ぼくはスマホを使ってるから、
偉そうなことは言えないんですが、
スマホやポケベルがなかった時代も、
人はさして不便さを感じていなかったと思います。

そしてその分、人と会って話すことが、
いまよりもっと基本にありました。
大学生の頃のことですが、
友人と大阪駅で待ち合わせをしました。

ところが彼は1時間経っても来ません。

当時は家の固定電話に、
公衆電話から連絡するしかありませんでした。

電話したら「いま風呂入ってる」と彼は言いました。

「俺は1時間待って、お前が風呂入ってるって、
じゃあここから俺はどうするんだよ」

と電話口で言いましたが、
でも、それ自体がすごい思い出なんです。
糸井
ああ、わかります。
髙田
いまはLINEで解決できることです。

しかし、思い出が残らない。

思い出だけではなく、
進化した道具は、人間の本質的な何かを
奪うのかもしれません。

こういうことを言うとみなさんは、
「じゃあなんでジャパネットはスマホ売ってるんだ」

とおっしゃいます。
「これは、必ず、この問題を
解決しなければいけないときが、世界に来ます」

と、ぼくは言うんです。

便利さを追い求めていくと、
問題にぶつかる日が来ます。

そこで「ここは変えなきゃいけないな」という、
知恵を出してきた歴史が、人間にはあります。

「それが来るから、それまではスマホ売ります」

と言っています。
糸井
そうですね(笑)。

矛盾は必ずありますし、矛盾が人生です。

進むだけ進んで置き去りになってることを、
「その話をきちんとしたいですね」

と誰もが言える時代が、
いまなんじゃないかという気がします。
進化しすぎたものがあるおかげで
ぼくらがわかるのは、
進化していないときの状況を選び直せる、
ということなのではないでしょうか。
ぼくはいつか、中年のオヤジ同士で
ディズニーランドに行って、
「スマホを使わないで、会えたら会う」

という一日をすごしてみたいと思っています。

それは「スマホで会えるに決まってる」ことに
慣れたから、選び直せるゲームです。
連絡がつかなくてイライラしたり、
会えなかった経験があって、
「これはいやだな」と思って発達したものが
携帯電話だとするならば、
いまは「どっち選ぶ?」と言える時代です。

アナログ側を選ぶ人もいていいと思います。

自分がどこを重要と考えるか、
どこの筋肉を鍛えていくのかを
選び取ることができるようになったんです。
髙田
起こることや、思い出を
自分が選択すればいいんですね。

それぞれが選べるようにしておけばいい。

糸井
ぼくも待ち合わせで会えなかった経験、
けっこうあります。

その当時は、いろんな物語を自分で考えました。

「神様はふたりが会わないほうが
いいと思ったんじゃないか」

「もともと好きじゃなかったんじゃないか」

青少年ならではの妄想です。

そこで鍛えられた妄想力は山ほどあります。

暗い妄想って、大事です。

髙田さんは、そのまま楽天的な
明るい人ではないですよね?
髙田
いや、
ぼくは、楽天的に明るいほうだと思います。
糸井
そうなんですか。
髙田
ぼく、悩んで寝れなかったこと、
ほんとに一日もないですよ。

考えてもいっしょだから
クヨクヨしないんです。
糸井
すごいですね。
髙田
ぼくね、人生68年、
失敗って1回もないです。

ここ20年を考えてみても、1回もないです。
「失敗がない」ってちょっと傲慢に聞こえますよね。
失敗という言葉の意味をどう解釈するか、
ということなんですが、
失敗とは一所懸命やらなかった結果のことであり、
目標に向けて一所懸命にがんばったことは
「試練」という言葉に置き換えています。
そうとらえて、いまを懸命に生き続けていれば、
常に自己更新し続ける自分になると思います。
糸井
サッカーのゴール前で、
「こうで、こうだから」と一瞬考える人もいますが、
名ストライカーというのは、
とにかくゴールに蹴り込みますよね。

ものすごく短い時間で判断するのが
得意な人がいるんです。

髙田さんは完全に、ストライカーですね。

ぼくなんかは、そこで蹴り込めないことのほうが
多い気がしています。

(明日につづきます)

2017-08-21-MON