ジャパネットたかたの創業者である髙田明さんと、
糸井重里が対談することになりました。

生まれた年も日も近いふたりが、
「ものを売ること」「伝えること」について、
それぞれの考えを語り合います。

自分の売りになることは何か? 

アイデアを出すにはどうすればいいのか?

失敗を乗り越えるには?

決して「うまいことを言わない」、
ベーシックでぶれないヒントに満ちた全10回です。

※この記事は日経MJ2017年8月7日号のために
収録された対談を、ほぼ日が編集し、掲載するものです。

糸井
髙田さんは、イメージとしては、
放っておけばどこにいっちゃうかわからないような
タイプの方ですよね?
髙田
いやあんまり、どこもいかないんです。

けっこう行動範囲は狭いです。

糸井
しかし、おやりになっていることは
あんがい糸がついていないような気もします。
髙田
そう言われれば──、ぼくはテレビでもなんでも、
原稿をもらったらだめなんですよ。

しゃべれないんです。

原稿がなかったら、
3時間でもしゃべります。
糸井
ぼくも同じです。

全くだめです。
髙田
台本、しゃべれないですよね?
糸井
はい(笑)。
髙田
昔、結婚式で仲人をやったときに、
式で言う3行ぐらいの言葉を、
2日かけて練習しました。

それでも結局間違ってですね、笑われました。

それほど覚えられないんです。

講演では、テーマだけ持ってって、
自由に2時間でも何時間でもしゃべります。
糸井
ぼくも同じです。

「こういう順番でこうしゃべる」と
決めただけでもぼくは苦しいです。

髙田
ほんとに苦しいです。

だから、いま、ものすごく楽です。
糸井
ぼくも楽です(笑)。

言葉だけでなく、動きもダメなんです。

「このくらいのところで右に曲がってください」

という指示も守れません。

言われるとまったくできません。
髙田
はい、私もです。

テレビ局さんの番組に出るときには、
リハーサルを何回もやりますでしょう? 
これが苦手なんです。
糸井
ああ、できないです。
髙田
いやあ、これ、ほんとに(笑)。

私に言わなきゃいけないことがあるとすれば、
それは、自分が言いたいことだけです。
糸井
そうそう。

「俺が言いたいこと」だけですよね。
髙田
はい。

そこさえわかっていたら、
いろんな説明はプラスでつけていけるんです。

自分が言いたいことの核さえあれば、
いつの間にか、導入部分と展開と結論を、
順番が逆でも作っています。
糸井
じつは、ぼくの場合、
ひとり語りもできないんです。
髙田
あ、そうなんですか。
糸井
講演もしません。

誰かがいっしょにいて、話を振ってくれたら、
きっと楽しくしゃべると思います。
髙田
だれかが投げてきたら、
受ける用意があるわけですね。
糸井
そうです。

いつもグローブとボールを持ってるような人間です。
髙田
なるほど。

ぼくはその点は、ひとり語りの、
通販が多かったんで。
糸井
そうですね(笑)。
髙田
ジャパネットの番組は、
最初はタレントさんに出演してもらっていました。

ぼくらは佐世保にスタジオを作りまして、
収録していたのですが、
毎日そのスタジオにタレントさんを
呼ぶわけにいかないんです。

どうしようかなと思って、
自分ひとりでしゃべるのがいいと思いつきました。

ためしに1時間で10商品を
ひとりで紹介したことがきっかけになり、
あのスタイルが定着しました。
糸井
もともと過去にああいうことをする機会が
あったわけじゃないんでしょう?
髙田
ないです。

思いついて、やらなきゃいけない立場になるから、
ただやってきただけです。

思えば、ほんとうにこれまで、
それを続けただけのことなんです。
ぼくの信念であり、いちばん好きな言葉は、
「いまを生きる」です。

いまの瞬間を精一杯生きることで、
ここまでやってきました。

そうしたら、ここにきてなぜか、
あと50年ほど生きられるような気がしてきました。

正確には去年「あと50年生きる」と思ったんで、
あと49年です。

糸井
ぼくは髙田さんと同い年ですが、
理想は1000年生きることです。

理想ですよ?
髙田
現実はどうですか。
糸井
現実はね、そういう区切りはどうも
つけられないなと思いはじめています。

やりかけのことがあるから、とりあえず
この3年ぐらいは生きてないと迷惑かけるという
気持ちがあることも事実です。

ですから、3年のつもりでいて、
そこから次のことを考えればいいや、
と思うようになってます。
髙田
そうですよね、そこは共通ですよ。

ぼくはあと49年と言いましたが、
女房はときどき、
「あなたね、もし5、6年で
コトッといったらどうする?
49年とか言わんほうがいいよ」

なんて言うんだけど、そんときはそんときです。
糸井
そうです。ぼくもそう思います。
髙田
49年生きる気持ちでいまを生きるということ。

それが3年でも、当面1年でもいいんです。

「いま」をやっていくうちに、
それが続いていくという考え方です。
糸井
ぼくは自分が会社のようなものをやるなんて
思ってもいなかったし、
まわりからもフリーでずっとやっていくと
思われてきた人間です。

それがこうして会社を経営して、いまは
「ほんとに会社になったんだね」

と思ってもらっています。

「どうせすぐやめるんじゃないか」と
疑われるのも癪ですし、
「そこまで無責任じゃないぞ」という
気持ちがあります。

子育てでいえば、子どもが歩いて
獲物を取ってくるのを見るという段階までは
現場にいたいのです。
でも、1000年生きる理想は、
持っていようと思っています。

たとえ150歳まで生きても、
「もっと見たかった」という境地は、
あると思いませんか?

源氏物語から1000年です。

もし紫式部がいま生きてたら、
「おもしろかった」と言うと思う。

その気持ちは憧れとして持っていたいです。
髙田
おそらくですね、糸井さんは
1000年生きると思います。

たとえできなくても、輪廻転生という言葉が
ありますよね。

もういちど再生するかもしれませんよ。

私も糸井さんも、
1000年前にいたかもしれませんから。
糸井
宇宙の創生から、水素は同じらしいですから(笑)。
髙田
そうですよね。
糸井
創生からあった成分がぼくの中にもある、
その時間感覚を恐がらないようにしたいです。

「人生短いんだからどうのこうの」ということを
あんまり言いたくない。

いくらでも生きるつもりでいて、
「しまった」ということはあるでしょう。

それでもあんがい、
後悔しないでいられるような気がするんですよね。
髙田
後悔しない人生がいちばんです。

瞬間瞬間を生きていれば、
寿命にとらわれずにいられると思います。

平均寿命という考え方をしていたら、
やりたいこともできません。
糸井
何やっても同じだと思うんですけど、
「つまんなかったな」とは言いたくないですから。
髙田
そうですね。

そこだけ、思います。
糸井
せっかく生まれて、
ときには調子の出てないときもあったのに、
ここまで持たせたんだから、やっぱり最後に
「おもしろかったな」って言いたいです。

(明日につづきます)

2017-08-20-SUN