都会の真ん中で野菜をつくる。
- ──
- 芹澤さんの会社とは「ご近所どうし」で、
社名は存じ上げていたものの、
実際、どんなお仕事をなさっているかは、
知らなかったんです。
孫泰蔵さん関連の「スタートアップ」で、
なんとも今っぽい、
IT関連の、イケイケ風なところだと、
申し訳ございません、勝手なイメージで。
- 芹澤
- 大丈夫です(笑)。
- ──
- でも、そのお仕事の中身をうかがったら、
ITなんだけど、
取りあつかうのは「野菜」だって言うし、
何だか興味を惹かれました。
ですので本日は、具体的に、
どのようなお仕事をなさっているのかを
お聞かせいただけたら、と。
- 芹澤
- ありがとうございます。
それでは、簡単に説明いたしますね。
もともと、ぼくたち日本人って、
自分で野菜を育てて、
まわりの人々と「物々交換」したりして、
暮らしてきたはずですよね。
- ──
- はい。つまり、貨幣経済以前は?
- 芹澤
- ええ。でも、とくに高度経済成長期以降は、
野菜などの農産物を工業製品のように、
一定の規格に合わせ大量生産してきました。
- ──
- ええ、なるほど。
- 芹澤
- そのこと自体は必要なことだったわけです。
増え続ける人口を養うためにも。
でも他方で「生産」を他人に任せっきりで、
お金を払って既成品を買うことの‥‥。
- ──
- でも、それが「経済」ということなのでは?
- 芹澤
- そうなんですが、
その経済が隅々まで浸透してしまうことで、
失ったものも多いと思うんです。
- ──
- たとえば‥‥。
- 芹澤
- 食の大量生産・大量消費・大量廃棄の問題。
あるいは、各地の食文化の喪失‥‥
つまり「おばあちゃんの知恵」的なものは、
おばあちゃんが死んじゃったら、
手元に何にも残らない‥‥じゃないですか。
- ──
- 現代社会では。たしかにそうかも。
- 芹澤
- でも、それって、今のように
「経済」がライフスタイルの中心じゃなく、
一昔前のように
「食」がライフスタイルの中心だった頃は、
起こり得なかった問題だと思うんです。
- ──
- 各家庭の「おばあちゃんの知恵」が
きちんと継承されて、
「食の文化」として、根付いていたから。
- 芹澤
- 他方で、
インターネットが空気のように存在している
現代では、金融業界をはじめ、
さまざまな分野で「分散モジュール型」へと
移行してきていますよね。
- ──
- いわゆる「中央集権型」ではなくなって。
スマホによる銀行を介さない直接決済とか、
話としては、
経済にうとい自分なんかでも、聞きますね。
- 芹澤
- そういった「脱中央集権化」って、
農業分野でも不可避の流れだと思うんです。
これまでのように、
野菜農家さんだけに高い負荷をかけて
「量」を賄おうとしても、
将来の食糧問題に対処できないとも思うし。
- ──
- ははあ。
- 芹澤
- そこで、
野菜づくりのプロである農家さんだけに
生産を依存するんじゃなく、
自分たちでも野菜を育てましょう‥‥
で、どうせやるなら、
一緒に楽しく育ててみませんかというのが、
ぼくたちの目指しているところです。
- ──
- それはつまり、都会でも?
- 芹澤
- 積極的に「都会で」です。
- ──
- そういう問題意識って、
不勉強で聞いたこともなかったんですが、
海外なんかでは
けっこう盛り上がってたりするんですか。
つまり、街のなかに住んでいる人たちが、
自分たちでも野菜をつくろうって。
- 芹澤
- ロンドンやパリ、
ニューヨークのブルックリンなんかでは
「Grow your own」という言葉で、
自分たちの野菜を
自分たちでつくる活動が浸透しています。
- ──
- で、芹澤さんたちは、
その「みんなで、野菜をつくろう!」を、
最新のテクノロジーを駆使して
実現しようとしている‥‥んですよね。
- 芹澤
- はい。
まずは、デリバリーサービスの「Uber」や
「民泊」の「Airbnb」みたいに、
どこで誰が何の野菜を育てているかが、
ひと目でわかるアプリを
リリースする予定です。
- ──
- ぼくたち、会社のビルの屋上で‥‥つまり、
外苑前で「お米」をつくっていますが‥‥。
- 芹澤
- アプリに登録してもらったら、
みなさんの「外苑前米」も、出てきますよ。
これが、どのようにおもしろいかというと、
まず、わかりやすいところでは、
参加者どうしで「物々交換」ができたり、
仲間どうし、ご近所どうしで
自分の野菜を持ち寄ってパーティしたり、
ワークショップを開催したりできるんです。
- ──
- 売り買いじゃなくて?
- 芹澤
- そう。昔の日本人のように。
また、どんな野菜にも、
必ず「ストーリー」というものがあります。
たとえばミントという名前の由来みたいな
プチトリビアを配信しながら、
ユーザーは、
まるでゲームをプレイしているみたいに、
チャプターをクリアして
ポイントを貯めたりしながら、
楽しく野菜を育てられるシステムなんです。
- ──
- はー。
- 芹澤
- このアプリ上で「いいこと」‥‥つまり、
野菜づくりで
困っている人にアドバイスしたりすると、
「Growth Coin」という
トークン(代替貨幣)が貯まります。
それを野菜のタネと交換できたりします。
そうやって、野菜を中心に
循環する世界の仕組をつくりたいんです。
- ──
-
経済の循環とはまた別のところで。
で、そのために開発してらっしゃるのが、
野菜のアプリと連動する
「ITじかけの、ものすごいプランター」
であると聞いております。
- 芹澤
- はい、そうです。これです。
- ──
- わ、近未来っぽい。まずはデザイン的に。
- 芹澤
- ありがとうございます(笑)。
このプランターは電源を必要としません。
電力はソーラーパネルで賄います。
- ──
- 太陽の恵みで動くとは、野菜と同じだ。
- 芹澤
- この「スマートプランター」には、
「土壌温度計」と「外気温度計」という
ふたつの温度計が、ついています。
- ──
- 土の温度と外気温を、それぞれ測る?
- 芹澤
- ええ。さらに、
GoogleだとかYahoo!で配信されている
「栽培地」の‥‥
つまり港区なら港区の気温を取り込んで、
それら3つの指標から、
いわゆる「積算温度」を自動計算します。
- ──
- 積算温度というのは、
日々の温度の「積み上げ」の総量ですよね。
稲を育てているので、知ってます。
種もみの場合、発芽に必要な積算温度って、
たしか「100度」とかでした。
- 芹澤
- そう、タネが発芽するための積算温度を
AIが自動計算して、
こういった野菜を、このあたりの地域で、
この時期に収穫したい場合には、
このへんまでに種まきして‥‥
と、ナビゲーションしてくれるんです。
つまり「いつから育てはじめたらいいか」
をはじめ、栽培上のポイントを、
アプリケーションが教えてくれるんです。
- ──
- そういうデータを取っておくと、
他にもいろいろいいことありそうですね。
- 芹澤
- ええ、発芽までの積算温度って、
正確には、地域によって違うはずなのに、
これまでは、種苗会社さんでも、
ザックリした目安しかなかったんですよ。
それを地域ごとに細かく計算できるので、
将来的には
「この土地の気候に適応する野菜一覧」
みたいな活用法も考えられます。
- ──
- それは便利‥‥だし、おもしろそう。
- 芹澤
- あるいは、われわれ人類は、
たとえば「バジル」というハーブ野菜が、
その一生涯で、
どれだけ水をインアウトするのか、
一生涯、
どれだけ日光を必要とするのか知らない。
そういうデータも、蓄積されていきます。
- ──
- カメラも付いているから、
遠隔から、状況を把握できるんですよね。
ぼくは、それがすごくいいと思いました。
台風が来てるけど今どんなようすか、
真夏に水稲の水がなくなりそうかどうか、
遠くからでもチェックできるから。
- 芹澤
- 通信機能としては、BluetoothとWi-Fi、
将来的には規格は当然「5G」。
自宅のベランダならWi-Fiで足りますが、
ビルの屋上などには
Wi-Fiの電波は届かないので、
携帯電話を搭載する感じになりますね。
- ──
- はあー‥‥なんともハイテク。
いまのがプランターの話、なんですね。
- 芹澤
- ようするに
夏にみんなでカレーパーティをしようと
計画したら、いつごろから
ジャガイモの種芋を植え付けしたらいいか、
ぼくらのプランターとアプリが
教えてくれる‥‥というものなんですよ。
- ──
- でも、そんなにハイテクなマシンなのに、
肝心の「育てる」ところを担う
プランター部分は、
終戦直後、
芹澤さんのおじいさんが発明した機構を、
そのまま使ってるんですよね。
- 芹澤
- そもそも「プランター」という商品は
60年以上も前に、
ぼくの祖父が発明したものなんです。
で、ぼくらのスマートプランターでは、
祖父の開発した、
水と空気の循環システムを、
そのまま使っているんです。
- ──
- 最新のロボットみたいなプランターに
おじいさんの魂が宿っているようで、
おもしろいなあって思ったんですけど、
その理由って‥‥。
- 芹澤
- 当然、祖父のつくりあげたシステムが、
優秀だからです。
<つづきます>
2018-12-04-TUE
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN