平野レミさんと、和田誠さんのことを話そう。 平野レミさんと、和田誠さんのことを話そう。
イラストレーター、映画監督、
グラフィックデザイナー、そしてエッセイストとして、
さまざまな活躍をした和田誠さんが
2019年10月に逝去されました。

糸井重里もほぼ日も、
和田さんにはとてもお世話になりましたが、
思い出を大きく語ることをしませんでした。
ご家族をはじめまわりのみなさんもほとんど、
そうしていたのではないかと思います。

あんなに偉大な仕事を数多くのこし、
憧れている人も感謝している人も山ほどいるのに、
みんなを大袈裟にさせない「和田さん」って
いったいどんな人だったの? 

いま、たっぷり話したいと思います。
平野レミさんといっしょに、和田誠さんのことを。
第1回 好きだと描けないんだ。
レミ
今日は糸井さんにお会いするんで、
家にあったものを
いっぱい持ってきました。
糸井
うわぁ‥‥なんだろうこれ(笑)。
「デンワの声がでか過ぎてうるさい!
先方が耳を痛くするよ」
写真
レミ
私が電話で、
でっかい声でしゃべってるでしょ? 
すると和田さんが横でこれを
チャッチャッチャッチャって書いて、
ほらほらほらって、見せにくるの。
糸井
伝言を、この文字で。
レミ
和田さんって、いつも袋文字なんですよ。
糸井
そういう傾向があるのは知ってましたけど(笑)、
ご家庭内のメモまでねぇ。
レミ
みんなみんなチャッチャッチャッと、袋文字です。
ああ、これこれ、
「灯台もと暗し」って、私、知らなかったの。
灯台のもとで暮らしてる人のことかと思ってた。
真っ暗な中で暮らしてるから、
大切なことを見落としちゃうって。
そしたら、そうじゃないよって、
これもチャッチャッチャッと書いてくれた。
一同
(笑)
レミ
こっちも私が電話で誰かと話してるときに、
和田さんが書いたメモです。
「旦那が映画監督までやってるのに、
奥さんは映画に興味ないの?」
ってもし言われたら、
私はブログもツイッターもやってるのに、
夫はパソコン関係に興味がないの、
そんなことでバランスが取れてるのよ、と
言ったらいいよって。



私が電話してたら和田さんがスニーカーのまま
家のなかに戻ってきて、このメモ渡して、
そのまま手を振って会社に出かけていくのね。
写真
糸井
事実は小説よりおもしろいですね(笑)。
レミ
私が魚へんの漢字を何も知らなかったら
和田さんが書いて教えてくれたり、
さつまいもは栗よりうまい十三里半とか、
買わずに帰るとも冷やかし歓迎とか、
知らない言いまわしを
なんでも書いて教えてくれるの。



私ね、なんにも知らないから、
みんな和田さんに教えてもらった。
もうほんとに、
みーんな教えてもらった、
いろんなことをね。
糸井
教えてもらったことは憶えるんですか?
レミ
あっはっは、いや、
憶えなくちゃいけないんですけどね、
ほんとはね。
いまも「なつかしい、なつかしい」で終わっちゃう。
糸井
はぁーー。
レミ
これはね、私が寝てたりなんかして
朝起きてこないとき、
玄関のところに書き置いて出かけるの。
糸井
今晩のメシをどこで食うかというのを
書いてくれるわけね。
よく寝たほうがいいので起こさなかった、
なるほど。
こっちは、原稿ですか?
写真
レミ
それが、よくわからないんです。
どこかに載せようと思ってたけど、
結局載っけなかったんじゃないかしら。
生原稿のまんまうちに置いてあった。
ほっぽらかしです。
糸井
和田さんはこういうものを、
ノートにまとめて書いたりはしてなかったんですか。
ぜんぶ書き散らかし?
レミ
もうぜんぶぜんぶ、
ぜんぶこうです、みんなこうです。
ぜーんぶ裏紙。
糸井
コピー用紙やチラシの裏紙。
レミ
こういうのがうちに
まだまだいっぱいあるんです。
最初は捨ててたんだけど、
あんまりにもおっかしいから、
取っておくようになっちゃったんです。
糸井
和田さんがなんでもなく書く文字って、
ぼくら、はじめて見ます。
レミ
あ、そうですか? 
糸井
イラストの原稿にしてる描き文字は見てたけど、
レミさんに宛てた字は、なんでもなく書いてる。
汚いわけじゃないんだけど、
ほかの誰も見てないや、と思ってる和田さんの字は、
生まれてはじめて見たかもしれない。
つまり、本番じゃない雑さがあって‥‥。
レミ
ほんと? 
はっはっはっは。
糸井
‥‥こういう人だった、って、
よくわかるなぁ。いやぁ、すごい。



このセーターはなんですか? 
和田さんの絵をもとにしたセーター?
誰が作ったんですか?
写真
レミ
私にプレゼントするために。
糸井
レミさんに、和田さんが。
レミ
セーター屋さんに図案を持ってって
作ってもらったのかなぁ、プレゼント。
セーターもまだまだいーっぱい、
もっともっともっと、うちにありますよ。
糸井
これ、世の中にひとつしかない、
一点ものなわけですよね。
写真
レミ
そうそう。ほかにも、
口紅の容器になったお手製のお人形さんとか、
和田さんからのプレゼントはたくさんあって。
写真
糸井
それは、お誕生日にもらうんですか?
レミ
誕生日とかなんとかだと思うけど、
憶えてないのよ。
お誕生日とかクリスマスとか結婚記念日とか、
絶対くれちゃうんですよ。
糸井
くれちゃうんですか。
レミ
そう。
どんどんくれちゃうの。
糸井
この似顔絵も、くれちゃったんですか?
写真
レミ
これはね、和田さんと結婚したとき‥‥
まだ文春じゃなくて、
週刊サンケイで似顔絵を描いてたのかな? 
糸井
週刊サンケイでは似顔絵の表紙でしたね。
レミ
まだ文春じゃなかったの。
週刊誌で人の似顔絵を描いてたから、
「私にも描いてよ」って言ってみたんです。
そしたら描いてくれた。
これね、笑っちゃうんだけど、
和田さんのタッチと、ぜんっぜん、
ちがうんですよ。
糸井
そうですよね。
これ、つまり「描けてない」ですね。
えー、びっくり。
レミ
好きだと描けなくて、
こうなっちゃうんだよ、って。
糸井
「和田誠」じゃないですね、これ。
好きだと描けないんだ、って?
レミ
そうなの。
こっちのCDも見てください。
「私の旅」というCDなんだけど、
和田さんが選曲して、
和田さんがぜーんぶ詩を書いてくれて、
しかも韻を踏んでるの。



映画の「第三の男」の中に登場する
カフェ・モーツァルト・ワルツという曲があって、
全世界で誰も詩をつけてる人がいなかったんだって。
「俺が詩を書くからね」って、歌にしてくれた。
それがもう、すっごくいい歌になったんです。



こっちの「きかせてよ」は、
篠山紀信さんが写真を撮ってくれて、
奇跡的にキレイに撮れちゃったんですけど、
これも和田さんが何から何まで
コーディネートしてくれたんですよ。
だから私は、ぜんぶ、夫なんです。
夫が縁の下の力持ちです。
糸井
文楽みたいだ(笑)。
レミ
そう。私、あやつられてたんですよね。
本もそう。いくつか私も本を出してますけど、
出版社から注文があって、書くじゃない?
それを和田さんがぜんぶ直してくれちゃってね。
いま出てるいい本5冊、
それはみんな和田さんが
書いてくれたようなものなんです。



みんな直してくれる。
そうするとすごくよくなっちゃうの。
ガラッとよくなっちゃってね。
私がいまいるのはね、
ぜーんぶ和田さんのおかげなんです。
写真
(明日につづきます)
2020-09-01-TUE
和田誠さんの「ほぼ日手帳2021」
2021年のほぼ日手帳のラインナップには
和田誠さんのイラストレーションをデザインした
カバー「時を超える鳥」と
weeks「星座を抱いて」が仲間入りしています。



「時を超える鳥」は、
和田さんが1977年より描きつづけている
「週刊文春」の表紙絵の第1作。
コンセプトは「表紙は読者へのおたより」です。
写真
「星座を抱いて」は、
2002年11月7日号の表紙絵。
和田さんが400年前の星座図を参考に
描いたものだそうです。
写真
和田誠さんのほぼ日手帳について、
くわしくは「ほぼ日手帳2021」のページ
ごらんください。

また、40年以上にわたって描かれている
「週刊文春」の表紙絵の初期作品をあつめた画集
『特別飛行便』も、ほぼ日ストアで販売しています。
※『特別飛行便』は完売いたしまして、再販売はございません。
(9月2日追記)
和田誠さんの
メッセージカードが届きます。
このコンテンツへの感想や、
和田さん、レミさんにむけたメッセージを
ぜひ「往復はがき」でお寄せください。
返信はがきに和田誠さんのスタンプ
(生前にご自身で作られたものと、
今回のために和田さんのイラストレーションで
和田さんのご家族とほぼ日が作成したもの、
ふたつのスタンプを捺します)
の返信はがきをお送りいたします。
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※往復はがきとは、
往信と返信がつながったはがきです。
必ず「往信」と「返信」の両方の宛先をご記入ください。
返信の宛先が未記入の場合、
スタンプを捺したはがきはお手もとに返ってきません。
ポストに投函するときには、
往信の宛名が外側になるようにふたつ折りにしてください。
往信はがきの裏面には、ぜひコンテンツの感想や
和田さん、レミさんへのメッセージをお書きください。
<ご注意>返信はがきの裏面には何も書かないでください。



※いただいたはがきの内容は、
平野レミさん、ご家族、ほぼ日が拝見します。
ほぼ日刊イトイ新聞で内容を公開することがあります。
返信はがきに記載された個人情報は、
はがきを返信するためにのみ使用します。



※返信はなるべくはやめに
お出しするようにいたしますが、
みなさまからいただく数によっては
時間をいただくことがあります。
また、郵便事情等による不配につきましては、
責任を負うことはできかねます。
どうぞご了承ください。
往信の宛先:

107-0061

東京都港区北青山2-9-5-9階

株式会社ほぼ日

平野レミ様



返信の宛先:

ご自身の住所、お名前



締め切り:

2020年10月7日消印有効