糸井 | 今おふたりにおっしゃっていただいてわかった 「ごわごわがうれしい」と思う気持ち、 ぼくら全然忘れてました。 ごわごわはよくないことと決めつけてたのは、 ちょっと違っていましたね。 こういうことって、 勝ち抜き戦をしちゃ、いけなくて、 ごわごわお好きだったらそれでいいし、 っていうふうに考えていかないと。 例えばぼく、年いってますから、 背中に粗塩を塗ってこすってもらうと ポカポカしてすごい気持ちいいっていう 経験があるんですね。 今はしてませんけど、 子供の時からけっこうしてて。 それって痛いし、ヒリヒリするんだけど、 そこで生まれ変わったような 気持ちよさがあるじゃないですか。 |
大橋 | ああ! |
糸井 | それがおふたりがおっしゃる タオルの「ごわごわ」ですよね。 あるいは、お風呂上がる前に、 冬でも足先から水かけると湯冷めしないとか、 ああいう清浄感のなかに 生まれ変わるなにかを見るというのは 非常に日本人的な感じがしますね。 |
大橋 | うんうん。 |
伊藤 | (笑) |
ほぼ日 | もともと手ぬぐいの人たちですからね、日本。 |
糸井 | そうそうそう。手ぬぐいもそう。 ギュッと絞ってね。 |
大橋 | うんうんうん。 |
ほぼ日 | 乾布摩擦なんてしてましたものね。 そういえばフィンランドに行った時、 寒中水泳とかサウナとか、 入ったときに借りるタオルが とっても硬いんです。 分厚くて、ごわごわ。重い。 マリメッコのタオルでも、そうなんです。 そんなか「やさしいタオル」を フィンランドにお土産に持ってったら、 あまりに軽くてやわらかいので、 「これはベビー用だね」って。 |
糸井 | なるほど(笑)。 |
ほぼ日 | 自分はあのごわごわより、 こっちがいいに決まってる、 って信じてたんですが、 今思うと、100度を越えるサウナに入って、 0度の氷水に入って出てきたフィンランド人には、 「やさしいタオル」じゃ 物足りないだろうと思います(笑)。 |
伊藤 | やさしすぎる。 |
ほぼ日 | はい、やさしすぎる。 ヨーロッパは硬水の土地が多いので、 柔らかいタオルもバリバリになる。 だったらバリバリになって気持ちいい、 ってことを前提に タオルを作ってきたかもしれないですよね。 柔らかいってことを楽しめるのは、 日本に住んでいるからかもしれません。 |
大橋 | なるほど。 |
伊藤 | すごい納得。 じつは今日にあたって周りの編集の女子に いろいろ聞いたんですけれど、 やっぱりホテルの業務用のようなものに 憧れた時期があったと。 大手出版社の月刊誌編集部につとめる 31歳の女性なんですけど、 そういうタオルを揃えたんですって。 けれど、じっさいに使ってみたら、 干す場所も取るし、 洗濯にもかさばり過ぎていやだって言うんですよ。 使い心地だけじゃなくて、 使わないときのことも考えるんですね。 彼女、今はMAROBAYAさんの 薄いタオルを使ってるっておっしゃってました。 |
糸井 | なるほど。 |
伊藤 | で、もう1人の人は、 普段は無印良品のタオルを使ってるんだけど、 温泉に行く時は薄いガーゼみたいな タオルを使っている。 けれどタオルにはあまりこだわってなくて、 実家に行くとキティちゃんの もう20年ぐらい使ってるボロボロのが出てきて、 「それがうれしいって思うんです」 っていう人もいました(笑)。 私は白くてバリバリしてることばっかり考えて タオル選びをしてたんですけど、 そうじゃない、 しまう場所がかさばるからいやだとか、 そういうことを考えて 選んでる人とかもわりといて、 面白いなあと思って。 |
大橋 | へぇー。 |
糸井 | 面白いね。 |
伊藤 | 性格にもよるのかなと思ったんですけど。 |
糸井 | ちょうど重なる話があって──。 ぼくは自分の乗るクルマのこと、 ぐるぐる考えて、 いろんなクルマに乗ってきた結果、 いまはフォルクスワーゲンの ゴルフにしたんです。 つまりそれは、クルマについて考えるのを、 全部やめたってことなんですよ、 |
伊藤 | へぇー? |
糸井 | もうクルマのことは、 本当にどうでもいいって心から思った。 そこには「ゴルフでいいや」っていう気持ちと、 「ここまで来たゴルフは偉い」 っていう気持ちがあるんです。 ゴルフって今ベストセラーなんですね。 とんでもなく売れてるんですよ。 |
大橋 | そうなんだ! |
糸井 | クルマを買う時ってね、 走ってる時、とくに高速走ってる時の気分で 選んできたんですよ。 だけど、実際は車庫に入れたり、 狭い通路からぐるっと回ってきたり、 あるいは変な駐車場でいやな場所しか 空いてないとかって時を全部考えると、 どんどん自分が そっちを大事にするようになっちゃった。 で、京都で乗るクルマをゴルフにしたんです。 それは道が狭いからそうしたんですけど、 東京でもこれでいい、って 思っちゃったんですよ。 いまゴルフが売れているってことは、 みんなそういう気分なんだろうな、 と思うんですね。 つまりね、 「使ってる時以外のことを考える」 っていうのは、今の特徴じゃないかなって。 タオルなら、洗濯でどうする、 しまうでどうする、 干すでどうするみたいな、 そういう総合点でみんな選んでるなあって。 |
伊藤 | そうなんです。みんな、 洗う時に洗濯槽の中に バスタオルは2枚ぐらいしか入らないとか、 しっかりいろんなことを考えてる。 |
大橋 | まあ。 |
伊藤 | 編集者だからかなあ? とか(笑)、 思ったんですけど。 |
糸井 | てことは伊藤さんは、 洗濯機の中にあまり入らなくても、 回数やればいいやって、 自分を鍛えちゃったってことですよね。 |
伊藤 | なるほど、そうですね。 |
糸井 | スーパーマリオ型ですね。 つまり‥‥またわかんない話をしてすみません。 ドラクエ型とマリオ型があるんです。 |
伊藤 | (笑)わかんない。 |
糸井 | ドラクエ型って、 「君はこれだけできるようになったから、 レベルが1個上がったよ」とか 「またこれだけ貯金をしたから、上がったよ」 っていう成長のしかたをするんですけど、 マリオにはレベルなんかないんです。 ゲームの中のマリオが成長するんじゃなくて、 マリオを動かしている自分が 上手になるってことなんです。 |
大橋 | うんうんうん。 |
糸井 | だから、洗濯機で不便でも、 自分が2回やればいいじゃない、 っていうのがマリオ。 自分をセットで考えるんですよね。 だから、ものぐさじゃない人は 不便なものを平気で使えるし、 カッコよければ重くても持つし。 |
大橋 | ああ、言えてます(笑)。 わたしもそうです。 |
糸井 | でも「こんな重いの持てない」というのが 今なんだと思うんです。 面倒くさがりじゃないんだ、 2人とも多分。 |
伊藤 | すごい発見が(笑)。 |
「使ってる時以外のことを考える」こと、 ものをつくっているなかで、 うっかり忘れがちなんですよね。 それこそ「使い手」の声なのに。 なんだかいろんなことがわかってきたところで 次回につづきます! |