その
1
なぜ前田有紀さんが花屋を?
1
- ――
- よろしくお願いします。
このお店、素敵ですね。
お花屋さんなのに、
すごく立派なガーデンもあって‥‥。
- 前田
- はい。私もお気に入りの場所です。
ここで3年間働かせていただいてました。
- ――
- 「生活のたのしみ展」では
前田さんが店長を務める
「世界の花屋」がオープンしますけど、
きっかけになったのは、
前田さんが弊社に送ってくださった
「何かお花のことでご一緒できれば」という
メールなんですよね。
- 前田
- はい。
私、アナウンサー時代から、
ほぼ日さんのサイトをよく拝見していたんです。
- ――
- なんと。ありがとうございます。
- 前田
- 職場の先輩から
「すごくおもしろいサイトがあるよ」って
勧めてもらったんです。
それで読みはじめたんですが、読むたびに
心が軽くなったり癒されたりしていました。
とくに東日本大震災の直後、
被災地の方に寄り添う発信をされている
ほぼ日さんの記事や、
糸井さんのツイッターを見て、
「テレビのようなメディアじゃないからこそ
できることがあるんだなぁ」
と驚きましたし、それをきっかけに、
自分自身も人生を見つめ直して、
「本当にやりたいことを
悔いなくできる日々を送りたい」
と思うようになりまして。
- ――
- そうだったんですね。
- 前田
- 私がこうして自分の道を歩んでいるのも、
少なからずほぼ日さんの影響があるんです。
転職して5年で、まだまだ駆け出しなのですが、
何かご一緒できないかなと思いまして、
恐れ多くもメールをしてしまった‥‥という感じです。
- ――
- ちょっとびっくりしました。
弊社が前田さんのいまの活動をはじめる
きっかけのひとつになったなんて。
- 前田
- 私だけじゃなく、
きっと、いろんな人の背中を押している
サイトなんじゃないかなと思います。
- ――
- さきほどおっしゃった
「本当にやりたいこと」というのが、
前田さんにとっては
お花を扱うことだった、ということでしょうか。
- 前田
- はい。もともと花と緑が大好きで、
自然に関わる仕事がしたいという夢があったんです。
高校生のときにモンゴルに行ったり、
大学生のときも
大自然を求めて旅に出たりしていました。
いつか自然と関わる仕事をしたいと思いながらも、
実際はテレビ局で仕事をするようになって‥‥。
真逆の暮らしですよね。
- ――
- 自然の中じゃなく、
スタジオの中ですもんね。
- 前田
- しかも時間帯も、
深夜だったり早朝だったりバラバラで。
職場は六本木だったので、その近くに住んで、
自然とかけ離れた都会の暮らしをしていました。
もちろん、アナウンサーも
自分がなりたくて選んだ職業なので、
たのしく働いてはいたんですけども、
大変なことも多くて、そんなとき、
部屋に飾った花やベランダで
育てている植物に救われていたんです。
「やっぱり花とか自然を
自分は恋しいと思っているから、
それに関わる仕事をして人生を変えてみたいなぁ」
と思うようになっていって‥‥。
- ――
- かなりの決断だったのではないですか?
アナウンサーのお仕事も
長く続けてこられましたよね。
- 前田
- そうですね。
アナウンサーは10年続けました。
でも、やっぱり、
人生は一度きりしかないし、
仕事で出会った一流のアスリートや
社会で活躍している方々のお話をうかがっていると、
「みなさん好きなことを仕事にして輝いてるな」
ということを感じていて、
「自分も一番好きな植物のことを仕事にできたら、
どれだけ人生がたのしいだろうか」
と思ったら、その好奇心を形にしてみたくなって、
考えだしたら止まらなくなったんです。
だから大きな決断をした、というよりは
「なんかもう止まらなかった」
という感じでしたね。
- ――
- 勢いがあったんですね。
- 前田
- はい。勢いだけでここまで来ました(笑)。
- ――
- 不安はなかったんですか?
- 前田
- もちろんありました。
辞めると決める前は、
安定した会社員でいたのに、
そこから外れて人生大丈夫なのかな‥‥とか、
普通思いますよね。
でも、不安よりもチャレンジしてみたい気持ちが
上回ったんです。
職場でも、
「こういうことをしたくて辞めようと思う」
ということを、一人一人に伝えたんですけど、
みんな「応援するよ」と言ってくれて、
背中を押してもらえました。
それで、すっぱり辞めてからは
花に関するありとあらゆることを勉強したくて、
まずイギリスに渡りました。
- ――
- なぜイギリスを選ばれたんですか?
- 前田
- お花だけでなく庭のことも勉強したかったので、
イギリスに行けば、花も庭のことも
両方学べると思ったんです。
最初は語学学校に通いながら
ロンドンのフラワースクールで勉強して、
最後は郊外のコッツウォルズというところで
有名な庭師の方について、
庭や花の管理の仕方を学びながら働いていました。
- 前田
- そして帰国した後は、
ここの「ブリキのジョーロ」さんで
働かせていただくことになりまして。
- ――
- このお店の方とは、
お知り合いだったんですか?
- 前田
- いえいえ、全く。
スタッフ募集のページをみて、
「履歴書を持っていっていいですか?」
と申し込みをしたんです。
- ――
- え!
知り合いがいたわけではなく、
前田さんが普通に履歴書を書いて‥‥。
- 前田
- (お店のオーナーさんにむかって)
ね、そうでしたよね?
- オーナーさん
- そう、そう。
- 前田
- ここは花屋さんですけど、
庭もあるので、
自分がイギリスで勉強したことを
実現してくれるような場所だなと思っていたんです。
それで履歴書をにぎりしめて、
緊張しながら面接を受けにきました。
- ――
- オーナーさんにも
少しお話をうかがいたいんですけど、
そのとき前田さんのことは、
ご存知だったんですか?
- オーナーさん
- 全然知らなかったです。
はじめに電話があったんですよ。
すっごく元気な声だったから、
「今まで何の仕事やってたの?」と聞いたら、
たしか「テレ朝」って言ったんだっけ?
- 前田
- はい。
「テレビ朝日で働いてました」って。
- オーナーさん
- だから「ああ、ADさんか何かだったのかな」と‥‥。
- ――
- (笑)
- オーナーさん
- それで、面接の日、
入口近くに置いてあった植物を
ジーッと真剣に見ている子がいて、
その姿を見て私、
「ああ、面接に来る子が
こういう子だったらいいのにな」と思ったんです。
そしたら、その本人が目の前に来て、
「面接受けたいんですけど」と言うから、
思わず「やった!」って言っちゃって。
- 前田
- で、面接がはじまったんですけど、
座って1分ほど話したところで、
「あなた、採用! 明日から来てね」と。
- ――
- すごい。
即決だったんですね。
- オーナーさん
- そうそうそう。
ただ、そのときはまだ気づいていなくて、
「なんかこの子、どっかで見たことあるような‥‥」
- ――
- 見たことある(笑)。
- 前田
- あまりにも早い展開に
私も驚きましたけど、
ここで働かせてもらえることになって、
うれしかったです。
(つづきます)
2017-11-06 MON
取材協力:自由が丘 ブリキのジョーロ