生活のたのしみ展

岡本太郎のくらし なぜTAROは生活を芸術にしたのか?

芸術家、岡本太郎(1911-1996)は、
絵画や彫刻などの芸術作品だけでなく、
「椅子」「コップ」「水差し」など
さまざまな日用品の製作も手がけ、
ウイスキーを買うと付いてくる「おまけ」まで作りました。
「芸術作品の価値を下げるからやめたほうがいい」
という周囲からの反対を押し切ってまでやった、
岡本太郎の考えとはいったいなんだったのでしょうか?
そして『坐ることを拒否する椅子』は
なぜ坐ることを拒否しているのでしょうか?
岡本太郎記念館館長の平野暁臣さんにお話をうかがい、
TAROの考えた「くらし」に近づくことにします。

生活のたのしみ展の「岡本太郎のくらしの店」に
『坐ることを拒否する椅子』がやってきます。
(もちろん購入もできます! 先着順)
そのほか「岡本太郎のくらし」をテーマにした
かわいいグッズがたくさんならびます。
くわしくは「生活のたのしみ展」のページ
をごらんください。

第2回
なぜ「坐ることを拒否」するの?なぜ「坐ることを拒否」するの?

──
今回「生活のたのしみ展」に
岡本太郎さんの椅子がたくさんやってくるのですが
それらもすべて、太郎さんの
「芸術はくらしの中でこそ活きる」という考えで
作られたものでしょうか。
平野
そのとおりです。
でも、そこには岡本太郎の問題意識や価値観、
美意識が織り込まれています。
『坐ることを拒否する椅子』にしても、
岡本太郎の生活観が入っているわけです。
──
生活観‥‥。
平野
生活に臨む態度のことです。
それは、椅子が単にプロダクトデザインとして
機能的に優れているかどうかというところとは
次元の違う思想です。

太郎にとって生活は、
芸術であると同時に闘いです。
ただ快適でズルズルするような生き方は、違う。
「それでは生きがいがないじゃないか」
と言うでしょう。
いかに人間らしく生きるかが、
岡本太郎の生活のテーマです。
だから『坐ることを拒否する椅子』のようなものを
社会に送り込んだわけですよ。
──
今回、特別に『坐ることを拒否する椅子』が
販売されますね。
平野
『坐ることを拒否する椅子』は1963年の作品で、
信楽で焼かれた陶製です。
焼きものというマルチプルの製法で
つくられたものですから、
太郎が元気だった頃は
縁のあった方々にお分けしていたようです。
でも、少なくともここ20年は販売していません。
数に限りがありますからね。
今回は「生活のたのしみ展」という
特別なテーマをもったイベントなので、
思い切って出すことにしました。
とはいっても3脚だけですが‥‥。
──
『坐ることを拒否する椅子』は、
その名のとおり、とても座りにくそうです。
平野
岡本太郎にとって椅子とは、
山の中を歩いているときにちょっと腰掛けて休憩する
切り株のようなもの。

世の中には、座り心地のいいモダンデザインの椅子が
あふれていますが、
病気の人やお年寄りがそれを使うべきだと
太郎は言いました。
何かに向かっていきいきと
取り組もうとしているときには、
そんな座り心地のいい椅子に落ち着いているようじゃ
ダメだろうというわけです。

人間は休むことが必要です。
ちょっと腰を下ろすことも、あるべきです。
でも、その程度じゃなきゃいけない。
むしろそういう生き方をしている人たちは、
切り株のような椅子のほうが心地がいいだろうし、
そういうものこそ必要とされているはずだ、と
太郎は考えていました。
芸術は特別なものではないけれども、
生活の中にこういうものが入っていくべきだと
思っていたのです。
──
太郎さんは、フィルムカメラを持って、
全国各地でごくふつうの人たちのくらしを
撮影していましたよね。
当時の写真家があまり残さなかった、
ほんとうに「ふつうの人たち」が
そこには写っていました。
平野
別に「ふつうの人たち」を撮ろうと
決めて撮っていたわけじゃないんです。
あらかじめテーマがあったわけでもないし、
そもそも写真という「作品」を残そうなんていう気も
毛頭ありませんでした。
実際、紀行文に添えられたものを除いては、
生前はいっさい人に見せていません。
あれは、岡本太郎のまばたきと同じなんですよ。
眼の前に現れた何かに吸い寄せられていって、
「おお!」と思った瞬間に、シャッターを押しただけ。
「太郎が見たもの」を
そのまんま切り取っただけなんです。

なまはげのお面をはずしてホッとしている人の顔なんて
プロの写真家は撮りません。
作品になりませんからね。
『岡本太郎の東北』の最初にあるのは、
秋田の駅で降り立ったときにホームにいた
お姉さんです。ほんとうにふつうの人ですよ。
だけど太郎は列車から降りた瞬間に、
「おお!」と思ったからシャッターを切った。
──
なぜ「おお!」と思ったんでしょう。
平野
それはもちろん興味を持ったからで、
なぜ興味を持ったかというと、
おそらくお姉さんのなかに「原始日本」を
見たからでしょう。
探し続けていた「ほんとうの日本」の片鱗を
見たように感じた。
早朝の秋田駅という生きた生活のなかに
縄文精神の片影を見たんですよ。
──
ちょっと意外なことですが‥‥
岡本太郎さんは「生活のたのしみ」という言葉に
ぴったりな人ですね。
岡本太郎さんにとって
生きがいのある生活というのは
どういうものだったのでしょうか。
平野
自然との闘争のなかで生きた
狩猟時代の生き方でしょうか。
なにしろ人間工学的によくできている椅子は
人間をダメにすると
言っているくらいですからね(笑)。
「坐ることを拒否する」ようなもの、
そうした思想を大衆生活に打ち込むことが、
太郎にとっての芸術でした。
──
大衆の中に太郎さんの価値観を打ち込んで、
みんなに「わぁ、なんだろう」と
思ってもらうことがアートだったということですね。
平野
飼い慣らされてひ弱になった日本人の精神を
叩き直そうとしていたんじゃないかと思いますね。
「おまえの血の中には、
狩猟時代の縄文の心がまだ残っているんだから、
それを思い起こせ」
という感じかな。
──
岡本太郎さんが縄文に惹かれたのは、
若いときにソルボンヌ大学で
民族学を学ばれたことが大きいですよね。
平野
それはもう確実にそうだと思います。
民族学を学ぼうとしたきっかけは、
エッフェル塔の脇にあった
人類博物館(ミュゼ・ド・ロム)でたまたま観た
民族資料でした。
ピカソがアフリカ原始美術に出会ったのも、
このミュージアムの前身だった
トロカデロ民族学博物館です。

太郎はまず、目の前にあるものが
「美術品ではない」ことに
たいへん感動しました。
美術的な価値を目指してつくったものでも、
売るためにつくったものでもなく、
庶民が生活のために、──まぁそれは、
祭事や神事の特別な日に使うものだけど──、
自ら風習の中で使うために、
必要で作ったものだったのです。

当時、太郎は、
抽象とシュルレアリスムの派閥争いみたいなことに
少々うんざりしていました。
そんなときに博物館で
まったく違う地平にあるものと出会い、
「これだ!」と思ったんです。
狭い「美術」から解放されたように
感じたんじゃないかな。
──
飾るためじゃなくて生活のためにあるもの。
平野
そう。
しかもすごい迫力があって、
生々しくて、生活実感があった。
こうして太郎は、「美術品」ではなく
「くらしのなかにあるもの」を
目指すようになったんです。

(つづきます)

2017-11-09 THU

岡本太郎さんが考えたくらしを、
みなさんにたのしんでいただくお店です。
岡本太郎さんが作った「くらしのもの」のうち、
数種類の椅子が店に並びます。

「坐ることを拒否する椅子」(赤、青、緑)

特別販売品です。
各1,620,000円(送料別)

彩りイス

一般販売されているものですが、
展示品で中古につき、特別価格です。
紐10色つきで64,800円(送料別)

めばえ

復刻販売されているものですが、
展示品のため各色1点かぎりの特別価格です。
(赤、青、黄、黒)
各54,000円(送料別)

サイコロ椅子

復刻販売されているものです。
「生活のたのしみ展」店頭で
予約を受けた数を生産し、
お手もとへお送りします。
37,800円(送料込み)

特に『坐ることを拒否する椅子』は、
ほとんど販売される機会がないものです。
岡本太郎作品にご興味のある方は、
開催中お早めに六本木までお越しください。
「サイコロ椅子」以外のものはすべて
先着順で販売いたします。
そのほか『太陽の塔』や『坐ることを拒否する椅子』を
モチーフにしたかわいいグッズもたくさんならびます。

ここだけの
オリジナルグッズを紹介します。

「生活のたのしみ展」のために
岡本太郎記念館とのコラボレーションで作った
オリジナルグッズがあります。

坐ることを拒否する椅子のボタン6個セット

既製品のシャツのボタンホールの大きさに
合わせて作りました。
全部並べてつけても、ひとつだけつけてもかわいい。
¥1,620

森の掟のポーチ 

岡本太郎さんが1950年に描いた著名な作品
『森の掟』の絵のポーチです。
作品に描かれたジッパーが
リアルでジッパーになっています。
ポーチ部分にはメイク道具やカードを入れて、
ジップポケットにはイヤホンやピアスなどを入れて、
『森の掟』を持ち歩いてください。
¥3,024

坐ることを拒否する椅子のピアス

ボタンと同じデザインのピアスです。
組み合わせをいくつか選べます。
¥1,620

坐ることを拒否する椅子のイヤホン

耳からちらっと見えるととてもクールです。
¥3,024

岡本太郎さんの「みんなが芸術」の思いを
なるべく実現できるように作ったお店です。
ぜひお立ち寄りください。
「生活のたのしみ展」のWEBストアで
販売するグッズも一部あります。
会場には、岡本太郎さん等身大の人形がいます。
リアルサイズの太郎さんと、
ぜひツーショットで写真を撮っていってください。