糸井 自分で決めたことを、
決意をもってやることはできる。
しかし、それが続くかどうかは別です。

そのカギが、ぼくはあると思っています。
それはね、たのしいかどうかなんですよ。
平野 ああ‥‥そうかもしれない。
糸井 ノブレス・オブリージュの
決意についてまでは語れるんだけど、
そこからの脳の中は想像できません。
でも、ぼくは思うんですが、
そうしてやってきた人たちって
絶対うれしかったと思います。
平野 もしかして、快感?
糸井 そう、快感。
平野 ああ、でもぼくには、
そこ、ちょっとわかんないなぁ。
それがわかんないから、
やっぱりぼくは岡本太郎にはなれないなぁ。
糸井 そうですよねぇ。
でもね、あるとき、
なっちゃうんですよ、きっと。
なるときがある。
それは、呼ばれるんですよ。
平野 うーん、そうなのか‥‥。
糸井 震災で傷ついているのに、
立ち上がろうとしている
企業の人たちがすごく元気なんです。

まわりの人が亡くなっていて、
何もかも失っている。
でも、例えばもとの工場で
少しでも出荷できたとき、
会社のほんの一部を再建できたとき、
従業員に給料を払えるとき、
それはもう、うれしそうな笑顔を見せる。

結局、たのしいからやってるんです。
そして、そこまでいってる人は、
協力しない人に対して怒らないんですよ。
平野 怒らないし、バカにしないんですね、きっと。
糸井 そう。太郎さんと同じです。
半端に我慢してやってる人は
「どうしてやんないの?」
と怒るんです。

たのしんでできてることと、
固唾をのんでやってることとの違いは
あります。
そこをぼくは最近よく見るようにしてるんです。
そうすると、
たのしくやってることは意外にある、
ということに気づきはじめたんですよ。
平野 それじゃ、やっぱり
生まれつきの才能っていうわけじゃないですね。
糸井 そうじゃない。
経験でしょう。
平野 うん、なるほど。
糸井 やってるうちに気づくんですよ。
「俺、これ、好きだ」と。
例えばいま‥‥ぼくは、ここで
こんなに一所懸命しゃべる必要は
ないですよね(笑)。
平野 ははは。
糸井 だけど、ものすごく
一所懸命しゃべってます。
たのしいんですね、ぼくも(笑)。
そう考えると、
岡本太郎はたのしかったと思う。
平野 うん。
じゃあ、もしかして‥‥
糸井 うん、うん。
平野 きっと岡本敏子も同じですよ。

敏子はいつも太郎のそばにいて、
太郎にアドレナリンを出させていた。
糸井 なにしろ死んでからも生き返らせたからね。
平野 いま、敏子の生き方に共感する若い女性が
増えているみたいなんですよ。
で、彼女たちがどう見ているかというと、
「愛に生き、愛に殉じた女性」とか
「ひとりの芸術家を支え続けた純愛と献身」
みたいなイメージです。
もちろん、そうじゃないとは言いません。
敏子が太郎に惚れ抜いていたのは間違いない。
糸井 その要素はある。
平野 もちろん。
死ぬまで太郎のことしか考えていなかったし、
「太郎に惚れない女はいない」って
言ってたくらいですからね。
だけど、恋愛感情だけで、
あんなふうに、やれたはずがない。
そもそも敏子は太郎を支えたんじゃない、
活かしたんです。
糸井 うん。
平野 じゃあ、なにが敏子をそうさせたのか。
ぼくは岡本芸術に対する絶対的な信頼感、
言いかえれば「帰依」だったと思っているんです。
人間・岡本太郎だけでなく、
彼の生み出す思想や価値観や美意識に
理屈じゃなく肉体や生理のレベルで共振した。
だから岡本芸術の伝道が自分の使命だと考え、
じっさい自然のうちに「太郎巫女」になった。
そう考えていたんです。
でもそれだけじゃなかった。
糸井さんの話を聞いて、よくわかりました。
けっきょく、たのしかったんですよ。
おもしろかったんだ。
ぜったいそうだ。
糸井 わははは。
「こんなおもしろいめずらしいものと
 わたしは一緒にいられて、
 ああー、たのしい!」
平野 そう、そう(笑)。
糸井 つまんないはずないですよね。
平野 太郎も敏子も
お互いに、すごくたのしかったんだろうなぁ。
糸井 うん。だからぼくは、自由という言葉が
すべての原点だと思っています。
自由に選択した彼らの道は、つまり
たのしかったからでしょう。

そしてゆくゆくは自分も
自由の邪魔になることが
もちろんわかっていた。
「法隆寺は焼けてけっこう」と言ったし
きっと「岡本太郎を忘れろ」とも言ったでしょう。
そのうえで、たのしくてしょうがないというのは、
最高のユートピアだなぁ、と思います。

うまくいっている場所って
絶対にそうですよね。
俺のわがままがおまえのわがままを支えてる、
というような状態。
平野 エゴが相手をクリエイティブに刺激するという
感じですよね。
敏子は太郎のわがままに手を焼きながらも
その刺激がうれしかったし、たのしかった。
一方の太郎は、振り向けばいつも敏子がいたから、
ぞんぶんにわがままが言えた。
糸井 うん。
平野 でも敏子は、振り向いても
誰もいなかったわけですよね。
そう考えると、敏子のほうがよっぽど強い。
ひたすら引き受けるだけですから。
糸井 女の人の、
頭で考えた「決意」じゃないところでの
行動への尊敬がぼくにはあります。
あのやんちゃ坊主をみてる状況がね‥‥。
平野 そうか、敏子は振り向く必要がなかったんですね、
そうだったのかもしれないな。
糸井 うーん。
やっぱり、俺ら、女の人のすごさについては
まだわかってないですね(笑)。
平野 そうですよねぇ。
あっ、たいへんだ、
予定の時間の倍もしゃべってる。
もう会場を閉める時間ですよ(笑)。
残念ですが、このへんでこのトークも
おしまいにいたしましょう。
糸井 ありがとうございました。
101年目の岡本太郎もまた
いろいろとたのしみにしています。
平野 ありがとうございます。
(おわり)
2011-12-31-SAT
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